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7. 私と結ばれた幼馴染が、この期に及んで「両想いじゃない」と言い始めたんですが?!
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気付いたら、私と徹は見渡す限り白に包まれた空間の中にいた。
直前まで、あんな快感と痛みの渦の中にいたのに、その感情は消え去っていて、服もちゃんと着ていた。
『徹!那奈!』
「あっ神様!」
『お前達、よくやった!トールとナンナは無事に体から切り離され……!?』
その瞬間、徹が神様の胸ぐらを掴んだ。
「おいお前!さっきはよくも俺らに尻拭いを押し付けて逃げやがったな~~~~~」
『おいおい、徹!那奈と結ばれたんじゃろ?むしろワシに感謝してほしいぞ』
「それとこれとは全く別の問題だ!」
『え~~~でも、徹。ワシ、頑張ったんじゃぞ!
お前らのアレコレをトールとナンナに見られるのは気まずいじゃろうと気を利かせて、2人を先にここまで連れて来てやったんじゃ!感謝せい☆』
「え……」
神様が指を差した方を向くと、ナンナさんとトールさんがいた。
「ナンナさん!トールさん!」
「那奈ちゃん、徹くん、よかったな。ちゃんと両想いになって……。徹くんの告白、感動したぞ」
ナンナさんが朗らかに笑って言う。
ナンナさんには色々お見通しだったらしい。
「それにな、徹くんが私とトールの後悔を聞いて、告白したと言っていただろう?私の前世が、2人の両想いによって報われたような気持ちになったんだ」
「ああ、そうだな。確かに俺もそんな気分だ」
ナンナさんとトールさんは言葉通り、先程よりも清々しい表情をしていた。
「ナンナさん……!トールさん……!」
2人の悲劇の前世が報われた気持ちになるなんて、本当によかった!それが私たちの恋の成就によるものだなんて、すごく嬉しい!
溢れ出る感動を分かち合いたくて、徹の方を見ると。
……なぜか徹は、この世の終わりのような顔をしていた。
え?何で??
徹は悲壮感を漂わせながら、口を開いた。
「……両想いには、なっていない」
「「「『え?』」」」
その場が一瞬で凍りついた。
そして、神様、トールさん、ナンナさんが動揺しながら口を開いた。
『いやいやいや!徹、流石のワシでも、それはないと思うぞ!』
「……徹、お前、今更何を言っているんだ?」
「徹くん……まさかとは思うが、あの告白の後、何かあったのか?」
その時、私はというと、天国のような幸福感から地獄のような絶望感に突き落とされ、暗い暗い気持ちに囚われていた。
ーーー私のこと好きって言ってくれたのに?私と結ばれたいって言ってくれたのに?あんなに優しく抱いてくれたのに?
全部、嘘だったの?
それとも、幻滅しちゃった?
もう、私のことなんて好きじゃなくなっちゃったの?
私の瞳から涙がポロポロ落ちる。
「何で?徹……どうして?」
「ちょっ……えっ那奈?!」
「やっと私のこと見てくれたと思ったのに、やっぱりダメだなんて……」
「何で那奈が泣くんだ?!」
「私、もうこれ以上どうしたらいいかわからないよ……!」
今度こそ諦めなきゃいけないの?
でも……徹と結ばれる幸せを知ってしまったのに、諦めるなんて私にできるの?
胸が張り裂けそうになった。
すると、徹が口を開いた。
「……どうしたらいいかわからないのは俺の方だよ!」
「「「『え?』」」」
その時、その場の徹以外の全員の頭に?が浮かんだ。
「俺は那奈が好きだけど……でも、那奈は違うだろ?」
「「「『え?』」」」
私はあまりの驚きに、暗い気持ちも涙も引っ込んでしまった。
徹はかなり混乱している様子で続けた。
「那奈と結ばれてこんなに幸せなのに、俺の片想いだなんて……今後、那奈を見る度に、絶対さっきのこと思い出して意識してしまうに違いないのに、そんな状態で那奈に俺のことを好きになってもらえるようアプローチすることなんて、俺には絶対に無理だ。そして俺が那奈と上手く接することができないうちに、トールみたいな良い男が颯爽と現れて、那奈のことを攫っていくんだ……あああああそんなことになったら、俺は絶対耐えられねえええええ」
……まさか!徹は『両想い』じゃなくて、『徹の片想い』だと思ってる?!
