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8章 怪奇現象 『ゴーズ・オン・ゴースト』
書の1前半 9人目『不慮の事故があったとさ』
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■書の1前半■ 9人目 Ninth Element
例によって……いや待て、何が例によってだ?
自分でそう思っておいて即座に打ち消す俺。
ああ、そっか。前回も俺が真っ先にログアウトしたからかな。それで今回俺は……?
熱いシャワーを頭から浴びて、ぼうっとする意識の奥から必死に、消えゆく記憶を呼び起こそうとするんだが……。
これが全く上手く行かない。
思うに、前回のログアウト後の方がまだ夢を覚えていたような気がするのだが……いや、気のせいかな?
たった一週間前の事なんだけどその辺りも、さっぱり覚えていない。ゲーム内容っを実際どんだけリアルで記憶できていたのか覚えていない。ゲーム内容っていうか、ようするに昨日見た夢の事な訳だけど。
その『ゲーム内容』をぼんやり思い出すに、トビラの中だと思い出す一連の作業を『リコレクト』っていうコマンドで手軽に出来るんだよなぁ、あれは便利だなどと思い出すのだが……現実だとそういう訳にはいかない訳でして。
現実だろうが仮想だろうが、結局それに興味がなければ覚えてないのだろうけどな。
……俺はそれだけこのゲームに興味がないのか?いや……違うな。興味があっても全てを、覚えている事が難しい。
夢を、現実に持ち込む事が難しいんだ。
今俺が記憶の底から思い出しては反芻する事は―――。
今日はここの会社とは違う制作会社が作った某アクションゲームの発売日だ、とか。
明日は久しぶりにバイトの連休取ったから休みだ、とか。
ああ、洗濯物たまってるんだよ、とか。
そういう、この世界、ようするに現実での事を奴を至極当たり前に、色々思い出して考えていたりする。
てゆーか、それって当然だよな。
何故当たり前の事を一々当たり前だと反芻しなけりゃいけないのか。
それが、思い出せない。
トビラというゲームの中で、俺は何か……致命的な何かに気が付いていたり、決心していた事があったように思う。思うんだが……はっきりと思い出せない上に不思議と、その使命感みたいなものがどんどん薄れていく。
夢で見た事を真に受けてどうすんだよ、という感覚だ。
脳を騙されて仮想現実に浸るのは、ゲームの中だけで許されている事だ。
俺はちゃんと知っている。
現実と仮想、それは当たり前に違うものだと弁えなきゃいけない事を。
取り違えてはいけない、現実は現実。仮想は仮想だ。
仮想世界で何を俺が決心したかなんて、この現実世界では関係無い。
その思いは全て、仮想の中でのみ真実である事でしかない。
現実では仮想の出来事など全ては、偽りとしてある。
もちろん、その偽りの部分が現実でも通用したらなと、俺はそういった夢みたいな思いを抱いていない訳ではない。
そうなったらいいだろうなとは、思う。
思いながら俺は、仮想世界の中でヤトというキャラクターを演じているのだ。
ゲーム・トビラに限った話じゃぁなくてだな……。パソコンのウェブ上での俺というアイコンだとか。
ふぅ、だから、どうしてそう云う事を今更考えてるんだよ俺は。
コックを跳ね上げてお湯を止める。
仕切られている洗面所に出て、鏡に写る何時もと替わり映えのない俺を見た。
そういや曇ってないな、安アパートだとまずドライヤー起動させて鏡を手動で暖めてやらんと鏡として機能すらしねぇってのに。はなっから曇り止め加工されてるみたいだ……さわってみたら案の定ほんのり暖かい。
などと、どうでも良い事をやるんだけどここは現実だからな。余計な展開はスキップされるわけじゃない。俺が語っちまったら永遠と残っちまうんだぞ気を付けろよ。
そんな風にちょっとまだ冒険やってるみたいな感覚を任意で思いつつ、施設が良いのでここを存分に使わせて貰って――髭も剃るぜっ。
前回は何故か勝手に焦ってて、鴉の行水だったもんな。どーせ誰も起きてやしないだろう、根拠になる事は思い出せないがそんな気がする。
今回はレッドの忠告もあったしちゃんと、頭髪とか頭髪じゃない毛とかが残ってないように使い終わった後に点検し……タオルも使用済み入れの籠を見付けてそこに入れておいた。
よし、これで文句はあるまい。
外に出て、やっぱりまだ他は起きてない気配を感じる。
うーん、どうして俺は真っ先にログアウトなんだっけ?
ええと……ああと。
ん?
何だろう、もの凄く重大な事を忘れている気がしてきた。
何だ?ちょっと待って、俺は何を忘れていると焦って思うんだ?
