160 / 213
61~70話
一番の望み【上】
しおりを挟む
うちからより、教会からのほうが僅かにお城に近い。しかしヨルグはそのまま登城せず、私を家まで送り届けると言ってもと来た道を歩きだした。
「……リズ。十一年前の件と併せ、今回の一件も『リズの能力』による貢献だと報告すれば、かなりの褒賞が与えられるだろう」
「えぇっ、褒賞なんていらないですよ!? そのために手伝ったわけじゃないですし、みんな無事だったならそれだけで十分です!」
思ってもみない言葉に、ヨルグと繋いでいないほうの手をブンブンと胸の前で振る。
安全な場所から『見た』だけの私より、現地で恐ろしい魔獣相手に戦ってくれている騎士たちこそ労われるべきだ。
「大抵の望みが叶えられる、またとない機会だが……」
「でも、本当になんにも……。一番の望みっていったら、『おじいちゃんもヨルグさんもいるこの幸せな日々がずっと続きますように』ってことだけですし」
「そ、そうか」
何か照れさせるようなことを言っただろうか。片手で口元を覆ったヨルグの首筋と耳の先が、微かに赤らんでいるのが見えた。
「褒賞はいらないので、えっと……私の『能力』のことも、できれば秘密にしておいてもらいたいんですけど」
両親からは、能力のことを『内緒にしなさい』と言われていた。おじいちゃんも、おばあちゃんとの約束を守ってずっと秘密にしてきたものを私のためにと打ち明けてくれた。
私一人の秘密ではない。
だからこそ、たとえ国相手といえど安易に能力をバラすような真似はしたくないのだ。
騎士であるヨルグには、きっと報告の義務があるだろう。そこをなんとかできないものだろうかと上目遣いにうかがうと、ヨルグは私の答えを予想していたのかあっさりと頷いてくれた。
「わかった、リズの秘密は必ず守ろう。しかし協力について伏せた場合、俺がリズの手柄を横取りするかたちになってしまうが……」
「全然構いません! それでお願いします!」
私は秘密が守れて、ヨルグはお手柄。万々歳ではないか。よかったよかった!
すべて丸く収まりそうだと胸を撫で下ろす私に、ヨルグが続けて言った。
「そうなると、今回リズを城へ同行させたことへの説明として、十一年前の『目撃情報提供者』であることは報告させてほしい。こちらも多少なり褒美が与えられるはずだ」
「そんなに昔のことなのに、今さらご褒美なんてあるんですか? 能力を使ったことはなんとなく記憶にありますけど、何を探したのかも覚えてないくらいですよ?」
「あの日リズが見つけ出してくれたのは、誘拐された第一王子殿下だ」
「おーじでんか……って、王子様!!?」
「……リズ。十一年前の件と併せ、今回の一件も『リズの能力』による貢献だと報告すれば、かなりの褒賞が与えられるだろう」
「えぇっ、褒賞なんていらないですよ!? そのために手伝ったわけじゃないですし、みんな無事だったならそれだけで十分です!」
思ってもみない言葉に、ヨルグと繋いでいないほうの手をブンブンと胸の前で振る。
安全な場所から『見た』だけの私より、現地で恐ろしい魔獣相手に戦ってくれている騎士たちこそ労われるべきだ。
「大抵の望みが叶えられる、またとない機会だが……」
「でも、本当になんにも……。一番の望みっていったら、『おじいちゃんもヨルグさんもいるこの幸せな日々がずっと続きますように』ってことだけですし」
「そ、そうか」
何か照れさせるようなことを言っただろうか。片手で口元を覆ったヨルグの首筋と耳の先が、微かに赤らんでいるのが見えた。
「褒賞はいらないので、えっと……私の『能力』のことも、できれば秘密にしておいてもらいたいんですけど」
両親からは、能力のことを『内緒にしなさい』と言われていた。おじいちゃんも、おばあちゃんとの約束を守ってずっと秘密にしてきたものを私のためにと打ち明けてくれた。
私一人の秘密ではない。
だからこそ、たとえ国相手といえど安易に能力をバラすような真似はしたくないのだ。
騎士であるヨルグには、きっと報告の義務があるだろう。そこをなんとかできないものだろうかと上目遣いにうかがうと、ヨルグは私の答えを予想していたのかあっさりと頷いてくれた。
「わかった、リズの秘密は必ず守ろう。しかし協力について伏せた場合、俺がリズの手柄を横取りするかたちになってしまうが……」
「全然構いません! それでお願いします!」
私は秘密が守れて、ヨルグはお手柄。万々歳ではないか。よかったよかった!
すべて丸く収まりそうだと胸を撫で下ろす私に、ヨルグが続けて言った。
「そうなると、今回リズを城へ同行させたことへの説明として、十一年前の『目撃情報提供者』であることは報告させてほしい。こちらも多少なり褒美が与えられるはずだ」
「そんなに昔のことなのに、今さらご褒美なんてあるんですか? 能力を使ったことはなんとなく記憶にありますけど、何を探したのかも覚えてないくらいですよ?」
「あの日リズが見つけ出してくれたのは、誘拐された第一王子殿下だ」
「おーじでんか……って、王子様!!?」
144
お気に入りに追加
1,033
あなたにおすすめの小説
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
獣人公爵のエスコート
ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。
将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。
軽いすれ違いです。
書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです
石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。
聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。
やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。
女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。
素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる