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11章 禁則領域 『異世界創造の主要』
書の5後半 困らせる人『迷惑かけてもいいんだぜ』
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■書の5後半■ 困らせる人 You should have perplexing with
剣を構える。
怪物に、くれてやれる事は一つだ。
「貴方一人、どうしたの?はぐれたのかしら?」
嘲笑を交えて聞こえる声、アインは……ヒル退治してこいって仕事任せちゃったからな。確かに俺は今一人だ。
「ああ、ちょっとはぐれちまった」
素直に認めて苦笑を漏らす。
「かわいそうにねぇ、もしかして、見限られちゃった?怪物だから?」
よもや俺、それで精神的にダメージ貰うとは想定してなくて、つい口が引きつり苦笑が漏れてしまう。
「……言ってろ」
怪物、俺を怪物と言いやがった。って事はつまり、俺がどういう存在になっているのか大凡、この女も把握してるって事だろう。
ストアに向けて走り出すに巨大な毛の塊が動く。……恐らく腕だろう、それがストアを守るように塞がってきたのに遠慮無く剣を打ち下ろした。
「俺の剣、嘗めんなよ!」
半端な剣ならその分厚い毛の層に阻まれてしまうだろうが、この凄まじい切れ味を誇る剣は余りに容易く怪物の肌を裂く。
血が舞った、痛みを感じるのか毛の怪物は途端に踊る。
低い悲鳴を上げて腕らしいものを引っ込めて、庇って身じろぎし地団太を踏んだ。
まき散らされた血に引き寄せられるように床に転がっていたヒル達が集まって来た。すでに俺に向けてヒルが襲いかかってこない事は把握しているが……邪魔だな、踏み付けて足を滑らせないように気をつけながら剣を構え直し改めてストアに向かう。
どうにも『息子』が役に立たないと把握したのか、武器である鞭を構えたのが見えた。
瞬間飛んでくる一撃、鞭の軌道は殺気では読み辛いよなぁ。避けたと思ったけど頬を切っ先が叩いていった。目の付近まで強かに叩かれて一時的に右目の視界を奪われる。
戻りの一撃が俺の体に絡みつく前にストアに剣を叩き込もうとした。が、再び毛の生えた腕がそれを阻む。ストアは後ろに下がり、毛むくじゃらが前に立ちはだかる形で俺は、視界を奪われてしまう。
くそ、利用されてるだけなのに!なんでこんな女を庇う!
障害物を見事に避けて鞭が飛んでくる、それにあっという間に絡め取られてしまった。
鎧の上から巻き付いた鞭が鎧の隙間を縫って引き裂きながら戻っていく。
鞭か……体罰で喰らった以外、そういや対戦体験が無いかもしれん。だから対処出来てないのか?
とにかくこのデカぶつをどうにかしないと。
俺は巨大な毛の塊に再び剣を振り上げた。切った、それは間違いないが……手応えが浅い。両手らしいものが左右から迫ってくるのを屈んで避ける。毛むくじゃら、動きは相当に鈍いがタフだ。
しかしその間にも鞭による次の一撃が死角から襲いかかってくる。逃げようとしたのだが腕を取られ、籠手を剥ぎ取るかという勢いで絡みつき、引き寄せられる。インナーはあっという間にずたずた、皮膚のみみず腫れが裂けて血を吹き出した。次喰らったら肉までそぎ落とされるな、これは。
毛の怪物の腕をも強かに撃ちながら鞭が戻っていった。いまだ俺の場所からは鞭を繰り出すストアの姿が見えない。相手もそれは同じだが……如何せん相手の武器のリーチが長い。とにかく当ればダメージ与えるってんだからおおざっぱな位置さえ分かっていれば良いという分、相手は有利で俺には不利だな。
今攻撃は向かって右から来た。ストアは鞭を右手に持っていたのだから……左に打ち込んできたのだろう。戻ってきた鞭を戻し、振り回す動作的に次は向かって左から来るはずだ。
以上の事を俺は理論で考えてはいない。完全に戦士の勘で判断している。
この場合、好敵手テリーの戦法に出ればいい。相手の攻撃手段を奪う。ウエポンブレイクだ!
俺が勘で把握した通り左から強烈に迫ってきた鞭、それを俺は剣で対応した。バシンという音が響いて鞭が切れ勢いあまって俺に叩き付けられる。
「何!」
これでもう鞭は俺には届かない!剣を構え直して改めて、目の前の毛の壁に突き刺す。この剣をもってしても斬撃が効果薄ってんならあとは、突き刺すのみ!目標がデカいから避けられる事も無いしな。
しかし武器をフィニッシュ以外において突き刺すというのは、あんまり賢い方法では無い。勢いに任せて深く突き入れてしまたりすると例えば、対象が弾力性のある筋肉なんかだと萎縮して固まり、武器を引き抜けなくなる事も少なくない。
俺は怪物に少なからず痛点がある事に掛けた。それを利用すべく急所よりも痛みを強く受けるであろう場所目がけて剣を突き刺す。
ええと……すいません。
その詳しい場所については俺も正直説明するのがとても辛いので割愛させて頂きます。
刺され、肉を抉られた感覚に溜まらず怪物が手を払った。こちらに倒れ込んでくるように覆い被さってくるのを右に避ける。剣を捻ったのは突き差したのを抜く為でもある、大量の血と共に引き抜いた剣を手に、間髪入れずに俺は前に踏み出して行った。
ええと、ようするに。
怪物は前屈みに蹲ったのだ。
外道な事したなぁ、という意識はすごーくある。俺も男だからな……うん。
切れた鞭を手に慌てたストアを目視、一気に迫った。
俺がここまで出来る子だとは思っていなかったのか、完全に虚を突かれた表情のストアに俺はいい気味だと少し口を歪めていた。
胸を一刺し、と行きたかったんだけどここで、運悪く落ちていたヒル踏んでしまう俺。なんてお約束な!
手元が狂ったお陰で俺の剣は………ストアの腹に突き刺さっていた。
あんまりにも無防備だ、女の腹を裂くなんて当然経験にない事で。その手応えの柔らかさに今更ながら戸惑ってしまう。ようやく腰骨に当って勢いが止まる。途端、ストアは悲鳴を上げた。
「何をするの!」
剣を上に捻り、切り裂くのをもったいぶりながら俺はストアの立ち位置を半回転させた上で押し倒して地面に押しつける。隣では毛の怪物がまだ悶絶中。あまりのあばれっぷりに毛の間から例のヒルが躙り出ては地面に落ちる。
「やめて、やめて!ストアの、大切な所、壊さないで!」
腹に突き刺さった剣を握り込み、必死の形相の相手に俺は……悪趣味ですがまだ先のムカムカが収まっていなかったので逃がさないとばかりに力で押さえ込んだ。
「成る程、これがアンタの存在意義か」
俺は彼女の腹の中で剣を捻る。痛みはあるのか、それとも子宮を含む大切な部分を傷つけられているという意識がストアを狂わせているのか……俺は、男なのでよくわからない。けど外道な所をエグっている意識はある。それ以上に、コイツのココが仕出かした外道の方が許せなくってそんな事、どうでもよくなっていたのだ。
俺の剣を引き抜こうとストアは必死に手を掛けて来るが、俺の剣は切れるんだ、叩き切る様な無粋なソードとは違うぞ、分類的にはサムライ・ソードだ。触れれば切れる鋭い刃を掴めず、逆にストアの手がボロボロに傷ついて行く。不用意に触ると指落ちるんだぞ、しかしそれも構わないようなストアの慌てっぷりに逆に少しだけ、俺は冷静さを取り戻していた。
「……覚悟はいいな、魔王八逆星」
「そんな!そんなぁ!」
強く刃を握った所為で指が削ぎ落ちてストアは悲鳴を上げた。
「……最期だから良い事教えてやるよ。アンタのダーリンとやらは今、イシュタル国……つまり、ここにいるぜ」
ちなみに、ストアの言うダーリンとは『ギル』の事な。
「……!」
途端動きを止めたストアの首を左手で抑える。
「ナドゥの研究が気に入らないって、それで反抗してやがる。アービスもだ、あいつもナドゥからは離反した。お前も……少しは自分の意思で振る舞ったらどうなんだ」
「ストアはストアの意思でやっているわ!ナドゥちゃんは関係ない!」
「そうか、アンタの意思でガキは他人だって言うんだな。酷い女だな」
「酷くなんかないわ……事実よ?」
そう訴えるストアの目は確かに真実を語っていて……ようするに、それがこいつの悲しい所なんだろうなと把握出来て俺は剣を、心臓まで引き上げようと剣を捻る。
「どうして魔王八逆星になんかなったんだ」
これ以上苦しませるのは、いくらムカつく相手で怪物でもやっぱり趣味じゃねぇ。だがストアは俺がトドメを刺す前に錯乱気味に答えてくれた。
どうして魔王八逆星になんかなっちまったんだ。
答えを聞いた所でどうしようもない、無駄な質問に。
「す……ストアを、だって。使っ………なく……、役に……役に?」
「怪物だ、愛されない、愛する必要がない、他人だって言ったのは……本当にお前なのか?」
「…………」
そこでストアは言葉完全に切り……ふっと微笑んでボロボロになった手を、しゃがみ込み覗き込んでいる俺の肩に延ばしてくる。……最後の力を振り絞っているのだろう、ゆるゆると揺れているその指先に、俺は視界を奪われていた。
「どうしても訂正して……欲しいのね。それ、貴方が……言われたくない言葉ですものね」
どこまでも嫌な女だ。
俺があからさまな嫌悪に顔を歪めたのに比例するようにストアは、笑う。
「……ナドゥよ。確かに、それをストアに教えてくれたのはナドゥだったわ。だって……そうしないとストアは……」
血だらけの指が俺に軽く、届く。
「ストアのは貴方に渡すしか、なさそうね」
「渡す?何をだ?」
しかしそれには答えず、ストアはがくんと力を抜いて草臥れた。その途端体を負おう菱形の模様が黒く染まり暴走を始める。