思考停止状態から戻った私は、慌てて言った。
「待って!徹!」
「え?」
「私、徹のこと大好きだよ!私も徹と付き合いたいと思ってるよ!なんなら今すぐ結婚したいとも思ってるよ!」
徹は、目を見開き、固まったあと……
「えええええ!!!」
なぜかめちゃくちゃ驚いた。
そんな徹を見て、ナンナさん、トールさん、神様が驚いて口を開く。
「徹くん、まさか知らなかったのか?!私、那奈ちゃんの気持ちには会ってすぐ気付いたから、てっきり徹くんにも伝わってるものだと思っていたよ」
「確かに。那奈の方は態度ですぐわかったな」
『そういうのに疎いと言われるワシでも気付いたぞ☆』
徹は叫んだ。
「はああああ?まさか俺だけ知らなかったのか?!
……俺、さっき那奈と結ばれた時、これが最初で最後かと思ってめちゃくちゃ切なかったのに」
えええええ!さっきの今生の別れのような表情に、まさかそんな理由があったとは!
でも何で、徹はこの期に及んでこんな勘違いをしちゃったんだろう?
すると、徹がその答えを口にした。
「俺が告白した時、那奈は俺を好きかどうかについては何も言わなかったから……。てっきり、俺は那奈に好かれてないと思ったんだよ。なんだ、よかったーーー」
「……え?」
いやいやいや、そんな!徹から告白されるのをずっと夢見ていた私が、何も言わないなんて、そんなことある訳……。
私は徹から告白された時のことを思い出す。
ーーー確かに、私、言 っ て な い 。
そうだ、私、徹が告白してくれた時、言葉に詰まってしまって。
徹が「那奈と結ばれたい」って言ってくれたから、このまま、初めては徹と私で結ばれるんだと、舞い上がってしまって。
なのに徹がトールさんに交代しようとして焦ってしまって。
交代しちゃう前に、私が徹と結ばれるにはどうしたら良いかばかり考えてしまって。
……徹に「好き」と伝えるのを忘れてしまったのだ。
私が徹と結ばれたいだなんて、自分勝手なことばかり考えていたせいで、徹にあんな切なそうな顔をさせてしまったのだ。
私の顔から血の気がサーッと引いていく。
「徹、ごめん……私、言ってなかった」
「那奈?!違うぞ!気付かなかった俺が悪いんだ」
こんな時でも優しい徹に、涙が溢れる。
「私……実は、あの時、私は徹と結ばれたかったのに徹はそうじゃなくて焦っちゃって、好きって言い忘れちゃったの!」
「ええっ?!」
「ちなみに、ナンナさんに私の体を使っていいって言ったのも、徹と体だけでも結ばれたかったからなの!
私ずっと徹に片想いしてたのに、徹は私に全然見向きもしてくれなかったから……。
徹の心が手に入らないなら、体だけでも徹と結ばれたいなんて自分勝手で重いこと考えてたの!」
「えええええっ?!」
徹は驚いた声を上げたあと、固まった。
やっぱりこんな自分勝手で重い女、嫌だよね。
どうしよう……徹に引かれちゃったかもしれない。
すると、徹は口を開いた。
「……那奈、今のって冗談とかじゃなく、本気で言ってるのか?」
「……うん、本気だよ」
徹は私の答えを聞いて、少し考えたあと、質問を続けた。
「……もしかしてさ、那奈が今まで俺に言ってた『徹になら何されたっていい』とか、ああいうのも冗談とかじゃなくて……全部本気だったのか?」
「えええ!!!冗談なんかじゃないよ!もちろん全部本気だったよ?」
私が言い終えた瞬間、徹はまるで雷に打たれたかのような表情になった。
そうか!徹は私の本音を冗談だと思っていたのか。
確かに……ただの幼馴染としか思ってない相手から、あんな重いことばっかり言われたら普通は困るよね。
きっと徹は、幼馴染として普通に接するために、私の言うことを全部冗談だと思うようにしてたのかもしれない。
でも、全部本気だったと知られた今……、今度こそ徹に拒絶されるのかもしれない。
「那奈、ごめん……俺」
ーーー徹、やだ!謝らないで!
