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第十章 直樹の楓溺愛監禁計画
53. 懐かしい夢(※) side. 直樹
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「なおきさん、……じらすの、……やだぁ」
楓の可愛い啼き声に、ハッと我に返る。
楓の瞳には涙が滲んでいて、身体はビクビクと震えていた。
しかも、ここは、……玄関だ。
ーーーああ、俺は、また、やってしまった。
「うん、楓。すぐに気持ち良くしてあげる。ベッドに行こう」
俺がそう言うと、楓は首を振った。
「……まてない、です、……ここがいい」
「……っ。うん、そうしよう」
楓の言葉に煽られた俺は、はやる気持ちを抑えて避妊具の袋を取り出した。
そして、気付く。
そうだ。俺は手すら洗っていないじゃないか。
俺は一体、何をやってるんだ。
こんな手で、大事な楓に触れる訳にはいかない。
俺は避妊具を、楓に当たる外側に触れないように注意しながら取り付けた。
そして向かい合わせで立ったまま、楓の片脚を持ち上げながら下着を下げて、俺の先端を蜜口へと這わせた。
くちゅり、という音と楓の熱い吐息が玄関に響く。
そうだ。ドアの向こうは外じゃないか。
本当に俺は、何をやってるんだ。
俺は楓の唇を自分の唇で塞いだ。
楓の可愛い声は、絶対に、誰にも聞かせたくない。
そして、蜜口でたっぷりと蜜を纏わせた先端を楓の秘部へとスライドさせていく。
楓の体がビクビクと跳ねる。
先ほどまでの俺は、楓に快楽を与えようと必死だった。
楓が望む以上に焦らしすぎて、同時に俺も焦らされる状況に陥っていたため。
「んんーーーっ」
「ーーーっ」
あっという間に2人、達してしまった。
◇
その後、力の抜けた楓を横抱きにする。
玄関からベッドへと移動する俺の脳内では、反省会が始まった。
また、俺は黒い気持ちに支配されてしまった。
その頻度は増える一方だ。
きっかけはホワイトデーの翌週の金曜日、楓の会社へ迎えに行った際、女の子と歩いているのを目撃してしまったことだった。
ふわふわ系という程ではない『ちょいふわ系』の女の子で、だけど楓に向けた笑顔が一瞬葵ちゃんに見えて、俺は目を疑った。
もう一度目を凝らして見ると、『少し似ている』程度だったけど、俺の心に不安が満ちた。
楓と合流した後に聞くと、その女の子は以前、楓が会社のハラスメント男から助けた女の子で、それ以来仲良くなったという。
それを聞いた俺の心は、一瞬で黒い気持ちに染まった。
次は3月末、楓から人事異動の話を聞いた時だった。
その女の子が楓の課へ異動になり、楓が教育担当になったと聞いて、俺はまたもや黒い気持ちに支配された。
そして、今日は、車からうちに向かう途中、その女の子の歓迎会が来週あると聞いて、しかも歓迎会の後、二次会に2人で行く予定だと言われて。
黒い気持ちに囚われた俺は、家に入るなり、玄関で楓を抱き締め口付けた。
そのまま楓を壁に縫い止め、服の上から楓の体中を弄った。
敏感な場所にじわじわと刺激が与えられるように。
他の誰にも真似できないレベルの強い快感を、楓に与えようとしたのだ。
ーーー楓が俺から離れていかないように。
「俺、酷いな……」
一連の流れを思い出した俺の口から、後悔の言葉が漏れる。
すると、ベッドに寝かせた楓と目が合った。
「直樹さん、何かありました? また、黒いオーラが出てます?」
ああ、そうだ。
俺が黒い気持ちに支配されて、楓を泣かせるまで焦らしてしまう度に。
楓はそれを見透かしてしまうのだ。
俺は正直に話すことにした。
「楓、ごめんね。俺、また嫉妬してた。……今日なんか、玄関でしちゃうなんて……! ほんと、反省した」
「いいえ、反省しなくていいですよ、直樹さん!」
「え」
「すっごく気持ち良かったですし……! あ、いえ、それはいつもそうなんですけど、……黒い直樹さんっていつもとは少し違って……、それに、今日はいつもと場所も違って、……あの、何ていうか……そう!」
