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6章 アイとユウキは……『世界を救う、はずだ』
書の6前半 暴の付く勇者達『呼びたければ呼べばいい、何とでも』
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■書の6前半■ 暴の付く勇者達 unreasonable brave
当たり前だが、命は一つしかない。
ライフが二つ以上あったりゲージ表示なのはゲームの世界での話であって、命というのは一つしかないから命と言うのだ。
一つ以上の『命』とやらを持つ生物はリアル、存在しない。
しかしこう言うと何だな……言い方を変えよう。
当たり前だが、死は一度しか訪れない。
死が訪れてゲームオーバーになり、リプレイするのゲーム上の出来事である。死は生物にとって一度しか訪れないから死なのだ。
何度も死ぬ事はリアル出来ない。死にそうになった、仮に死んだ状態すなわち仮死状態とは言葉のアヤであって、それらは死に限りなく近付いた状態だが『死』に至ったという事ではない。
という事は。
実際死亡確定である俺が今生きているのはどう、説明つければいいのだろう?
……安易だが、やっぱり『ゲームだから』って事か?
こんなにリアルな世界があるのに、それでもやっぱりこの物語は俺らにとって『ゲーム』だったというオチで……いいのか?
それとも、俺に訪れた死とはやはり、限りなく死に近い状況を死と捉えているだけで……。
ガッツ発動、HP1残ってて、実は生きていました展開を迎えたのであった~…………という事で良いのだろうか?
あぁ……こんな時余計な事を思い出しちまう。
俺ってさ、
……つーのは、リコレクトするんだからリアル-サトウハヤトの話じゃねぇぞ?戦士ヤトの話な……実は俺、死んだのこれが初めてじゃないんだよな。
何回俺は死んだ事になり、その都度しぶとく生きているんだろうって事を……リコレクトしていたりする。
俺は両手を見る。
俺の両手?本当にそうと言えるか?
今回ばかりはヤバイ。何度か詭弁的に死んだ俺だが、今回のはガチだ。
間違いなく俺、一回死んでる。
しかしおかしな事に……俺はその『死んだ』体験をちゃんと思い出せるってのはどういう事なのだろう?死んだ自分を覚えている?おかしいよな。絶対変だよな。コミックな事になってるよな?
死んだら、その先未来その事を自分の経験としてリコレクトするなんて不可能なんだ。
何故って単純な理由だぜ、この異世界『トビラ』の中での死は、キャラクターの消滅に繋がっている。
リアルにいるプレイヤーが死ぬ事は無いが、プレイヤーがこの世界に設定したキャラクターは歴史的にちゃんと、消失してしまう。
なのに俺は、戦士ヤトは……死んだという自覚がありながら、その結果をこの世界に残せていない。
俺は、このまま生きてていいのか?
自分の物ではないかもしれない、この両手をぼんやりと見ながら俺は、そんな事を考えている。
結局、最後に迷ってしまっているのはそこん所だな。
「いや、がっちり思い出したわ~」
しかし俺は勤めて明るく装った。
実際辛かろうと、能天気キャラを装うのがこの世界では真実。正しいあり方だ。
戦士ヤトはどんな状況であれ、あくまで能天気に笑うだろう。
……俺はそうやっていつも自分の抱える悩みを、表に出さないように生きて来た。
そういうキャラクターであるからして……それを演じてなければいけない。レッドみたいに任意で嘘を付いている事すら、この世界では真実なのだ。
それでも履き違える、思いと重い。
先のレッドの暴走が何によって引き起こされたか、結局の所理由は簡単なんだぜ?
レッドは、現実と仮想のあり方を取り違えたんだ。
思っている事と、背負っている重さを取り違えた。
普段から嘘を付くキャラクターである為に、嘘を付きすぎて、付きすぎて、付きすぎて。
どっちが表でどっちが裏なのか奴は、分からなくなったのだろう。
演じているのか?それとも、真実なのか。
嘘と真実が重なり合ってしまった時、何が自分にとって真であるのか分からなくなってしまった。
在る意味この仮想世界では、誠実に生きる事は難しい。
自分って奴をを素直に曝け出す事が出来ないんである。その前に演じるべき『キャラクター』があるからな。
リアルまんま自分でログインしていればこの限りではないだろうが、仮想現実に仮の自分を持っている人間が多くなった昨今、そっちの方が稀有な事であろうと思う。
俺はリアル駄目人間で、日常上手く『俺』という人間を上手くこなせていない。演じる事も、素直になる事も多分上手く出来そうに無い。
生き方が不器用で……つい仮想に逃げる。
それが俺、リアル-サトウハヤトの本性。
で、あるからして……仮想に逃げまくって良しであるこの世界は間違いなく、俺の性に合ってるんだろう。
俺はそれなりにこの世界と自分のあり方について悩んで、考えてきたつもりだったが……。他の連中はもっともっと、沢山の事を考えて悩んで迷っているのかもしれない。
しかし実は、悩めば悩むほどドツボに嵌まる。レッドなんかが良い例だ。
やっぱ俺って、この世界に一番順応してるのかもしれないな~。などと、今は楽観的にそう思っていたりする。
そんな訳で、俺は勤めて明るく装ってようやく揃った仲間達の前で頭を掻いて笑った。
「これから色々説明する訳なんだけど……レッド」
「何でしょう?」
あえて俺は声のトーンを落とした。
「……俺ってあん時、間違いなく死んだよな?」