クオレの時と同じだ。
俺は剣を引き抜いて、黒く変色して溶けていくストアから目を逸らした。と、殺気を感じてその場を大きく避ける。
そうだった、まだ毛の怪物にトドメを差してない。
剣を構えるも……そういやストアを始末したんだから彼女が作った魔王軍は関係性を失っても良いと思うんだがな?いや……この毛の怪物の半分はギルか。と言う事は、ギルも始末しないと自然消滅の可能性は無いって所か……はぁ、めんどくさい。
「ヤトー!」
そこへ赤い小さなドラゴンが飛んで戻ってきた。
一連を見られたのだろうかと思って慌てて振り返ったが、遠くから飛んでくる所それはなさそうだ。
うん、やっぱり外見が良い女性を腹から切り殺すとか外道だったなという意識はあるわけでして、彼女との会話含めて他には、見られたくはないなと思ったわけです。
「……それ、」
「ああ、……ストアだ」
黒く変色して溶けていく、すでに原型の無いモノを剣で差し、俺はアインに答える。
「リオさんは無事に避難したかな」
「それはダイジョブ、ヒルもこの辺り一帯にしか……ていうか、あれが飼ってるのかしら?」
「どうにもそうらしい」
ストアとギルが作った『赤旗の怪物』。その怪物の血をむさぼる『蛭の怪物』。ヒルにも赤旗くっついているが実は、ヒル自体はホストじゃないんだよな。問題なのは実は毛むくじゃらの怪物の方から吸い上げた、赤旗感染を引き起こす血の方だ。
ストアが言うに奴自身としてはホスト能力が無いか、極めて低いらしい。その代りなのか、彼女が生み出した怪物はホストとしての赤旗バグ発症能力が備わる様だ。この毛の怪物といい、南国カルケードの軍に紛れていた蛇女、リラーズといい、多分他にも色々と、この女は厄介な怪物を産んだ事だろう。
赤旗のバグ、旗の見えない人には『魔王軍化』という現象で説明されている、生命体としての破綻現象。
リオさんは怪物化現象すなわち『魔王軍化』に、三界接合という違法魔導が使われていると考えていて、もしその予測が当っているなら感染源であるその元を絶てば末端まで制御不能に追い込めると考えていた。
しかし、結局の所リオさんの理論は色々と外れているのだが。感染源の元を正せば末端まで影響を及ぼす、あたりの憶測は生きているのではないかと思う。若干『そうであったらいいのにな』でもあるんだけども。
要するに、ヒルの怪物は毛むくじゃらの怪物をやっつければ連鎖的に滅びる可能性があるって事な。
連鎖反応はまだ完全に確認してない。この機会に確かめられるかも知れないな。
が、しかし。
……それで今しがた魔王軍化した人達が元に戻る訳では無い、というのは既に確定している。
赤旗感染し、怪物化した時点でその人は……死んでいるという事だから。
誰も救えないからってこの毛の怪物を放っておく理由にはならない。ホストだ、赤旗感染を防ぐという意味で……滅ぼさなければ。
大きな毛むくじゃらの手で追い払われ、俺とアインはその場を少し後ずさる。
黒い染みとなって溶けていくストアを掬うような動作を繰返しては、低い唸り声を上げる怪物に……今更ながら申し訳ない事をしたような気分になってしまった俺である。
そらぁ……目の前で母親殺されたら穏やかじゃねぇよな。
それがとんでもない奴でもさ。子どもがそのトンデモ具合を理解出来るかどうかは別問題だろう。そして、理解出来たとしても、な。
絆を保つか、決別するかはソイツが決める問題だ。
両手ですくいあげるも、こぼれ落ちる。
ふっと怪物はしつこい反復動作を止めて沈黙した。
毛だらけでどこに顔があるのかよく分からない怪物、しかしそれが顔らしきものを上げた雰囲気は察する。
俺を睨んでいる……殺気を向けられている。
「何してるのかしらあれ」
そうか、アインは知らないもんな。今しがた俺とストアが会話した事とか、内容とか。それを一人で抱えているのが嫌になって来て、俺は白々しく答えていた。
「……あの怪物、ストアの息子さんなんだってさ」
「むすこさん?」
「しかし、あのデカぶつ異常にタフでなぁ、剣が通りにくいし」
……良い事思いついた。
「なぁアイン、あいつの着ている毛皮、よく燃えそうだと思わないか」
妙に脂ぎってギトギトしている。
「……燃やすの?」
アインのその一言に多分の迷いが読み取れて俺は、剣を担いで笑う。
「怪物相手に同情なんかするもんじゃねぇぜ、アイン」
「ヤト、」
「この世界には『怪物』って最高の褒め言葉がある。例え世界が変わっても、その価値観までも変える必要は無ぇだろ」
「………」
俺もその『最高の褒め言葉』を戴ける立場なんだ。もちろん、アインはそれを分かっているはず。ようするに……今更同情とかすんなって話だな。アイツに向けても、俺に向けても、だ。
そんなんやめろ、冗談じゃない。
俺の気持ちなんぞ理解されてたまるか、って。
「とにかく毛が邪魔なんだ、毛が」
火柱が上がる。
それと同時に体が燃える苦痛の悲鳴がセイラードに響き渡り……そして、暫くして魔王軍に蹂躙された沈黙が港町を覆った。
この沈黙が何より痛い。音が失われた町で微かな音を立てるのも恐ろしいように感じながら俺は、出来るだけ音を立てないように無駄な努力をして静かに剣の露を払って鞘に収めていた。
「遅ぇよお前ら」
今だ混乱の残る騒がしいセイラード港に入ってきた見慣れない船。素早く下ろされた桟橋から真っ先に陸に『逃げ出して』きたテリーに向けて俺はそのように出迎えたのだが。
奴め、船酔い的な状態異常がよほど限界値に達していたようで、最低限の挨拶もしないで口元抑えて一目散にどっかに駆けていった。
「彼、どうしたの?」
事情を把握していないリオさんが少々あっけにとられている。アインは俺の頭上で羽を少し広げ、肩をすくめるようにしながらフォロー。
「テリーちゃんはね、乗り物に乗るとね、どーしても酔っちゃうらしいのよ」
「あぁ、成る程そう云う事」
あっさり理解してリオさんは小さく俺達に教えてくれる。
「どうにもウィン家の特徴みたいね、テニーはあそこまで酷くはないけど同じく乗り物オンチだったわ」
テリーの兄、テニーさんも乗り物には弱かったって事か。家系ねぇ、そう云う事もあるもんなのだろうか。
「遅くなりました」
ええっと、久しぶりに顔を合わせたという感じがしねぇ。
次に桟橋を降りてきたレッドを見て、俺はそんな感覚に苦笑する。
リアルで同じような顔の奴と会っているからなのだろうか?その感覚をこちらの現実と取り違えるのもどうだろう。よくよく考えてみる。長らく会ってない、とはいえ1ヶ月未満だからだ、と経過した日数をリコレクトする。
紫魔導、レッドはどこか騒がしい雰囲気を消せない港町をぐるりと見回しながら上陸し、魔王八逆星の一人ストアがここに来襲した件はエイオールの方で把握、事情は聞いておりますと先に言ってきた。
「間に合わなかった形になりますね」
「って事は、ストア強襲の情報をそっちでは把握してたって事か」
「ええ、そうなります」
例によって黒い笑みを浮かべたままレッドは、俺の腕を掴む。
「立ち話も何ですので」
「いや、それは分かるが」
「察しなさい。貴方今、アベルさんと顔を合わせられる状態ですか?」
う、そうでした。
思い出しました。
一般的な展開として、俺は今彼女と『何時も通り』に顔を合わせられる状態ではないのでした。
何時も通りになる可能性もあるけれど。
同じくらいの確立で超修羅場に突入するかもしれない。
「それって……進展無いのか」
俺は、顔を引きつらせながらレッドに尋ねていた。
「当人らが離ればなれになっているのに何が進展するって言うんです」
……反論する言葉がございません。
「まぁ……冷静に考えるようにはしているようです。アベルさんにとってはイシュタル国に『戻る』という事も一つ、悩まなければ行けない所のようですね。貴方はその都合、理解しているとテリーさんはおっしゃっていましたが」
「確かに、理解している。お前は?奴から何か聞いたか」
「いいえ。あえて深く聞く事もしておりません。ただ少なからず現状に悩んではいるようだ、と察しただけです」
はぁ、思わず深いため息が漏れる。
アベルの状況?説明しねぇぞ。ログアウト前にアインにこぼした通りだ。何が修羅場だとかも聞くな。いい加減アイツとのいざこざから脱出したいぞ俺ぁ。いつまでこのろくでもないエピソードを引っ張らなきゃいけないのだ。
状況の修羅場っぷりに項垂れた俺を、レッドは引きずるように連れて行ってくださいます。ご迷惑おかけいたします。
俺の頭上からアインは飛び立ち、その場に残る事にしたらしいアービスの鉄仮面の上に着地。
「あたしはアベちゃんの様子を見ておくわ」
「頼む、アイン」
「レッド、私もその事情説明とやら、聞いた方が良いのかしら?」
リオさんの言葉にレッドは立ち止まって振り返って指を突き出した。俺もそれを見るようにと指された先には……情報屋エイオールの高速魔法船がある。
ひょろ長い影が桟橋に立っていた。
「いやー、ご心配おかけしましたぁ」
「ワイズ!」
ひょろ長い巨体を少し折り曲げ、頭を掻いているのはグランソール・ワイズだ。回復するって信じては居たけど、やっぱりそれが事実として目の前に答えが出ると嬉しい。リオさんは次に桟橋を降りてきた背の高い天使教神官にて封印師、グランソール・ワイズの手を取った。
奴はテニーさんから投げつけられた剣で重傷を負い、そこから昏睡状態に陥って瀕死の淵を彷徨っていたんだ。
最悪な事態は免れたんだな。
見た感じ障害も無く元気に目を覚ました姿に俺も安堵のため息を漏らす。