楓が言葉を探すように逡巡し、何かを思いついた後、とんでもない一言を放った。
「……興奮、しました……!」
「……っ」
そうだ。楓とお互いに口ですることになった時、脚が重いんじゃないかと気にする楓に、俺が同じ言葉を言ったのだ。
あの時は他の言い方が思いつかなくて、咄嗟に言ってしまったのだけど、……楓に同じ言葉を言われてしまうと。
「俺もした。……というか、楓の今の言葉で、また……興奮、したんだけど」
「……! えへへ、……私も、です」
「じゃ、もう一回しよっか」
楓がこくんと頷いた。
そこでふと、先ほど楓が『興奮した』と言った対象を思い出す。
「……もしかして、楓は俺が黒い方がいいの? それに、玄関がよかったりする?」
楓はふるふると首を振った。
「ここで、今の直樹さんと、……したいです」
「……うん」
俺はまた救われたような気持ちになって、涙を必死に堪えて、楓にキスをした。
何で俺はすぐ、黒い気持ちに支配されてしまうんだろう。
楓が浮気なんて不誠実なことをするなんて思ってる訳じゃない。
ただただ、怖いのだ。
楓に、他に大切な人ができてしまうことが。
俺と楓は、悠斗と葵ちゃんとは違う。
悠斗は、葵ちゃんが初恋で、恋愛に関する全ての経験は葵ちゃんが初めてで、葵ちゃんが全てだった。
たぶん葵ちゃんもそうだったんじゃないかなと思う。
だけど、俺も楓も、お互い初めての相手じゃない。
とはいえ俺は、本当の意味ではたぶん楓が初恋なんだと思う。
今まで『恋愛』だと思っていたものが勘違いだったんじゃないかと思うぐらいに、色んな想いが複雑に絡み合った強い感情を楓に対して抱いている。
こんなに欲しいもの、失ったら怖いと思うもの、今まで無かったから。
この黒い気持ちに、どうやって対処したらいいかがわからない……。
そんなことを考える俺に気付いたのか、楓はキスをしながら俺の髪を優しく撫でた。
瞳を開けると、慈愛に満ちた微笑みの楓と目が合う。
また、俺は楓に救われた気持ちになる。
そしてまた、楓を失うのが怖いという気持ちが膨らむのを感じた。
◇◇◇
……というのが先週の出来事だったのだけど。
ついに楓の課の歓迎会の前日になってしまった。
楓が俺以外の人間とお酒を飲む、というのが本当に嫌だ。
どんなに固いガードもお酒の前では緩みがちだし、どんな人格者の理性も吹っ飛ばす可能性だって秘めている。
黒い気持ちがどんどん膨らんでいく。
考えないようにするのに、すぐにそればかり考えてしまう。
……ダメだ。
不安になるのは、きっと暇だからだ。
俺はお風呂の広い部屋探しが難航していたことを思い出し、不動産サイトをチェックする。
4月に入ったことで新生活の引越しシーズンが落ち着いたのか、先日見た物件ばかりだった。
「……うまくいかないなぁ」
黒い気持ちへの対処も、不動産探しも。
ちょうどよく睡魔が訪れるのを感じたので、俺はスマホを閉じ、眠ることにした。
***
懐かしい夢だった。
「直樹もあのマンション買うの?」
夢の中の悠斗が不思議そうな顔をして俺を見ている。
まだ、悠斗の余命が宣告される前、悠斗とマンションの話をした時の出来事だ。
あの時、悠斗は今度こそ葵ちゃんにプロポーズすると意気込んでいたんだっけ。
夢の中の俺は、悠斗に向かって口を開いた。
「うん。ペットを飼いたくてさ。賃貸じゃ厳しいから、思い切って分譲マンションを買っちゃおうかなと思って」
「ふぅん。ペットって犬とか猫?」
「そうそう。室内飼いできる犬か猫がいいなと思ってる」
「直樹は犬派なの? それとも猫派?」
「うーん、聞かれた時は犬って答えてるけど。正直な気持ちは、どっちもそれぞれの魅力があって決められないんだよね。……悠斗は?」
「……僕は葵派。室内飼いで、一生部屋から出さずに愛でるんだ」
「ちょっと! 葵ちゃんを一生部屋から出さないなんて怖いからやめて」
「ふふっ、冗談だよ」
悠斗は黒い笑みを浮かべたまま言った。
……全然冗談に聞こえないのは、気のせいだろうか。