まず、俺にそれをガッテンさせてくれ。お前のお得意の詭弁で騙してもいい、俺に現状を納得させて欲しい。
「僕に『死』を語らせますか。俗称ネクロマンシーである僕に」
とか言って嬉々として語りたい的な顔してんじゃねぇかよお前。多分魔法か何かでドーピングしたらしい、術後で安静必須とされ、寝て居た所だが今は上半身起き上がっている。
「死ってな、何だよ。キャラクターロストでいいのか?」
「……この世界においての『死』とは、生命が持つべき三つの物質の欠落および乖離で説明されます」
両手を膝の上で組み、早速ですがレッドが語りモードです。
ああ、やっぱ饒舌な奴が居ると説明が入って分かりやすいなぁ。
たき火を囲み、各自砂の上に座り込んで俺とレッドを取り囲んできたな。情報の共有を優先しようって所か。
「それは分かってるわ、世界的な常識だもの」
アベルがそう言ったという事は、間違いなく全員が理解しているという意味になる。オートだ。俺とアベルが知識技能最底辺だからな。
この世界においての『生』の理論。物質、精神、幽体、この三つを備えているものはこの世界において等しく『生物』である……って奴だ。
「逆に『僕ら』の世界だとはっきりしてないよね」
ナッツは苦笑しながらレッドに話を振った。
「脳の死か、心臓の停止か。生命維持装置に生かされる体は生きているのか……この世界における『精神』すなわち心とは。どこにあるのか」
レッドは静かに顔を上げる。
「こちらの世界で生死の境は、あちらの世界である僕らの『現実』のように『定められている』ものではありません。こちらの世界では理論で『死』と『生』の定義がなされ、徹底的に解体されているのです。ともすれば、この本来デリケートである問題に関してはこちらの方が先進的と言えるかもしれませんね」
「つーてもお前、ここファンタジーだろ?何でもありじゃねぇか」
テリーが肩を竦めて笑って言った言葉に、レッドは首を横に負って断言。
「ファンタジーの前に『ゲーム』です。システムで組まれている以上理論が上です。幻想という言葉は万能の合い言葉ではない、この世界が『ゲーム』である以上は」
あーあ、まんまと話がリアル事情になってやがる。
俺は苦笑し、軽くレッドの頭を叩いていた。
「っ、何するんですか」
「あほ、こっちの世界で『上の事情』は要らんだろ。いい加減そういうモノの考え方はよせ」
「……そうは言いますが」
「そんなんだからお前は混同するんだろうが」
「そう言う貴方は混ぜずに考えられるんですか?」
ふはははは。
確かに、俺もしょっちゅう混同させてるがなッ!
「しない努力はしてるぞ」
「……それは、悪い事なのでしょうか?」
それ、というのはつまり。現実と仮想の混同か?首を傾げて聞かれて俺は逆に首を傾げ返してしまった。
「悪いだろうが、ゲームだと割り切ってない証拠だろ?」
レッドは眼鏡のブリッジを押し上げる。
「僕はこれが『ゲーム』だというのを理解していない訳では無いのです。貴方のように能天気に仮想に浸ってのめり込む事が出来ないだけです」
「悪かったよッ!能天気なチキン野郎でッ!」
「そこまでは言ってませんが」
「まぁまぁ、どういうスタンスでこの世界に望むかは自由だろ、とりあえずゲームルールに違反するようなヘタなプレイさえしてないならどっちだっていいじゃないか」
ゲームのな、主にテーブルトークっていう奴でプレイ重視か、ゲーム重視かってのがある訳だよ。
俺とレッドじゃ間違いなくこのプレイする方向性がかみ合ってない。まぁ、それは前から分かってた事だが。
ナッツが早速俺らの諍いを止めてくれたが……俺はレッドを一瞥してそっぽを向いた先で奇妙な事に気が付いた。
奴がゲーム進行重視で俺がキャラクタに依存したプレイ重視に見えるだろ?所がそうじゃない。
奴が、演じる事至上主義のプレイ重視で、俺は、ゲームの進行にテクニカルに求めるゲーム重視なんだ。
「ともかくだ、上事情は置いとけ……そうだ、お前が悪い」
そもそも上の事情……リアルの事を振ったのはナッツだ。俺はナッツを指差して言ってやった。
「はは、ごめん……それでも色々混同して考えちゃうんだよ。でも、レッドの言っている事で物凄く納得出来る。少なくとも僕には必要だな、この世界が『ゲーム』というシステムの上に成り立つのだっていう……開き直り?」
「いいじゃない、別にこっちはこっちでアッチはアッチよ?生きると死ぬの違いを比較して何になるのよ」
おおアベル、言ってやれ。俺もお前の意見に激しく同意だ。
比較して何になる。
ここは仮想世界だ。現実とは違うんだ。
リアルの事情を持ってきてどーすんだよ?なぁ。
「難しい事に拘るんだね」
「難しいってより、どーでもいい事だろうが」
マツナギの何故か関心した声に対して、テリーは飽きれながら首の後ろを撫でている。
「それで、いい加減話を元に戻せよお前ら。ヤトが死んだって?死んだってのになんで生きてる」
「そうだ、それを説明しろレッド」
問題はそこだ、すっかり脱線している。……しかしテリーが微妙な顔で俺を見ていた。
「死んだお前が説明しねぇのかよ」
「俺は、なんで今自分が生きてるのか良く分からんのだよぶっちゃけて」
「あの蔦みたいな奴は何だ?……何か言ってたな」
「……ああ」
俺は自分の胸に手を置いた。
「……俺は死んだはずなんだがなぁ……なんかむやみやたらと生命力の高いモノに寄生されて生きてるとか?そういう系?」
ぶっちゃけそーいう不死話って多いよな。コミックとかで。実際……俺は不死って事でいいんだろうか?