「大丈夫?傷は?」
リオさんの心配そうな言葉にワイズは頭を掻いている。
「長らく眠ってましたので、傷はおかげさまでおおよそ治りました。代理には心配掛けっぱなしで……今、ちょっと休んでます」
代理、ってのはハクガイコウ代理の事でつまり、ナッツの事だな。ワイズはにっこりと口だけ見える顔で笑う。
「色々事情は僕から説明しておきますよ」
と、ワイズはレッドに言ったんだな。
「じゃ、あたしは宿でも手配しようかね」
そういって次に顔を出したのはマツナギだ。
俺は、あの時途切れた様々な会話を思い出してちょっとだけ顔を背けてしまった。クオレを手に掛けちゃった件で……俺は、マツナギともちゃんと和解してない気がする。
「宿はこちらで、イシュタルト政府で手配してくれているわ。案内する」
そんなマツナギを、リオさんは久しぶりね、と握手を交わしながら迎え入れている。
「例のイズミヤさんですね」
レッドもその会話に加わった。
「ええ、丁度エズの方でも魔王軍問題が一段落したようで、ついさっきこちらに着いたの」
「あとで正式に報告に上がります、とお伝えください」
そう言って……再び俺を港の外へ強引に引きずって行くレッドであります……。
「何を話すんだよ」
「貴方がこんな所に飛ばされたりしていた間、僕らだって黙って大人しくカルケードに居た訳ではありません」
あぁ、そうか。
「ワイズは、あれからすぐ目を覚ましたのか?」
「いえ、彼が目を覚ましたのはつい最近です……先ほどは上陸手続きで忙しいようで顔を出してきませんでしたが、エイオールがかなり僕らの手助けをしてくれまして」
俺らと別行動になったレッドらの動きはまとめるにこうだ。
瀬戸際でクオレも連れて行く事になった別隊の俺達、その出発を見送ったレッド達は、カルケード国との問題解決に向けた最終調節を行ったらしい。
曰く、俺にそっくりな人相書きの撤回が難しいという南国の意向があってだな。南国カルケードとしては偽王をやっつけるのに大いに協力をしたであろう俺達を、国の問題に再び巻き込みたくないらしい。そして同時に振りまかれつつ悪意のある問題……すなわち、俺の顔をした何者かの所業が俺達に関連付けられてしまうのを恐れてくれた。
それはつまり、俺達は魔王八逆星とは相対する存在であって決して、顔が似ていようと魔王八逆星に荷担する事はしていないと、南国は信用してくれたって事でもある。
ところが事実として……新生魔王軍。
全身鎧を纏った人型の怪物の顔は、どー足掻いても俺の顔なのである。ここ、既に俺ははっきり把握している。
ログアウトとログインを挟んだ途中、混線してテリーと会話した件は当然、レッドはテリーから報告を受けているらしい。俺も当然憶えている展開だ。そこをまずレッドと確認した。
新生魔王軍は、事も在ろうか俺の肉体を元にしたコピーの群れである。
そして俺も……その一つにすぎない。
それなのに青い旗、この世界で一つだけが保証されていて複製がきかない『俺という概念』、しれが多数の中のたった一つに宿り、仮想ながら俺という存在をつなぎ止めている。
クオレが引き連れてきたのとか、西方から南国に向かう途中に町を幾つか襲って被害を出したのとか。
南国の下層社会から人攫いをしやがった『俺にそっくりな何者か』は、やっぱり全部『新生魔王軍』であり、見た目的にはどうあがいても俺である。
俺にそっくりな人相書きが出回っている事実もある通り。悪意が働いている所とは圧倒的に……新生魔王軍という怪物達が俺と同じ顔である事、であろう。
この誤解を解くには俺が顔を変えるか、新生魔王軍を蹴散らすかどっちかだ。しかし、すでに起ってしまった事件の撤回は不可能。和解は出来るがそれだけだ。事件が起ったという事は経験として蓄積され、消去が出来ない。
俺は、いや正確には『俺の顔』は悪人の顔として罷り通る事になるだろう。
南国は、出来ればそれを避けたいと思ってくれている。善意からだな、でもその善意は甘く、危険でもある。
レッドは南国にその善意を撤回するように薦めたそうだ。ようするに……俺の顔に似た人相書きを撤回しないで、この顔の人物はすでに『魔王八逆星側に在る者』として対応するように……と、伝えたようである。
それでよろしいですよね?と聞かれて勿論、それでよろしいですと俺は苦笑を返していた。
当たり前だ。
南国に迷惑を掛けるなんて、俺は耐えられねぇ。それでいい。
もはや俺は、堂々と世界に生きる事が出来なくなった。
顔を見られて、こいつは魔王側の怪物だと指を差される存在になりつつある。
いつか恐れた展開がガチになりつつあるけど……ずっと前に展開を恐れ、予測していたからこそ今は少し心が穏やかだ。
それでいい。
俺はすでに死んでいる。今後真っ当に生きていく事は出来ない事は理解している。
それでいいんだ。
それで、きっとアベルも全てに対して諦めてくれると思う。
新生魔王軍の規格とか状況について説明を聞いて、俺が手早く納得したのでレッドの奴、やけに驚いてやがった。珍しく物わかりがいいですねっ……て、確かに。
俺の『オリジナル』に会ったり、それが『オリジナル』だと理解出来たり。その他諸々おかしいなぁと思っていた違和感や混線した情報などがなけりゃ、その話を素直に把握は出来なかっただろう。
俺も、俺がたどった道で在った事をレッドに話した。
俺の存在が大いに狂っている事、どこでお前はそれに気がついた?それとも。ずっと昔にそれに気が付いていたのかとレッドに聞いたら無言で首を横に振った。
言葉はなかったな。それは、知らなかったと言う意味じゃぁない。何しろコイツ俺より格段に頭いい。それに……もの凄い嘘吐きで、その事は俺にはバレていて。
ヘタな事言えばどうせ嘘だろって、論破される可能性は分かってるはずだ。
だから今はそれについて言葉には出来ない。そして、嘘も付きたくない。そういう態度だと俺は……素直に受け入れる事が出来たりする。ならその件についてお前には聞かない。
お前の事を、信じているから。
開いている喫茶店を探しながら互いに状況を説明していたが……そこから、暫く俺達は無言で歩いていた。
先のストアの襲撃でまだ混乱が続いているんだ。
喫茶店に限らず店を閉じている所が多い。
その沈黙がちょっと嫌で、俺は頭の後ろで手を組んで隣を歩くレッドを振り返る。
「……俺は、まだこの世界に居てもいいんだよな」
レッドは苦笑らしいものを浮かべて眼鏡のブリッジを押し上げる。
「テリーさんからも言われたと思います。……まだ逃げないでください。貴方は世界に居ても良いのではない。まだ、居なくてはならないのです」
「俺がいなけりゃここまで……カルケードとかにさ、迷惑掛けてねぇんじゃねぇのかな、とか考えたら……ダメか」
「その時は貴方ではない誰かが同じ事になっている可能性もあります。過去を振り返った所で今が変わる訳ではありません」
イズミヤと同じ事言うんだな。
そういう現在・過去・未来の在り方を、魔導師ってのはキッチリかっちり把握しているのかもしれない。でも、分かっていても取り違えるのが人間って奴じゃねぇのか?俺だって分かっている、分かっているけど振り返っちまうんだ。
不安だから、どうしても尋ねてしまうんだよ。
「迷惑を掛けていると思うなら、その分世界の責任を負う。そう云う覚悟は?」
「勿論、している」
俺は強く答えていた。
「なら、それでいいじゃありませんか。重荷であるなら僕もそれに付き合います、貴方をこの旅に誘った、僕の責任としてね」
「………」
「否定は受け付けておりません」
「分かってるよ、」
俺は小さく笑う。
「勝手にしろ」
それはサトウ-ハヤトの得意文句、決して何かの答えを逃げての言葉じゃない。
その問題からは逃げようがない。だって、それは俺の問題じゃない。俺を取り巻く奴らの問題だ。ならば俺はそれに干渉は出来ない。
勝手にしろ。
それって、勝手にバックアップを申し出る、心強い仲間に向けた照れ隠し、所謂ツンデレ応答なんだな、俺。
セイラードのメインストリートもこの通りだ。
クローズの札がぶら下がっている飲食店を幾つか見回し、レッドはため息を漏らした。
「かなりの犠牲者は出たのですか」
「ストアのやり方が卑劣でな」
毛むくじゃらな怪物と、蛭の話を説明する。
ついでに息子って話もな。そんなのアリなんだろうか?と聞いたらそれは僕にも分かりません、だってさ。
結局店で落ち着いてお茶を飲みながら、ってのは諦めて、人のいない町はずれの広場で話をする事になった。
で、話はかなり端折られた気がする。というか、別に俺は奴らの段取りを正確に把握する必要ねぇよな。
というわけで大凡の流れを纏めると、こんな感じかな。
先にレッドが言った通り南国との協議の末、俺の人相書きについてはあえて危険人物と取り扱うように、という結論をつけた。その上で独自に、魔王八逆星問題を解決するためにレッドらは南国の勧めで国を出る事になったそうである。
南国に進入してきている魔王軍、および西方から迫ってきているというランドール・ブレイブ。これらが巻き起こす理不尽な戦乱に、俺達魔王討伐隊を巻き込む意図はカルケードには無い、と云う事だ。それこそ、魔王八逆星の思惑であろうという結果らしい。
そこでカルケード国王勅命で、魔王討伐の旅を続けるように命じられた、って事だ。その時に強権を発動させ、実質上カルケードに本部を持つ世界の8洋を股に掛ける情報屋、エイオールに俺達の足を務めるように命令したらしい。
もちろん、エイオールのオーナーであるミンジャンはカルケード王ミストラーデに命じられるまでもなくそのつもりでいたそうだ。実にありがたい話である。
レッドらがエイオール船を使って移動してきたのはそういう都合だ。
で、そういう風にエイオールが独自の判断で俺達に加勢しているという情報は、俺の人相書きが『魔王八逆星側』という情報をあえて流すという上の決定と同じく、隠蔽すべきだろうという判断をしているようだ。
それでリオさんがエズのエイオール支部でちゃんとした情報を得られなかった訳だな。
レッドらはエイオール船を使って俺達の、魔王八逆星をやっつけるに必須と認識しているクエストである『大陸座巡り』を続ける事になったという。
具体的には隣国であるディアスに向かったそうだ。で、その間にエイオールには俺達、実際にははぐれたマツナギとアベルを回収するようにお願いしたそうである。
結果を先に言えばディアス国にいるはずの大陸座ユピテルトとの接触は無事、終わったそうだ。回収すべきデバイスツールも手に入れている。
つまり、大陸座ユピテルトのマツミヤさんは、俺達がエズでイシュタルトのキリさんとの一件で察した通り、すでに開発者レイヤーに退避しているって事だな。
そのディアスでかなり一悶着あったらしい。ほら、俺もログアウトとイン挟んでちょっと混線しただろ?あの通り、どうにも新生魔王軍が蔓延っているような事態だったらしいが……。
詳細語ると日が暮れますので、貴方が理解出来るであろう範囲で説明しますから、とかレッドが殆ど端折りやがった。
煩せぇよどうせ俺はバカだよ。
とにかくディアス国内が大荒れで大変で、大陸座に会うまでに結局、軽い政治浄化運動まで手を貸してきてしまいましたよ、とかなんとか抜かしていた。
一体何をやらかして来やがった?
あげく、ディアス国でも貴方の顔は魔王八逆星側ですのでっていけしゃぁと言いやがる。ああ、もぅいいよ!俺もぅ人と会わないように生きるか、お約束に田舎に引っ越すかお約束に死ぬからっ!それでいいから!
「大陸座ユピテルトのマツミヤさんは、デバイスツール渡すのに渋ってなかったか?」
「いえ、そういう気配ではありませんでしたよ」
ユピテルトがこのゲーム、トビラの開発主任であるタカマツ-ミヤビさんである事は、イシュタルトのキリさんとの会話で知っている。ついでにレッドにはイシュタルトのデバイスツールも回収した、在る意味訳の分からない件も説明してある。
目に見えない、そこに在る事を信じる限りそこにある、という頓知の効ききまくった事情もな。じゃぁ信じればいいじゃないですかってレッドはあっさり言う。もちろん、俺が今イシュタルトのデバイスツールを持っている事を疑っている訳じゃないけどさ。
僕は多分それは持てない、信じる事が出来る貴方だからこそ手に出来るんですよ……って。
それって、褒められてるのか?貶されてんのか?
いまいちよくわからん。
「流石タカマツさんのキャラクターを持つだけ在ります。ディアス西教監視下に置かれて不自由していた割に、かなり状況を把握しておりましたよ。自分達の存在が間違っていたのだろうって、それを後悔してもしょうがないのかもしれない。だからこそ僕らに全てを託す事になる事に、迷惑掛けてすみませんと言っていました」
「全くだ、てめぇらで動ければいいのに。逆にとっつかまって動けなかったり。何が神様だ」
「神様じゃないです、世界の管理者ですよ」
「同じようなもんだろう」
「纏めてもいいですが、この場合は違うと僕は考えますが」
レッドは眼鏡のブリッジを押し上げて俺を一瞥。
「難しい話ですがご説明いたしましょうか?」
「……それって、理解していた方が良い事なのか?」
「いえ、多分貴方には必要のない知識かと思いますが。勘違いが嫌なら納得するまでご説明差し上げますけれど」
はいはい、どうせ俺は考えるのに向いてません!いいです、なら聞きません!一々どうして癪に触る言い方をするんだこいつは!
とにかくレッドらはディアス国で無事ユピテルトに会い、デバイスツールを受け取った、と。
でその過程、ディアス国の政府関係とも多少信頼を得られる形になったらしい。どうやら俺の顔した新生魔王軍を蹴散らした行動を評価されたような事を洩らしやがった。
そういや、俺が混線してテリーと話した時、新生魔王軍が大量に倒れてたよなぁ。あれだけの怪物やっつけたのが評価されたとか?
で、政府筋がすっかりレッドらを魔王討伐隊と評価した所に、だな。魔王八逆星であるストアがすでに動いていてイシュタル国を攻撃しようと『旧式』魔王軍が放たれている情報を齎してくれたらしい。ディアス国で魔王八逆星側についていた奴らがいて、そいつら捕まえて吐かせた情報との事だ。
それ聞いたらレッドら、動かない訳にはいかない。
マツナギとアベルを回収してディアス国に戻ってきたエイオール船は、そのまま取り急ぎイシュタル国に向かった……と。
その航海中はぐれていた俺らから通信を貰い、行方不明の俺達がイシュタル国エズにいるという情報をようやくレッド達は得た訳だ。
ちなみに、なんで俺らがはぐれたかという事はマツナギが知り得る情報からレッドはほぼ正確に把握していやがったみたいだな。
どこに、誰が、何のために。全てが分からなくても一部がわかれば全体像は見えるのです、とかなんとか。
マツナギは魔法素質は無いが魔法発動の歪みは精霊干渉の素質上わかるそうだ。転移魔法が動いたという事は分かったらしい。また、ギルが何かを封印しているくだりは一応把握している。その情報だけでレッドは、ギルが封印されている事情についての正確な思惑を把握出来てんのな。俺達がギルの封印をどういう形にしろ解くように仕向けられていて、恐らくそれを回避するために誰かが、どこかに、封印を解かない方向で俺達を転移させたって。
すげぇなお前。
で、具体的に言うとカオス・カルマの介入があった事を伝えたら……何か俺に言いたそう顔しやがったが、最終的には口を閉ざしたな。とにかくカオスの仕業というのは把握してくれたようである。
奴が言いたい事は……悪魔との契約の話かな。
コイツの事だ、悪魔との契約を行った事や、それがどういうものなのかとか気付いているかもしれない。
何か突っ込んで聞いてくるかと身構えたが、逆に何も聞かないんで俺はちょっと拍子抜けだ。
「何で通信つながった時、ストアらがセイラードに向かってるって教えてくれなかったんだよ」
それ知ってたら、到着前に待ち構える事だって出来たのに。
セイラードの被害をもっともっと小さく出来たってのに。
「言ったはずです、あの通信が傍受される可能性があった、と。貴方からの通信があった状況で、貴方がたがイシュタル国エズにいるという事を把握していたのは僕らだけだったんです」
「……そうか、確かに。ストアもギルがイシュタル国に居る事は把握してなかったな」
「それに、僕らがエイオール船でイシュタル国に向かっているという情報も極秘でした。ディアス国にお願いして、僕らはまだ南東地区にいる事になっているのですよ」
「そうなのか」
「少なくともストアがセイラードから上陸するという情報は信用するに値するものでした。貴方がたはエズ、セイラードの隣町にいる。この情報は僕らだけが知っている。ストアも、魔王八逆星側も知り得ていないはず。もし貴方達がエズにいる事を知られてしまったら、ストアは行き先をセイラードではなく別の港に変えてしまっていたかも知れません」
つまり、ストアはセイラードからの上陸を止め、別の、エズからは遠い町から侵略を始めた可能性もあるって訳か。たとえば漁村のミュールとかな。
剣を構える。
怪物に、くれてやれる事は一つだ。
「貴方一人、どうしたの?はぐれたのかしら?」
嘲笑を交えて聞こえる声、アインは……ヒル退治してこいって仕事任せちゃったからな。確かに俺は今一人だ。
「ああ、ちょっとはぐれちまった」
素直に認めて苦笑を漏らす。
「かわいそうにねぇ、もしかして、見限られちゃった?怪物だから?」
よもや俺、それで精神的にダメージ貰うとは想定してなくて、つい口が引きつり苦笑が漏れてしまう。
「……言ってろ」
怪物、俺を怪物と言いやがった。って事はつまり、俺がどういう存在になっているのか大凡、この女も把握してるって事だろう。
ストアに向けて走り出すに巨大な毛の塊が動く。……恐らく腕だろう、それがストアを守るように塞がってきたのに遠慮無く剣を打ち下ろした。
「俺の剣、嘗めんなよ!」
半端な剣ならその分厚い毛の層に阻まれてしまうだろうが、この凄まじい切れ味を誇る剣は余りに容易く怪物の肌を裂く。
血が舞った、痛みを感じるのか毛の怪物は途端に踊る。
低い悲鳴を上げて腕らしいものを引っ込めて、庇って身じろぎし地団太を踏んだ。
まき散らされた血に引き寄せられるように床に転がっていたヒル達が集まって来た。すでに俺に向けてヒルが襲いかかってこない事は把握しているが……邪魔だな、踏み付けて足を滑らせないように気をつけながら剣を構え直し改めてストアに向かう。
どうにも『息子』が役に立たないと把握したのか、武器である鞭を構えたのが見えた。
瞬間飛んでくる一撃、鞭の軌道は殺気では読み辛いよなぁ。避けたと思ったけど頬を切っ先が叩いていった。目の付近まで強かに叩かれて一時的に右目の視界を奪われる。
戻りの一撃が俺の体に絡みつく前にストアに剣を叩き込もうとした。が、再び毛の生えた腕がそれを阻む。ストアは後ろに下がり、毛むくじゃらが前に立ちはだかる形で俺は、視界を奪われてしまう。
くそ、利用されてるだけなのに!なんでこんな女を庇う!