困惑する俺に構わず、悠斗は続けた。
「直樹は……そうだなぁ。犬とじゃれ合ってる感じが想像できるけど。……猫に振り回されてそうな感じもするんだよね」
「えっ?! 俺、そんなイメージなの?!」
「うん。だから、……そうだ! 猪突猛進な大型犬はどうかな?」
「『猪突猛進な大型犬』?」
「そうそう。従順で、愛情深くて、いつも直樹とじゃれ合ってるんだ。だけど、猪突猛進だからどこに行っちゃうかわからないし、直樹を強い力で引っ張るんだ。それで、直樹は振り回されちゃう。……うん、すごくしっくりくる」
「……」
従順で愛情深いけど、猪突猛進でどこに行ってしまうかわからない大型犬に、振り回される俺。
ものすごく複雑だったけど、自分でもしっくりきてしまった。
だけど、俺の頭にある疑問が浮かぶ。
「……でもさ、悠斗。あのマンション、大型犬飼っていいの?」
「あ。……小型犬じゃないとダメって言ってた」
気まずそうに言う悠斗の顔を見て、俺は思わず笑ってしまい、そのあと悠斗もつられたように笑った。
***
引越し先探しに難航していた俺にとっては天啓のような夢だった。
悠斗が葵ちゃんとの新居候補に考えていて、俺もペットと一緒に住もうとしていた、あのマンション。
俺の会社にも、楓の会社にも通いやすい。
悠斗も「駅から近いし、治安も悪くは無さそうだし、買い物も困らなそうだし、子育て環境も整ってて、すごく良かったよ」と言っていた。
確か当時調べた情報では、地価が年々上がっている土地で、中古マンションでも高く売れる。
これだけ条件が良ければ、結婚後に住み替えすることを前提に、あのマンションを購入してしまってもいいかもしれない。
だけど、よく考えると、悠斗とマンションの話をしたのは1年近く前のことだった。
売れてしまっている可能性が高いと思いつつ、あまり期待せずに販売会社に連絡すると、なんと一度完売した後にキャンセルが出て、ちょうど一部屋空いているとのことで、運命を感じた。
今日は1人でいても、きっと楓の歓迎会の不安に支配されるだけだ。
俺は会社帰りにマンションを見に行くことにした。
楓の可愛い啼き声に、ハッと我に返る。
楓の瞳には涙が滲んでいて、身体はビクビクと震えていた。
しかも、ここは、……玄関だ。
ーーーああ、俺は、また、やってしまった。
「うん、楓。すぐに気持ち良くしてあげる。ベッドに行こう」
俺がそう言うと、楓は首を振った。
「……まてない、です、……ここがいい」
「……っ。うん、そうしよう」
楓の言葉に煽られた俺は、はやる気持ちを抑えて避妊具の袋を取り出した。
そして、気付く。
そうだ。俺は手すら洗っていないじゃないか。
俺は一体、何をやってるんだ。
こんな手で、大事な楓に触れる訳にはいかない。
俺は避妊具を、楓に当たる外側に触れないように注意しながら取り付けた。
そして向かい合わせで立ったまま、楓の片脚を持ち上げながら下着を下げて、俺の先端を蜜口へと這わせた。
くちゅり、という音と楓の熱い吐息が玄関に響く。
そうだ。ドアの向こうは外じゃないか。
本当に俺は、何をやってるんだ。
俺は楓の唇を自分の唇で塞いだ。
楓の可愛い声は、絶対に、誰にも聞かせたくない。
そして、蜜口でたっぷりと蜜を纏わせた先端を楓の秘部へとスライドさせていく。
楓の体がビクビクと跳ねる。
先ほどまでの俺は、楓に快楽を与えようと必死だった。
楓が望む以上に焦らしすぎて、同時に俺も焦らされる状況に陥っていたため。
「んんーーーっ」
「ーーーっ」
あっという間に2人、達してしまった。
◇
その後、力の抜けた楓を横抱きにする。
玄関からベッドへと移動する俺の脳内では、反省会が始まった。
また、俺は黒い気持ちに支配されてしまった。
その頻度は増える一方だ。
きっかけはホワイトデーの翌週の金曜日、楓の会社へ迎えに行った際、女の子と歩いているのを目撃してしまったことだった。
ふわふわ系という程ではない『ちょいふわ系』の女の子で、だけど楓に向けた笑顔が一瞬葵ちゃんに見えて、俺は目を疑った。