胸に埋まっていた石を取り出すのに、俺は遠慮なく自分の胸を突いた。
この行動における俺の意図は二つある。
一つは、倒れたレッドに俺は意地でも恩を返してやらねば気がすまなかったから。……そもそも俺がこうやって、ややおかしな状況で生きていられるのはコイツが、俺の胸にナーイアストの石をねじ込んだからだ。
ログアウトした俺に、赤旗が感染した状態を『何とかしたい』と考え、まだデバイスツールとして機能していなかった段階でレッドは、俺の体の中に石をねじ込んでそんで、凍結封印。次のログインと、デバイスツールの起動を待っていた……って所じゃねぇかな。
とりあえず、生きてる事に悔いは無い。
死んでりゃよかったとは俺は、思っていない。
相当に疑問で、相当に怪しいがとりあえず俺が『俺』として今ここにある事に俺は、両手を上げて喜んでもいい。
だから、レッドには感謝している……ま、今回の一件で借りが帳消し、全部チャラになったけどなッ。
それからもう一つは……俺の存在は間違っているかもしれないという懸念だ。
……生きていていいのか?
つまり、そういう事。自分の『生』を試してみてしまった。そういう行動であったりする。
でもそういう意図があった事は誰にも言わない。俺は、誰にも言えないんだ。
もう一度、死ぬ事を意識して自分に槍を突き刺した事は永久に秘密だ。別に……レッドみたいに俺は、嘘ついたり本音を隠したりするのに苦痛は感じねぇもんな。戦士ヤトにしてもリアル-サトウハヤトにしても……そういうの割と得意だったりする。
バレない嘘を付ける訳じゃねぇってのがまぁ、レベルの程がしれるってもんだが……多分、これは俺の隠しパラメータ。
だから分かってる人は分かってるみたいだけどな……うう、アベルが微妙にさっきから俺を睨んでいるおります。
レッドが静かに言った。
「僕らがログアウトしたら、ヤトはレッドフラグになります」
「……やっぱり、そういう事なのか」
ナッツは顔を顰めて溜め息を漏らす。
「つまり、ブルーフラグはレッドフラグの上にも立てられる……そういう事?」
アインの言葉にレッドは、無言で頷いた。
いまいち納得してない顔のアベルもこれでイメージは掴んだらしい。更に俺をキツく睨み付けてきている。
「こりゃ、本気でレッドフラグの修正方法を得ないとだな」
テリーが溜め息を漏らしながら腕を組む。
「んー、まぁ俺がこっちにいる限り俺は、レッドフラグの魔王としての暴走しないぜ?」
「暴走した場合に何が起こるのか、ちゃんと理解して言ってるの?」
足元の砂を掴み上げ、アベルが言った言葉に俺は項垂れた。
つまり今足元にある砂山が量産されるかもしれない、って事だよな……。
「う、すいません……」
「どういう経緯でそうなっちゃったの?……やっぱり魔王八逆星の人達から……」
「いや、まぁ……それがな」
俺は頭を掻く。
俺の問題はまだ可愛いのだ。実は連中に話さなければいけない重大な事は……。
俺が死んだ云々じゃぁなかったりする。
「魔王的な比較をするとだな……。つまりその、こっちの世界を壊すっていう規格で言うなら、の話な」
俺は顔を上げる。やっぱり、顔は無意味に笑う。
「あいつらは破壊する側じゃねぇんだよ。むしろ、俺がやっぱり魔王なのな」
「はぁ?」
「だから、あいつらは魔王って呼ばれてるだけで実際は……なんつーか。ほんと、呼ばれてるだけなんだよ」
「訳わかんないわ。レッド、あんたも事情分かるんでしょ?もっとわかりやすく言い直して」
「ヤトの言っている通りですよ」
アベルから話を振られ、レッドは溜め息を漏らした。
「こっちの世界の都合で言うなら、こっちの世界ではないものが『破壊者』なのです。魔王八逆星というのは……そういうレベルの話を理解してしまった一団なのですね」
テリーが口を半開きにしていうべき言葉を探している。
「……つまり、やっぱり、トビラを潜ってる俺らが『魔王』だって事か?」
「それを、決めかねているんではないでしょうかね?だから色々試そうとした。……この世界に最初にトビラを潜って来たものが何だか、分かりませんか?」
ナッツは険しい顔を上げた。
「大陸座、ホワイトフラグツールの開発者達か」
レッドは目を閉じて小さく頷く。
「そういう事です」
魔王八逆星が、大陸座を攻撃しているらしいという予測をつけたのはカオスだったな。そしてそれは当たっていた。
魔王八逆星と呼ばれている連中は大陸座を滅ぼそうと考えている。
なぜならば。
大陸座という存在こそがこの世界を破壊するものだと考えているから、だったりするのだ。つまり。
魔王って悪い事する奴らの総称みたいに使われるよな。奴らがその名前で呼ばれ、自ら開き直った通り、この世界を守護する立場であるはずの『大陸座』を攻撃するのは、行為としては『悪』なのだ。
だがあいつらは知っているし理解している。
悪と呼ばれても、魔王と呼ばれても構いはしない、と。
世界にとって何が正しく何が理にかなうのかを判断し、その為に戦う事を選んだ。罵られても憎しみを買っても、悲しみをばら撒いてでも目的の為に突き進む事を選んだ……
……魔王八逆星と言うのは実は、そういう側面が本性なのである。
辛い事だが、俺はあの時俺の身に起こった事をリコレクトし、言葉で伝える事にした。
ログ・CCするには一端ログアウトしないとだし。
残念ながらこの記憶は、昨日ようやく引き上げられ、俺の中で修復された記憶だ。もちろん壊れてしまってる領域もまだあちこちある。
そのあたり、レッドの記憶と合わせて修復作業を行って行こう。今回のログインの最大目的はやっぱり、そこなんだからな。
いやまぁ、これがぶっちゃけて辛いのよ。
痛いんです、俺。思い出すだけでも身の毛もよだつ訳よ……展開的にも。
だが語らん事には連中を納得させる事が出来そうにないので全部、話すしかない。
俺が魔王連中にとっ捕まってそれで。
何をされたか、な。
ナッツのものだった結界魔法で俺と、俺以外を隔離した所まではいいよな?
問題はその後だ。
俺はアービスという黒い鎧の男と戦った。
のだが……実は、あんまり勝負にならなかった。相手の方が戦いを放棄しやがってな、俺はがむしゃらにそんな相手に向かって暴力を揮っただけだったんだ。
「所がこれが、笑える話なんだが……」
と言って早速笑いを引き出そうとした俺であったが……全員から睨まれてしまう。真面目に話せという事らしい。
くそ、笑えるんだぞ?泣けるくらい笑える話なんだ。
俺達が最初にログインした場所、遠東方イシュタル国のレイダーカだったよな。そこで最初に対面した黒い亀がいたのを思い出してもらいたい。
玄武って呼ばれている特殊な亀、覚えてるよな?
何処らへんが特殊かというと……甲羅が金剛石並に硬いという所が特殊なのな。しかしそんなにデカい亀じゃないはずなのに、レッドフラグでおかしくなってて巨大化してた、アレ。
一匹は石化魔法でサンサーラ漁村郊外に封じたが、実はもう一匹巨大化していた玄武がいて……俺達はそれを事もあろうか、エイオール船でシーミリオン国のオーター島まで運ぶ事になっちまったよなぁ?
で、そこで取引先が事もあろうか魔王だったというのが判明した。更に俺らは、ギルおよびナドゥと初対面してしまった訳だ。
ついでに初敗北も帰した、これもまた痛い思い出の一つ。
ともかく、その時のやり取りを思い出して欲しい。
……というのは、そのギルとナドゥのやりとりだな。
思えばアービスっていう名前が出てきたのはそこでだからなぁ。ギルは、レッドフラグで巨大化した玄武の甲羅をご所望だった訳だよ。
アービスに鎧作ってやるためにな!
……俺は言ったよなレッド?
この恐ろしく硬い甲羅を攻撃で破るのが無理だとするなら、この甲羅で作られた鎧を着てる奴と戦うハメになったらどーすりゃいいんだよ、と。
そうしたらお前、そうなった時に考えればいい事ですとか抜かしやがったな?
おかげでそうなっちまったんだよ!
アービスが着てた黒い鎧は例の、玄武の鎧だった。
そんな訳で俺のめったな事では折れないはずの剣が……ものの見事に通用しなかったという悲劇というか、ある意味喜劇っぽい結果が訪れたのだ!そうして俺は剣を無くしたというワケである!
どうだ、笑えるだろうッ!?泣ける位に笑える話だ!
少なくとも俺は笑えるぞ、因果な出会いに涙が出るぜッ!
ううう、俺の剣、高かったのに……。
しかしそれでも連中は笑ってくれない。
あーいいよもう。
とにかくだ、俺が二度目のログイン時、エントランスで剣を持っていなかった理由はこれだ。
さて、折れるはずが無いのだが折れて壊れてしまって俺は、剣を捨てて今度は槍でアービスに攻撃を続けた。
勿論、幾ら業物ったって例の玄武の鎧に槍が通用するとは限らない。
所が……そこに突然ギルの野郎が横槍いれて来やがってな!
そう、俺は呆気なく奴に蹴り飛ばされてそれが致命傷になって取り押さえられちまった。
ハンパねぇぞあいつ、蹴り一発で防御点全部無視して内臓イッたもんな。
……でだ。
あの館、崩れたら地下が出てただろ?そう、お前らがレッドの幻術にハマってぶっ倒れてたあの地下ホールな。
あれ以外にも館の地下に色々部屋があるらしくて俺はそこに拘束されて……。
まぁ、散々な目にあった。しかも酷い所だった。
思い出すだけで胸糞悪くなってくる……あいつら、あそこで黒い怪物を生産してやがった。生産だ、何から作られるってそんなの分かってるだろうが。
南国で目の当たりにしただろ?
人間攫ってきてホストから感染させて怪物に仕立て上げるんだよ。
聞いた話を総合するに……あそこの管轄はストアらしい。そう、あの綺麗なおねぇちゃんな。ああ、いい乳してたよな。
って殴るな、殴るんじゃない!
乳に見蕩れて何が悪いかッ!お前らが容姿端麗の男に見惚れるのと同じだっつーの!
とにかくだ、ここいらの怪物を作り出してたのはストアだ、全部ストアから派生してるレッドフラグだったみたいだな……体液から精製した薬を使うらしい。まぁそれはナドゥのおっさんが絡んでるから……南国での状態と大体同じだ。
当然俺もぶち込まれたわけだ、それを。
いや、何本入れられたのか意識がぶっ飛んでる間も容赦なく投入したとか言ってたから俺はよく分からん。
よく分からないが……やっぱ、俺青旗だからさ。効かない訳だよ。
効かない効かないってんで、どんどん酷い効力のものにグレードアップさせていきやがって……幾ら効かないったってハンパ無く辛いんだぜ?抵抗力があるだけなんだからな。
ただ、我慢してもしなくても効かないものは効かないんだから、俺はただ苦痛に耐えてりゃいい。だからその分気は楽だったかもな。
……いや、そうでもないか。
俺の目の前で一人、子供がさ。
無抵抗に同じモノ打ち込まれて……それが効きすぎて、……見る影も無く溶けちまったのを見せられたんだ。
どうして効かないんだって聞かれたって、俺は事情を説明しようが無いじゃないか。
……。
ま、このあたりはいいだろ?あんまり思い出させないでくれ、正直泣いてもう勘弁してくれと言えたらどんだけ楽だったかと思うもんな。
安心しろ、俺で散々試したみたいだからお前らが俺と同じ目に会う事ぁ無いだろ。
……なんだよ、別に、いいんだよ。
いいんだ。俺が暴走した結果なんだから、お前らが気に病む事じゃない。
そう、続きがある。
結局……原液静脈注入まで俺は、耐えちまった。だから俺はまだこの段階レッドフラグには感染してないんだ。
魔王には至ってねぇんだよ。
その後がまた……大変な具合になってたんだ。
当たり前だが、命は一つしかない。
ライフが二つ以上あったりゲージ表示なのはゲームの世界での話であって、命というのは一つしかないから命と言うのだ。
一つ以上の『命』とやらを持つ生物はリアル、存在しない。
しかしこう言うと何だな……言い方を変えよう。
当たり前だが、死は一度しか訪れない。
死が訪れてゲームオーバーになり、リプレイするのゲーム上の出来事である。死は生物にとって一度しか訪れないから死なのだ。
何度も死ぬ事はリアル出来ない。死にそうになった、仮に死んだ状態すなわち仮死状態とは言葉のアヤであって、それらは死に限りなく近付いた状態だが『死』に至ったという事ではない。
という事は。
実際死亡確定である俺が今生きているのはどう、説明つければいいのだろう?
