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7章  白旗争奪戦   『神を穿つ宿命』

書の5後半 世界の裏側『おいでませ魔導都市』

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■書の5後半■ 世界の裏側 welcome to RAN!

 視野が動く。
 星空の空をバックに人影を描き出す。
 フォーカスが前に引いて、コントラストを調整。星は朧気に消えて換わりに影が誰なのかを明るく描き出す。
「新月か」
 この声はマツナギ。
「通りで、真っ暗な訳だ」
 こちらがアベル。
「綺麗な星空だね……リアルで久しく見ていないよ」
「ホントね、都会の空じゃ月さえまともに見えないし」
 う、俺と同じ事考えてやがるのな。
 ……ま、同じ様な所に住んでりゃそういう見解になるのもしかたねぇか。
「星座も同じなのね」
「みたいだね……まるで同じ世界にいるのではないかって、空だけ見ていると勘違いしそうになるよ」
「イシュタルや北東部だと見える星が殆どニホンと同じなのよ。あたし……よく夜にこうやって空を見上げていたなぁ」
「……アベルとして、かい」
 場所はどうやらレブナントラボのテラスのようだ。
 研究資料の置かれた部屋とは別の、続いている建物の二階に並んでいる個室と繋がってる。俺が寝ている部屋の窓からも出れるぞ。
 と云う事は、割と俺が寝てるすぐ側での会話なんだな。
「現実のアタシはあんまり、空が綺麗だなんて言って見上げるような奴じゃないもの」
「そうかい?」
「マツナギはどう?」
「……多分、周りを見る事すら出来てない気がするよ。生活するのにやっとなんだと思う。自分の事で精一杯で……視野が狭いんだ」
「あたしも、不思議とこっちでそんな風に自分の事呆れるの。ヤトなんかと違ってあたしは、割とリアル自分を忠実に再現して仮想現実で振る舞ってたつもりなのにな」
「ギャップは出るよね、あたしなんか子持ちだよ?」
「よねぇ、変な感じ。こんな変な気持ちになるなら変な種族選ぶんじゃなかった」
「やっぱりイシュターラーも外見の割に……か」
「そうなの、困ったもんだわ」
 多分……外見の割に歳食ってる、だな。
 女性に年齢を尋ねるのは失礼でしょ?という決まり文句がこの世界では妙にリアルである。
 種族ごとに適齢期が違うとはいえ、やっぱ人間の感覚だと数百歳とか言われると引くもんな。

 俺は人間だから60年生きれたら大往生だ。対しマツナギは長寿の代名詞の貴族種だから平均寿命5世紀前後。アベルはイシュターラー(遠東方人)だから人間の倍は生きると云う。
 俺はこっちだと現在、24歳推定である。というか悪い、自分の年齢をよく把握してないから1、2歳間違っている可能性がある。まぁ色々あるのだ、色々。
 とにかく……俺が24歳でアベルと同年代に見えるとするなら、彼女の歳はは四十代後半であったりするのだな。イシュターラーが人間より長生きで一世紀生きるとはいえ……二倍というのは中途半端だよなぁ。名乗るのに抵抗があるのはよく分かる。
「あたしは……こうやって空を見上げたのがごく最近なんだ。貴族種としての感覚でごく最近だから……実際には数年前なんだけどね」
「ずっと地下大地にいたのね……」
 アベルはテラスの手すりに背中を預けて夜空を見上げるように体を反らす。
「いい人がいて、子供も出来て。それなりに順風だったの?それとも……やっぱり家に縛られてそうじゃなかったの?」
「何とも言えないよ。……辛い事でも思い出させたのかな」
「……あたしの気持ちを押しつけてもしょうがないっていうのは分かってる、だけど……ねぇ」
 アベルは顔を戻してマツナギを振り返った。
 鋭い視線、誰にも負けないという……強い視線をマツナギに向けて投げている。
「貴方だってそうやって気持ちを押しつけているんじゃぁないの?」
「……だろうね」
 マツナギはアベルからの視線から逃げるように手すりに両手を組んで……斜面崖に立っているラボのテラスから目の前に広がる広い星空に視線を投げた。
 遠い目をしている。それを相変わらずアベルは睨むように見ている。

 ホントだ。納得してないなぁこりゃ。
 分かっているんだとは思う。思うけど……こいつは結局マツナギの事情に納得してねぇって事か。

 俺はその様子を見ながらため息を漏らした。
 座り込んで見ている他人の記録。
 ああ、俺このログ、コモンコピーの許可を貰えないかもしれない。他人のログは許可を貰わないとリコレクト出来ないのだ。許可さえ下りればここで見た事を思い出せるんだけどな。
 ……とりあえず、アベルは許可しないだろうな。
 ああでも、マツナギが許可出せるのか?俺は奇妙な感覚に斜め上を見上げてしまう。
 アベルが後ろ暗いと思っている事、それをマツナギが察しなければ気安く俺に、アベルと話した内容を言う可能性はある。

「自分が今どういう状況なのか、それくらい相談すべきじゃないのかしら?きっと……相手もそれを望んでいると思うわ」
「……うん。でも……その後が怖いんだ。繰り返すけれど」
「思い通りにならない事が?」
 容赦ないなぁアベル。
 正直怖いぞ、マツナギの横顔が辛そうなの、見えてるだろうにどうしてお前はいつもそうなのだ。
「アベル、人は思い通りにはならないよ」
 マツナギはゆっくりと言った。
「他人の事は当然と、時に自分の事でさえ」
 アベルは目を閉じた。ふぅと小さくため息を漏らし……ようやく顔をそらす。
「そうね……そうかも」
 目を細めて床を見つめている。
「あたしはさ、バカだから。あんまり先の事まで頭が回らないのよね正直。だから大抵結果が出てから後悔するの。後悔してから気が付くの……そういう人生を歩んできているんだってリコレクトする」
「アタシが背負う何かで、思い出す事でもあったのかい?」
 マツナギの振りは暗に、何かあるなら話してごらんよというのが隠されているのが俺にも分かる。俺に分かるならアベルにだって分かっているだろ。
 話すのだろうかと思ったけれど……アベルは笑って首を横に振った。
「ごめん、マツナギがそれで後悔していならいいの。あたしは……何だかんだ言ってどこかしら未練があるのかなと思っていたから」
「未練は……あるさ」
「でも会えないという気持ちと、怖いという気持ちがそれに勝る?」
 マツナギはその通りだと苦笑する。
「どうも考え方がルーズでね、長生きなのが悪いのかな」
 それって、短期決戦に焦るアベルには耳が痛いような。
「……あたしね、昔この町に好きな人を追っかけて来た事があるんだ」
 お。
 語らないのかと思ったけど……。
 アベルめ、……どうやら腹くくったみたいだ。

 俺達、テリーと俺とアベル。
 俺らが魔導都市を訪れるきっかけを……アベルは静かにマツナギに語った。

 家庭教師だった魔導師を追いかけてやってきた事。
 追いかけたいとずっと、想っていたにも関わらずそれを実行に移すまでに10年費やしちまった事。
 10年、それで……人間だった元家庭教師の魔導師が置かれていた環境が変化していた事。

 間に合わなかった事。

 アベル、きっとそいつの墓にはもう参って来ただろう。
 道案内に俺じゃなくてテリーを引っ張って行ったのは……何でだろうな。まぁいいけど。

「不吉な事は言いたくない。だけど……離れていたら何が起こっているのか分からないのよ?」
「アベル……」
「あたしは、誰かが後悔して泣いているのを見たくない。それで……自分の事を思い出すから」


 場面が移り変わる。
 俺は、それをぼうっと見ていた。
 アベルが去って……マツナギが取り残されたテラスの画面を見ていた。

「メージン、終わったみたいだから俺そろそろ真面目に寝るわ」
 立ち上がって見た所……。
 そういや、エントランスに俺しかいねぇって事にはたと気が付いた。
 トビラに流れている時間は同じだ。夜のなのに、エントランスにいるのが俺だけって事は他の連中は起きているかそれともセーブをスキップしたか、だ。
「……他はまだ起きているんだ」
「みたいですね、宵の口ですよ。テリーさんはアインさんとレッドさんに対し、やはりここでの出来事を説明しているようですよ。一応アベルさんには内緒で……と言う事で。ついでにヤトさんの事も色々相談しているみたいですね」
 俺は腰に手を当てた。
「俺が寝てる間に、連中は……」
「それ言ったらヤトさんだって、アインさんと一緒にマツナギさんと話したりとか色々しているでしょう?」
 む、確かにそうだ。

 この世界はゲームだ。だから……つい主観が自分になる。
 俺が中心だと錯覚するんだな、RPGゲームだと間違いなくプレイヤーである俺の視点が主観として置かれている。俯瞰図の場合もあるけれど。