もう一度目を凝らして見ると、『少し似ている』程度だったけど、俺の心に不安が満ちた。
楓と合流した後に聞くと、その女の子は以前、楓が会社のハラスメント男から助けた女の子で、それ以来仲良くなったという。
それを聞いた俺の心は、一瞬で黒い気持ちに染まった。
次は3月末、楓から人事異動の話を聞いた時だった。
その女の子が楓の課へ異動になり、楓が教育担当になったと聞いて、俺はまたもや黒い気持ちに支配された。
そして、今日は、車からうちに向かう途中、その女の子の歓迎会が来週あると聞いて、しかも歓迎会の後、二次会に2人で行く予定だと言われて。
黒い気持ちに囚われた俺は、家に入るなり、玄関で楓を抱き締め口付けた。
そのまま楓を壁に縫い止め、服の上から楓の体中を弄った。
敏感な場所にじわじわと刺激が与えられるように。
他の誰にも真似できないレベルの強い快感を、楓に与えようとしたのだ。
ーーー楓が俺から離れていかないように。
「俺、酷いな……」
一連の流れを思い出した俺の口から、後悔の言葉が漏れる。
すると、ベッドに寝かせた楓と目が合った。
「直樹さん、何かありました? また、黒いオーラが出てます?」
ああ、そうだ。
俺が黒い気持ちに支配されて、楓を泣かせるまで焦らしてしまう度に。
楓はそれを見透かしてしまうのだ。
俺は正直に話すことにした。
「楓、ごめんね。俺、また嫉妬してた。……今日なんか、玄関でしちゃうなんて……! ほんと、反省した」
「いいえ、反省しなくていいですよ、直樹さん!」
「え」
「すっごく気持ち良かったですし……! あ、いえ、それはいつもそうなんですけど、……黒い直樹さんっていつもとは少し違って……、それに、今日はいつもと場所も違って、……あの、何ていうか……そう!」
楓が言葉を探すように逡巡し、何かを思いついた後、とんでもない一言を放った。
「……興奮、しました……!」
「……っ」
そうだ。楓とお互いに口ですることになった時、脚が重いんじゃないかと気にする楓に、俺が同じ言葉を言ったのだ。
あの時は他の言い方が思いつかなくて、咄嗟に言ってしまったのだけど、……楓に同じ言葉を言われてしまうと。
「俺もした。……というか、楓の今の言葉で、また……興奮、したんだけど」
「……! えへへ、……私も、です」
「じゃ、もう一回しよっか」
楓がこくんと頷いた。
そこでふと、先ほど楓が『興奮した』と言った対象を思い出す。
「……もしかして、楓は俺が黒い方がいいの? それに、玄関がよかったりする?」
楓はふるふると首を振った。
「ここで、今の直樹さんと、……したいです」
「……うん」
俺はまた救われたような気持ちになって、涙を必死に堪えて、楓にキスをした。
何で俺はすぐ、黒い気持ちに支配されてしまうんだろう。
楓が浮気なんて不誠実なことをするなんて思ってる訳じゃない。
ただただ、怖いのだ。
楓に、他に大切な人ができてしまうことが。
俺と楓は、悠斗と葵ちゃんとは違う。
悠斗は、葵ちゃんが初恋で、恋愛に関する全ての経験は葵ちゃんが初めてで、葵ちゃんが全てだった。
たぶん葵ちゃんもそうだったんじゃないかなと思う。
だけど、俺も楓も、お互い初めての相手じゃない。
とはいえ俺は、本当の意味ではたぶん楓が初恋なんだと思う。
今まで『恋愛』だと思っていたものが勘違いだったんじゃないかと思うぐらいに、色んな想いが複雑に絡み合った強い感情を楓に対して抱いている。
こんなに欲しいもの、失ったら怖いと思うもの、今まで無かったから。
この黒い気持ちに、どうやって対処したらいいかがわからない……。
そんなことを考える俺に気付いたのか、楓はキスをしながら俺の髪を優しく撫でた。
瞳を開けると、慈愛に満ちた微笑みの楓と目が合う。
また、俺は楓に救われた気持ちになる。
そしてまた、楓を失うのが怖いという気持ちが膨らむのを感じた。
◇◇◇
……というのが先週の出来事だったのだけど。
ついに楓の課の歓迎会の前日になってしまった。