……安易だが、やっぱり『ゲームだから』って事か?
こんなにリアルな世界があるのに、それでもやっぱりこの物語は俺らにとって『ゲーム』だったというオチで……いいのか?
それとも、俺に訪れた死とはやはり、限りなく死に近い状況を死と捉えているだけで……。
ガッツ発動、HP1残ってて、実は生きていました展開を迎えたのであった~…………という事で良いのだろうか?
あぁ……こんな時余計な事を思い出しちまう。
俺ってさ、
……つーのは、リコレクトするんだからリアル-サトウハヤトの話じゃねぇぞ?戦士ヤトの話な……実は俺、死んだのこれが初めてじゃないんだよな。
何回俺は死んだ事になり、その都度しぶとく生きているんだろうって事を……リコレクトしていたりする。
俺は両手を見る。
俺の両手?本当にそうと言えるか?
今回ばかりはヤバイ。何度か詭弁的に死んだ俺だが、今回のはガチだ。
間違いなく俺、一回死んでる。
しかしおかしな事に……俺はその『死んだ』体験をちゃんと思い出せるってのはどういう事なのだろう?死んだ自分を覚えている?おかしいよな。絶対変だよな。コミックな事になってるよな?
死んだら、その先未来その事を自分の経験としてリコレクトするなんて不可能なんだ。
何故って単純な理由だぜ、この異世界『トビラ』の中での死は、キャラクターの消滅に繋がっている。
リアルにいるプレイヤーが死ぬ事は無いが、プレイヤーがこの世界に設定したキャラクターは歴史的にちゃんと、消失してしまう。
なのに俺は、戦士ヤトは……死んだという自覚がありながら、その結果をこの世界に残せていない。
俺は、このまま生きてていいのか?
自分の物ではないかもしれない、この両手をぼんやりと見ながら俺は、そんな事を考えている。
結局、最後に迷ってしまっているのはそこん所だな。
「いや、がっちり思い出したわ~」
しかし俺は勤めて明るく装った。
実際辛かろうと、能天気キャラを装うのがこの世界では真実。正しいあり方だ。
戦士ヤトはどんな状況であれ、あくまで能天気に笑うだろう。
……俺はそうやっていつも自分の抱える悩みを、表に出さないように生きて来た。
そういうキャラクターであるからして……それを演じてなければいけない。レッドみたいに任意で嘘を付いている事すら、この世界では真実なのだ。
それでも履き違える、思いと重い。
先のレッドの暴走が何によって引き起こされたか、結局の所理由は簡単なんだぜ?
レッドは、現実と仮想のあり方を取り違えたんだ。
思っている事と、背負っている重さを取り違えた。
普段から嘘を付くキャラクターである為に、嘘を付きすぎて、付きすぎて、付きすぎて。
どっちが表でどっちが裏なのか奴は、分からなくなったのだろう。
演じているのか?それとも、真実なのか。
嘘と真実が重なり合ってしまった時、何が自分にとって真であるのか分からなくなってしまった。
在る意味この仮想世界では、誠実に生きる事は難しい。
自分って奴をを素直に曝け出す事が出来ないんである。その前に演じるべき『キャラクター』があるからな。
リアルまんま自分でログインしていればこの限りではないだろうが、仮想現実に仮の自分を持っている人間が多くなった昨今、そっちの方が稀有な事であろうと思う。
俺はリアル駄目人間で、日常上手く『俺』という人間を上手くこなせていない。演じる事も、素直になる事も多分上手く出来そうに無い。
生き方が不器用で……つい仮想に逃げる。
それが俺、リアル-サトウハヤトの本性。
で、あるからして……仮想に逃げまくって良しであるこの世界は間違いなく、俺の性に合ってるんだろう。
俺はそれなりにこの世界と自分のあり方について悩んで、考えてきたつもりだったが……。他の連中はもっともっと、沢山の事を考えて悩んで迷っているのかもしれない。
しかし実は、悩めば悩むほどドツボに嵌まる。レッドなんかが良い例だ。
やっぱ俺って、この世界に一番順応してるのかもしれないな~。などと、今は楽観的にそう思っていたりする。
そんな訳で、俺は勤めて明るく装ってようやく揃った仲間達の前で頭を掻いて笑った。
「これから色々説明する訳なんだけど……レッド」
「何でしょう?」
あえて俺は声のトーンを落とした。
「……俺ってあん時、間違いなく死んだよな?」
まず、俺にそれをガッテンさせてくれ。お前のお得意の詭弁で騙してもいい、俺に現状を納得させて欲しい。
「僕に『死』を語らせますか。俗称ネクロマンシーである僕に」
とか言って嬉々として語りたい的な顔してんじゃねぇかよお前。多分魔法か何かでドーピングしたらしい、術後で安静必須とされ、寝て居た所だが今は上半身起き上がっている。
「死ってな、何だよ。キャラクターロストでいいのか?」
「……この世界においての『死』とは、生命が持つべき三つの物質の欠落および乖離で説明されます」
両手を膝の上で組み、早速ですがレッドが語りモードです。
ああ、やっぱ饒舌な奴が居ると説明が入って分かりやすいなぁ。
たき火を囲み、各自砂の上に座り込んで俺とレッドを取り囲んできたな。情報の共有を優先しようって所か。
「それは分かってるわ、世界的な常識だもの」
アベルがそう言ったという事は、間違いなく全員が理解しているという意味になる。オートだ。俺とアベルが知識技能最底辺だからな。
この世界においての『生』の理論。物質、精神、幽体、この三つを備えているものはこの世界において等しく『生物』である……って奴だ。
「逆に『僕ら』の世界だとはっきりしてないよね」
ナッツは苦笑しながらレッドに話を振った。
「脳の死か、心臓の停止か。生命維持装置に生かされる体は生きているのか……この世界における『精神』すなわち心とは。どこにあるのか」
レッドは静かに顔を上げる。
「こちらの世界で生死の境は、あちらの世界である僕らの『現実』のように『定められている』ものではありません。こちらの世界では理論で『死』と『生』の定義がなされ、徹底的に解体されているのです。ともすれば、この本来デリケートである問題に関してはこちらの方が先進的と言えるかもしれませんね」
「つーてもお前、ここファンタジーだろ?何でもありじゃねぇか」
テリーが肩を竦めて笑って言った言葉に、レッドは首を横に負って断言。
「ファンタジーの前に『ゲーム』です。システムで組まれている以上理論が上です。幻想という言葉は万能の合い言葉ではない、この世界が『ゲーム』である以上は」
あーあ、まんまと話がリアル事情になってやがる。
俺は苦笑し、軽くレッドの頭を叩いていた。
「っ、何するんですか」
「あほ、こっちの世界で『上の事情』は要らんだろ。いい加減そういうモノの考え方はよせ」
「……そうは言いますが」
「そんなんだからお前は混同するんだろうが」
「そう言う貴方は混ぜずに考えられるんですか?」
ふはははは。
確かに、俺もしょっちゅう混同させてるがなッ!
「しない努力はしてるぞ」
「……それは、悪い事なのでしょうか?」
それ、というのはつまり。現実と仮想の混同か?首を傾げて聞かれて俺は逆に首を傾げ返してしまった。
「悪いだろうが、ゲームだと割り切ってない証拠だろ?」
レッドは眼鏡のブリッジを押し上げる。
「僕はこれが『ゲーム』だというのを理解していない訳では無いのです。貴方のように能天気に仮想に浸ってのめり込む事が出来ないだけです」
「悪かったよッ!能天気なチキン野郎でッ!」
「そこまでは言ってませんが」
「まぁまぁ、どういうスタンスでこの世界に望むかは自由だろ、とりあえずゲームルールに違反するようなヘタなプレイさえしてないならどっちだっていいじゃないか」
ゲームのな、主にテーブルトークっていう奴でプレイ重視か、ゲーム重視かってのがある訳だよ。
俺とレッドじゃ間違いなくこのプレイする方向性がかみ合ってない。まぁ、それは前から分かってた事だが。
ナッツが早速俺らの諍いを止めてくれたが……俺はレッドを一瞥してそっぽを向いた先で奇妙な事に気が付いた。
奴がゲーム進行重視で俺がキャラクタに依存したプレイ重視に見えるだろ?所がそうじゃない。
奴が、演じる事至上主義のプレイ重視で、俺は、ゲームの進行にテクニカルに求めるゲーム重視なんだ。
「ともかくだ、上事情は置いとけ……そうだ、お前が悪い」
そもそも上の事情……リアルの事を振ったのはナッツだ。俺はナッツを指差して言ってやった。
「はは、ごめん……それでも色々混同して考えちゃうんだよ。でも、レッドの言っている事で物凄く納得出来る。少なくとも僕には必要だな、この世界が『ゲーム』というシステムの上に成り立つのだっていう……開き直り?」
「いいじゃない、別にこっちはこっちでアッチはアッチよ?生きると死ぬの違いを比較して何になるのよ」
おおアベル、言ってやれ。俺もお前の意見に激しく同意だ。
比較して何になる。
ここは仮想世界だ。現実とは違うんだ。
リアルの事情を持ってきてどーすんだよ?なぁ。
「難しい事に拘るんだね」
「難しいってより、どーでもいい事だろうが」
マツナギの何故か関心した声に対して、テリーは飽きれながら首の後ろを撫でている。
「それで、いい加減話を元に戻せよお前ら。ヤトが死んだって?死んだってのになんで生きてる」
「そうだ、それを説明しろレッド」
問題はそこだ、すっかり脱線している。……しかしテリーが微妙な顔で俺を見ていた。
「死んだお前が説明しねぇのかよ」
「俺は、なんで今自分が生きてるのか良く分からんのだよぶっちゃけて」
「あの蔦みたいな奴は何だ?……何か言ってたな」
「……ああ」
俺は自分の胸に手を置いた。
「……俺は死んだはずなんだがなぁ……なんかむやみやたらと生命力の高いモノに寄生されて生きてるとか?そういう系?」
ぶっちゃけそーいう不死話って多いよな。コミックとかで。実際……俺は不死って事でいいんだろうか?
胸に埋まっていた石を取り出すのに、俺は遠慮なく自分の胸を突いた。
この行動における俺の意図は二つある。
一つは、倒れたレッドに俺は意地でも恩を返してやらねば気がすまなかったから。……そもそも俺がこうやって、ややおかしな状況で生きていられるのはコイツが、俺の胸にナーイアストの石をねじ込んだからだ。
ログアウトした俺に、赤旗が感染した状態を『何とかしたい』と考え、まだデバイスツールとして機能していなかった段階でレッドは、俺の体の中に石をねじ込んでそんで、凍結封印。次のログインと、デバイスツールの起動を待っていた……って所じゃねぇかな。
とりあえず、生きてる事に悔いは無い。
死んでりゃよかったとは俺は、思っていない。
相当に疑問で、相当に怪しいがとりあえず俺が『俺』として今ここにある事に俺は、両手を上げて喜んでもいい。
だから、レッドには感謝している……ま、今回の一件で借りが帳消し、全部チャラになったけどなッ。
それからもう一つは……俺の存在は間違っているかもしれないという懸念だ。
……生きていていいのか?
つまり、そういう事。自分の『生』を試してみてしまった。そういう行動であったりする。
でもそういう意図があった事は誰にも言わない。俺は、誰にも言えないんだ。
もう一度、死ぬ事を意識して自分に槍を突き刺した事は永久に秘密だ。別に……レッドみたいに俺は、嘘ついたり本音を隠したりするのに苦痛は感じねぇもんな。戦士ヤトにしてもリアル-サトウハヤトにしても……そういうの割と得意だったりする。
バレない嘘を付ける訳じゃねぇってのがまぁ、レベルの程がしれるってもんだが……多分、これは俺の隠しパラメータ。
だから分かってる人は分かってるみたいだけどな……うう、アベルが微妙にさっきから俺を睨んでいるおります。
レッドが静かに言った。
「僕らがログアウトしたら、ヤトはレッドフラグになります」
「……やっぱり、そういう事なのか」
ナッツは顔を顰めて溜め息を漏らす。
「つまり、ブルーフラグはレッドフラグの上にも立てられる……そういう事?」
アインの言葉にレッドは、無言で頷いた。
いまいち納得してない顔のアベルもこれでイメージは掴んだらしい。更に俺をキツく睨み付けてきている。
「こりゃ、本気でレッドフラグの修正方法を得ないとだな」
テリーが溜め息を漏らしながら腕を組む。
「んー、まぁ俺がこっちにいる限り俺は、レッドフラグの魔王としての暴走しないぜ?」
「暴走した場合に何が起こるのか、ちゃんと理解して言ってるの?」
足元の砂を掴み上げ、アベルが言った言葉に俺は項垂れた。
つまり今足元にある砂山が量産されるかもしれない、って事だよな……。
「う、すいません……」
「どういう経緯でそうなっちゃったの?……やっぱり魔王八逆星の人達から……」
「いや、まぁ……それがな」
俺は頭を掻く。
俺の問題はまだ可愛いのだ。実は連中に話さなければいけない重大な事は……。
俺が死んだ云々じゃぁなかったりする。
「魔王的な比較をするとだな……。つまりその、こっちの世界を壊すっていう規格で言うなら、の話な」
俺は顔を上げる。やっぱり、顔は無意味に笑う。
「あいつらは破壊する側じゃねぇんだよ。むしろ、俺がやっぱり魔王なのな」
「はぁ?」
「だから、あいつらは魔王って呼ばれてるだけで実際は……なんつーか。ほんと、呼ばれてるだけなんだよ」
「訳わかんないわ。レッド、あんたも事情分かるんでしょ?もっとわかりやすく言い直して」
「ヤトの言っている通りですよ」
アベルから話を振られ、レッドは溜め息を漏らした。
「こっちの世界の都合で言うなら、こっちの世界ではないものが『破壊者』なのです。魔王八逆星というのは……そういうレベルの話を理解してしまった一団なのですね」
テリーが口を半開きにしていうべき言葉を探している。
「……つまり、やっぱり、トビラを潜ってる俺らが『魔王』だって事か?」
「それを、決めかねているんではないでしょうかね?だから色々試そうとした。……この世界に最初にトビラを潜って来たものが何だか、分かりませんか?」
ナッツは険しい顔を上げた。
「大陸座、ホワイトフラグツールの開発者達か」
レッドは目を閉じて小さく頷く。
「そういう事です」
魔王八逆星が、大陸座を攻撃しているらしいという予測をつけたのはカオスだったな。そしてそれは当たっていた。
魔王八逆星と呼ばれている連中は大陸座を滅ぼそうと考えている。
なぜならば。
大陸座という存在こそがこの世界を破壊するものだと考えているから、だったりするのだ。つまり。
魔王って悪い事する奴らの総称みたいに使われるよな。奴らがその名前で呼ばれ、自ら開き直った通り、この世界を守護する立場であるはずの『大陸座』を攻撃するのは、行為としては『悪』なのだ。
だがあいつらは知っているし理解している。
悪と呼ばれても、魔王と呼ばれても構いはしない、と。
世界にとって何が正しく何が理にかなうのかを判断し、その為に戦う事を選んだ。罵られても憎しみを買っても、悲しみをばら撒いてでも目的の為に突き進む事を選んだ……
……魔王八逆星と言うのは実は、そういう側面が本性なのである。
辛い事だが、俺はあの時俺の身に起こった事をリコレクトし、言葉で伝える事にした。
ログ・CCするには一端ログアウトしないとだし。
残念ながらこの記憶は、昨日ようやく引き上げられ、俺の中で修復された記憶だ。もちろん壊れてしまってる領域もまだあちこちある。
そのあたり、レッドの記憶と合わせて修復作業を行って行こう。今回のログインの最大目的はやっぱり、そこなんだからな。
いやまぁ、これがぶっちゃけて辛いのよ。
痛いんです、俺。思い出すだけでも身の毛もよだつ訳よ……展開的にも。
だが語らん事には連中を納得させる事が出来そうにないので全部、話すしかない。
俺が魔王連中にとっ捕まってそれで。
何をされたか、な。
ナッツのものだった結界魔法で俺と、俺以外を隔離した所まではいいよな?