拒絶の言葉なんか、聞きたくないよ!
咄嗟にそう思ってギュッと目を瞑った私に、徹からかけられたのは思ってもみない言葉だった。
「俺、今までずっと、那奈にそういうこと言われる度に、『那奈は俺が好き』だと勘違いしそうになって!
その度に、『那奈は冗談で言ってるんだから勘違いするな』って自分に言い聞かせてたんだ!」
私は目を見開き、徹を見た。
「え!!!……何で?」
「いや、だってさ……。
那奈みたいな……美人で可愛くてまっすぐな子が、俺なんかのこと好きになる訳ないと思ってて……」
「え……?!
徹、私のこと、そんな風に思ってたの?!」
そんなこと言われたら……照れてしまう!!!
私は頬に熱が集まっていくのを感じた。
徹も同じように顔を赤くしている。
「……うん。
だからさ、那奈が俺を好きだなんて、そんな俺に都合の良いことが起こる訳ないと思って。
全部那奈の冗談だって、自分に言い聞かせてた……」
「そう、だったんだ……」
……道理で距離が縮まらない訳だ!
私のことをそんな風に思っててくれて嬉しい気持ちと、そんな風に思ってくれてたのに全部冗談だと思われていたという悲しい気持ちで、私の頭の中は大混乱だった。
「……でもさ、よく考えたら、いつもまっすぐな那奈が、俺を弄ぶような冗談、言う訳がないんだよな……。
何で今まで気付かなかったんだろう。
俺、本当バカだな……」
徹は自嘲気味に言ったあと、私の方を真剣な表情で見て言った。
「……那奈、俺、那奈が好きだ。
だから、那奈、……俺と付き合ってくれないか?」
「……う、嬉しい。嬉しいけど……徹は、こんなに自分勝手で重い私、嫌じゃないの?」
徹は少しキョトンとした後、すぐに嬉しそうに笑って言った。
「ううん、全然嫌じゃない。
むしろ、那奈にそこまで想ってもらえてたなんて、めちゃくちゃ嬉しいよ」
「……本当?」
私は安堵で涙が溢れてしまう。
「うん。……だからさ、俺と付き合ってよ。那奈」
「……うん!私、徹と付き合いたい!」
私は徹の胸に飛び込んだ。
「徹!私、徹が大好きだよ!
あの時ちゃんと言わなくて、切ない想いをさせてごめんね」
すると、徹は眉を下げながら、優しい笑みを浮かべて言った。
「……いいんだ、那奈。気にするな。
気付かなかった俺が悪いんだから。本当にごめんな」
「……ううん、徹……!」
徹は少し申し訳なさそうな笑顔のまま、私の涙を拭ってくれた。
すると、ナンナさんが眉を下げて言った。
「徹くん、私も徹くんが告白した時のことを思い出してみたんだが。恐らく私たちのことがあって、那奈ちゃんは伝えるタイミングを逃してしまったように思う。本当に申し訳ない」
「いえいえいえ!ナンナさんは全然悪くないですよ!悪いのは、そもそも、うっかり魂を落とした……」
徹がそう言って、神様を睨むと……神様は慌てて話題を変えた。
『おっ!そうじゃった、忘れておった!さっき言おうとしたんじゃが、徹と那奈が結ばれたことで、ナンナとトールが無事、徹と那奈の体から切り離されたぞ!』
「は?……お前、『トールとナンナが徹と那奈の体で結ばれれば』って言ってたじゃねーか!」
『すまんすまん!ワシもこんなケースは初めてじゃったから、わからんことも多くてな!まー結果オーライというやつじゃな☆』
「だ~か~ら~!お前が言うなああああああああああ」
徹がまた神様に詰め寄った。
それを見て笑っているナンナさんとトールさんに、私は向き合って言った。
「ナンナさん!トールさん!無事に私たちの体から切り離されたんですね!
これで……生まれ変わることができるんですね!」
すると、トールさんとナンナさんは笑顔で口を開いた。
「ああ。徹と那奈のおかげだ。」
「那奈ちゃん、ありがとう」
私は、そのまま2人に頭を下げる。
「さっき徹に言ったことなんですが……、私、お二人の状況を自分の気持ちのために利用したんです!……本当にごめんなさい」
ナンナさんとトールさんは目を見開いたあと、優しい笑みを浮かべて言った。
「那奈ちゃん、いいんだよ。那奈ちゃんの中では、私達のことも考えた上での最善策だったんだろう?那奈ちゃんが言い出してくれなければ、私は覚悟が決まらなかったし、徹くんの告白もなかったと思うよ。そして結果、2人のおかげで私たちの魂は救われて、本当に感謝しているんだ。神様の言うとおり、結果オーライだよ」
「ああ、そうだな。俺もナンナと同じく、那奈と徹に感謝だ」
「ナンナさん、トールさん……!」
2人の優しい言葉に、涙がまた溢れてしまった。
しかし、感動している私に、トールさんの口から思ってもみない言葉が出てきた。
「それにな、那奈。実は、俺も那奈と徹に謝らなければならないことがある」
「「え?」」
私と徹は同時に目を見開いた。
「俺は那奈の恋心を利用し、徹を焚き付けた」
「は?……たきつけ……?」
「ああ。徹、悪かったな。
俺は俺以外の男の体でナンナを抱くのを、できれば避けたかった。
那奈の恋心は察していて、徹も那奈を意識していることはわかっていた。
神が信用に値しなかったことから、もしかしたら徹と那奈が結ばれることで、俺たちが解放される可能性もあると踏んだ。
だから、徹を焚き付けて、徹と那奈が先に結ばれるよう仕向けたんだ」
「「「え……」」」
ナンナさんまで呆気に取られながらトールさんを見ている。
徹が口を開いた。
「……だからあの時、トールは俺に『いいのか?』って言ったのか?」
「ああ、そうだ。
なのに徹は告白した後、なぜか俺たちに体を戻そうとするから、……俺もあの時は本当に焦った。
徹を思いとどまらせてくれたことに対しても、那奈には感謝だな」
「いや、だって、あの時は那奈が俺を好きだなんて思わなくて……まさかあんな展開になるとは……」
徹がしどろもどろになって弁解する。
私はイタズラっぽく笑ってトールさんに向かって言った。
「……私も、あの時は本当に焦りました」
「おい、那奈まで!」
私は徹にえへへ、と笑ってから、トールさんに向かって言った。
「トールさん、私たちが結ばれる機会を作ってくれて、本当にありがとうございました!」
徹も照れたように口を開く。
「俺も……。ありがとな、トール。」
トールさんは私たちに向かって柔らかく笑った後、徹を見ながらニヤリと笑って口を開いた。
「……まあ、徹はあのままじゃ、ナンナのように死ぬ間際まで自覚しなかった可能性もあっただろうからな」
「「おい!トール!」」
徹とナンナさんが同時に言った。
「えへへ、確かにそうですね」
「おい!那奈まで!」
眉を下げながら笑うナンナさん、そんなナンナさんを優しく見つめるトールさん、拗ねた顔をする徹を見て、私はまたえへへ、と笑った。
そして徹は、
「もーお前は……」
と言って、優しい笑みを浮かべ、私の髪をくしゃっと撫でた。
ーーーこの騒がしい1日の最後に相応しい、とっても穏やかな時間だった。
だからこの後、私と徹がまさかあんな事態に陥るなんて、この時は思ってもみなかったのだ。
直前まで、あんな快感と痛みの渦の中にいたのに、その感情は消え去っていて、服もちゃんと着ていた。
『徹!那奈!』
「あっ神様!」
『お前達、よくやった!トールとナンナは無事に体から切り離され……!?』
その瞬間、徹が神様の胸ぐらを掴んだ。
「おいお前!さっきはよくも俺らに尻拭いを押し付けて逃げやがったな~~~~~」
『おいおい、徹!那奈と結ばれたんじゃろ?むしろワシに感謝してほしいぞ』
「それとこれとは全く別の問題だ!」
『え~~~でも、徹。ワシ、頑張ったんじゃぞ!
