上 下
165 / 177
61~70話

前髪の秘密?【下】

しおりを挟む
「違う! そういう意味ではなく……! これは、その…………リズを守った記憶を、自分だけのものにしておきたかったんだ」

 タオルで押さえた前髪の下で。
 すっかりあらわになった目元が、じわじわと赤く染まっていくのが見える。

「私との記憶を……?」

「ああ、いや、すまない。勝手にリズを独占したような気分に浸っていただけだ。――今の発言は忘れてくれ。前髪も、リズが切れと言うなら切る」

 改めて『昔から想っていた』と聞かされているようで私は嬉しいのに、ヨルグにとってはきっとものすごく恥ずかしい告白なのだろう。
 首筋まで真っ赤に染めて、先ほどから視線が合わない。

 しかし、私の意見次第で前髪を切ってもいいとは……。
 ヨルグの真っ赤な顔を見つめながら、前髪が短くなった姿を思い浮かべてみる。

 この精悍な顔がみんなの目に晒されるわけだ。警ら中にすれ違う街の人たちにも、お城に出入りする貴族令嬢にも、娼館街で手をこまねく女性たちにも。
 ただでさえたくましくて優しくて頼りになるヨルグが、そのうえ格好いいことまでバレたら大変だ!

「前髪はこのままで!」

「だが、勝手に独占欲を抱かれていたなんて気味悪――」

「気味悪くないです! そこまで想ってもらえてたって知って、とっても嬉しいです! なのでぜひ、このままで!」

「……リズがいいのなら」

 ヨルグは真っ赤な顔でコクンと頷いてくれた。

「でも……私と二人だけのときは顔を見せてほしいです。目を見て、話をして、ヨルグさんが何をどう感じてるのか知りたいんです」

 ヨルグはいつも私の意見を優先させてくれる。けれど、それに甘えてヨルグの本音に気付けないのは困る。
 お互いに少しでも嫌だと思うことがあったなら、一旦立ち止まって一緒に考え直したい。表情が見えていれば、気付けることも多いはずだから。

「――なんて、わがまま過ぎますか?」

「いいや、嬉しい」

 ようやく視線を合わせてくれたヨルグは、赤みの残る目元で嬉しそうに微笑んだ。

 二人だけのときは顔を見せていてほしい。だからといって前髪を切るわけにはいかないし、どうすれば……。

「そうだ!」

「?」

 ベッドの反対側に置いていた荷物に駆け寄って、翌朝用の着替えのなかから目当てのものを掴む。ヨルグのもとに戻ると、たった今拭き終えた前髪を束ねてきゅっと結びつけた。

「これは……?」

 ヨルグが頭頂部を確かめるように手で触れる。

「ふふっ。似合ってますよ、――私のリボン!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

継母の心得

トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 4巻発売中☆ コミカライズ連載中、2024/08/23よりコミックシーモアにて先行販売開始】 ※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロが苦手の方にもお読みいただけます。 山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。 治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。 不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!? 前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった! 突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。 オタクの知識を使って、子育て頑張ります!! 子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です! 番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

友達と思ってた男が実はヤバいやつで、睡眠姦されて無理やり中出しされる女の子

ちひろ
恋愛
ひとりえっちのネタとして使える、すぐえっち突入のサクッと読める会話文SSです。 いっぱい恥ずかしい言葉で責められて、溺愛されちゃいます。

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

プールの中で幼馴染のイケメン双子に挟まれてえっちな悪戯されるし、プールサイドでクリを溺愛された後に交代で手マンされてお潮いっぱい吹く女の子

ちひろ
恋愛
ひとりえっちのネタとして使える、すぐえっち突入のサクッと読める会話文SSです。 いっぱい恥ずかしい言葉で責められて、イヤイヤしても溺愛されちゃいます。

お風呂でエッチな意地悪をされちゃうお話

まゆら
恋愛
洗っているだけだから感じちゃダメだよって言われながら、乳首やクリを責められちゃって、いやいやしても許してもらえない女の子のお話です。 pixivとFantiaでは『お風呂で乳首と……』で投稿している作品です。 アルファポリスで投稿するには、ちょっと躊躇ってしまったので、タイトルを変更してますが、内容はpixivと同じです。 こちらの編集中に間違えて前に投稿した下の作品を削除してしまいました😭 再投稿をしてるので、またよろしくお願いします…。 『お家デートでエッチないたずら』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/924228204/475663228

処理中です...