上 下
1 / 10

プロローグ 敵同士でありながら惹かれ合った男と女の末路

しおりを挟む
トールとナンナは炎に包まれる砦の中にいた。
共に致命傷を負い、身動ぎ一つ出来ないでいる。
炎が2人を襲うのも時間の問題だろう。

トールは後悔と諦念の滲む表情を浮かべた後、ひとつ息を吐いた。

そして、トールは真剣な顔で、ナンナを見つめた。

「ナンナ……俺は、お前に惹かれていた」

「は?何をバカな。……私達は敵同士じゃないか」

「ああ、俺はバカだよな。戦場でお前の姿を見る度、お前が振るう剣に、風に靡く黒髪に、その海のような青い瞳に、ずっと惹かれていたんだ」

「……!」

ナンナは目を見開いた。
トールは自嘲を声に滲ませ、続けた。

「もっとバカなのは、あんな奴らに忠誠を誓って、お前に剣を向けたことだな。
……どうせ裏切られるなら、とっととお前を攫って逃げればよかった」

ナンナは呆気に取られたように固まっている。
しかしその後、我に返ると、ナンナはその形の良い唇を開いた。

「……トール。私も……同じ気持ちだった」

「……!」

今度はトールが目を見開く番だった。
ナンナは続ける。

「君を初めて見た時からずっと、君に惹かれていた」

するとトールが、彼にしては珍しい、柔らかな笑みを浮かべて口を開いた。

「……そうか。こんな死に方、馬鹿馬鹿しいと思っていたが。こうやって……愛しい女と一緒に死ねるのは、案外幸せかもしれないな」

「ははっ、確かに。こんな状況じゃなかったら、君にこんなことを伝える機会なんてなかっただろうね。その点で言えば、今の状況に感謝だな」

ナンナは蕩けるような笑顔を浮かべて言った。
トールはそれを見て、幸せそうに笑う。

しかし無情にも、炎は2人に襲いかかろうとしていた。

トールとナンナは真剣な表情で見つめ合う。

「ナンナ、柄にもないことを言うが、……愛している」

「私も愛しているよ、トール」

「来世で結ばれよう」

「ああ」

トールは震える手を伸ばす。
ナンナも痛みを堪えながら、手を伸ばした。

2人の手が重なり合う。

ーーーそして、トールとナンナの瞳は、ゆっくりと閉じられていった。


◇◇◇


炎に包まれた砦で2人が命を落とした後。

ーーーナンナは過去の映像を走馬灯のように見ていた。

ナンナの眼前には、ナンナがトールと相対した場面が次々と映し出されていく。
最後に、想いが通じ合った場面を写した後、ナンナの視界は暗くなった。

そして、次に視界が明るくなった時、ナンナは眼下に広がる光景を見ていた。

見慣れぬ部屋で、少し変わった姿になったトールと自分が、他愛の無い口喧嘩をしている。

その時。

ーーーナンナの視界が白く弾けた。


◇◇◇


ーーーナンナが目覚めると、ふかふかのベッドの上にいた。
ベッドの上に座るトールの足の上に、ナンナが四つん這いの状態で覆い被さり、2人は見つめ合っている。

「ナンナ!」

「トール!」

「俺たち、死んだんじゃなかったのか?」

「最期の願いが叶って、生まれ変わったんだろうか?」

ナンナは考える。
生まれ変わったにしては、トールの金色の髪も、薄茶色の瞳も、顔の造形も、死んだ時と変わらなかった。
しかし、服は見慣れないもので、更に傷や汚れは消え去り、トールのトレードマークだった頬の傷も消えていた。
死んだ時より幼くなっているようで、声にはあどけなさが残り、戦場で鍛え上げた筋肉がすっかりなくなり、……かなりほっそりしていた。

トールは言った。

「……天国かもしれないな」

「確かに」

2人で顔を見合わせ、クスクスと笑い合う。

すると、トールがナンナの耳に手を添え、唇が触れるだけのキスをした。
ナンナの心臓が跳ねる。

「ずっと……こうしたかった」

「……私も」

ナンナの言葉で、トールの薄茶色の目に獰猛な色が灯り、今度は食べられるようなキスをされる。
ナンナはあまりの幸福感と少しの息苦しさで、思わず口を空けた。
すると、ナンナの唇のわずかな隙間から、トールの舌が差し込まれ、ナンナの歯列をなぞったあと、ナンナの舌を捉える。
ナンナはその気持ちの良さに、自然と舌を絡めてしまった。

その時。

『……ょっとまっ……』

ナンナの頭の中で声が響いたが、ナンナはトールに夢中で気付かなかった。

2人で唇を貪り合う最中、トールの手がナンナのシャツの中に入る。

トールがナンナの腹や背を撫でる手に、ナンナはくすぐったさと期待にビクリと震える。

ーーーその手が、ナンナの胸に触れた時だった。

「ちょおっとまったああああああああああああああああああああ」

ナンナの体は、何者かに乗っ取られた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?

もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。 王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト 悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。

【R18】愛されないとわかっていても〜捨てられ王女の再婚事情〜

浅岸 久
恋愛
初夜、夫となったはずの人が抱いていたのは、別の女だった――。 弱小国家の王女セレスティナは特別な加護を授かってはいるが、ハズレ神と言われる半神のもの。 それでも熱烈に求婚され、期待に胸を膨らませながら隣国の王太子のもとへ嫁いだはずだったのに。 「出来損ないの半神の加護持ちなどいらん。汚らわしい」と罵られ、2年もの間、まるで罪人のように魔力を搾取され続けた。 生きているか死んでいるかもわからない日々ののち捨てられ、心身ともにボロボロになったセレスティナに待っていたのは、世界でも有数の大国フォルヴィオン帝国の英雄、黒騎士リカルドとの再婚話。 しかも相手は半神の自分とは違い、最強神と名高い神の加護持ちだ。 どうせまた捨てられる。 諦めながら嫁ぎ先に向かうも、リカルドの様子がおかしくて――? ※Rシーンには[*]をつけています。(プロローグのみ夫の浮気R有) ※ムーンライトノベルズ様にも掲載しています。

ヒーローの末路

真鉄
BL
狼系獣人ヴィラン×ガチムチ系ヒーロー 正義のヒーロー・ブラックムーンは悪の組織に囚われていた。肉体を改造され、ヴィランたちの性欲処理便器として陵辱される日々――。 ヒーロー陵辱/異種姦/獣人×人間/パイズリ/潮吹き/亀頭球

憧れの剣士とセフレになったけど俺は本気で恋してます!

藤間背骨
BL
若い傭兵・クエルチアは、凄腕の傭兵・ディヒトバイと戦って負け、その強さに憧れた。 クエルチアは戦場から姿を消したディヒトバイを探し続け、数年後に見つけた彼は闘技場の剣闘士になっていた。 初めてディヒトバイの素顔を見たクエルチアは一目惚れし、彼と戦うために剣闘士になる。 そして、勢いで体を重ねてしまう。 それ以来戦いのあとはディヒトバイと寝ることになったが、自分の気持ちを伝えるのが怖くて体だけの関係を続けていた。 このままでいいのかと悩むクエルチアは護衛の依頼を持ちかけられる。これを機にクエルチアは勇気を出してディヒトバイと想いを伝えようとするが――。 ※2人の関係ではありませんが、近親相姦描写が含まれるため苦手な方はご注意ください。 ※年下わんこ攻め×人生に疲れたおじさん受け ※毎日更新・午後8時投稿・全32話

サファヴィア秘話 ―月下の虜囚―

文月 沙織
BL
祖国を出た軍人ダリクは、異国の地サファヴィアで娼館の用心棒として働くことになった。だが、そこにはなんとかつての上官で貴族のサイラスが囚われていた。彼とは因縁があり、ダリクが国を出る理由をつくった相手だ。 性奴隷にされることになったかつての上官が、目のまえでいたぶられる様子を、ダリクは復讐の想いをこめて見つめる。 誇りたかき軍人貴族は、異国の娼館で男娼に堕ちていくーー。 かなり過激な性描写があります。十八歳以下の方はご遠慮ください。

【完結】結婚しても片想い

白雨 音
恋愛
公爵令嬢シャルリーヌは、第二王子ランメルトへの想いを絶ち切ろうとしていた。 一月後に、ランメルトはシャルリーヌの姉グレースと結婚する… 気持ちの整理を付けようと王宮を訪ねた日、グレースが転落事故に遭い、正気を失ってしまう。 側近たちの思惑から、グレースに代わり、シャルリーヌがランメルトと結婚する事に。 だが、グレースの事故以来、ランメルトは人が変わったかの様に冷たく、暗くなっていた。 そんなある日、グレースの件が「事故では無かった」という噂を耳にして…  異世界恋愛:短編(全15話) ※魔法要素はありません。 ※一部18禁(★印、甘くはありません)  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

堕ちた英雄

風祭おまる
BL
盾の英雄と呼ばれるオルガ・ローレンスタは、好敵手との戦いに敗れ捕虜となる。 武人としての死を望むオルガだが、待っていたのは真逆の性奴隷としての生だった。 若く美しい皇帝に夜毎嬲られ、オルガは快楽に堕されてゆく。 第一部 ※本編は一切愛はなく救いもない、ただおっさんが快楽堕ちするだけの話です ※本編は下衆遅漏美青年×堅物おっさんです ※下品です ※微妙にスカ的表現(ただし、後始末、準備)を含みます ※4話目は豪快おっさん×堅物おっさんで寝取られです。ご注意下さい 第二部 ※カップリングが変わり、第一部で攻めだった人物が受けとなります ※要所要所で、ショタ×爺表現を含みます ※一部死ネタを含みます ※第一部以上に下品です

社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活

BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。 草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。 露骨な性描写あるのでご注意ください。

処理中です...