お前らのアレコレをトールとナンナに見られるのは気まずいじゃろうと気を利かせて、2人を先にここまで連れて来てやったんじゃ!感謝せい☆』
「え……」
神様が指を差した方を向くと、ナンナさんとトールさんがいた。
「ナンナさん!トールさん!」
「那奈ちゃん、徹くん、よかったな。ちゃんと両想いになって……。徹くんの告白、感動したぞ」
ナンナさんが朗らかに笑って言う。
ナンナさんには色々お見通しだったらしい。
「それにな、徹くんが私とトールの後悔を聞いて、告白したと言っていただろう?私の前世が、2人の両想いによって報われたような気持ちになったんだ」
「ああ、そうだな。確かに俺もそんな気分だ」
ナンナさんとトールさんは言葉通り、先程よりも清々しい表情をしていた。
「ナンナさん……!トールさん……!」
2人の悲劇の前世が報われた気持ちになるなんて、本当によかった!それが私たちの恋の成就によるものだなんて、すごく嬉しい!
溢れ出る感動を分かち合いたくて、徹の方を見ると。
……なぜか徹は、この世の終わりのような顔をしていた。
え?何で??
徹は悲壮感を漂わせながら、口を開いた。
「……両想いには、なっていない」
「「「『え?』」」」
その場が一瞬で凍りついた。
そして、神様、トールさん、ナンナさんが動揺しながら口を開いた。
『いやいやいや!徹、流石のワシでも、それはないと思うぞ!』
「……徹、お前、今更何を言っているんだ?」
「徹くん……まさかとは思うが、あの告白の後、何かあったのか?」
その時、私はというと、天国のような幸福感から地獄のような絶望感に突き落とされ、暗い暗い気持ちに囚われていた。
ーーー私のこと好きって言ってくれたのに?私と結ばれたいって言ってくれたのに?あんなに優しく抱いてくれたのに?
全部、嘘だったの?
それとも、幻滅しちゃった?
もう、私のことなんて好きじゃなくなっちゃったの?
私の瞳から涙がポロポロ落ちる。
「何で?徹……どうして?」
「ちょっ……えっ那奈?!」
「やっと私のこと見てくれたと思ったのに、やっぱりダメだなんて……」
「何で那奈が泣くんだ?!」
「私、もうこれ以上どうしたらいいかわからないよ……!」
今度こそ諦めなきゃいけないの?
でも……徹と結ばれる幸せを知ってしまったのに、諦めるなんて私にできるの?
胸が張り裂けそうになった。
すると、徹が口を開いた。
「……どうしたらいいかわからないのは俺の方だよ!」
「「「『え?』」」」
その時、その場の徹以外の全員の頭に?が浮かんだ。
「俺は那奈が好きだけど……でも、那奈は違うだろ?」
「「「『え?』」」」
私はあまりの驚きに、暗い気持ちも涙も引っ込んでしまった。
徹はかなり混乱している様子で続けた。
「那奈と結ばれてこんなに幸せなのに、俺の片想いだなんて……今後、那奈を見る度に、絶対さっきのこと思い出して意識してしまうに違いないのに、そんな状態で那奈に俺のことを好きになってもらえるようアプローチすることなんて、俺には絶対に無理だ。そして俺が那奈と上手く接することができないうちに、トールみたいな良い男が颯爽と現れて、那奈のことを攫っていくんだ……あああああそんなことになったら、俺は絶対耐えられねえええええ」
……まさか!徹は『両想い』じゃなくて、『徹の片想い』だと思ってる?!