頭を悩ませつつ、腕を組んで部屋に戻ると……予想に反して連中は起きていた。現実では気配なんてもん、あてになるもんじゃねえな。
「あ、おはようございます」
シャワーから戻った俺に、真っ先に気が付いたマツナギが挨拶して来た。それに俺は手を挙げて答える。
そうだな、そういや……朝だよな。これも当たり前なんだけど。
次々と飛び交う挨拶に俺は少し出遅れて、ようやく声を出して答えていた。
おはようなんて、バイト先で儀礼的に交わす程度になっていてなんだか不思議な感覚だ。
「起き抜けに、中での出来事をどこまで覚えているって話をしてたんだ」
ナッツの話に生返事を返してから……どうやら俺のケースを尋ねられているのだとやや遅れて気が付く。
「俺ぁもう、なんか全然思い出せねぇけどな」
「やっぱり、顔洗っている間に忘れちゃうものかしらね」
「単にコイツの場合、記憶力無いだけでしょ?」
うっせぇ阿部瑠。お前だって俺と大差ねぇだろうが。
「思い出して反芻してみて、初めて脳は夢を夢として記憶するものです。まぁいいでしょうそれは、ボクらも顔を洗ってきましょう。シャワー部屋が三つしか有りませんしね」
女どもはどうしてこう、何をするにも時間が掛るんだろうな?
そんな疑問が俺の顔に書いてあったかのように阿部瑠が言った。
「お化粧落とさずにトビラやってるのよ、お肌に悪いのにね」
「お前でもそんなん気にするんだな」
「うるさいわねぇ」
「奴ら、フルメークし直しか」
テリーが呆れて、携帯端末を弄っていた顔を上げた。
先にシャワー使わせろと主張し、ナッツ、テリー、阿部瑠は戻ってきたのだが……なかなか第二陣が戻ってこねぇ。
いや、レッドはあれ、化粧してねぇだろ。
んッ……?
……なんだこの違和感。
……あ。そうか。
俺は顔を上げて阿部瑠を見た後、テリーとナッツに顔を向けると訊ねていた。
「ドコで気が付いた?」
「何にだよ」
「何って、……いや、あれ?」
俺は口を濁して……違和感の正体について考える。
俺は……何を言おうとしていたんだ?というか、何を聞こうとしてた?
レッドが女だってどこで気が付いた?
ちょっと待て、だって奴はトビラの中ではちゃんとした男だ。ちゃんとした、という言い方も何だが、何しろ一緒に露店風呂に入っちまった仲なのだ。
一回目のログインでやらかした事をアインから言われて、そんなおいしい展開あったかと思ってわざわざリコレクトしに行ったもんな。おかげで覚えてるぞ。
トビラの中において戦士ヤトは別に、堂々と女風呂を覗くようなキャラクターではない。そう云う事はしない事は分っているんだが……ほら、何かおいしい展開があったかもしれないだろう?
突然そこにモンスターが現れた、とか。それで露天風呂の仕切りがぶっこわれた、とか。
ゲーム内容を全部覚えていられないもんで、つい都合の良い妄想と知りつつ確かめずには居られなかったんだな。
当たり前だけどそんな都合の良いような展開は無く、むしろ体調不良で苦しむはめになった展開をもう一度思い出して……世の中おいしい展開の後には何かしら悪い事が待ち受けて居るもんだと思ったものだ。
ともかく、間違いなく奴はあっちの世界では男である。
むしろそこの展開で、俺はその事実に対し念を押された気すらする。
ところが……。レッドは現実だと女なのだと―――。
女だって……?
プレイヤーが女だって……俺はそれをどこで気が付いたんだっけ?
確かにちょっと整った顔だよなぁとは思ったが、あれが女だとは全く気が付いていなかった俺。当然と現実で、だぞ?
どうして仮想世界で俺は、それに気が付いたんだ?今朧気に夢で見ていた事を必死に思い出そうとするんだが……記憶違いだろうか、結局それも見ていた夢で、俺の勘違いだろうか?
そもそも、それって話して良い事だっけ?
大体それに気付いてなかったの俺だけなのか?だとしたら今更聞くのも恥ずかしいよな?超絶に俺一人ずれてるよ。
「おはよーさん、他は……まだシャワーかいねー」
怪しいイントネーションの開発者の一人、佐々木リョウ姐さんの先輩だという伊藤サナエさんが現れて、朝食にいこかーと俺達を誘いに来た。
「他の、高松さんとかは?」
「メージンもさっき起きてぇな、今シャワー待ちしとるよ」
なぜか質問とは別の答えが戻ってくる。
と、そこにレッドがシャワーから上がってきた。
俺は、その顔をまじまじと見ていたのだろうか?俺から見られているのを察してこちらに顔を向けて少し笑い掛けられたのに慌てて視線を反らしてしまう。
「メージン、大丈夫なの?」
「問題あらへんよー、バックアップの方法をちょっと変えとっからねぇ。長期使用テストはこの前終わっとるから、今回はちょっと短かかったとでしょ?」
むぅ、そう言われれば?……いや、何も変わった事など感じないけどな。
「メモリーのサイズ見れば一目瞭然よー」
そう言って、伊藤さんはポケットからメモリスティックを取り出してそれぞれに渡して来た。
「ログの同期はとっといたでぇ、CCする部分は次ん時に許可おろしたってな」
鍵だ。
異世界に行く為のこれは大事な鍵なのだという認識を思い出す。
そう、これを無くすともう二度と、あの世界で戦士ヤトを演じる事が出来なくなる。
なら、このメモリスティックをどっかで無くしてしまったら……どうなるんだろうかという疑問がふとよぎった。
「俺はこういう、データをセーブして続きをロードするような家庭用ゲームは初めてやるんだが……もしこのメモリーをぶっ壊しちまったりしたらどうなるんだ?」
テリーが俺と同じ疑問を抱いていたようである。
確かに、テリーはRPGはやらんと明言しているよな。
しかしゲーセンでやる格闘ゲームに限らず、認証カードにICタグをつけてデータをセーブするって仕組み自体はかなり浸透しているからな。戦歴などを保存しておくためのカードなんかは使っているはずだが。
そのカードを紛失した場合の保証は基本的には無かった。しかし無くしたとか、盗まれて悪用されたとかいう事が起こるもんでな、メーカーで契約カードのプランによってはバックアップに応じている物もある。その分いくらか割高になるけど。
昔はネットワーク経由でデジタルな方法しかなかったが、最近デジタル機器のアナログバックアップも一応あったりするのだ。年に数回の頻度でデータ内容を特殊な機器でバックアップする。それを書類で保証され、カードを再発行する場合はこのバックアップ内容を保証されるというものだ。盗難された場合は即、過去のカードの状態が無効になる仕組みになっている。
最低でもそういうカードをテリーは使っているはずなので、データ破損についての危惧については気が回るんだろう。
しかしテリーの使用しているタイプのメモリーカードのバックアップ保障については、家庭で使うのではなく……ゲームセンターという特定の場で使うからこそ出来る話だ。
今開発されているゲームは家庭用、コンシューマーと呼ばれるゲーム機である。
バックアップするのに一々どこかに出向けという事はユーザーの負担だ……だからといってキーのやりとりを今まで通りのオンラインで行えばセキリュティの問題も浮き上がってくる。
大体、このゲームMFCは普遍的なワールドワイドウェブとは別回線だって言うしなぁ。
無くしたとか、盗まれたとか、壊したとか。そう言う問題はメーカーの方で起こりうると考えなきゃ行けない所だろう。
保証しないというのならそれまで、ではあるがな。
しかしフラッシュメモリーが媒体である以上、ちょっとした不具合でデータがクラッシュする場合がある。本当にそれを保証しないんだろうか?
「バックアップ機能は基本的に、MFC本体に内蔵されとるよ」
そう言って、伊藤さんはテストプレイルームを見下ろすバックアップシステム室に案内してくれるらしい、まだシャワー室から戻ってこないアインとマツナギを除いて俺達を二階へ続く広いとは言えない階段へと案内してくれた。
電気を付けると、部屋の印象ががらりと変わる。
暗闇の中、何かのLED灯だけがちらちら光っていた部屋の窓は一面ガラス張りで……例のプレイルームの頭上の部屋であることが分った。
「メージンはここで」
どこかで見た事のある、ディスプレイがいくつも並んだコンソールを見て俺は呟いた。
「全員は居てへんのよ、ほら。これもろたでしょ」
メージンが座っているのだろう、下のプレイルームにあるリクライリング式の椅子とよく似たものの背後に、大きなサーバーらしい物体があって……その目の前に見覚えのある白い箱が幾つも置いてあった。
試作品と渡された、MFC本体だ。電源線だけが本体から延びていて、あとは無線で飛ばしているみたいだな。
「ここに、俺らのメモリーを差してるんだな」
「そういう事やね」
「個人認識は……どこで行うのでしょう?下の椅子のどこに誰が座ったかを見て、対応したメモリーを差しているのですか?」
「ああ、要するに個人情報の漏洩とかいうのを気にしとんのね」
ようやく分ったというように伊藤さんは笑う。笑いながら、自分のこめかみを指で差した。
こめかみ、実はそこがこのゲームトビラの『扉』とも言えるんだ。
まだ改良中らしいがとりあえず今は眼鏡式のデバイス装置。それのフレームの所から脳とデータのやりとりをしていると云う。こめかみから、記憶を司る海馬という機関にアクセスして情報をやりとりするのだと説明されていたよな。
「メモリだけあっても成りすましは出来んよ、脳波で個人認証もしとるからねぇ」
「出来るんですか」
レッドが少し驚いている。
ふーむ、生体による個人認証システムはフツーに使われてるが主に声紋、網膜、静脈によるシステムが殆どだ……。脳波による個人認証は……ありそうなもんだが。無いのか?
「理論上は最もセキュリティの高いバイオメトリクスになるって言われとるね、けど諸刃の剣で実用化にはなっとらんのよ」
「どうしてだ?」
「失いやすいのでしょう」
レッドがテリーの疑問符に簡潔に答えた。その通りやと伊藤さんは苦笑する。
「失いやすいって?」
「要するに、盗まれやすいのです」
「どうやって脳波を盗むんだよ?」
「脳波を盗むのではありません、脳波に隠した情報というのは盤石に隠されているようで割と、そうではない。記憶というのは容易く薄れる、絶対に忘れないという保証がないから人は言葉を作り相手と情報を共有しようとし、文字を作って書き残すという手段を作った。しかし一方で情報の共有は耐えがたい欲求なのです。その中で個人情報というものを守るのは難しい問題なのですね」
よくわからんが、難しい問題だってのはよく分る。
数十年前、個人情報保護法案とかいうのが出来てだな、それに伴ってどれだけ『それ』が難しい事であるのかを次々と突き付けた暗黒時代があったと伝えられている。あ、リアルの話だぞこれ。暗黒云々ってのは要するに例え話なんだけど、まぁ改悪法というか、知識層が足りてなかったのか、とにかくIT事業が大混乱した世代があったのだ。
今だと、現代社会倫理科という割と新しい科目で学校で習う話であったりする。
情報を蓄積するのは良いとして、保護するってのが難関なのだそうだ。おかげでその保護するという仕組みが完成するのに後手に回って……その間漏洩だ保護法違反だとごちゃごちゃした時代があるのだ。
まぁとにかくだ。つまりレッドはこう言いたい訳だな。
脳波による個人認証は、個人と判断すべき情報を個人が失いやすく、相手に容易くスキミングされやすいために実用化には至っていない、と。
結局、多くの個人情報を扱う上で間にマシンを挟み込むとだな、人間的な感性ではなくマシンの言語に情報を書き換える必要がある。ゼロとイチの情報になってそれが認証キーになっている以上、それを脳に格納し、脳からそれをそのまま取り出す方法はセキリティとして弱い。そういう事だ。
脳が忘れやすいと云う事。脳波測定は容易く、本人が意識していないうちにスキミングされちまうという問題が有る訳だ。
なるほど、ともすりゃ脳波で個人を認証出来るとするならその技術は高度だ。
新ハードMFCはその、立ち塞がっている問題を突破したって事だよな。
「……トビラの中に作った仮想、それ自体がボクらを認証するとでも云うのでしょうか?」
レッドが思考した上で伊藤さんに伺うように口を開いた。
「いい線ついとるよ、MFCのソフトの内容にもよりけりだけれども、少なくともトビラの場合は仮想世界に作る分身の存在がゲームデータそのものやからね。そのデータのルーチンと個人情報である脳波……要するにルーチンやわ。それらが一致しなくちゃぁ『トビラ』は開かない。そんな所やね」
仮想世界に仮想アイコンを置く、だからこそ可能な脳波個人認証って事だな。
ルーチンっていうのは決まっている手口の事。コンピューター用語だと特定処理のために常に、決まった事をするプログラムの集合体の事を差す。
与えられた命令にどう反応するか、決まっている答えを返す。ルーチンの一致でそれが同じものであるか、そうではないのかという判断が可能だと云う事だ。
人間がコンピューターであれば、このルーチンによって容易く個人情報とやらをを保護できそうなもんだが……残念ながらそれは難しい。人は時にこの思考ルーチンを飛躍してコンピューターを困らせるのだ。
逆かもしれん、人間が常に定まった事しかしないコンピューターに腹を立てているのかもしれんな。
人間をルーチンとして分解するとなると……膨大な情報量になるだろう。曖昧に答えるだろう部分まで、つまりイチかゼロかというのに加えて『どちらでもない』という答えにまで気を配らないと行けない訳だからな。突きつめて二進法デフォルトのコンピューターには多大な負荷になっているだろう。
この点がルーチンによる個人認証を難しくしている第一関門とも言えるんだろうな。人間のソレは、あんまり煩雑過ぎて、情報が重すぎて、一般的に使用するには無理だーと。
しかし、その思考ルーチンを構築する事自体がゲームであるというトビラにおいては、ルーチンで個人を認識する事が可能って事訳だよ。
成る程なぁ、……って。ちょっと隣を見たらやっぱり阿部瑠、分ってない厳つい顔をしている。工学系はさっぱりなんだよなこいつ。
「つまり、どういうこった?」
ついでにテリーも弱そうである。だよな、リアル脳味噌まで筋肉で出来てそうだもん。
「メモリはキーを持ち運ぶ道具に過ぎない、と云う事でしょう。トビラをプレイするのに必要なのはMFCに保管されているキーと、プレイヤーが居れば良いのですよ」
俺はレッドがどうしてそういう比喩にしたか、理解できた。阿部瑠もテリーもイメージは掴んだみたいだな。
「高松さん達は……今回は?」
「先にお休みしとるわ、でな……」
再び階段を下りる頃、ようやくアイン達もシャワー室を出たのが通路の向こうに伺える。
「悪いんやけど、有給やから明日、時間作れへんかな?」
「明日も……出勤してくれって事?」
「時間無いんなら他の日でもかまわへんよ、チーフが直接話したいみたいで……」
例によって……いや待て、何が例によってだ?