障害物を見事に避けて鞭が飛んでくる、それにあっという間に絡め取られてしまった。
鎧の上から巻き付いた鞭が鎧の隙間を縫って引き裂きながら戻っていく。
鞭か……体罰で喰らった以外、そういや対戦体験が無いかもしれん。だから対処出来てないのか?
とにかくこのデカぶつをどうにかしないと。
俺は巨大な毛の塊に再び剣を振り上げた。切った、それは間違いないが……手応えが浅い。両手らしいものが左右から迫ってくるのを屈んで避ける。毛むくじゃら、動きは相当に鈍いがタフだ。
しかしその間にも鞭による次の一撃が死角から襲いかかってくる。逃げようとしたのだが腕を取られ、籠手を剥ぎ取るかという勢いで絡みつき、引き寄せられる。インナーはあっという間にずたずた、皮膚のみみず腫れが裂けて血を吹き出した。次喰らったら肉までそぎ落とされるな、これは。
毛の怪物の腕をも強かに撃ちながら鞭が戻っていった。いまだ俺の場所からは鞭を繰り出すストアの姿が見えない。相手もそれは同じだが……如何せん相手の武器のリーチが長い。とにかく当ればダメージ与えるってんだからおおざっぱな位置さえ分かっていれば良いという分、相手は有利で俺には不利だな。
今攻撃は向かって右から来た。ストアは鞭を右手に持っていたのだから……左に打ち込んできたのだろう。戻ってきた鞭を戻し、振り回す動作的に次は向かって左から来るはずだ。
以上の事を俺は理論で考えてはいない。完全に戦士の勘で判断している。
この場合、好敵手テリーの戦法に出ればいい。相手の攻撃手段を奪う。ウエポンブレイクだ!
俺が勘で把握した通り左から強烈に迫ってきた鞭、それを俺は剣で対応した。バシンという音が響いて鞭が切れ勢いあまって俺に叩き付けられる。
「何!」
これでもう鞭は俺には届かない!剣を構え直して改めて、目の前の毛の壁に突き刺す。この剣をもってしても斬撃が効果薄ってんならあとは、突き刺すのみ!目標がデカいから避けられる事も無いしな。
しかし武器をフィニッシュ以外において突き刺すというのは、あんまり賢い方法では無い。勢いに任せて深く突き入れてしまたりすると例えば、対象が弾力性のある筋肉なんかだと萎縮して固まり、武器を引き抜けなくなる事も少なくない。
俺は怪物に少なからず痛点がある事に掛けた。それを利用すべく急所よりも痛みを強く受けるであろう場所目がけて剣を突き刺す。
ええと……すいません。
その詳しい場所については俺も正直説明するのがとても辛いので割愛させて頂きます。
刺され、肉を抉られた感覚に溜まらず怪物が手を払った。こちらに倒れ込んでくるように覆い被さってくるのを右に避ける。剣を捻ったのは突き差したのを抜く為でもある、大量の血と共に引き抜いた剣を手に、間髪入れずに俺は前に踏み出して行った。
ええと、ようするに。
怪物は前屈みに蹲ったのだ。
外道な事したなぁ、という意識はすごーくある。俺も男だからな……うん。
切れた鞭を手に慌てたストアを目視、一気に迫った。
俺がここまで出来る子だとは思っていなかったのか、完全に虚を突かれた表情のストアに俺はいい気味だと少し口を歪めていた。
胸を一刺し、と行きたかったんだけどここで、運悪く落ちていたヒル踏んでしまう俺。なんてお約束な!
手元が狂ったお陰で俺の剣は………ストアの腹に突き刺さっていた。
あんまりにも無防備だ、女の腹を裂くなんて当然経験にない事で。その手応えの柔らかさに今更ながら戸惑ってしまう。ようやく腰骨に当って勢いが止まる。途端、ストアは悲鳴を上げた。
「何をするの!」
剣を上に捻り、切り裂くのをもったいぶりながら俺はストアの立ち位置を半回転させた上で押し倒して地面に押しつける。隣では毛の怪物がまだ悶絶中。あまりのあばれっぷりに毛の間から例のヒルが躙り出ては地面に落ちる。
「やめて、やめて!ストアの、大切な所、壊さないで!」
腹に突き刺さった剣を握り込み、必死の形相の相手に俺は……悪趣味ですがまだ先のムカムカが収まっていなかったので逃がさないとばかりに力で押さえ込んだ。
「成る程、これがアンタの存在意義か」
俺は彼女の腹の中で剣を捻る。痛みはあるのか、それとも子宮を含む大切な部分を傷つけられているという意識がストアを狂わせているのか……俺は、男なのでよくわからない。けど外道な所をエグっている意識はある。それ以上に、コイツのココが仕出かした外道の方が許せなくってそんな事、どうでもよくなっていたのだ。
俺の剣を引き抜こうとストアは必死に手を掛けて来るが、俺の剣は切れるんだ、叩き切る様な無粋なソードとは違うぞ、分類的にはサムライ・ソードだ。触れれば切れる鋭い刃を掴めず、逆にストアの手がボロボロに傷ついて行く。不用意に触ると指落ちるんだぞ、しかしそれも構わないようなストアの慌てっぷりに逆に少しだけ、俺は冷静さを取り戻していた。
「……覚悟はいいな、魔王八逆星」
「そんな!そんなぁ!」
強く刃を握った所為で指が削ぎ落ちてストアは悲鳴を上げた。
「……最期だから良い事教えてやるよ。アンタのダーリンとやらは今、イシュタル国……つまり、ここにいるぜ」
ちなみに、ストアの言うダーリンとは『ギル』の事な。
「……!」
途端動きを止めたストアの首を左手で抑える。
「ナドゥの研究が気に入らないって、それで反抗してやがる。アービスもだ、あいつもナドゥからは離反した。お前も……少しは自分の意思で振る舞ったらどうなんだ」
「ストアはストアの意思でやっているわ!ナドゥちゃんは関係ない!」
「そうか、アンタの意思でガキは他人だって言うんだな。酷い女だな」
「酷くなんかないわ……事実よ?」
そう訴えるストアの目は確かに真実を語っていて……ようするに、それがこいつの悲しい所なんだろうなと把握出来て俺は剣を、心臓まで引き上げようと剣を捻る。
「どうして魔王八逆星になんかなったんだ」
これ以上苦しませるのは、いくらムカつく相手で怪物でもやっぱり趣味じゃねぇ。だがストアは俺がトドメを刺す前に錯乱気味に答えてくれた。
どうして魔王八逆星になんかなっちまったんだ。
答えを聞いた所でどうしようもない、無駄な質問に。
「す……ストアを、だって。使っ………なく……、役に……役に?」
「怪物だ、愛されない、愛する必要がない、他人だって言ったのは……本当にお前なのか?」
「…………」
そこでストアは言葉完全に切り……ふっと微笑んでボロボロになった手を、しゃがみ込み覗き込んでいる俺の肩に延ばしてくる。……最後の力を振り絞っているのだろう、ゆるゆると揺れているその指先に、俺は視界を奪われていた。
「どうしても訂正して……欲しいのね。それ、貴方が……言われたくない言葉ですものね」
どこまでも嫌な女だ。
俺があからさまな嫌悪に顔を歪めたのに比例するようにストアは、笑う。
「……ナドゥよ。確かに、それをストアに教えてくれたのはナドゥだったわ。だって……そうしないとストアは……」
血だらけの指が俺に軽く、届く。
「ストアのは貴方に渡すしか、なさそうね」
「渡す?何をだ?」
しかしそれには答えず、ストアはがくんと力を抜いて草臥れた。その途端体を負おう菱形の模様が黒く染まり暴走を始める。
クオレの時と同じだ。
俺は剣を引き抜いて、黒く変色して溶けていくストアから目を逸らした。と、殺気を感じてその場を大きく避ける。
そうだった、まだ毛の怪物にトドメを差してない。
剣を構えるも……そういやストアを始末したんだから彼女が作った魔王軍は関係性を失っても良いと思うんだがな?いや……この毛の怪物の半分はギルか。と言う事は、ギルも始末しないと自然消滅の可能性は無いって所か……はぁ、めんどくさい。
「ヤトー!」
そこへ赤い小さなドラゴンが飛んで戻ってきた。
一連を見られたのだろうかと思って慌てて振り返ったが、遠くから飛んでくる所それはなさそうだ。
うん、やっぱり外見が良い女性を腹から切り殺すとか外道だったなという意識はあるわけでして、彼女との会話含めて他には、見られたくはないなと思ったわけです。
「……それ、」
「ああ、……ストアだ」
黒く変色して溶けていく、すでに原型の無いモノを剣で差し、俺はアインに答える。
「リオさんは無事に避難したかな」
「それはダイジョブ、ヒルもこの辺り一帯にしか……ていうか、あれが飼ってるのかしら?」
「どうにもそうらしい」
ストアとギルが作った『赤旗の怪物』。その怪物の血をむさぼる『蛭の怪物』。ヒルにも赤旗くっついているが実は、ヒル自体はホストじゃないんだよな。問題なのは実は毛むくじゃらの怪物の方から吸い上げた、赤旗感染を引き起こす血の方だ。
