不能だと噂の騎士隊長が『可能』なことを私だけが知っている(※のぞきは犯罪です)

南田 此仁

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31~40話

位置の特定【上】

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 それまでもすごい速さで飛んでいたドラゴンが、蛇行をやめて一直線に加速していく。

「えっ!? ドっ、ドラゴンが前方に向けて加速してます!」

「いよいよ場所を定めたのかもしれないな……」

 私を抱きしめる腕が強張って、ヨルグの緊張を伝えてくる。

 振り切られると思った視界はピタリとドラゴンに張り付いたまま、景色を視認することさえ難しい速度で風を切り裂き進んでいく。
 ドラゴンの前では、空気の抵抗さえも障害になり得ないらしい。

 『巣作りする火山の特定』――それが私に与えられた役割。
 信じて任せてくれたヨルグのためにも、周囲に暮らす人々のためにも、絶対に目を逸らすわけにはいかない。
 不安も緊張も、一人じゃないから。
 むしろ現場を『見て』いる私より、見ることも叶わず、ただただ私を信じて報告を待つしかないヨルグのほうが、もどかしくて辛い状況なのかもしれない。


 ほどなくしてドラゴンは、雲を吐き出しているかのような高山の上でグルグルと旋回すると、ポッカリ開いた火口のなかへと飛び込んだ。

「入った! ドラゴンが火口に入りました! 川の上流に見えた、背の高い山です!」

 ドラゴンが加速する前に景色を確認できていてよかった。『見た』のが加速後だったなら、おそらく地形なんて見えはしなかっただろう。

 濛々もうもうと上がる蒸気に阻まれて火口内部の全貌は見えないけれど、ドラゴンは確かめるように内壁を足で叩いていて、再び飛び立つ様子はない。

「ドラゴンの動きが、落ち着いたみたいです……」

「わかった。――リズ、この地図を確認してほしい」

「はい」

 ぱちぱちと瞬いて、視界を戻す。

 目の前には、――騎士服の胸元。
 カッチリとした騎士服がシワになるほどきつくしがみついている自分の手を見つけ、慌ててパッと手を離す。

「す、すみませんっ!」

 ヨルグは労うようにポンポンと私の背中を撫でると、抱擁を解いて地図を示した。

「これを見てくれ。ここに大河が通っている。左手に二峰の山、右手後方に小さな村が見えたとすると、リズが『見ていた』のはレイム川のこの辺りだと思うんだが、どうだ?」

 ヨルグが指先で地図に丸を描く。

 身をのり出し、先ほど見た景色を思い出しながら慎重に地図と照合していく。
 幅広い川を挟んで、山と、村。半分重なるように並ぶ二峰の山の配置も、川から村までの距離も、目にしたものと同じ。川を上流へと辿っていけば、黒く塗りつぶして表現された広大な森と、その奥に赤印の置かれた火山がある。

「……はい、ここで間違いないです。この位置から一直線に加速して、この火山の火口に降りました」

「そうか。――ありがとう、リズの働きに感謝する」

 噛みしめるような声。
 市民の平和のために、こんなにも心を砕いてくれる『騎士』に守られているのだ。
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