自分でそう思っておいて即座に打ち消す俺。
ああ、そっか。前回も俺が真っ先にログアウトしたからかな。それで今回俺は……?
熱いシャワーを頭から浴びて、ぼうっとする意識の奥から必死に、消えゆく記憶を呼び起こそうとするんだが……。
これが全く上手く行かない。
思うに、前回のログアウト後の方がまだ夢を覚えていたような気がするのだが……いや、気のせいかな?
たった一週間前の事なんだけどその辺りも、さっぱり覚えていない。ゲーム内容っを実際どんだけリアルで記憶できていたのか覚えていない。ゲーム内容っていうか、ようするに昨日見た夢の事な訳だけど。
その『ゲーム内容』をぼんやり思い出すに、トビラの中だと思い出す一連の作業を『リコレクト』っていうコマンドで手軽に出来るんだよなぁ、あれは便利だなどと思い出すのだが……現実だとそういう訳にはいかない訳でして。
現実だろうが仮想だろうが、結局それに興味がなければ覚えてないのだろうけどな。
……俺はそれだけこのゲームに興味がないのか?いや……違うな。興味があっても全てを、覚えている事が難しい。
夢を、現実に持ち込む事が難しいんだ。
今俺が記憶の底から思い出しては反芻する事は―――。
今日はここの会社とは違う制作会社が作った某アクションゲームの発売日だ、とか。
明日は久しぶりにバイトの連休取ったから休みだ、とか。
ああ、洗濯物たまってるんだよ、とか。
そういう、この世界、ようするに現実での事を奴を至極当たり前に、色々思い出して考えていたりする。
てゆーか、それって当然だよな。
何故当たり前の事を一々当たり前だと反芻しなけりゃいけないのか。
それが、思い出せない。
トビラというゲームの中で、俺は何か……致命的な何かに気が付いていたり、決心していた事があったように思う。思うんだが……はっきりと思い出せない上に不思議と、その使命感みたいなものがどんどん薄れていく。
夢で見た事を真に受けてどうすんだよ、という感覚だ。
脳を騙されて仮想現実に浸るのは、ゲームの中だけで許されている事だ。
俺はちゃんと知っている。
現実と仮想、それは当たり前に違うものだと弁えなきゃいけない事を。
取り違えてはいけない、現実は現実。仮想は仮想だ。
仮想世界で何を俺が決心したかなんて、この現実世界では関係無い。
その思いは全て、仮想の中でのみ真実である事でしかない。
現実では仮想の出来事など全ては、偽りとしてある。
もちろん、その偽りの部分が現実でも通用したらなと、俺はそういった夢みたいな思いを抱いていない訳ではない。
そうなったらいいだろうなとは、思う。
思いながら俺は、仮想世界の中でヤトというキャラクターを演じているのだ。
ゲーム・トビラに限った話じゃぁなくてだな……。パソコンのウェブ上での俺というアイコンだとか。
ふぅ、だから、どうしてそう云う事を今更考えてるんだよ俺は。
コックを跳ね上げてお湯を止める。
仕切られている洗面所に出て、鏡に写る何時もと替わり映えのない俺を見た。
そういや曇ってないな、安アパートだとまずドライヤー起動させて鏡を手動で暖めてやらんと鏡として機能すらしねぇってのに。はなっから曇り止め加工されてるみたいだ……さわってみたら案の定ほんのり暖かい。
などと、どうでも良い事をやるんだけどここは現実だからな。余計な展開はスキップされるわけじゃない。俺が語っちまったら永遠と残っちまうんだぞ気を付けろよ。
そんな風にちょっとまだ冒険やってるみたいな感覚を任意で思いつつ、施設が良いのでここを存分に使わせて貰って――髭も剃るぜっ。
前回は何故か勝手に焦ってて、鴉の行水だったもんな。どーせ誰も起きてやしないだろう、根拠になる事は思い出せないがそんな気がする。
今回はレッドの忠告もあったしちゃんと、頭髪とか頭髪じゃない毛とかが残ってないように使い終わった後に点検し……タオルも使用済み入れの籠を見付けてそこに入れておいた。
よし、これで文句はあるまい。
外に出て、やっぱりまだ他は起きてない気配を感じる。
うーん、どうして俺は真っ先にログアウトなんだっけ?
ええと……ああと。
ん?
何だろう、もの凄く重大な事を忘れている気がしてきた。
何だ?ちょっと待って、俺は何を忘れていると焦って思うんだ?