ストアが言うに奴自身としてはホスト能力が無いか、極めて低いらしい。その代りなのか、彼女が生み出した怪物はホストとしての赤旗バグ発症能力が備わる様だ。この毛の怪物といい、南国カルケードの軍に紛れていた蛇女、リラーズといい、多分他にも色々と、この女は厄介な怪物を産んだ事だろう。
赤旗のバグ、旗の見えない人には『魔王軍化』という現象で説明されている、生命体としての破綻現象。
リオさんは怪物化現象すなわち『魔王軍化』に、三界接合という違法魔導が使われていると考えていて、もしその予測が当っているなら感染源であるその元を絶てば末端まで制御不能に追い込めると考えていた。
しかし、結局の所リオさんの理論は色々と外れているのだが。感染源の元を正せば末端まで影響を及ぼす、あたりの憶測は生きているのではないかと思う。若干『そうであったらいいのにな』でもあるんだけども。
要するに、ヒルの怪物は毛むくじゃらの怪物をやっつければ連鎖的に滅びる可能性があるって事な。
連鎖反応はまだ完全に確認してない。この機会に確かめられるかも知れないな。
が、しかし。
……それで今しがた魔王軍化した人達が元に戻る訳では無い、というのは既に確定している。
赤旗感染し、怪物化した時点でその人は……死んでいるという事だから。
誰も救えないからってこの毛の怪物を放っておく理由にはならない。ホストだ、赤旗感染を防ぐという意味で……滅ぼさなければ。
大きな毛むくじゃらの手で追い払われ、俺とアインはその場を少し後ずさる。
黒い染みとなって溶けていくストアを掬うような動作を繰返しては、低い唸り声を上げる怪物に……今更ながら申し訳ない事をしたような気分になってしまった俺である。
そらぁ……目の前で母親殺されたら穏やかじゃねぇよな。
それがとんでもない奴でもさ。子どもがそのトンデモ具合を理解出来るかどうかは別問題だろう。そして、理解出来たとしても、な。
絆を保つか、決別するかはソイツが決める問題だ。
両手ですくいあげるも、こぼれ落ちる。
ふっと怪物はしつこい反復動作を止めて沈黙した。
毛だらけでどこに顔があるのかよく分からない怪物、しかしそれが顔らしきものを上げた雰囲気は察する。
俺を睨んでいる……殺気を向けられている。
「何してるのかしらあれ」
そうか、アインは知らないもんな。今しがた俺とストアが会話した事とか、内容とか。それを一人で抱えているのが嫌になって来て、俺は白々しく答えていた。
「……あの怪物、ストアの息子さんなんだってさ」
「むすこさん?」
「しかし、あのデカぶつ異常にタフでなぁ、剣が通りにくいし」
……良い事思いついた。
「なぁアイン、あいつの着ている毛皮、よく燃えそうだと思わないか」
妙に脂ぎってギトギトしている。
「……燃やすの?」
アインのその一言に多分の迷いが読み取れて俺は、剣を担いで笑う。
「怪物相手に同情なんかするもんじゃねぇぜ、アイン」
「ヤト、」
「この世界には『怪物』って最高の褒め言葉がある。例え世界が変わっても、その価値観までも変える必要は無ぇだろ」
「………」
俺もその『最高の褒め言葉』を戴ける立場なんだ。もちろん、アインはそれを分かっているはず。ようするに……今更同情とかすんなって話だな。アイツに向けても、俺に向けても、だ。
そんなんやめろ、冗談じゃない。
俺の気持ちなんぞ理解されてたまるか、って。
「とにかく毛が邪魔なんだ、毛が」
火柱が上がる。
それと同時に体が燃える苦痛の悲鳴がセイラードに響き渡り……そして、暫くして魔王軍に蹂躙された沈黙が港町を覆った。
この沈黙が何より痛い。音が失われた町で微かな音を立てるのも恐ろしいように感じながら俺は、出来るだけ音を立てないように無駄な努力をして静かに剣の露を払って鞘に収めていた。
「遅ぇよお前ら」
今だ混乱の残る騒がしいセイラード港に入ってきた見慣れない船。素早く下ろされた桟橋から真っ先に陸に『逃げ出して』きたテリーに向けて俺はそのように出迎えたのだが。
奴め、船酔い的な状態異常がよほど限界値に達していたようで、最低限の挨拶もしないで口元抑えて一目散にどっかに駆けていった。
「彼、どうしたの?」
事情を把握していないリオさんが少々あっけにとられている。アインは俺の頭上で羽を少し広げ、肩をすくめるようにしながらフォロー。
「テリーちゃんはね、乗り物に乗るとね、どーしても酔っちゃうらしいのよ」
「あぁ、成る程そう云う事」
あっさり理解してリオさんは小さく俺達に教えてくれる。
「どうにもウィン家の特徴みたいね、テニーはあそこまで酷くはないけど同じく乗り物オンチだったわ」
テリーの兄、テニーさんも乗り物には弱かったって事か。家系ねぇ、そう云う事もあるもんなのだろうか。
「遅くなりました」
ええっと、久しぶりに顔を合わせたという感じがしねぇ。
次に桟橋を降りてきたレッドを見て、俺はそんな感覚に苦笑する。
リアルで同じような顔の奴と会っているからなのだろうか?その感覚をこちらの現実と取り違えるのもどうだろう。よくよく考えてみる。長らく会ってない、とはいえ1ヶ月未満だからだ、と経過した日数をリコレクトする。
紫魔導、レッドはどこか騒がしい雰囲気を消せない港町をぐるりと見回しながら上陸し、魔王八逆星の一人ストアがここに来襲した件はエイオールの方で把握、事情は聞いておりますと先に言ってきた。
「間に合わなかった形になりますね」
「って事は、ストア強襲の情報をそっちでは把握してたって事か」
「ええ、そうなります」
例によって黒い笑みを浮かべたままレッドは、俺の腕を掴む。
「立ち話も何ですので」
「いや、それは分かるが」
「察しなさい。貴方今、アベルさんと顔を合わせられる状態ですか?」
う、そうでした。
思い出しました。
一般的な展開として、俺は今彼女と『何時も通り』に顔を合わせられる状態ではないのでした。
何時も通りになる可能性もあるけれど。
同じくらいの確立で超修羅場に突入するかもしれない。
「それって……進展無いのか」
俺は、顔を引きつらせながらレッドに尋ねていた。
「当人らが離ればなれになっているのに何が進展するって言うんです」
……反論する言葉がございません。
「まぁ……冷静に考えるようにはしているようです。アベルさんにとってはイシュタル国に『戻る』という事も一つ、悩まなければ行けない所のようですね。貴方はその都合、理解しているとテリーさんはおっしゃっていましたが」
「確かに、理解している。お前は?奴から何か聞いたか」
「いいえ。あえて深く聞く事もしておりません。ただ少なからず現状に悩んではいるようだ、と察しただけです」
はぁ、思わず深いため息が漏れる。
アベルの状況?説明しねぇぞ。ログアウト前にアインにこぼした通りだ。何が修羅場だとかも聞くな。いい加減アイツとのいざこざから脱出したいぞ俺ぁ。いつまでこのろくでもないエピソードを引っ張らなきゃいけないのだ。
状況の修羅場っぷりに項垂れた俺を、レッドは引きずるように連れて行ってくださいます。ご迷惑おかけいたします。
俺の頭上からアインは飛び立ち、その場に残る事にしたらしいアービスの鉄仮面の上に着地。
「あたしはアベちゃんの様子を見ておくわ」
「頼む、アイン」
「レッド、私もその事情説明とやら、聞いた方が良いのかしら?」
リオさんの言葉にレッドは立ち止まって振り返って指を突き出した。俺もそれを見るようにと指された先には……情報屋エイオールの高速魔法船がある。
ひょろ長い影が桟橋に立っていた。
「いやー、ご心配おかけしましたぁ」
「ワイズ!」
ひょろ長い巨体を少し折り曲げ、頭を掻いているのはグランソール・ワイズだ。回復するって信じては居たけど、やっぱりそれが事実として目の前に答えが出ると嬉しい。リオさんは次に桟橋を降りてきた背の高い天使教神官にて封印師、グランソール・ワイズの手を取った。
奴はテニーさんから投げつけられた剣で重傷を負い、そこから昏睡状態に陥って瀕死の淵を彷徨っていたんだ。
最悪な事態は免れたんだな。
見た感じ障害も無く元気に目を覚ました姿に俺も安堵のため息を漏らす。
「大丈夫?傷は?」
リオさんの心配そうな言葉にワイズは頭を掻いている。
「長らく眠ってましたので、傷はおかげさまでおおよそ治りました。代理には心配掛けっぱなしで……今、ちょっと休んでます」
代理、ってのはハクガイコウ代理の事でつまり、ナッツの事だな。ワイズはにっこりと口だけ見える顔で笑う。
「色々事情は僕から説明しておきますよ」
と、ワイズはレッドに言ったんだな。
「じゃ、あたしは宿でも手配しようかね」
そういって次に顔を出したのはマツナギだ。
俺は、あの時途切れた様々な会話を思い出してちょっとだけ顔を背けてしまった。クオレを手に掛けちゃった件で……俺は、マツナギともちゃんと和解してない気がする。
「宿はこちらで、イシュタルト政府で手配してくれているわ。案内する」
そんなマツナギを、リオさんは久しぶりね、と握手を交わしながら迎え入れている。
「例のイズミヤさんですね」
レッドもその会話に加わった。
「ええ、丁度エズの方でも魔王軍問題が一段落したようで、ついさっきこちらに着いたの」
「あとで正式に報告に上がります、とお伝えください」
そう言って……再び俺を港の外へ強引に引きずって行くレッドであります……。
「何を話すんだよ」
「貴方がこんな所に飛ばされたりしていた間、僕らだって黙って大人しくカルケードに居た訳ではありません」
あぁ、そうか。
「ワイズは、あれからすぐ目を覚ましたのか?」
「いえ、彼が目を覚ましたのはつい最近です……先ほどは上陸手続きで忙しいようで顔を出してきませんでしたが、エイオールがかなり僕らの手助けをしてくれまして」
俺らと別行動になったレッドらの動きはまとめるにこうだ。
瀬戸際でクオレも連れて行く事になった別隊の俺達、その出発を見送ったレッド達は、カルケード国との問題解決に向けた最終調節を行ったらしい。
曰く、俺にそっくりな人相書きの撤回が難しいという南国の意向があってだな。南国カルケードとしては偽王をやっつけるのに大いに協力をしたであろう俺達を、国の問題に再び巻き込みたくないらしい。そして同時に振りまかれつつ悪意のある問題……すなわち、俺の顔をした何者かの所業が俺達に関連付けられてしまうのを恐れてくれた。
それはつまり、俺達は魔王八逆星とは相対する存在であって決して、顔が似ていようと魔王八逆星に荷担する事はしていないと、南国は信用してくれたって事でもある。
ところが事実として……新生魔王軍。
全身鎧を纏った人型の怪物の顔は、どー足掻いても俺の顔なのである。ここ、既に俺ははっきり把握している。
ログアウトとログインを挟んだ途中、混線してテリーと会話した件は当然、レッドはテリーから報告を受けているらしい。俺も当然憶えている展開だ。そこをまずレッドと確認した。
新生魔王軍は、事も在ろうか俺の肉体を元にしたコピーの群れである。
そして俺も……その一つにすぎない。
それなのに青い旗、この世界で一つだけが保証されていて複製がきかない『俺という概念』、しれが多数の中のたった一つに宿り、仮想ながら俺という存在をつなぎ止めている。
クオレが引き連れてきたのとか、西方から南国に向かう途中に町を幾つか襲って被害を出したのとか。
南国の下層社会から人攫いをしやがった『俺にそっくりな何者か』は、やっぱり全部『新生魔王軍』であり、見た目的にはどうあがいても俺である。
俺にそっくりな人相書きが出回っている事実もある通り。悪意が働いている所とは圧倒的に……新生魔王軍という怪物達が俺と同じ顔である事、であろう。
この誤解を解くには俺が顔を変えるか、新生魔王軍を蹴散らすかどっちかだ。しかし、すでに起ってしまった事件の撤回は不可能。和解は出来るがそれだけだ。事件が起ったという事は経験として蓄積され、消去が出来ない。
俺は、いや正確には『俺の顔』は悪人の顔として罷り通る事になるだろう。
南国は、出来ればそれを避けたいと思ってくれている。善意からだな、でもその善意は甘く、危険でもある。
レッドは南国にその善意を撤回するように薦めたそうだ。ようするに……俺の顔に似た人相書きを撤回しないで、この顔の人物はすでに『魔王八逆星側に在る者』として対応するように……と、伝えたようである。
それでよろしいですよね?と聞かれて勿論、それでよろしいですと俺は苦笑を返していた。
当たり前だ。
南国に迷惑を掛けるなんて、俺は耐えられねぇ。それでいい。
もはや俺は、堂々と世界に生きる事が出来なくなった。
顔を見られて、こいつは魔王側の怪物だと指を差される存在になりつつある。
いつか恐れた展開がガチになりつつあるけど……ずっと前に展開を恐れ、予測していたからこそ今は少し心が穏やかだ。
それでいい。
俺はすでに死んでいる。今後真っ当に生きていく事は出来ない事は理解している。
それでいいんだ。
それで、きっとアベルも全てに対して諦めてくれると思う。
新生魔王軍の規格とか状況について説明を聞いて、俺が手早く納得したのでレッドの奴、やけに驚いてやがった。珍しく物わかりがいいですねっ……て、確かに。
俺の『オリジナル』に会ったり、それが『オリジナル』だと理解出来たり。その他諸々おかしいなぁと思っていた違和感や混線した情報などがなけりゃ、その話を素直に把握は出来なかっただろう。
俺も、俺がたどった道で在った事をレッドに話した。
俺の存在が大いに狂っている事、どこでお前はそれに気がついた?それとも。ずっと昔にそれに気が付いていたのかとレッドに聞いたら無言で首を横に振った。
言葉はなかったな。それは、知らなかったと言う意味じゃぁない。何しろコイツ俺より格段に頭いい。それに……もの凄い嘘吐きで、その事は俺にはバレていて。
ヘタな事言えばどうせ嘘だろって、論破される可能性は分かってるはずだ。
だから今はそれについて言葉には出来ない。そして、嘘も付きたくない。そういう態度だと俺は……素直に受け入れる事が出来たりする。ならその件についてお前には聞かない。
お前の事を、信じているから。
開いている喫茶店を探しながら互いに状況を説明していたが……そこから、暫く俺達は無言で歩いていた。
先のストアの襲撃でまだ混乱が続いているんだ。
喫茶店に限らず店を閉じている所が多い。
その沈黙がちょっと嫌で、俺は頭の後ろで手を組んで隣を歩くレッドを振り返る。
「……俺は、まだこの世界に居てもいいんだよな」
レッドは苦笑らしいものを浮かべて眼鏡のブリッジを押し上げる。
「テリーさんからも言われたと思います。……まだ逃げないでください。貴方は世界に居ても良いのではない。まだ、居なくてはならないのです」
「俺がいなけりゃここまで……カルケードとかにさ、迷惑掛けてねぇんじゃねぇのかな、とか考えたら……ダメか」
「その時は貴方ではない誰かが同じ事になっている可能性もあります。過去を振り返った所で今が変わる訳ではありません」
イズミヤと同じ事言うんだな。
そういう現在・過去・未来の在り方を、魔導師ってのはキッチリかっちり把握しているのかもしれない。でも、分かっていても取り違えるのが人間って奴じゃねぇのか?俺だって分かっている、分かっているけど振り返っちまうんだ。
不安だから、どうしても尋ねてしまうんだよ。
「迷惑を掛けていると思うなら、その分世界の責任を負う。そう云う覚悟は?」
「勿論、している」
俺は強く答えていた。
「なら、それでいいじゃありませんか。重荷であるなら僕もそれに付き合います、貴方をこの旅に誘った、僕の責任としてね」
「………」
「否定は受け付けておりません」
「分かってるよ、」
俺は小さく笑う。
「勝手にしろ」
それはサトウ-ハヤトの得意文句、決して何かの答えを逃げての言葉じゃない。
その問題からは逃げようがない。だって、それは俺の問題じゃない。俺を取り巻く奴らの問題だ。ならば俺はそれに干渉は出来ない。
勝手にしろ。
それって、勝手にバックアップを申し出る、心強い仲間に向けた照れ隠し、所謂ツンデレ応答なんだな、俺。
セイラードのメインストリートもこの通りだ。
クローズの札がぶら下がっている飲食店を幾つか見回し、レッドはため息を漏らした。
「かなりの犠牲者は出たのですか」
「ストアのやり方が卑劣でな」
毛むくじゃらな怪物と、蛭の話を説明する。
ついでに息子って話もな。そんなのアリなんだろうか?と聞いたらそれは僕にも分かりません、だってさ。
結局店で落ち着いてお茶を飲みながら、ってのは諦めて、人のいない町はずれの広場で話をする事になった。
で、話はかなり端折られた気がする。というか、別に俺は奴らの段取りを正確に把握する必要ねぇよな。
というわけで大凡の流れを纏めると、こんな感じかな。
先にレッドが言った通り南国との協議の末、俺の人相書きについてはあえて危険人物と取り扱うように、という結論をつけた。その上で独自に、魔王八逆星問題を解決するためにレッドらは南国の勧めで国を出る事になったそうである。
南国に進入してきている魔王軍、および西方から迫ってきているというランドール・ブレイブ。これらが巻き起こす理不尽な戦乱に、俺達魔王討伐隊を巻き込む意図はカルケードには無い、と云う事だ。それこそ、魔王八逆星の思惑であろうという結果らしい。
そこでカルケード国王勅命で、魔王討伐の旅を続けるように命じられた、って事だ。その時に強権を発動させ、実質上カルケードに本部を持つ世界の8洋を股に掛ける情報屋、エイオールに俺達の足を務めるように命令したらしい。
もちろん、エイオールのオーナーであるミンジャンはカルケード王ミストラーデに命じられるまでもなくそのつもりでいたそうだ。実にありがたい話である。
レッドらがエイオール船を使って移動してきたのはそういう都合だ。
で、そういう風にエイオールが独自の判断で俺達に加勢しているという情報は、俺の人相書きが『魔王八逆星側』という情報をあえて流すという上の決定と同じく、隠蔽すべきだろうという判断をしているようだ。
それでリオさんがエズのエイオール支部でちゃんとした情報を得られなかった訳だな。
レッドらはエイオール船を使って俺達の、魔王八逆星をやっつけるに必須と認識しているクエストである『大陸座巡り』を続ける事になったという。
具体的には隣国であるディアスに向かったそうだ。で、その間にエイオールには俺達、実際にははぐれたマツナギとアベルを回収するようにお願いしたそうである。
結果を先に言えばディアス国にいるはずの大陸座ユピテルトとの接触は無事、終わったそうだ。回収すべきデバイスツールも手に入れている。
つまり、大陸座ユピテルトのマツミヤさんは、俺達がエズでイシュタルトのキリさんとの一件で察した通り、すでに開発者レイヤーに退避しているって事だな。
そのディアスでかなり一悶着あったらしい。ほら、俺もログアウトとイン挟んでちょっと混線しただろ?あの通り、どうにも新生魔王軍が蔓延っているような事態だったらしいが……。
詳細語ると日が暮れますので、貴方が理解出来るであろう範囲で説明しますから、とかレッドが殆ど端折りやがった。
煩せぇよどうせ俺はバカだよ。
とにかくディアス国内が大荒れで大変で、大陸座に会うまでに結局、軽い政治浄化運動まで手を貸してきてしまいましたよ、とかなんとか抜かしていた。
一体何をやらかして来やがった?
あげく、ディアス国でも貴方の顔は魔王八逆星側ですのでっていけしゃぁと言いやがる。ああ、もぅいいよ!俺もぅ人と会わないように生きるか、お約束に田舎に引っ越すかお約束に死ぬからっ!それでいいから!
「大陸座ユピテルトのマツミヤさんは、デバイスツール渡すのに渋ってなかったか?」
「いえ、そういう気配ではありませんでしたよ」
ユピテルトがこのゲーム、トビラの開発主任であるタカマツ-ミヤビさんである事は、イシュタルトのキリさんとの会話で知っている。ついでにレッドにはイシュタルトのデバイスツールも回収した、在る意味訳の分からない件も説明してある。
目に見えない、そこに在る事を信じる限りそこにある、という頓知の効ききまくった事情もな。じゃぁ信じればいいじゃないですかってレッドはあっさり言う。もちろん、俺が今イシュタルトのデバイスツールを持っている事を疑っている訳じゃないけどさ。
僕は多分それは持てない、信じる事が出来る貴方だからこそ手に出来るんですよ……って。
それって、褒められてるのか?貶されてんのか?
いまいちよくわからん。
「流石タカマツさんのキャラクターを持つだけ在ります。ディアス西教監視下に置かれて不自由していた割に、かなり状況を把握しておりましたよ。自分達の存在が間違っていたのだろうって、それを後悔してもしょうがないのかもしれない。だからこそ僕らに全てを託す事になる事に、迷惑掛けてすみませんと言っていました」
「全くだ、てめぇらで動ければいいのに。逆にとっつかまって動けなかったり。何が神様だ」
「神様じゃないです、世界の管理者ですよ」
「同じようなもんだろう」
「纏めてもいいですが、この場合は違うと僕は考えますが」
レッドは眼鏡のブリッジを押し上げて俺を一瞥。
「難しい話ですがご説明いたしましょうか?」
「……それって、理解していた方が良い事なのか?」
「いえ、多分貴方には必要のない知識かと思いますが。勘違いが嫌なら納得するまでご説明差し上げますけれど」
はいはい、どうせ俺は考えるのに向いてません!いいです、なら聞きません!一々どうして癪に触る言い方をするんだこいつは!
とにかくレッドらはディアス国で無事ユピテルトに会い、デバイスツールを受け取った、と。
でその過程、ディアス国の政府関係とも多少信頼を得られる形になったらしい。どうやら俺の顔した新生魔王軍を蹴散らした行動を評価されたような事を洩らしやがった。
そういや、俺が混線してテリーと話した時、新生魔王軍が大量に倒れてたよなぁ。あれだけの怪物やっつけたのが評価されたとか?
で、政府筋がすっかりレッドらを魔王討伐隊と評価した所に、だな。魔王八逆星であるストアがすでに動いていてイシュタル国を攻撃しようと『旧式』魔王軍が放たれている情報を齎してくれたらしい。ディアス国で魔王八逆星側についていた奴らがいて、そいつら捕まえて吐かせた情報との事だ。
それ聞いたらレッドら、動かない訳にはいかない。
マツナギとアベルを回収してディアス国に戻ってきたエイオール船は、そのまま取り急ぎイシュタル国に向かった……と。
その航海中はぐれていた俺らから通信を貰い、行方不明の俺達がイシュタル国エズにいるという情報をようやくレッド達は得た訳だ。
ちなみに、なんで俺らがはぐれたかという事はマツナギが知り得る情報からレッドはほぼ正確に把握していやがったみたいだな。
どこに、誰が、何のために。全てが分からなくても一部がわかれば全体像は見えるのです、とかなんとか。
マツナギは魔法素質は無いが魔法発動の歪みは精霊干渉の素質上わかるそうだ。転移魔法が動いたという事は分かったらしい。また、ギルが何かを封印しているくだりは一応把握している。その情報だけでレッドは、ギルが封印されている事情についての正確な思惑を把握出来てんのな。俺達がギルの封印をどういう形にしろ解くように仕向けられていて、恐らくそれを回避するために誰かが、どこかに、封印を解かない方向で俺達を転移させたって。
すげぇなお前。
で、具体的に言うとカオス・カルマの介入があった事を伝えたら……何か俺に言いたそう顔しやがったが、最終的には口を閉ざしたな。とにかくカオスの仕業というのは把握してくれたようである。
奴が言いたい事は……悪魔との契約の話かな。
コイツの事だ、悪魔との契約を行った事や、それがどういうものなのかとか気付いているかもしれない。
何か突っ込んで聞いてくるかと身構えたが、逆に何も聞かないんで俺はちょっと拍子抜けだ。
「何で通信つながった時、ストアらがセイラードに向かってるって教えてくれなかったんだよ」
それ知ってたら、到着前に待ち構える事だって出来たのに。
セイラードの被害をもっともっと小さく出来たってのに。
「言ったはずです、あの通信が傍受される可能性があった、と。貴方からの通信があった状況で、貴方がたがイシュタル国エズにいるという事を把握していたのは僕らだけだったんです」
「……そうか、確かに。ストアもギルがイシュタル国に居る事は把握してなかったな」
「それに、僕らがエイオール船でイシュタル国に向かっているという情報も極秘でした。ディアス国にお願いして、僕らはまだ南東地区にいる事になっているのですよ」
「そうなのか」
「少なくともストアがセイラードから上陸するという情報は信用するに値するものでした。貴方がたはエズ、セイラードの隣町にいる。この情報は僕らだけが知っている。ストアも、魔王八逆星側も知り得ていないはず。もし貴方達がエズにいる事を知られてしまったら、ストアは行き先をセイラードではなく別の港に変えてしまっていたかも知れません」
つまり、ストアはセイラードからの上陸を止め、別の、エズからは遠い町から侵略を始めた可能性もあるって訳か。たとえば漁村のミュールとかな。
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◇◇◇
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◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
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