「ナッツは?」
 するとメージンは笑いながら俺の目の前に開きっぱなしの窓を指さした。


 マツナギが一人テラスに立っている。と、彼女は振り返って視界がそちらにぐるりと回る。
 部屋の窓がいくつか並んでいる、そのうちの一つが開いてナッツが窓際のカーテンの隙間から覗いている。
「聞いてたのかい?」
「人聞きが悪いなぁ、聞こえてたんだよ」
 マツナギがため息を漏らしてその部屋に近づいていく。

 おお、またこれか。部屋の奥で俺が寝てるよ。

「ヤトは?」
「まだ完治してないよ、中途半端な状態で目を覚ますと辛いだろうし、眠らせてる」
「そんなに酷い毒だったのかい?」
「難儀な奴だよ」

 全くだ俺。どうしていつもこういうハメになるのか、俺も疑問だ。

「やっぱり、彼がレブナントだったけど……どうするんだいマツナギ」
 ナッツがちょっと真面目な顔でマツナギに訊ねた。
 ん?そりゃぁどう言う意味だ?レッドが魔導師として『レブナント』という名前だった事は……ナッツも知らなかったようだったが……その可能性には気が付いていたのか?
 惚けているがこの野郎、結構いろいろ事情を理解してやがるのな。流石は第二軍師、ぼんやりしてそうでその実色々と考えてやがる。
「……ヤトを見ていたらね……ちょっと、躊躇してしまったみたいだよ」
 マツナギはなんだか他人ごとの様に呟いた。いや、他人ごとなのかもしれない。マツモトーナギが、マツナギの気持ちを観客的に言ったのかも。
「あたしの望みは……叶えるべきなのかなって。……もう少し経過をみたいんだ。気持ちを整理したい」
「そうか、それがいいと思うよ」
 ナッツは笑った。笑いながら背中の翼を少しいじりながら続ける。
「ねぇマツナギ。ヤトが起きたらCCの許可を下ろしてやってよ」
 俺が今こうやって見てる事、ナッツは了承してんのな。逆にマツナギは不思議そうに目を瞬かせている。
「どうして分かるんだい?……彼はあまりエントランスに来ないのに」
「僕が見とけって言ったんだよ」
「……どうして、」
「君の事心配してただろ?……こいつは」
 そう言って寝ている俺を見るナッツ。
「アベルに似ていろいろと、自分を棚上げして他人の心配ばかりする。納得させてあげたらどうだろう」
 マツナギは笑ってナッツの隣に立った。
「自分を棚上げか、お前だって人の事が言えるのかい?」
「僕はいいんだ、人の世話焼くのが職業なんだしね。そういう役どころを選んで彼らの仲間になった、最初から狙った通りだよ」
「……それが損だって、ヤトもさんざん言っていると思うけど」
 ナッツは苦笑した。
「そうだね、僕もこいつに負けず劣らずの自虐キャラだ。でもその自覚はある、少なくともアベルや君のように背景の重さに面食らったりはしていない。隠す事も、隠れる事も得意だ」
 腕を組み、ナッツは不思議とこちらを見る。
 俺を見ている訳ではないのだろうがたまたま、遠く眺めた視線がカメラ目線のように俺を見ていた。
「大体、相手から心配されないって事は不安を悟られていないって事だ。そう思わないか?」
「そういう強がりが損をするんだと思うよ」
「……そうだな、でも仕方がない。それが僕のキャラクターだから」

 ああ、ここは間違いなく俺の記録に降りてこないな。
 意味は全く分からないが、どうやらマツナギが隠しているもう一つの事情が盛り込まれている。
 ナッツも、マツナギもここの展開はログCC許可をしないだろう。ナッツの奴、そのためにマツナギの裏事情を話しに盛り込みやがったな、抜け目のねぇ奴。

 ログCC許可が落ちない、余計な場面を見てしまったと思う。

 ナッツの過去。
 等しく、重いであろう……奴の背負う物語。
 興味はあるけど俺は多分、奴が語り始めない限りそれには気が付かないだろう。
 ある意味レッドよりも巧妙に……きっとナッツは全てを騙すんだろうな。

 リアルでの付き合いも長い分俺は、親友について正直そう思う。



 俺が目を覚ましたのは……昼だった。
「あれ……ん?」
「おはようヤト」
 窓の外を眺めていたのはマツナギだ。俺の寝ぼけ頭がスキップした色々な展開を思い出す。
 唐突だが、マツナギからログCC許可が下りたっぽい。
 彼女が昨日の夜、アベルと話した内容を俺はリコレクトしている。それを脳裏で確認し状況を整理しながら頭を掻いた。
「……すっげぇ熟睡しちまった」
「それだけ盛られた毒が強烈だったんだろうね、安心していいよ。ナッツに代わってあたしが見張りに立っていたから。サトーは近づけてない」
「そりゃ助かる、けど悪いな……俺が悪いんじゃねぇけど」
 サトーの野郎が一番に悪い。

 あの野郎、なんで俺の研究とやらをしたいかっていうと、ようするに魔法を扱う技量の無さを裏技でなんとかしようとしているらしい。
 魔力が桁外れだという俺の血ぃ吸って、能力のおこぼれに預かろうって魂胆らしいからな。そんな事が出来るのかと言うと、精吸鬼の理論的には可能だとか……レオパードというサトーの直属師匠の魔導師が言っていた。

 精吸鬼が実際に相手から能力を奪うには、その相手を殺す勢いで挑む必要があると言うぞ。だから、俺から魔力の素質を奪いたいのならサトーは俺の血を吸い尽くさないといけないのだな。
 血の数滴で先天能力が相手に渡るなら、能力ドーピングはもっと罷り通ってるだろう。
 勿論、サトーの性格上最初はそういう流れであったらしい。
 恐ろしい、レオパードがこともなくさらりと言っていたのを思い出して腹が痛くなってきた。
 でもそれじゃぁ『もったいない』から、血を元に魔力増幅する魔導を開発したらどうだろう?的なレオパードからのアドバイスをあのバカ弟子、真に受けやがったのだ。

 そもそも『もったいない』って何だ?

 俺を消費品扱いにすんのは止せっつーの。割とレオパードはいい人だが、やっぱりその師匠がアレだもんな。騙されねぇぞ。 
「ナッツは?まさか俺を寝ずの番で見張ってた訳じゃぁないよな?」
「まさか、サトーが入れないようにアラーム魔法でも張ってたみたいだよ?魔法行使の残滓が残っている」
 マツナギはそう言って部屋の隅あちこちを指さした。彼女は精霊干渉能力を持つ都合、魔法の歪みが視覚的に見えるらしいからな。
「これからレッドに埋めた石、取り出す手術をやってるよ」 
「何?」

 レッドの体に埋め込んだ、ナーイアストから預かったデバイスツールの欠片。
 半分は俺の体の中。半分は、レッドの中にある。
 それは任意で埋め込まれているんだ、赤旗に犯されているアーティフィカル・ゴーストを沈静化させる為にな。完全な沈静化は出来てない様だ、あいつは、痛みがある事を隠し切らなかった。
 痛み消しの魔法で誤魔化してここまで来たんだと、あいつは……まぁ、割かし素直にそう言っていたな。
 レッドの状態は改善するはずだ。アーティフィカル・ゴーストは魔王八逆星から派生するレッドフラグよりは権限が低いはずである、レッドが強引に構築した偽物の『バグ』だからな。
 素直に現状を認めたアイツが、そこで嘘を付くとは思わない。
 辛いはずだ、痛みを押さえているのは……痛いという事は体に負担を掛けているという事だろう。あいつは、今の所自分の『死』を選べない所に立っているはずだ。とりあえずそういう方向性は回避させていると俺は、信じている。生きるなら、苦しいままなのはしんどいに決まっている。その苦しみは甘んじて受けなければならないものだとレッド自身が認知していたとしても。
 自分で構築した魔法を解除できないなんて、間抜けな事は無いだろう。

「治すんだな、オレイアデントから貰ったツールで」
「ああ、……自分を先に治す事をヤトに謝って置いてくれとか言われたけ……」
「ばーか」
 マツナギの言葉の途中で俺は笑いがながらレッドに向けて言った。
「当たり前だ、アイツが先に決まっている。前振りしておいてそんな事断るんじゃねぇよ、ばぁか」
 俺に痛みがある事を暴露したのは、つまりそういう意味だろ?治す事が確実に出来ると言ったのはつまり、そういう事だろうが。
「……あたしはそれ、レッドに言わないからね。自分で言うんだよ?」
「ああ?もちろんだ。無事に除去した暁には罵ってやる」


 痺れはちゃんと消えている。
 レッドの手術の結果待ちの皆さん、すなわち魔法技術には無縁のテリー、アベル、アインがラボ一階でお待ちかねだ。俺もそれに混じって……レッドの無事復活を待つとしよう。