頭を悩ませつつ、腕を組んで部屋に戻ると……予想に反して連中は起きていた。現実では気配なんてもん、あてになるもんじゃねえな。
「あ、おはようございます」
シャワーから戻った俺に、真っ先に気が付いたマツナギが挨拶して来た。それに俺は手を挙げて答える。
そうだな、そういや……朝だよな。これも当たり前なんだけど。
次々と飛び交う挨拶に俺は少し出遅れて、ようやく声を出して答えていた。
おはようなんて、バイト先で儀礼的に交わす程度になっていてなんだか不思議な感覚だ。
「起き抜けに、中での出来事をどこまで覚えているって話をしてたんだ」
ナッツの話に生返事を返してから……どうやら俺のケースを尋ねられているのだとやや遅れて気が付く。
「俺ぁもう、なんか全然思い出せねぇけどな」
「やっぱり、顔洗っている間に忘れちゃうものかしらね」
「単にコイツの場合、記憶力無いだけでしょ?」
うっせぇ阿部瑠。お前だって俺と大差ねぇだろうが。
「思い出して反芻してみて、初めて脳は夢を夢として記憶するものです。まぁいいでしょうそれは、ボクらも顔を洗ってきましょう。シャワー部屋が三つしか有りませんしね」
女どもはどうしてこう、何をするにも時間が掛るんだろうな?
そんな疑問が俺の顔に書いてあったかのように阿部瑠が言った。
「お化粧落とさずにトビラやってるのよ、お肌に悪いのにね」
「お前でもそんなん気にするんだな」
「うるさいわねぇ」
「奴ら、フルメークし直しか」
テリーが呆れて、携帯端末を弄っていた顔を上げた。
先にシャワー使わせろと主張し、ナッツ、テリー、阿部瑠は戻ってきたのだが……なかなか第二陣が戻ってこねぇ。
いや、レッドはあれ、化粧してねぇだろ。
んッ……?
……なんだこの違和感。
……あ。そうか。
俺は顔を上げて阿部瑠を見た後、テリーとナッツに顔を向けると訊ねていた。
「ドコで気が付いた?」
「何にだよ」
「何って、……いや、あれ?」
俺は口を濁して……違和感の正体について考える。
俺は……何を言おうとしていたんだ?というか、何を聞こうとしてた?
レッドが女だってどこで気が付いた?
ちょっと待て、だって奴はトビラの中ではちゃんとした男だ。ちゃんとした、という言い方も何だが、何しろ一緒に露店風呂に入っちまった仲なのだ。
一回目のログインでやらかした事をアインから言われて、そんなおいしい展開あったかと思ってわざわざリコレクトしに行ったもんな。おかげで覚えてるぞ。
トビラの中において戦士ヤトは別に、堂々と女風呂を覗くようなキャラクターではない。そう云う事はしない事は分っているんだが……ほら、何かおいしい展開があったかもしれないだろう?
突然そこにモンスターが現れた、とか。それで露天風呂の仕切りがぶっこわれた、とか。
ゲーム内容を全部覚えていられないもんで、つい都合の良い妄想と知りつつ確かめずには居られなかったんだな。
当たり前だけどそんな都合の良いような展開は無く、むしろ体調不良で苦しむはめになった展開をもう一度思い出して……世の中おいしい展開の後には何かしら悪い事が待ち受けて居るもんだと思ったものだ。
ともかく、間違いなく奴はあっちの世界では男である。
むしろそこの展開で、俺はその事実に対し念を押された気すらする。
ところが……。レッドは現実だと女なのだと―――。
女だって……?
プレイヤーが女だって……俺はそれをどこで気が付いたんだっけ?
確かにちょっと整った顔だよなぁとは思ったが、あれが女だとは全く気が付いていなかった俺。当然と現実で、だぞ?
どうして仮想世界で俺は、それに気が付いたんだ?今朧気に夢で見ていた事を必死に思い出そうとするんだが……記憶違いだろうか、結局それも見ていた夢で、俺の勘違いだろうか?
そもそも、それって話して良い事だっけ?
大体それに気付いてなかったの俺だけなのか?だとしたら今更聞くのも恥ずかしいよな?超絶に俺一人ずれてるよ。
「おはよーさん、他は……まだシャワーかいねー」
怪しいイントネーションの開発者の一人、佐々木リョウ姐さんの先輩だという伊藤サナエさんが現れて、朝食にいこかーと俺達を誘いに来た。
「他の、高松さんとかは?」
「メージンもさっき起きてぇな、今シャワー待ちしとるよ」
なぜか質問とは別の答えが戻ってくる。
と、そこにレッドがシャワーから上がってきた。
俺は、その顔をまじまじと見ていたのだろうか?俺から見られているのを察してこちらに顔を向けて少し笑い掛けられたのに慌てて視線を反らしてしまう。
「メージン、大丈夫なの?」
「問題あらへんよー、バックアップの方法をちょっと変えとっからねぇ。長期使用テストはこの前終わっとるから、今回はちょっと短かかったとでしょ?」
むぅ、そう言われれば?……いや、何も変わった事など感じないけどな。
「メモリーのサイズ見れば一目瞭然よー」
そう言って、伊藤さんはポケットからメモリスティックを取り出してそれぞれに渡して来た。
「ログの同期はとっといたでぇ、CCする部分は次ん時に許可おろしたってな」
鍵だ。
異世界に行く為のこれは大事な鍵なのだという認識を思い出す。
そう、これを無くすともう二度と、あの世界で戦士ヤトを演じる事が出来なくなる。
なら、このメモリスティックをどっかで無くしてしまったら……どうなるんだろうかという疑問がふとよぎった。
「俺はこういう、データをセーブして続きをロードするような家庭用ゲームは初めてやるんだが……もしこのメモリーをぶっ壊しちまったりしたらどうなるんだ?」
テリーが俺と同じ疑問を抱いていたようである。
確かに、テリーはRPGはやらんと明言しているよな。
しかしゲーセンでやる格闘ゲームに限らず、認証カードにICタグをつけてデータをセーブするって仕組み自体はかなり浸透しているからな。戦歴などを保存しておくためのカードなんかは使っているはずだが。
そのカードを紛失した場合の保証は基本的には無かった。しかし無くしたとか、盗まれて悪用されたとかいう事が起こるもんでな、メーカーで契約カードのプランによってはバックアップに応じている物もある。その分いくらか割高になるけど。
昔はネットワーク経由でデジタルな方法しかなかったが、最近デジタル機器のアナログバックアップも一応あったりするのだ。年に数回の頻度でデータ内容を特殊な機器でバックアップする。それを書類で保証され、カードを再発行する場合はこのバックアップ内容を保証されるというものだ。盗難された場合は即、過去のカードの状態が無効になる仕組みになっている。
最低でもそういうカードをテリーは使っているはずなので、データ破損についての危惧については気が回るんだろう。
しかしテリーの使用しているタイプのメモリーカードのバックアップ保障については、家庭で使うのではなく……ゲームセンターという特定の場で使うからこそ出来る話だ。
今開発されているゲームは家庭用、コンシューマーと呼ばれるゲーム機である。
バックアップするのに一々どこかに出向けという事はユーザーの負担だ……だからといってキーのやりとりを今まで通りのオンラインで行えばセキリュティの問題も浮き上がってくる。
大体、このゲームMFCは普遍的なワールドワイドウェブとは別回線だって言うしなぁ。
無くしたとか、盗まれたとか、壊したとか。そう言う問題はメーカーの方で起こりうると考えなきゃ行けない所だろう。
保証しないというのならそれまで、ではあるがな。
しかしフラッシュメモリーが媒体である以上、ちょっとした不具合でデータがクラッシュする場合がある。本当にそれを保証しないんだろうか?
「バックアップ機能は基本的に、MFC本体に内蔵されとるよ」
そう言って、伊藤さんはテストプレイルームを見下ろすバックアップシステム室に案内してくれるらしい、まだシャワー室から戻ってこないアインとマツナギを除いて俺達を二階へ続く広いとは言えない階段へと案内してくれた。
電気を付けると、部屋の印象ががらりと変わる。
暗闇の中、何かのLED灯だけがちらちら光っていた部屋の窓は一面ガラス張りで……例のプレイルームの頭上の部屋であることが分った。
「メージンはここで」
どこかで見た事のある、ディスプレイがいくつも並んだコンソールを見て俺は呟いた。
「全員は居てへんのよ、ほら。これもろたでしょ」
メージンが座っているのだろう、下のプレイルームにあるリクライリング式の椅子とよく似たものの背後に、大きなサーバーらしい物体があって……その目の前に見覚えのある白い箱が幾つも置いてあった。
試作品と渡された、MFC本体だ。電源線だけが本体から延びていて、あとは無線で飛ばしているみたいだな。
「ここに、俺らのメモリーを差してるんだな」
「そういう事やね」
「個人認識は……どこで行うのでしょう?下の椅子のどこに誰が座ったかを見て、対応したメモリーを差しているのですか?」
「ああ、要するに個人情報の漏洩とかいうのを気にしとんのね」
ようやく分ったというように伊藤さんは笑う。笑いながら、自分のこめかみを指で差した。
こめかみ、実はそこがこのゲームトビラの『扉』とも言えるんだ。
まだ改良中らしいがとりあえず今は眼鏡式のデバイス装置。それのフレームの所から脳とデータのやりとりをしていると云う。こめかみから、記憶を司る海馬という機関にアクセスして情報をやりとりするのだと説明されていたよな。
「メモリだけあっても成りすましは出来んよ、脳波で個人認証もしとるからねぇ」
「出来るんですか」
レッドが少し驚いている。
ふーむ、生体による個人認証システムはフツーに使われてるが主に声紋、網膜、静脈によるシステムが殆どだ……。脳波による個人認証は……ありそうなもんだが。無いのか?
「理論上は最もセキュリティの高いバイオメトリクスになるって言われとるね、けど諸刃の剣で実用化にはなっとらんのよ」
「どうしてだ?」
「失いやすいのでしょう」
レッドがテリーの疑問符に簡潔に答えた。その通りやと伊藤さんは苦笑する。
「失いやすいって?」
「要するに、盗まれやすいのです」
「どうやって脳波を盗むんだよ?」
「脳波を盗むのではありません、脳波に隠した情報というのは盤石に隠されているようで割と、そうではない。記憶というのは容易く薄れる、絶対に忘れないという保証がないから人は言葉を作り相手と情報を共有しようとし、文字を作って書き残すという手段を作った。しかし一方で情報の共有は耐えがたい欲求なのです。その中で個人情報というものを守るのは難しい問題なのですね」
よくわからんが、難しい問題だってのはよく分る。
数十年前、個人情報保護法案とかいうのが出来てだな、それに伴ってどれだけ『それ』が難しい事であるのかを次々と突き付けた暗黒時代があったと伝えられている。あ、リアルの話だぞこれ。暗黒云々ってのは要するに例え話なんだけど、まぁ改悪法というか、知識層が足りてなかったのか、とにかくIT事業が大混乱した世代があったのだ。
今だと、現代社会倫理科という割と新しい科目で学校で習う話であったりする。
情報を蓄積するのは良いとして、保護するってのが難関なのだそうだ。おかげでその保護するという仕組みが完成するのに後手に回って……その間漏洩だ保護法違反だとごちゃごちゃした時代があるのだ。
まぁとにかくだ。つまりレッドはこう言いたい訳だな。
脳波による個人認証は、個人と判断すべき情報を個人が失いやすく、相手に容易くスキミングされやすいために実用化には至っていない、と。
結局、多くの個人情報を扱う上で間にマシンを挟み込むとだな、人間的な感性ではなくマシンの言語に情報を書き換える必要がある。ゼロとイチの情報になってそれが認証キーになっている以上、それを脳に格納し、脳からそれをそのまま取り出す方法はセキリティとして弱い。そういう事だ。
脳が忘れやすいと云う事。脳波測定は容易く、本人が意識していないうちにスキミングされちまうという問題が有る訳だ。
なるほど、ともすりゃ脳波で個人を認証出来るとするならその技術は高度だ。
新ハードMFCはその、立ち塞がっている問題を突破したって事だよな。
「……トビラの中に作った仮想、それ自体がボクらを認証するとでも云うのでしょうか?」
レッドが思考した上で伊藤さんに伺うように口を開いた。
「いい線ついとるよ、MFCのソフトの内容にもよりけりだけれども、少なくともトビラの場合は仮想世界に作る分身の存在がゲームデータそのものやからね。そのデータのルーチンと個人情報である脳波……要するにルーチンやわ。それらが一致しなくちゃぁ『トビラ』は開かない。そんな所やね」
仮想世界に仮想アイコンを置く、だからこそ可能な脳波個人認証って事だな。
ルーチンっていうのは決まっている手口の事。コンピューター用語だと特定処理のために常に、決まった事をするプログラムの集合体の事を差す。
与えられた命令にどう反応するか、決まっている答えを返す。ルーチンの一致でそれが同じものであるか、そうではないのかという判断が可能だと云う事だ。
人間がコンピューターであれば、このルーチンによって容易く個人情報とやらをを保護できそうなもんだが……残念ながらそれは難しい。人は時にこの思考ルーチンを飛躍してコンピューターを困らせるのだ。
逆かもしれん、人間が常に定まった事しかしないコンピューターに腹を立てているのかもしれんな。
人間をルーチンとして分解するとなると……膨大な情報量になるだろう。曖昧に答えるだろう部分まで、つまりイチかゼロかというのに加えて『どちらでもない』という答えにまで気を配らないと行けない訳だからな。突きつめて二進法デフォルトのコンピューターには多大な負荷になっているだろう。
この点がルーチンによる個人認証を難しくしている第一関門とも言えるんだろうな。人間のソレは、あんまり煩雑過ぎて、情報が重すぎて、一般的に使用するには無理だーと。
しかし、その思考ルーチンを構築する事自体がゲームであるというトビラにおいては、ルーチンで個人を認識する事が可能って事訳だよ。
成る程なぁ、……って。ちょっと隣を見たらやっぱり阿部瑠、分ってない厳つい顔をしている。工学系はさっぱりなんだよなこいつ。
「つまり、どういうこった?」
ついでにテリーも弱そうである。だよな、リアル脳味噌まで筋肉で出来てそうだもん。
「メモリはキーを持ち運ぶ道具に過ぎない、と云う事でしょう。トビラをプレイするのに必要なのはMFCに保管されているキーと、プレイヤーが居れば良いのですよ」
俺はレッドがどうしてそういう比喩にしたか、理解できた。阿部瑠もテリーもイメージは掴んだみたいだな。
「高松さん達は……今回は?」
「先にお休みしとるわ、でな……」
再び階段を下りる頃、ようやくアイン達もシャワー室を出たのが通路の向こうに伺える。
「悪いんやけど、有給やから明日、時間作れへんかな?」
「明日も……出勤してくれって事?」
「時間無いんなら他の日でもかまわへんよ、チーフが直接話したいみたいで……」
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