異世界創造NOSYUYO トビラ

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9章  隔たる轍    『世界の成り立つ理』

書の4前半 三つの真実『一人か二人か三人か?』

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■書の4前半■ 三つの真実 Divide into three side

 夕飯に消化の良い雑炊が炊かれ、ついでに少しだけ残っていた例の八本足イノシシのベーコンも惜しげもなく疲労困憊な奴らの為に振る舞ってやった。
 ナッツさん、滋養強壮薬を調合してランドールパーティーに渡す際、しっかり一服持ったようです。
 ランドールパーティー、腹一杯食べるのを自重しようとしたらしいが、良い具合に塩に揉まれたベーコンの焼ける匂いに負けたと見える。すっかりナッツさんの術中にハマってまったりしてしまい、睡眠薬が盛られた事に気が付かなかった模様。

 睡眠薬の入った小瓶を手の中で弄び、ナッツが苦笑しながら言った。
「とりあえずこれで明日の昼過ぎまでは寝ているだろう」
「どうやって薬盛ったんだ?」
 雑炊だとするなら全員喰ってるしなぁ。
「前に魔導都市でサトーが使ってた手段だよ」
 俺は、あの時の状況をリコレクトして顔を顰めた。
 ええと、あれな。全員同じもの食ってるはずなのに俺だけ痺れ薬盛られた件な。
 ちなみに、未だに俺にはそのトリックが解ってません。
「どうやったんだよ?」
「ん、秘密」
 分かってない俺に教えるつもりはないらしく、ナッツさんはにこやかに笑いながらそのように言いやがるので……俺はナッツの手から強引に小瓶を奪い取ってやった。
「お前には使えないよ、容量間違うと大変な事になるからね?」
「やばい薬品だな……ロダナム?」
 ラベルの文字からそのように読めるが、該当する薬品はリコレクト出来ない。わかんねぇな、リアル俺の知識でも何なのかよくわからん。
「……ロダナムねぇ、色々とその辺りリアルとの名称の一致はあるんですよねぇ。不思議なものです」
 どうやらレッドには該当知識があるらしく、眠りこけた一同を見回しながら独り言を呟いている。
 俺は素直に小瓶をナッツに返して、意識を失って眠るランドールパーティー達を簡易テントに運び込む作業に移った。
 連中は、強引にでも眠らせないといけない状況なのは俺も承知しているぞ。疲労度がヒドすぎる。回復魔法でどうにかなるレベルは越えている、そもそも魔法や薬品によるドーピングって結局の所『元気の前借り』でしかないんだよ。この異世界にあっても、その辺りの事情は変わらない。万能なる魔法をもってしても最終的にはそういう理屈だそうだ。
「事情が分かり次第即、ランドール追っかけて行きそうば雰囲気、残ってたもんなぁ」
「実際、ワイズは睡眠薬が盛られているの気が付いてたと思うよ。リーダーを追いかけたい気持ちはあるのだろう、だけどパーティーの体力の限界にも同じ位危惧している。今回はおとなしく休む事を選んだようだねぇ」
 ナッツさん、のほほんと対応する割りにやっぱり、ワイズに対しては神経尖らせて対応しているんだな。

 そんな訳で、ようやく一段落した所。
 アービスから事情を聞く事になった。実は、ナッツさんが薬を盛らなかった訳では無い。彼は用意した夕飯を殆ど、食べてなかったのである。曰く、あんまり食べる必要が無いのだそうだ。食欲も殆ど無くて、椀に盛られたものを礼節程度に手を付けて後はマースというあの、全身鎧の重戦士に上げてしまっていた様である。
 彼はずっと森歩きをしていて疲れている、という様子はない。なら今の内に色々話を聞いて置くべきだろう。
 食事中とか、あえて話し出そうとする所を後でと押さえていて……まだちゃんと、奴の事情を聞いていないんだよな。ワイズが休息を所望して説明を後にしていた都合もある。
 それで改めてさぁ、どうぞ事情説明よろしくと話を振ってみたのだが、途端アービスは言葉に詰まってしまうではないか。そんな所がイライラします。この人本当にバカっぽい。いや、人の事あんまり言えないんだけどッ!
 状況説明などは完全に、ワイズに投げる心算で自分だけで説明する事を想定してなかったっぽい感じだ。

