121 / 213
41~50話
見たことのある【上】
しおりを挟む
「あのっ! お、お風呂の前に、その……いつもの、しなくていいんですか……?」
今見えているヨルグの腰には、剣なんて携えられていない。
腰の中央は上衣の裾に隠れてよく見えないけれど……剣の柄じゃないとすればさっきの『硬さ』の正体は、毎晩見てきたアレのはずで。
「『いつもの』? ――ああ、おやすみの挨拶を忘れていたな」
「そうじゃなくてっ」
「?」
私の額に口づけようと屈みかけたヨルグが首を傾げる。
触れる前から興奮状態だったあの晩、今にもはち切れそうなほどに押し上げられた下穿きは、ものすごく窮屈そうだった。いつもより性急に脱いでいたことからしても、きっと相当苦しかったに違いない。
今だって苦しい思いをしているはずなのに。
ヨルグはそんな辛さをおくびにも出さず、私を気遣って退室しようとしているのだ。ハンカチが置いてあるこの部屋から――。
「毎晩、ここでしてるじゃないですか……。ハ、ハンカチを見ながら」
「ここで……ハンカチを…………」
私を泊めることになったせいで、毎晩の習慣が脅かされ、苦しさを我慢した挙げ句に、最愛の『ハンカチ』とも触れ合えず……。
私がいることでヨルグが苦しい思いをするなんて、そんなのは嫌だ。
ヨルグには、私を気遣うことなくいつも通りに過ごしてほしい。
私に遠慮して毎晩の習慣を行えないというのなら……私から、『知っている』と伝えるから。
家を覗いていたと伝えたとき、ヨルグは覗かれていた事実に嫌悪感を示したりはしなかった。そんなヨルグならきっと、これを聞いても私を嫌ったりはしない。……と、思う……のだけれど……。
どうか嫌われませんように!
――ドサッ
「!?」
見上げた視界から忽然とヨルグの姿が消えた。
驚いて見渡せば、仰向けにベッドに倒れ込んだヨルグが両手で顔を覆っている。
「ヨルグさん!? どうしたんですか!?」
慌てて大きなベッドに乗り上げ、四つ這いでヨルグの顔の近くに向かう。
室内灯に晒された耳と首筋は、先ほどの名残りなのか燃え上がりそうなほど真っ赤に染まっていて、なにやら呻き声らしきものも聞こえてくる。
とりあえず、意識を失って倒れたわけではないらしい。
「立ちくらみですか? 水でも持ってきましょうか?」
「…………ろう……」
「えっ?」
両手の奥からポソポソと聞こえる声を聞き取ろうと、ヨルグの顔に耳を寄せる。
「毎晩気持ち悪かっただろう……」
「気持ち悪い?」
ヨルグは毎晩すごく気持ちよさそうだったけれど……これは私に対して投げかけられた質問のようだ。
気持ち悪いとは……、はて?
「せっかくリズが贈ってくれたハンカチに対し……俺は、幾度となく…………」
「――ああ!」
ヨルグの発言にピンと来る。
ようやく話が見えてきた!
今見えているヨルグの腰には、剣なんて携えられていない。
腰の中央は上衣の裾に隠れてよく見えないけれど……剣の柄じゃないとすればさっきの『硬さ』の正体は、毎晩見てきたアレのはずで。
「『いつもの』? ――ああ、おやすみの挨拶を忘れていたな」
「そうじゃなくてっ」
「?」
私の額に口づけようと屈みかけたヨルグが首を傾げる。
触れる前から興奮状態だったあの晩、今にもはち切れそうなほどに押し上げられた下穿きは、ものすごく窮屈そうだった。いつもより性急に脱いでいたことからしても、きっと相当苦しかったに違いない。
今だって苦しい思いをしているはずなのに。
ヨルグはそんな辛さをおくびにも出さず、私を気遣って退室しようとしているのだ。ハンカチが置いてあるこの部屋から――。
「毎晩、ここでしてるじゃないですか……。ハ、ハンカチを見ながら」
「ここで……ハンカチを…………」
私を泊めることになったせいで、毎晩の習慣が脅かされ、苦しさを我慢した挙げ句に、最愛の『ハンカチ』とも触れ合えず……。
私がいることでヨルグが苦しい思いをするなんて、そんなのは嫌だ。
ヨルグには、私を気遣うことなくいつも通りに過ごしてほしい。
私に遠慮して毎晩の習慣を行えないというのなら……私から、『知っている』と伝えるから。
家を覗いていたと伝えたとき、ヨルグは覗かれていた事実に嫌悪感を示したりはしなかった。そんなヨルグならきっと、これを聞いても私を嫌ったりはしない。……と、思う……のだけれど……。
どうか嫌われませんように!
――ドサッ
「!?」
見上げた視界から忽然とヨルグの姿が消えた。
驚いて見渡せば、仰向けにベッドに倒れ込んだヨルグが両手で顔を覆っている。
「ヨルグさん!? どうしたんですか!?」
慌てて大きなベッドに乗り上げ、四つ這いでヨルグの顔の近くに向かう。
室内灯に晒された耳と首筋は、先ほどの名残りなのか燃え上がりそうなほど真っ赤に染まっていて、なにやら呻き声らしきものも聞こえてくる。
とりあえず、意識を失って倒れたわけではないらしい。
「立ちくらみですか? 水でも持ってきましょうか?」
「…………ろう……」
「えっ?」
両手の奥からポソポソと聞こえる声を聞き取ろうと、ヨルグの顔に耳を寄せる。
「毎晩気持ち悪かっただろう……」
「気持ち悪い?」
ヨルグは毎晩すごく気持ちよさそうだったけれど……これは私に対して投げかけられた質問のようだ。
気持ち悪いとは……、はて?
「せっかくリズが贈ってくれたハンカチに対し……俺は、幾度となく…………」
「――ああ!」
ヨルグの発言にピンと来る。
ようやく話が見えてきた!
52
お気に入りに追加
1,029
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる