不能だと噂の騎士隊長が『可能』なことを私だけが知っている（※のぞきは犯罪です）

31～40話

門の向こうへ【下】

「それって、北門のほうってことですよね？」

「ああ。ドラゴンが飛んでいった方角とはほとんど真逆にいるということだ。分隊であれば方々にいるだろうが……」

　正面から風にあおられ、長い前髪の下からチラチラとヨルグの目元が覗く。

　……なぜだろう。こんな風に抱き上げられるのなんて初めてのことなのに、よく似た光景を見たことがある気がするのは。



　ふしぎな既視感に答えが出るより早く、ヨルグと私は王城へとたどり着いた。

「彼女の身元はヨルグ=デファーロットが保証する！」

　足も止めずにそう言って、ヨルグは門衛のチェックも受けずに城門を走り抜ける。

「えっ、いいんですか！？」

「問題ない」

　本当だろうか。騎士のヨルグはいいけれど、私のほうは素性の知れない侵入者としてあとあと捕まったりしないだろうか。

　馬車が必用なほど広い庭園を突っ切り、迷路のような回廊を抜けて、階段を上がり。通りすがる人たちの驚いたような視線や、王城の豪華絢爛けんらんっぷりを気に留める暇もなく、あっという間に重厚な扉の前に着いた。
　……今来た道を一人で戻れと言われても絶対に無理だ。

「ここが俺の執務室だ。基本的に俺より上の立場の者は来ないから、気兼ねせずに過ごしてほしい」

　広く質実な室内。
　私を腕に抱いたまま扉をくぐったヨルグは、大きな革張りソファの前まで来るとようやくポスンと、私を座面に下ろしてくれた。

　数拍置いて扉がノックされ、私よりよっぽどいい家の生まれだろうメイドの手によって熱々の紅茶が供される。
　恐縮してお礼を言う私にも丁寧に応じ、用を済ませたメイドはすぐに退室していった。

「美味しい……」

　茶葉の香り高さに驚く。
　これが本物の紅茶だとするなら、私が普段飲んでいるのは色付きのお湯だろうか？？？

　目の前のローテーブルに、大きな地図が広げられる。

「ゆっくり味わわせてやれなくてすまない。早速だが、リズの能力でドラゴンの現在地を確認してもらえるだろうか」

「はいっ、任せてください！」