「あー……っと、その、私が……魔王八逆星の一人として数えられているのは……解っている訳だよね」
 加えて、どうにも素で話してないんだよな。一人称私とか使うけど、どうもあえてそのように使っているように感じる。
「そうですね、ついでにどういう理屈で持って魔王八逆星と数えるのか、という事情などお話し頂ければ非常に助かるのですが」
 こっそりレッドさんの探りが入りました。
「ええと、重要なのは数だ、と聞いている」
 そしてあっさり暴露してくれるようですこのお兄さん。
「8人……人と数えるのも妙だけど、とにかく能力などが総合的に勝っているものを8人、八逆星という事で数える事になっているそうだ」
「では、魔王軍と八逆星の違いというのは無いのですか?」
「いや、知っているとは思うけれど魔王軍と称される方は……正しく生命として成り立たっていない」
 その時、話にあまり集中していなかったアベルがあくびを漏らした……のを、こっそり瞬間的に伺ったナッツとレッドを俺は見たぞ。
「少し話が脱線しました、その話は後でお伺いしましょう。それよりまずランドール一行の事情をお伺いします」
 アービスは頷いて膝の上に腕を置き、指を組んだ。
「彼らは大蜘蛛、あれはウリッグって言うんだけど……それに追いついたんだ。正確には……ランドールという青年だけが、だね」
「あの蜘蛛に名前なんてあったんだなぁ」
 俺のぼやきに反応せず、何故だかナッツは厳しい顔をしている。
「どうしてランドールはその、大蜘蛛を追いかけているんだろう?」
「私もそれはよく分からないが……仇らしい事を言っていたな」
 ナッツ、俯いて小さく呟いている。
「……仇、か」
「で、お前は何でその状況を把握している。なんでお前、こんな所にいるんだよ」
 そんなナッツの様子を横目で見つつ俺はアービスに続きを促した。
「……私も……その時ウリッグに追いついていた」
「そりゃぁ、お前も追いかけてたって事か?」
 アービスは頭を下げて視線を降ろす。項垂れたのだな。
「場合によっては……私は……俺は、魔王八逆星に戻らなくてもいいかなと思っているんだ」
「つまり、裏切る訳ですか。だから僕らに事情を色々説明して頂けるわけですね?」
 レッドの言葉に少し慌てるように顔を上げた。
「いや、あんまり詳しい事は分からないんだけど……」
「それくらいは察しておりますので、問題在りません」
「……はぁ」
 毒舌が見事に決まりました。やっぱりアービスは天然お兄さんらしいな、毒吐かれた事理解してないっぽいぞ。
「……あの大蜘蛛。ナドゥが改良して使っている魔王軍だ。ええと、ナドゥについては……」
「はい、存じておりますので続けてください」
「………。蜘蛛をあちこちに配置していて、蜘蛛を介して自由に行き来するらしい、私には仕組みはよく分からないが……お世話にはなっている。同時にそれが私の監視役も兼ねていたんだろうな」
 そう言って、唯一の手荷物であるらしい鞄を漁る。森を歩くにしてはやけに軽装だ。革袋を取り出し、ゆっくりと口紐を解くと……潰されて体液の漏れだして半分干からびたモノを取り出した。
 なんだか解らず首を伸ばして覗き込んだら……掌大の蜘蛛だ。黄色と黒と、一部赤という女郎蜘蛛みたいな配色をしているが、形は土蜘蛛っぽい。
 間違いなく死んでいるな。頭と胴体の部分に乱暴な切り傷があり、そこから体液が全てこぼれてしまったようだ。当然とその上に赤いバグを知らせる旗は立っていない。
 バグ感染能力の無い、末端だったという事だろう。ナドゥが引き連れていたあの大蜘蛛にレッドフラグがあったんだ、このアービスを監視していたらしい蜘蛛端末にもレッドフラグはあったに違いない。
「棄てるつもりだったけど、何か手がかりになるかと思って」
「これを……この蜘蛛を貴方は常に近くに?」
「好んで側に置いている訳じゃないけど……どうにも常に近くを徘徊している様だ、というのは知っていた」
 レッドは恐れることなくアービスの掌の上から蜘蛛をつまみ上げる。
「……これは、巧妙な」
 そしてため息を漏らしてそう呟いてから、早々と革袋の中に戻してしまう。
「何なんだ」
「転移紋章が刻まれておりますね……最も、今は切り傷で破綻していて動かないようですが」
 それからレッドお得意のうんちくが始まった。
 魔法を形に封じる技法はまだサルベージしたばっかりで新しいとか、生体に入れ墨として封じ入れる効用についても研究は新しいはずだとか……。
 まぁよく分からんからそれはまずおいておいて。要するに、どうやらナドゥは魔法を形に封じて使うタイプの魔法使いか何か、であるらしい。紫魔導師のレッドが関心する位には高等な技術を要いている様で、転位門を開く為のええっと、魔法式、フォーミュラとかいうのを物や、使役する蜘蛛に模様として彫り込んで『使う』っている、との事だ。
「……そうか、だから……何時もいきなり現れるんだな……」
 アービスは納得して呟いた。
「いつもなら私を連れ戻しにナドゥが誰かしら、送りつけてくるのに。それが無いのは、私を監視する蜘蛛が『壊れた』からなんだな」
「……の、ようですね。成る程、彼が突然現れる仕組みについては納得しました。相当に新しい魔導や禁呪とされている技術をたしなんでいる気配も感じます……彼もまた魔王八逆星に数えられているのですよね?」
 そこ、確かに重要な所だ。
 赤旗が立っていて、バグってる奴らを俺達は魔王とか、魔王軍と呼んでいた。しかし初めに会った時や南国では、間違いなくナドゥの頭上には赤旗は無かった。
 ……先日会った時は何故か、赤い旗立っていたけれど。
「当然だろう、私が……その様に数えられる前から魔王の側に居る人だ。というか」
 アービスは静かに額に手を置いて再び項垂れる。
「私は多分、あの人から『作られた』んだからそれは、当然」
「……作られた?」
 当然と聞き返す所である。それ、詳しく!
 アービスは自分の纏う黒い鎧を撫でる。
「……眠ってしまったあの人達は知っている事だけど。私は……これで北魔槍の団長をやっている」
「それは……貴方の意思で?」
 北魔槍って何とかいう俺とかアベルの疑問が出るより先にレッドが、アービスに聞き返している。
 ちょ、北魔槍って何よ?
 アービスは俯いたまま首を横に振ったな。
「いや、違うと思う。私は……北魔槍団長をやるべく『作られた』んだと思う。必要な事だと言われた、私には命じられた事を否定したり拒否したりする事が出来なかった……出来ないと思っていたし、する必要も無いと思っていた」
 拳を作り、強く握りしめながらアービスが呻く。
「守りたかったんだ……兄弟達を。守るに為に私は、こうなるしかなかった。自分の意思なんてそんなもの、私には必要じゃない。自分なんて守る為に消費されてもいいものだと……思っていた」

 それって……俺の心中にある決意に……似ている訳で。
 こっそりと怯んでいる、俺。

「そうじゃなかった」
 ここに来て初めて、禍々しい気配を帯びてアービスが虚空を睨んで呟いた。
「ナドゥ、いや……俺を北魔槍に据えたDSを許す訳には行かない」
 口調が変わり、じりじりと空気を焦がすような殺意を覗かせている。今まで天然お兄さんだっただけに思わず口を閉ざしてしまう程だ。
 寝ていた鳥が慌ててバサバサと飛び立った気配がする。
「聞きたい事は多くありますが、まず……貴方の怒りを静める方が先だ。何をされたというのです。話が見えません」
 全くその通りである、さすがレッドさん。
 ふっと殺意を消してからアービスは、俺を振り返る。
「その前に確認したかったんだけど……ヤト君はどこの出身?」
 あれ、どうしてお前らそんなに俺の出身地が気になる訳?
 今更答えに迷う必要もないので、ここの国、コウリーリスののシエンタだと答えてやった。
「……そうか、じゃぁ違うな」
「何が違うんだ」
「私はディアス国側のマリアの出身なんだけど、マリア側からは川を登っていってもシエンタには繋がっていない。途中大きな淵があるのを君も知っていたると思う」
「……ああ、そうだな」
 アービスの言っている事は正しい。

 コウリーリス国には、北から南まで、森を囲んだ海沿いに比較的大きな集落があるのだが、マリアという地域はその中で、一番あか抜けてる所じゃないかな。コウリーリスの南方にある集落でディアス国が近い。行き来だってそれほど難しくはないだろう、海からも、一応陸からも行けるはずだ。
 いや、とは言うものの単なる推測だ。俺はマリアには行った事がない、しかし地図を見る限りディアス国に近いのでわりかし活気があるんじゃないかな~と勝手に思っていたりするのだ。
 その、地図で見る限り俺の故郷シエンタとマリアはそれ程離れてはいない。しかし例の淵、森の中にある深い亀裂がマリアから北側に多いらしくてな、縁の無い町であるって事だけはシエンタ出身でコウリーリスの森の地理を把握している都合良く分かる。

「私の……俺の家は……貧しくて……ね」
 静かに怒りを抑え込み、それがぐっとマイナスに転化イメージがあります。
 お兄さん、やけに落ち込んだ風になって語り出した。
「喰うのに困って両親は……俺達を売った」
 そ、それは確かに暗黒な経歴ですが……達って事はお前が守りたいという兄弟含むって事か?
「……買い手、誰だと思う?」
 自嘲気味に呟いたアービスに、レッドは容赦なく推論をぶち当てる。
「ナドゥ・DS、と言う訳ですね」
「ああ、そうなんだ。だがあいつは全員を引き取るんじゃなくて、俺達兄弟の中から一人だけ連れて行くと言った」
 ……なんか、続きを聞くのも鬱になりそうな話だな。
「私……俺は、長男で……ある程度家庭の事情は分かっていた。食扶持減らしって知ってたし、これから俺達が買われて行くって事も把握していた。だから、俺が……私が進み出た。余計な事弟達に理解させたくなかった」
 テリーが間違いなく俺を見ながら言った。
「進んで自分を売り込んだんだ、って訳か」
 ううう、経歴も微妙に似てます。まぁ、俺の方が間抜けなのは素直に認めますけどっ!
「ああ……それで、弟達は『助かる』のだと……私は思っていた」
 そして再び怒りの炎をちらつかせてアービスは呻く。
「だがそうじゃなかった……俺は、今の今まで弟たちは元気に暮らしているものだと信じていた。それを確かめる術はない、俺にはすでに元来の名前もないし、本来の顔も失ってしまった。しかも魔王八逆星に数えられている……怪物だ。会いには行けない」
 うーん、ツッコミ所満載なのだが……話の腰を折るのも何なのでとりあえず、黙っておくかと俺はレッドとナッツを伺いつつ口を閉じる。
「DSは、俺の弟達も俺と同じ運命に巻き込もうとしている。いや、最初からそのつもりだったに違いない」
 少しずつだか状況が解ってきた気配がするな。
 そして、その理解力のスピードにおいて俺と同じレベルであるアベルが怪訝な顔でついに耐えきれずにツッコミを入れるのであった。
「大蜘蛛、ウリッグだっけ?それがさ、なんか子供を引き連れているけど……まさか」
「俺の弟だ、」
 完全に口調が崩れ、まさに食いつくようにアービスは顔を上げた。

 ああ、やっぱりそういう事になっちゃうわけだな。

「まさか、あんな風になっているなんて私は、つい最近まで気が付かなかった。……急いで確認しにいったんだ、今までマリアには近づいてはいけないって、自分で自制を掛けていた。私にはその資格が無い、行った所で俺だって認められる訳じゃない。迷惑が掛かるだけだと……俺は……。でも……生家に……マリアに戻ってみて状況を……理解したさ」
 再び拳を固め、アービスは呻くように言った。
「町は荒れ果て、家はもぬけの殻だった」
 俯いて、怒りと悲しみを押し殺したように呟く。
「誰も住んでいなかった、残されていたのは……っ」
 暫くその様に心の痛みを耐えた後、声を絞り出す。
「……弟が、人食い鬼にされているなんて……!」

 お前が救いたいのは……弟か。
 あの、血の臭いに反応し、獣のように襲いかかってくる……少年の形をした怪物。
 赤い旗、存在としての高次元バグ。
 修復する手立ての見つからない……レッドフラグが不幸の旗としての機能を持ち、それが灯っている事を知っているだけに俺は、アービスを見守るのが辛くなって思わず顔を背けてしまった。
 せめてこの天然お兄さんのように、自分の意識を保っていれば『存在』も許せるってのに。
 あの少年は、あのままではまずいのだ。成した所業が、すでにまともな精神が宿っていない事を示している。人を襲って喰らう様に教え込まれているのを、これから改めることが出来るだろうか?改めたとして、その先少年は……まともな精神を保っていられるものだろうか?
 戦士ヤトというよりは、サトウハヤト的な知識の上で色々と、先例のある話だ。俺には、残念な未来が見えてしまう。

 そんな俺の複雑な……同情と共感の入り交じった思いについて、レッドやナッツは推測可能だろうと思われる。

「それで、貴方は……どうしたいのですか?救いたいとは、具体的にどういう状況を望んでの言葉なのでしょう」
「………ッ!」
 アービスも理性的には知っているな。
 弟がどういう状況にあって、いかに『救いがたい』のかという事態をなんとなく把握はしているのだろう。
 しかしそんなのはどうでもいい。
 感情的に言って『救いたい』『幸せになって貰いたい』。

 多分、それだけ。

 俺の……事情と良く似ている。ああ、嫌なくらいに。

「具体的な手立てを示して頂かないと、手を貸したいのは山々ですが僕らも困るのです」
「……ああ、そうだな……そうか。ありがとう」
 圧倒的に良いお兄ちゃんなんだなぁ。
 思えばミスト王もお兄ちゃんだったな、ダメぽな弟の為に、振り回されてアクセクしている。
「どうしたら弟を、元に戻せるのか……解らないんだ」
「戻す方法があるの?」
 そんで早くもアベルが食いつくし。
 俺とかの、正しい事情分かってないのコイツだけだもんなぁ。アービスは少し考えてから深い落胆のため息を漏らす。
「私は正直……戻せない、と……思っている。戻せるのならあれだけ『検体』と『廃棄』は出ないだろう、元に戻して成功するまで、実験体は一つでいいはずだ。だけど……少なくとも多くの検体を生産しているのは知っている。つまり……戻す手立てはない……という事だと思う。魔王軍は実験の失敗から生まれた廃棄だ」

 辛いのだろうがはっきりと、アービスはその戻せない理由についての推論を説明し出して来た。

 聞くに堪えない話だ。
 いやもう、酷い話だから要約だけして説明して3行にするけどさ。

 ナドゥ・DSは自身の都合の為に国に戦争や貧困を煽り、
 実験用に人間を搾取しやすい環境を作っていて
 そんでもってそれを無断複製して数を底上げしている。

 で、どうだろう?把握したか?その詳細についてもアービスから聞いた訳だが……ちょっとやりすぎですナドゥさん状態だ。
 詳しい描写は要らんだろう。とてもえげつのない話だったのでこれは記憶領域的に隔離処置だ。無断複製底上げって何だよお前。マジでそんな事が可能なのかよとツッコミたい所なのだが、あの湧いて出てくるような混沌とした魔王軍の皆さんを思えば……もはやそうなっているとガッテンする他無い。
 何故か、元白魔導のリオさんが厳しい顔で、色々と小難しい言葉で事情を解説してくれたが……それは、必要があればその時に説明する事にする。

「魔王軍、あの混沌の怪物が元人間だったという事は……公にはしていない事ながら僕らは把握している。しかしそうだとするなら魔王軍の元となる人はどこから出ているのか?西方で魔王軍が暴れて壊滅した町も幾つかありますが……到底その程度で収まる数では無い」
 レッドは詳しい事情を聞いて状況を整理しだした。
「あの造形です、魔物や動物なども魔王軍化しているのかとも思っていましたが……そうではないのですね」
 アービスは苦い顔で頷いた。
「魔王軍とはそもそも、殆どがナドゥの実験の失敗作。意思を持たずにひたすら魔王に追従するのは……最初から意思が無いから……と云う事ですね」
「道具に意思はいらないだろうって……言っていたかな」
「だが、一部意思が残ってる奴もいるだろ?魔王八逆星なんてみんなそうだろうが。あれは何だ?」
 テリーの言葉にアービスは黙り込んで、少ししてから答えた。
「結局、殆どが失敗なんだと思う。魔王化は力を与える。自分が欲しいと思う事叶える力を持っている。でも絶対に上手くは行かないらしくて……殆どが力を得られずに怪物になってしまうようだ。成功した者も居るらしい……誰の追随も許さない『力』を得たギルとか……俺も全部は分からないけれど」
「では、貴方は?」
 レッドは眼鏡のブリッジを押し上げて尋ねる。
「貴方は魔王化で、何を得たのですか」
「……私は……。何も得ていないと思う」
 アービスは力なく呟くように答えた。
「では貴方の言っている『魔王化は力を与える』という話は確定事項として理解する事は出来ません」
「すまない、はっきりとした事を説明出来なくて」
「貴方が謝る事はありません。それと、解らない事は分からないと答えればいいのですよ。別に貴方を責めている訳ではないのです、中途半端ながらもどういう事例があるのか、それを話してくれた貴方には感謝しています」
 アービスの話は端的で、いまいちはっきりしない。まぁだからこそウチちの軍師どもが上手い事纏めてくれる訳だけど。
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