楓が俺以外の人間とお酒を飲む、というのが本当に嫌だ。
どんなに固いガードもお酒の前では緩みがちだし、どんな人格者の理性も吹っ飛ばす可能性だって秘めている。
黒い気持ちがどんどん膨らんでいく。
考えないようにするのに、すぐにそればかり考えてしまう。
……ダメだ。
不安になるのは、きっと暇だからだ。
俺はお風呂の広い部屋探しが難航していたことを思い出し、不動産サイトをチェックする。
4月に入ったことで新生活の引越しシーズンが落ち着いたのか、先日見た物件ばかりだった。
「……うまくいかないなぁ」
黒い気持ちへの対処も、不動産探しも。
ちょうどよく睡魔が訪れるのを感じたので、俺はスマホを閉じ、眠ることにした。
***
懐かしい夢だった。
「直樹もあのマンション買うの?」
夢の中の悠斗が不思議そうな顔をして俺を見ている。
まだ、悠斗の余命が宣告される前、悠斗とマンションの話をした時の出来事だ。
あの時、悠斗は今度こそ葵ちゃんにプロポーズすると意気込んでいたんだっけ。
夢の中の俺は、悠斗に向かって口を開いた。
「うん。ペットを飼いたくてさ。賃貸じゃ厳しいから、思い切って分譲マンションを買っちゃおうかなと思って」
「ふぅん。ペットって犬とか猫?」
「そうそう。室内飼いできる犬か猫がいいなと思ってる」
「直樹は犬派なの? それとも猫派?」
「うーん、聞かれた時は犬って答えてるけど。正直な気持ちは、どっちもそれぞれの魅力があって決められないんだよね。……悠斗は?」
「……僕は葵派。室内飼いで、一生部屋から出さずに愛でるんだ」
「ちょっと! 葵ちゃんを一生部屋から出さないなんて怖いからやめて」
「ふふっ、冗談だよ」
悠斗は黒い笑みを浮かべたまま言った。
……全然冗談に聞こえないのは、気のせいだろうか。
困惑する俺に構わず、悠斗は続けた。
「直樹は……そうだなぁ。犬とじゃれ合ってる感じが想像できるけど。……猫に振り回されてそうな感じもするんだよね」
「えっ?! 俺、そんなイメージなの?!」
「うん。だから、……そうだ! 猪突猛進な大型犬はどうかな?」
「『猪突猛進な大型犬』?」
「そうそう。従順で、愛情深くて、いつも直樹とじゃれ合ってるんだ。だけど、猪突猛進だからどこに行っちゃうかわからないし、直樹を強い力で引っ張るんだ。それで、直樹は振り回されちゃう。……うん、すごくしっくりくる」
「……」
従順で愛情深いけど、猪突猛進でどこに行ってしまうかわからない大型犬に、振り回される俺。
ものすごく複雑だったけど、自分でもしっくりきてしまった。
だけど、俺の頭にある疑問が浮かぶ。
「……でもさ、悠斗。あのマンション、大型犬飼っていいの?」
「あ。……小型犬じゃないとダメって言ってた」
気まずそうに言う悠斗の顔を見て、俺は思わず笑ってしまい、そのあと悠斗もつられたように笑った。
***
引越し先探しに難航していた俺にとっては天啓のような夢だった。
悠斗が葵ちゃんとの新居候補に考えていて、俺もペットと一緒に住もうとしていた、あのマンション。
俺の会社にも、楓の会社にも通いやすい。
悠斗も「駅から近いし、治安も悪くは無さそうだし、買い物も困らなそうだし、子育て環境も整ってて、すごく良かったよ」と言っていた。
確か当時調べた情報では、地価が年々上がっている土地で、中古マンションでも高く売れる。
これだけ条件が良ければ、結婚後に住み替えすることを前提に、あのマンションを購入してしまってもいいかもしれない。
だけど、よく考えると、悠斗とマンションの話をしたのは1年近く前のことだった。
売れてしまっている可能性が高いと思いつつ、あまり期待せずに販売会社に連絡すると、なんと一度完売した後にキャンセルが出て、ちょうど一部屋空いているとのことで、運命を感じた。
今日は1人でいても、きっと楓の歓迎会の不安に支配されるだけだ。
俺は会社帰りにマンションを見に行くことにした。
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