思考停止状態から戻った私は、慌てて言った。
「待って!徹!」
「え?」
「私、徹のこと大好きだよ!私も徹と付き合いたいと思ってるよ!なんなら今すぐ結婚したいとも思ってるよ!」
徹は、目を見開き、固まったあと……
「えええええ!!!」
なぜかめちゃくちゃ驚いた。
そんな徹を見て、ナンナさん、トールさん、神様が驚いて口を開く。
「徹くん、まさか知らなかったのか?!私、那奈ちゃんの気持ちには会ってすぐ気付いたから、てっきり徹くんにも伝わってるものだと思っていたよ」
「確かに。那奈の方は態度ですぐわかったな」
『そういうのに疎いと言われるワシでも気付いたぞ☆』
徹は叫んだ。
「はああああ?まさか俺だけ知らなかったのか?!
……俺、さっき那奈と結ばれた時、これが最初で最後かと思ってめちゃくちゃ切なかったのに」
えええええ!さっきの今生の別れのような表情に、まさかそんな理由があったとは!
でも何で、徹はこの期に及んでこんな勘違いをしちゃったんだろう?
すると、徹がその答えを口にした。
「俺が告白した時、那奈は俺を好きかどうかについては何も言わなかったから……。てっきり、俺は那奈に好かれてないと思ったんだよ。なんだ、よかったーーー」
「……え?」
いやいやいや、そんな!徹から告白されるのをずっと夢見ていた私が、何も言わないなんて、そんなことある訳……。
私は徹から告白された時のことを思い出す。
ーーー確かに、私、言 っ て な い 。
そうだ、私、徹が告白してくれた時、言葉に詰まってしまって。
徹が「那奈と結ばれたい」って言ってくれたから、このまま、初めては徹と私で結ばれるんだと、舞い上がってしまって。
なのに徹がトールさんに交代しようとして焦ってしまって。
交代しちゃう前に、私が徹と結ばれるにはどうしたら良いかばかり考えてしまって。
……徹に「好き」と伝えるのを忘れてしまったのだ。
私が徹と結ばれたいだなんて、自分勝手なことばかり考えていたせいで、徹にあんな切なそうな顔をさせてしまったのだ。
私の顔から血の気がサーッと引いていく。
「徹、ごめん……私、言ってなかった」
「那奈?!違うぞ!気付かなかった俺が悪いんだ」
こんな時でも優しい徹に、涙が溢れる。
「私……実は、あの時、私は徹と結ばれたかったのに徹はそうじゃなくて焦っちゃって、好きって言い忘れちゃったの!」
「ええっ?!」
「ちなみに、ナンナさんに私の体を使っていいって言ったのも、徹と体だけでも結ばれたかったからなの!
私ずっと徹に片想いしてたのに、徹は私に全然見向きもしてくれなかったから……。
徹の心が手に入らないなら、体だけでも徹と結ばれたいなんて自分勝手で重いこと考えてたの!」
「えええええっ?!」
徹は驚いた声を上げたあと、固まった。
やっぱりこんな自分勝手で重い女、嫌だよね。
どうしよう……徹に引かれちゃったかもしれない。
すると、徹は口を開いた。
「……那奈、今のって冗談とかじゃなく、本気で言ってるのか?」
「……うん、本気だよ」
徹は私の答えを聞いて、少し考えたあと、質問を続けた。
「……もしかしてさ、那奈が今まで俺に言ってた『徹になら何されたっていい』とか、ああいうのも冗談とかじゃなくて……全部本気だったのか?」
「えええ!!!冗談なんかじゃないよ!もちろん全部本気だったよ?」
私が言い終えた瞬間、徹はまるで雷に打たれたかのような表情になった。
そうか!徹は私の本音を冗談だと思っていたのか。
確かに……ただの幼馴染としか思ってない相手から、あんな重いことばっかり言われたら普通は困るよね。
きっと徹は、幼馴染として普通に接するために、私の言うことを全部冗談だと思うようにしてたのかもしれない。
でも、全部本気だったと知られた今……、今度こそ徹に拒絶されるのかもしれない。
「那奈、ごめん……俺」
ーーー徹、やだ!謝らないで!
拒絶の言葉なんか、聞きたくないよ!
咄嗟にそう思ってギュッと目を瞑った私に、徹からかけられたのは思ってもみない言葉だった。
「俺、今までずっと、那奈にそういうこと言われる度に、『那奈は俺が好き』だと勘違いしそうになって!
その度に、『那奈は冗談で言ってるんだから勘違いするな』って自分に言い聞かせてたんだ!」
私は目を見開き、徹を見た。
「え!!!……何で?」
「いや、だってさ……。
那奈みたいな……美人で可愛くてまっすぐな子が、俺なんかのこと好きになる訳ないと思ってて……」
「え……?!
徹、私のこと、そんな風に思ってたの?!」
そんなこと言われたら……照れてしまう!!!
私は頬に熱が集まっていくのを感じた。
徹も同じように顔を赤くしている。
「……うん。
だからさ、那奈が俺を好きだなんて、そんな俺に都合の良いことが起こる訳ないと思って。
全部那奈の冗談だって、自分に言い聞かせてた……」
「そう、だったんだ……」
……道理で距離が縮まらない訳だ!
私のことをそんな風に思っててくれて嬉しい気持ちと、そんな風に思ってくれてたのに全部冗談だと思われていたという悲しい気持ちで、私の頭の中は大混乱だった。
「……でもさ、よく考えたら、いつもまっすぐな那奈が、俺を弄ぶような冗談、言う訳がないんだよな……。
何で今まで気付かなかったんだろう。
俺、本当バカだな……」
徹は自嘲気味に言ったあと、私の方を真剣な表情で見て言った。
「……那奈、俺、那奈が好きだ。
だから、那奈、……俺と付き合ってくれないか?」
「……う、嬉しい。嬉しいけど……徹は、こんなに自分勝手で重い私、嫌じゃないの?」
徹は少しキョトンとした後、すぐに嬉しそうに笑って言った。
「ううん、全然嫌じゃない。
むしろ、那奈にそこまで想ってもらえてたなんて、めちゃくちゃ嬉しいよ」
「……本当?」
私は安堵で涙が溢れてしまう。
「うん。……だからさ、俺と付き合ってよ。那奈」
「……うん!私、徹と付き合いたい!」
私は徹の胸に飛び込んだ。
「徹!私、徹が大好きだよ!
あの時ちゃんと言わなくて、切ない想いをさせてごめんね」
すると、徹は眉を下げながら、優しい笑みを浮かべて言った。
「……いいんだ、那奈。気にするな。
気付かなかった俺が悪いんだから。本当にごめんな」
「……ううん、徹……!」
徹は少し申し訳なさそうな笑顔のまま、私の涙を拭ってくれた。
すると、ナンナさんが眉を下げて言った。
「徹くん、私も徹くんが告白した時のことを思い出してみたんだが。恐らく私たちのことがあって、那奈ちゃんは伝えるタイミングを逃してしまったように思う。本当に申し訳ない」
「いえいえいえ!ナンナさんは全然悪くないですよ!悪いのは、そもそも、うっかり魂を落とした……」
徹がそう言って、神様を睨むと……神様は慌てて話題を変えた。
『おっ!そうじゃった、忘れておった!さっき言おうとしたんじゃが、徹と那奈が結ばれたことで、ナンナとトールが無事、徹と那奈の体から切り離されたぞ!』
「は?……お前、『トールとナンナが徹と那奈の体で結ばれれば』って言ってたじゃねーか!」
『すまんすまん!ワシもこんなケースは初めてじゃったから、わからんことも多くてな!まー結果オーライというやつじゃな☆』
「だ~か~ら~!お前が言うなああああああああああ」
徹がまた神様に詰め寄った。
それを見て笑っているナンナさんとトールさんに、私は向き合って言った。
「ナンナさん!トールさん!無事に私たちの体から切り離されたんですね!
これで……生まれ変わることができるんですね!」
すると、トールさんとナンナさんは笑顔で口を開いた。
「ああ。徹と那奈のおかげだ。」
「那奈ちゃん、ありがとう」
私は、そのまま2人に頭を下げる。
「さっき徹に言ったことなんですが……、私、お二人の状況を自分の気持ちのために利用したんです!……本当にごめんなさい」
ナンナさんとトールさんは目を見開いたあと、優しい笑みを浮かべて言った。
「那奈ちゃん、いいんだよ。那奈ちゃんの中では、私達のことも考えた上での最善策だったんだろう?那奈ちゃんが言い出してくれなければ、私は覚悟が決まらなかったし、徹くんの告白もなかったと思うよ。そして結果、2人のおかげで私たちの魂は救われて、本当に感謝しているんだ。神様の言うとおり、結果オーライだよ」
「ああ、そうだな。俺もナンナと同じく、那奈と徹に感謝だ」
「ナンナさん、トールさん……!」
2人の優しい言葉に、涙がまた溢れてしまった。
しかし、感動している私に、トールさんの口から思ってもみない言葉が出てきた。
「それにな、那奈。実は、俺も那奈と徹に謝らなければならないことがある」
「「え?」」
私と徹は同時に目を見開いた。
「俺は那奈の恋心を利用し、徹を焚き付けた」
「は?……たきつけ……?」
「ああ。徹、悪かったな。
俺は俺以外の男の体でナンナを抱くのを、できれば避けたかった。
那奈の恋心は察していて、徹も那奈を意識していることはわかっていた。
神が信用に値しなかったことから、もしかしたら徹と那奈が結ばれることで、俺たちが解放される可能性もあると踏んだ。
だから、徹を焚き付けて、徹と那奈が先に結ばれるよう仕向けたんだ」
「「「え……」」」
ナンナさんまで呆気に取られながらトールさんを見ている。
徹が口を開いた。
「……だからあの時、トールは俺に『いいのか?』って言ったのか?」
「ああ、そうだ。
なのに徹は告白した後、なぜか俺たちに体を戻そうとするから、……俺もあの時は本当に焦った。
徹を思いとどまらせてくれたことに対しても、那奈には感謝だな」
「いや、だって、あの時は那奈が俺を好きだなんて思わなくて……まさかあんな展開になるとは……」
徹がしどろもどろになって弁解する。
私はイタズラっぽく笑ってトールさんに向かって言った。
「……私も、あの時は本当に焦りました」
「おい、那奈まで!」
私は徹にえへへ、と笑ってから、トールさんに向かって言った。
「トールさん、私たちが結ばれる機会を作ってくれて、本当にありがとうございました!」
徹も照れたように口を開く。
「俺も……。ありがとな、トール。」
トールさんは私たちに向かって柔らかく笑った後、徹を見ながらニヤリと笑って口を開いた。
「……まあ、徹はあのままじゃ、ナンナのように死ぬ間際まで自覚しなかった可能性もあっただろうからな」
「「おい!トール!」」
徹とナンナさんが同時に言った。
「えへへ、確かにそうですね」
「おい!那奈まで!」
眉を下げながら笑うナンナさん、そんなナンナさんを優しく見つめるトールさん、拗ねた顔をする徹を見て、私はまたえへへ、と笑った。
そして徹は、
「もーお前は……」
と言って、優しい笑みを浮かべ、私の髪をくしゃっと撫でた。
ーーーこの騒がしい1日の最後に相応しい、とっても穏やかな時間だった。
だからこの後、私と徹がまさかあんな事態に陥るなんて、この時は思ってもみなかったのだ。
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