異世界創造NOSYUYO トビラ

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7章  白旗争奪戦   『神を穿つ宿命』

書の2前半  見失った朝『ダブルフェイスの秘密』

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■書の2前半■ 見失った朝 No, Day breaks

 地下大地に入る前に出来れば、マツナギの事情は把握したい俺である。
 心配なんだ。
 大丈夫だよ、なんてダイジョブじゃないのに言われたらそりゃ、逆に心配になるってもんだろ?

 所が宿は大部屋だから個室密談、と言う訳にはいかない。せめて男部屋と女部屋に分かれていればよかったのに。
 とにかく……マツナギに知られないところで話せればいい。俺一人で悩んでたって仕方が無いんだからテリーやレッドに意見を求めてもそれまでだ。
 それにナッツなら、多分俺達が出会う前のマツナギの事も知っているだろう。

 奴らが戻ってきたらセーブ……こっちの世界での睡眠な……に入る前にナッツを外に連れ出して聞き出すか。


 そんな事を画策していた俺であったが……戻ってきたナッツおよびレッド達の形相が尋常じゃないのを見てどうやら、計画倒れを察する。

 あぁあ、何かすでに別のタイヘンな事態が起きている気配。


 先に帰って来たのはナッツだった。珍しく気難しそうに顔を顰めて戻ってきたので俺は、嫌な予感がして怪訝な顔で出迎えていた。
「どうしたんだ?……深刻そうな顔で」
「何かあったの?」
 アベルも気づく位、ポーカーフェイスのナッツさんが隠さず渋い顔をしているのも、珍しい事だよな?
「ああ、非常に『行き辛い状況』になってるね」
「生き辛いって、地下にか?」
「……地下大地は今トラブルに見舞われている。かなり大騒ぎになっているからレッドも僕と同じ顔をして戻ってくるかも」

 はたして、ナッツの言う通り。

 しばらくしてレッドとマツナギが同じような深刻な顔をして戻ってきた。
 一人いつも通りであるのはテリー。船を下りたので反動的に絶好調に機嫌が良いままのテリーに向けて俺は聞いてみる。
「何があったんだ?」
「さぁな、マシントラブルだってレッドは言ってるが」
 マシントラブル?
 一瞬このゲームの、MFCのトラブルかと思って身構えた俺である。
「ナッツさんが詳しい情報を持って来てくださるだろうと思って、特に詮索はせずに来ましたが……。ウチのトラブルで間違い無いですよね?」
 レッドがウチって、ああ。魔導師って事か?魔導師は協会で定められている大型組織みたいなもんだからな。

 俺の最低限知識で解説しておくか。
 魔法使いおよび魔術師と、魔導師というのは意味がちょっと違う。魔法を行使する者をひっくるめて魔法使いと呼べるんだがその下に、魔法を行使する事に重きをおいた職と、魔法を管理・研究する事に重きをおいた職で肩書きが分かれるのだ。
 魔導師というのは特にその中で限定的な名称なんである。
 おかげで魔導師と名乗るだけでソイツが、どういう種類の人間なのかも分かる位。

「じゃぁ荷物を置いて、全員そろった事だし……作戦会議の前に拾ってきた情報をすり合わせよう」
 ナッツは何故か深い溜め息をもらしている。アベルが心配そうに小首を傾げる。
「まさか、シェイディ国にも八逆星が侵攻しているとかじゃないわよね?」
「流石にそこまでは分からないな、」
「可能性はあるってのか?」
「というかね、今起こっている事態がシェイディ政府の方で解決出来ていないんだよ。何が原因なのかまだ未確定だから僕は、何とも言えない」
「魔鎮トラブルではないのですか」
「マシントラブルって、何だよそのマシンってのは」
 俺のツッコミに対しマツナギが何故か、気だるそうな表情で溜め息を漏らしながら言った。
「朝が来ないんだそうだ」
「んあ?」
「地下大地、当然地下にあれば太陽の光なんか届かないだろう?だから人工陽みたいな仕組みがあって、地下大地の管理と一緒になっているんだけど……どうもそれが壊れたとかで。朝が来ないんだ。ここ一週間真っ暗で困り果てているという訳さ」



 例え地下大地の朝が失われていようとも、俺達は地下の、大陸座の元へ行かなければならない訳でして。
 とりあえず明日突然復旧する、という可能性も無い訳じゃない。今必死に管理専属魔導師が復旧作業中だという話だからな。
 この件、なぜかレッドが楽観しててナッツが重く見てるんだ。珍しく軍師連中の意見が相違している。

 とりあえず楽観的に捕らえて……というよりそれは、真っ暗でも問題無いという意味か?レッドは明日からの行動について予定通り打ち合わせをしましょう、と切り出してくる。
 ナッツは何か言いたそうだったがな、こう云う時前に出ないで後ろに下がるのがコイツの悪い癖だ。

 レッドは新しく入手した地下大地……ノースグランドと言うらしい……の最新地図を広げた。
「別に立ち入り禁止になってる訳じゃねぇんだろ?」
「はぁ、まぁそれは……問題無いんだけどね」
 ナッツは頬を掻いて何故かレッドを窺っている。
 しかたねぇなぁ。俺がレッドに訴えてやるよ。
「ぶっちゃけ俺ら、急ぐ道中だけど……お前が問題なく先を進めるって事は、真っ暗でも大陸座には会えるって事なんだよな?」
 話の途中からマツナギに振ってしまった。
 具体的にシェイディ国にいる大陸座……オレイアデントが何処にいて、どんなんなのか何も分からんのだ、恐らくマツナギ以外、誰も。
「ナギちゃんも会った事があるの?」
 アインが聞いた。も、と聞いたのは実はアイン、大陸座イーフリートと顔見知りなのだと云う。
「いや……私は会った事は無い。ただ居場所を知っているだけだ」
 マツナギは静かにそう答えた。
「そこへの案内は真っ暗で問題無い、と」
「……ああ」
 マツナギはふいと顔を上げた。なぜか関心気味にレッドに視線を向ける。
「逆に都合がいいと思っているのかい?」
「いやいや」
 レッドは例の黒い笑みを浮かべながら眼鏡のブリッジを押し上げ、表情を僅かに隠しながら言った。
「はっきり申し上げますと、真っ暗で都合がいいのは僕ですね」
「はぁ?」
「少しだけ先にマツナギさんにお話を窺った所、大陸座オレイアデントの座するは一般的に存在の隠された……暗黒神殿という場所なのだそうです。古くから暗黒神を祭る祠として内密にされていたとか」
「暗黒神~?」
 響きからしてそれ、胡散臭い通り越してヤバくねぇか?なんかすっげぇ邪悪っぽくないか?
 そんな俺の思いはやっぱり顔に出ているのか。レッドは可笑しそうに笑いながら言った。
「ええ、そうです。どちらかというと邪悪な神だそうですよ」
「マジかよ」
「当然、僕はその話は始めて聞くな。宣教師をやってるから各種宗教には詳しいはずだけどな……リコレクト出来ない」
 ナッツは何か思い出そうとするように眉を顰めて天井を見上げている。
「それくらいマイナーなのですよ。内神なのです、暗黒貴族種一族のね」
「つまり、マツナギの一族の」
「更に一部の、だよ」
 マツナギは苦笑気味に言った。
「とすると、暗闇に紛れてその暗黒神殿に忍び込む……という手段は通用しません。何しろ暗視能力をはじめから持っている暗黒貴族種が相手ですから。暗闇である事はあまりメリットは無いのですよ」
 なる程確かに。基礎知識をリコレクトしてきたぞ?

 ノースグランドというので引っ張ってきた。
 そもそも、大昔ノースグランドは地下じゃなくてちゃんと、地上にあったそうだ。
 しかし何やら良く分からないが天変地異とか何かで……地下に埋ってしまったらしい。……俺の知識ではこの辺りの詳しい説明は無理だからあんまツッコミすんなよ。
 しかしノースグランドでもう一つ引っ張って来れる俺の知識ではだな、そこは地上にあった時から陽の光の届かない不毛の大地だった……というのをリコレクトする訳だよ。
 かなり大昔の話らしいが北方大陸、つまり横文字にしてノースグランドはそういう時代があったんだそうだ。そういう不毛の北の大地の事をノースグランドと呼んで、古代語ながら一般的な地名として定着したのだろう。

 と言う事は?どういう事かわかるか?

 ノースグランドに元から住んでる連中は基本的に、太陽なんぞ無くても生きていけるって事だ。
 暗闇に特化してる種族が多い。
 暗黒貴族種、森貴族種、地下族種、精吸鬼種に夢魔鬼種。シェイディ国でメジャーな人種はことごとく夜属性だぜ。

「じゃぁなんで、朝が来ないのが困るんだ?」
「ノースグランドに朝が来るようになり、そうやって過ぎた年月が多いからです」
「……何?」
 レッドはふぅとため息を漏らして知能レベルの低い人間に向けてもう少し、かみ砕いてくれた。
「だから、魔種というのは人間に比べて環境への適応能力がとても高いのです。朝が来るようになった所に住んでいれば朝が来る事に慣れる。そう言う事ですよ。それに今は夜型だけが暮らしている訳ではありませんからね」
「……要するに、一時的な混乱が起きてるって事ね?」
 アベルの言葉にその通りだとレッドは頷いた。
「暗闇である事よりも、混乱に乗じるという事の方が大きいです」
「でもさ、あたしはいいけど……暗視を持ってないコイツらはどうするの?」
 アベルからコイツらと指差された俺とレッドは頭を掻く。
「フレイムトライブも暗視持ちは稀です、祖とする片方は貴族種なのですから暗視を持ち合わせる可能性はあるのですがね」
「つまり、お前も暗視はもってねぇって事か」
 僕は目に関する能力が最低限しかありませんから、と言ってレッドは眼鏡を人差し指で押し上げて見せる。
「その替わり魔法でなんとかしますけど」
「それだ、その魔法を俺らにも掛けろ」
 テリーから指摘されてレッドは……ちょっと考えるように腕を組む。
「勿論そのつもりですけれど、さて……どのように掛けようかと悩んでいる所なのです」
「何でよ?」
 テリーが怪訝に目を瞬くと、レッドは自分の眼鏡フレームを軽く弾いた。
「魔法というのはね、働いているとそれだけで存在が目立つのです。隠密行動を必要とした時、魔法が動いていると容易に魔法探知に引っかかってしまいます。ただでさえ地下は暗闇です、みなそれぞれに暗闇を見通す術を利用しているでしょう。地下大地は全て管理されている所でもない。暗闇特化しているモンスターなどもいます」
 ふむ、魔法探知で襲いかかってくるような奴もいるってか。
「何が言いたい」
「ともすれば……魔法が動いている事を隠して付加する、という少し高度な技が必要です。基本的には魔法を物質にエンチャットして、その上から魔法隠しのコーティングを施します」
「……だから?」
 まわりくどい言い方に俺もイライラだ。
「眼鏡、に。エンチャットしましょうか。それが一番自然かな……と。実際シェイディで売られている暗視グッズはみんな眼鏡なんですよね」
「はぁッ!?」

 つまり何ですか。

 貴様は俺らに眼鏡を掛けろ……と?

「他に方法はねぇのかよ」
「商品化されているすなわち、それだけ魔法付加に適している媒体という意味です。思い当たるならそちらでお考えください」
 ぐぐぅ、そう言われると考える事に全く向いていない、脳の中身まで筋肉と言われて馬鹿にされていそうな俺とテリーはお手上げだ。



 昨日の会議で今日の午後から早速、地下大地ノースグランドにいく事に決まった訳であるが……。
 何で朝から出掛けないかって言うと、昨日の流れで俺とテリーが暗視魔法を使う為に、その媒体の眼鏡を掛けなきゃいけない、という事態の準備に使うのな。
 つまり、眼鏡フレーム探して現在ミストルーンディの町をフラフラしている。

「すげぇ~流石シェイディ国。業物が揃ってんなぁ」
「ああ、俺も武器ストック増やすかな」
 テリーが俗に言う『鉄の爪』的な武器を手に取りしげしげ眺めている。
 テリーは拳闘士だから武器っていうと、ナックルだけだ。安上がりでいいよなぁ。
「多数と戦うとなると打撃だけだとどうも弱い」
「……とっくの昔に分かってる事だと思ってたけど」
「分かっていても拳一つ、というのが俺の戦いの美学だ」
 よく分かんねぇよそんなの。
 そう言いつつ俺は剣を見ている。何しろ未だに鞘だけなんだよ。槍だけでも問題は無いが一応剣も欲しい。掘り出し物は無いだろうかととっかえひっかえ刃と銘を確認中。
 ちなみに剣つーのは鞘とセット売りが多い。これは勿論通常管理に困るからだな。
 逆に抜き身で管理できる剣というのもある事にはある。……叩き割る、あるいは潰す事に特化していて切れ味的なスキルを捨てたタイプの安い剣だ。その分デカかったり重かったり無駄に頑丈だったりする。
 勿論俺はそういう剣でも問題はない。基本的にどんな武器でも扱う自負がある俺だ。だから、剣の鞘だけあってもどうしようもないのだが……中に入っていた剣に見合って鞘も、それなりの業物だからなんとなく俺、今だに手放せないでいる。この鞘に合わせて剣を作ってもらうとなると半日じゃぁ無理だし……。
 いずれちゃんとした武具屋に引き取ってもらおうと思っているのだ。
 だから鞘だけ、今だに俺は腰にぶら下げていたり。ヘタな所に売り払うつもりはない。そんくらい愛着があると思ってもらいたい。
「ここにいましたか」
 呆れた声はレッドだ。
「おお、悪い」
「午後まで探さないといけないのに、どうして寄り道するんです」
「何だっていいからテメェで勝手にフレーム買ってこいよ」
「そうだそうだ」
 眼鏡なんか選ぶよりこっち見てた方が楽しいもんな。
「そういや、眼鏡って高級品らしいよな」
 レッドの今掛けてる眼鏡、ヘルトで買った時思っていたよりも高かったもんな。
「やっぱここでも高い買い物か?」
「まぁそれなりに。最初から魔法付加されているものを買うととんでもない額になりますね。シェイディ国の物価が高め、というのもありますけれど。しかし流石は鉱物細工の聖地です。二、三軒良い店を見つけました」
「そうだ、ついでだからちゃんとしたのに替えろよ」
 俺はレッドのフレームだけの眼鏡を指して言った。
「デザインが気に入らないなら別の奴でも……」
「いいえ、嫌いじゃぁありませんよ」
「……あ、そう」
 レッドが掛けているその眼鏡フレーム、実は俺がプレゼントした奴なんだよな。西のヘルトで買ったものなんだが。ちょっとした……何だろうな?気の迷いか?
 気に入らないので別のにします、とか言ってくれた方がこの場合、俺的にはスッキリするんだが……色々と。
「気ぃ使わなくても」
「いえ、ちゃんと本心です。大事にしますから」
「……それって新手の嫌がらせか?」
 そんな俺とレッドの裏のあるやりとりがテリーには怪訝に見えたんだろう。
「お前らは何を言い合ってるんだ?」
「ああいやな、こいつの眼鏡伊達だろ?視力弱いらしいからレンズ入れろよと」
「……ああ?」
 ナチュラルに誤魔化したつもりだが、テリーは興味がなさそうに話の前後に疑問を抱きつつ多分、流したな。
 が、めげずに俺はレッドの眼鏡フレームを指さしたまま続ける。
「これはヘルトで買った……安もんだ。シェイディブランドに比べたらちゃちいだろうし……」
「そんな事はありません、折角頂いたものなんですから。懐も暖かい事ですしこれに合わせてレンズ調整もしてもらおうかと思っています。でもちょっと時間がかかるんですが……」
「ああ、いい。やってこい」
 俺は手で払ってレッドを追っぱらおうとぞんざいに言った。
 剣定めに俺は必死だ、邪魔すんじゃねぇ。
「自分が掛ける眼鏡です、掛けてみないとサイズは分かりませんから……僕は貴方達の分は買いませんからね?僕が戻るまでちゃんと選んでおいてくださいよ?」
「あー、眼鏡ってそういうもんかよ」
 明らかに、めんどくさいなという顔を俺とテリーはしていた事だろう。俺ら、リアル含めて眼鏡に縁が無い。……テリーはともかくリアル俺は、視力弱めなんだけど……掛けたいとは思わんのだ。


 仕方がないのでさっさと決着をつける事にした。
 レッドに連れ立って先に、眼鏡屋に行く。レッドが視力調整を受けている隣で、結局の所意気揚々と眼鏡フレーム選びに凝ってしまう俺達であった。
「似合わねぇなぁ」
「うーん、個人的にはこういうフレームが好みなんだけど」
「どっかの……か?」
「ああ、……の」
 リアルネタなので堂々と店の中で話せない俺達である。
 経験値減らされるのは嫌だもんな。問題の部分は小さな声で誤魔化しつつ、俺は来週発売される超大型タイトルに出てくるメガネっ娘の掛けているのと同じような、フレームの厚いタイプを掛けてみたんだがこれがまぁ、間抜けだ。自分の事ながら超絶に似あってねぇ。
 こういう怪盗がいたよな。……ん?怪盗を追いかける方だったか?
 それに対してテリー、こいつはどうして何をやってもサマになるのか、男として悔しいよ。
 選ぶセンスが良いってのもあるってか?ああ、どうせ元来品の良い公族様だよ。
「っても、これで暴れるとなると絶対落とすな」
「そっか、それも考えないとか」
 耳に掛ける部分を弄りつつ、確かにこんなものを引っ掛けたまま飛んだり跳ねたりしたら間違いなく、眼鏡も飛んでくわな……。
「いっそ……みたいなモンはねぇのか?」
「そりゃ間抜けだろ、取った時跡が残るぜ?」
 テリーが小声で言ったのは『水中眼鏡』だ。確かに、それならぴっちり頭にはめ込むので取れる心配はないだろうが……。
「お、いいもんみっけた」
 暫く色々見て回っていたらテリーがうれしそうな声を上げる。振り返った……サングラス男に俺は苦笑した。
「暗い所にサングラス掛けて出かける奴がいるかよ」
「どーせ暗視付けるんならいいんじゃねぇの?それに見ろ、これなら暴れても外れんだろ」
「そちらは地竜族の方々が愛用されているものですよ」
 店員さんのお姉さんが、うるさい客に対応して出てきてくれた。
 地竜って、モグラのことだよな?とリアルで考えていたらリコレクト。やっぱりモグラの事だ。地下に特化しすぎて明るい所で目が見えないというお約束な設定を持っている種族だ。
 ついでに言うと地竜族の耳は人間みたいな形状じゃない。耳もついでに独自の進化をしているらしく、その特殊な耳に装着できるようになっているんだな。おかげで耳の上から引っ掛けるんじゃなくて、輪になったチェーンでしっかり固定するという作りになっている。
「人間用に調整も致しますが」
「じゃ、これにする」
「いいのかぁ?サングラス」
「まずけりゃ別のを探す。個人的に欲しくなった」
 金具調整をしているお姉さんと軽く談笑を交わしているテリーを密かに恨めしく……ああいや、むなしいから止めよう。とにかく俺もさっさと決めないと……と、顔を上げてそこに思いがけないモノを見つけた俺。
「あ、あれだっ!」



「……どっちみち似合ってないわよ」
「るせぇ、眼鏡よりかはマシだ」
 そんなわけで俺は、俗にゴーグルと言われるだろうモノを首にぶら下げている。
 風よけに飛竜乗りが使うんだそうだ。つい、置いてあったフレームばかりに目がいっていたが、顔を上げたら頭上くらいの高さに色々な種類のゴーグルが下がってたのな。
 他にも金属加工時の飛散から目を守るタイプの色々な形状のモノがあったが……やっぱデザイン的にはライダー用のが一番いいだろ。……鎧にはものすごくアンバランスだがっ。


 暗闇対策良し、ルート確認良し、俺も一応剣を一本調達したし……マツナギも見た目には大丈夫そうだ。
 心配なのは変わりないのだが、結局彼女の悩みを聞きだす事が適わないのだから今は、騙されておくしかない。
 よし、行くぞ。シェイディ国地下大陸ノースグランドへ!


 とりあえずまず目指すのは首都であるシェイディ。唯一首都と国の名前が同じなのだな、県庁所在地と県名が同じーみたいな感覚だ。
 そんな俺の間抜けな感想はともかく、首都シェイディはノースグランドのほぼ中央にある。じゃぁ目的の暗黒神殿とやらもシェイディにあるのかというと……あると言えばあるような。違うと言えば違うような……。
 こう、地図があるだろ?思い浮かべてもらいたいのは、普遍的であろう平面地図だ。普通は平面で事足りるんだが……リアル事情の例えで申し訳ないが俺の国の某駅なんかを思い浮かべてもらいたい。新宿とか、梅田とか……。
 地図一枚じゃぁ足りないのが分かるだろうか?
 ……そう、階層がある。平面の上に建物があって何階建て、と云う作りにとどまらず地下が広くあちこちの建物と繋がってる。
 こういう地下の作りをRPGゲームではダンジョンという。
 元々言語的にダンジョンつーのは別に怪物がうろついている地下とは限らんのだ。怪物がいるとか迷路だとかいうのは後から加えられたイメージだぞ。立体的に入り組んでいればダンジョンである。
 しかしてシェイディ国地下ノースグランドの事情はこれよりも更に難解な構造になっている。というのも、階層という概念が無い。ここは地下一階、などという階層分けが出来ないんである。
 縦横無尽に横の広がりと縦の広がりを持った空間……3D迷路ここに極まれりだ。


 レッドが買ってきた地図、最初こそただの羊皮紙の平面地図だと俺も思ってた。
 ところがびっくり、広げて光を下から照らすと不思議な事に立体ホログラフィみたいに上から押しつぶしたような八面体の立体地図が浮かび上がるんである。
 これ、ただの羊皮紙じゃなかったのな。魔法で地図が浮かび上がるようになっている仕掛けになってた。平面に折りたたまれていた情報が起き上がるように中空に浮いて見える仕様なんである。

 レッドは潰れた八面体の中央に指を突っ込んで言った。
 この潰れた八面体がノースグランド全体と言う事は……指は、そのほぼ中央を指しているのか。
 そこが首都シェイディだそうだ。
 そしてその指をまっすぐ上に持ち上げていくと自ずと、八面体の頂の一つに指がたどり着く。

 そこが俺達の目的地……暗黒貴族種の一部に隠された暗黒神殿だと言う。
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