問題はその後だ。
俺はアービスという黒い鎧の男と戦った。
のだが……実は、あんまり勝負にならなかった。相手の方が戦いを放棄しやがってな、俺はがむしゃらにそんな相手に向かって暴力を揮っただけだったんだ。
「所がこれが、笑える話なんだが……」
と言って早速笑いを引き出そうとした俺であったが……全員から睨まれてしまう。真面目に話せという事らしい。
くそ、笑えるんだぞ?泣けるくらい笑える話なんだ。
俺達が最初にログインした場所、遠東方イシュタル国のレイダーカだったよな。そこで最初に対面した黒い亀がいたのを思い出してもらいたい。
玄武って呼ばれている特殊な亀、覚えてるよな?
何処らへんが特殊かというと……甲羅が金剛石並に硬いという所が特殊なのな。しかしそんなにデカい亀じゃないはずなのに、レッドフラグでおかしくなってて巨大化してた、アレ。
一匹は石化魔法でサンサーラ漁村郊外に封じたが、実はもう一匹巨大化していた玄武がいて……俺達はそれを事もあろうか、エイオール船でシーミリオン国のオーター島まで運ぶ事になっちまったよなぁ?
で、そこで取引先が事もあろうか魔王だったというのが判明した。更に俺らは、ギルおよびナドゥと初対面してしまった訳だ。
ついでに初敗北も帰した、これもまた痛い思い出の一つ。
ともかく、その時のやり取りを思い出して欲しい。
……というのは、そのギルとナドゥのやりとりだな。
思えばアービスっていう名前が出てきたのはそこでだからなぁ。ギルは、レッドフラグで巨大化した玄武の甲羅をご所望だった訳だよ。
アービスに鎧作ってやるためにな!
……俺は言ったよなレッド?
この恐ろしく硬い甲羅を攻撃で破るのが無理だとするなら、この甲羅で作られた鎧を着てる奴と戦うハメになったらどーすりゃいいんだよ、と。
そうしたらお前、そうなった時に考えればいい事ですとか抜かしやがったな?
おかげでそうなっちまったんだよ!
アービスが着てた黒い鎧は例の、玄武の鎧だった。
そんな訳で俺のめったな事では折れないはずの剣が……ものの見事に通用しなかったという悲劇というか、ある意味喜劇っぽい結果が訪れたのだ!そうして俺は剣を無くしたというワケである!
どうだ、笑えるだろうッ!?泣ける位に笑える話だ!
少なくとも俺は笑えるぞ、因果な出会いに涙が出るぜッ!
ううう、俺の剣、高かったのに……。
しかしそれでも連中は笑ってくれない。
あーいいよもう。
とにかくだ、俺が二度目のログイン時、エントランスで剣を持っていなかった理由はこれだ。
さて、折れるはずが無いのだが折れて壊れてしまって俺は、剣を捨てて今度は槍でアービスに攻撃を続けた。
勿論、幾ら業物ったって例の玄武の鎧に槍が通用するとは限らない。
所が……そこに突然ギルの野郎が横槍いれて来やがってな!
そう、俺は呆気なく奴に蹴り飛ばされてそれが致命傷になって取り押さえられちまった。
ハンパねぇぞあいつ、蹴り一発で防御点全部無視して内臓イッたもんな。
……でだ。
あの館、崩れたら地下が出てただろ?そう、お前らがレッドの幻術にハマってぶっ倒れてたあの地下ホールな。
あれ以外にも館の地下に色々部屋があるらしくて俺はそこに拘束されて……。
まぁ、散々な目にあった。しかも酷い所だった。
思い出すだけで胸糞悪くなってくる……あいつら、あそこで黒い怪物を生産してやがった。生産だ、何から作られるってそんなの分かってるだろうが。
南国で目の当たりにしただろ?
人間攫ってきてホストから感染させて怪物に仕立て上げるんだよ。
聞いた話を総合するに……あそこの管轄はストアらしい。そう、あの綺麗なおねぇちゃんな。ああ、いい乳してたよな。
って殴るな、殴るんじゃない!
乳に見蕩れて何が悪いかッ!お前らが容姿端麗の男に見惚れるのと同じだっつーの!
とにかくだ、ここいらの怪物を作り出してたのはストアだ、全部ストアから派生してるレッドフラグだったみたいだな……体液から精製した薬を使うらしい。まぁそれはナドゥのおっさんが絡んでるから……南国での状態と大体同じだ。
当然俺もぶち込まれたわけだ、それを。
いや、何本入れられたのか意識がぶっ飛んでる間も容赦なく投入したとか言ってたから俺はよく分からん。
よく分からないが……やっぱ、俺青旗だからさ。効かない訳だよ。
効かない効かないってんで、どんどん酷い効力のものにグレードアップさせていきやがって……幾ら効かないったってハンパ無く辛いんだぜ?抵抗力があるだけなんだからな。
ただ、我慢してもしなくても効かないものは効かないんだから、俺はただ苦痛に耐えてりゃいい。だからその分気は楽だったかもな。
……いや、そうでもないか。
俺の目の前で一人、子供がさ。
無抵抗に同じモノ打ち込まれて……それが効きすぎて、……見る影も無く溶けちまったのを見せられたんだ。
どうして効かないんだって聞かれたって、俺は事情を説明しようが無いじゃないか。
……。
ま、このあたりはいいだろ?あんまり思い出させないでくれ、正直泣いてもう勘弁してくれと言えたらどんだけ楽だったかと思うもんな。
安心しろ、俺で散々試したみたいだからお前らが俺と同じ目に会う事ぁ無いだろ。
……なんだよ、別に、いいんだよ。
いいんだ。俺が暴走した結果なんだから、お前らが気に病む事じゃない。
そう、続きがある。
結局……原液静脈注入まで俺は、耐えちまった。だから俺はまだこの段階レッドフラグには感染してないんだ。
魔王には至ってねぇんだよ。
その後がまた……大変な具合になってたんだ。
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