 不思議とサトーが居ないと思ったら、昼過ぎ頃に留守だったレオパードを連れて戻ってきた。
 レオパードだけじゃない、他の見知らぬ魔導師も一緒だ。

「あ、ヤトさん。復活しやがりましたね」
「よくもきっつい毒盛りやがったな……おい、レオパード!慰謝料請求すんぞ?」
「甘いなヤト。この町では弱肉強食ルールが罷り通るのだ。毒を回避出来ない弱者たる君の意見など私は聞かん」
「この野郎……師弟そろって最悪な奴らだッ!」
 白髪長髪、目は金色。耳が獣のこの長身の男がレオパード。
 レオパードだなんてネコ科の名前にもかかわらず、こいつは俗に言うウェアウルフ……獣鬼種の狼男だ。
 とはいえ俗に満月の夜に凶暴化するわけじゃぁない。鬼と名の付く種族の通り、獣寄りした人間派生魔種の一種である。獣鬼種の起源も貴族種と同じく集団だそうだ。どちらかと言えばイヌ科の特徴を持っているのが獣鬼の特徴で……そうだな、俗にいえばコボルトと表現すりゃイメージ湧くかな?
 レオパードはその俗なコボルトよりもよっぽどの美形キャラだが。
 レオパードは俺達を見回してから背後に立っている、……薄い色のマントを羽織る人に目配せをしてから言った。
「挨拶もしたい所だが、すまない。後でよいでしょうか」
 と、俺達に向けて言った様だ。
「分かってる、お前の師匠の事情だろ、さっさと行け」
 テリーが二階を首で示した。レオパードは小さく首を倒してすまないと呟いた。
「本当にレブナントの奴は戻って来ているのか」
「よっぽどの事情と言う事でしょう」
 俺達への紹介を後回しにして、レオパードと見慣れない魔導師は階段に足を掛けながら小さな声で会話している。二階のラボへ上がるレオパードの後を続く、薄い水色のマントの魔導師と、レオパードと同じく黒魔導マントを頭からすっぽり覆う……ん、女性かもしれん。
 それらを俺達は、視線だけで見送った。
「助っ人って事か」
 俺の問いにサトーは頷く。
「はい、高位から言いつかったら何より優先させないと行けませんから……ああ、起きてしまったんですね。3日は持続するというとびきりの痺れ薬だったのに……」
 げげ、まじかよ。
「いい加減お前、諦めて別の方法を地道に苦労したらどうなんだ」
「努力してますよぅ、酷い言い方です。大体僕に限らず師位だって密かにヤトさんの事、実験体として欲しいと思ってますよ?」
「知ってるよそんくらい」
 だから俺、レッドの誘い文句に乗ってさっさとこの街出たんだからな。この町にいると身の危険を感じまくりだったのだ。

 俺は椅子の上で丸くなって寝ているチビドラゴンをびしりと指さした。
「見ろサトー、こいつは喋るドラゴンだ!」
「ええ、みたいですね」
「珍しかろう?」
「……珍しいですねぇ」
「コイツで我慢したらどうだ?」
「珍しいですけど、魔法素質は高くはなさそうです。高く売れそうだからくれるっていうなら貰いますぅ」
 途端俺の頭に鋭い一撃。
「勝手にあたしの体を売らないでよッ!」
 チビドラゴン、目を覚ましてしまったようである。
「昔助けてやったんだから恩返しに俺を助けろよ」
 亀も鶴も縁起がいい霊獣で恩返しするんだぞ?竜はリアルだと東洋で神秘の霊獣だろうが。……西欧だと悪魔だけどな。
「何よ、偶然たまたまだったんでしょ?あたしがそれを知らないとでも思ってるの?」
 俺は無言でテリーを振り返る。目をそらしやがった。
 馬鹿野郎、事情説明しちまったのかよ。
「とにかくお前……」
「ヤト」
 突然、上から呼ばれて俺はそちらを振り返った。
 レオパードだ、無言で来いと指で示している。

 じゃれ合っているよりかはいい、何より……レオパードの奴顔がまじめだ。
 師匠がアレなだけあって割と酷い事も言うけど……レオパードはサトーなんかよりよっぽど根はまじめである。流石は犬系。
 俺は無言で階段を登った。

「何だ?」
「力を貸せ」
「……分かっているだろうが俺は、魔法は使えないぞ」
「勿論分かっている、お前に魔法を行使しろとは言わん。潜在魔力を貸せ」
 ふん、そんな事だろうと思ったけどな。
 しかし出来るもんなのか?そう思いつつ……魔王相手に魔法壁魔法を継続維持させることが出来た訳だから……ま、同じような事させられるんだろうなと、俺は残りの階段を駆け上がって二階へ急いだ。
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