不能だと噂の騎士隊長が『可能』なことを私だけが知っている(※のぞきは犯罪です)

南田 此仁

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31~40話

ヨルグの誤解【上】

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「ヨ、ヨルグさん……」

 ヨルグに肩を抱かれるという非常にときめく状況にも関わらず、私の胸はキュンキュンではなくバクバクいっている。
 なぜなら温厚なはずのヨルグから、ものすごく不機嫌そうなオーラが放たれているのだ。

「……リズ、で奇遇だな」

「え、ええ、ほんと、奇遇デスネ」

 地を這うような低音に首をすくめる。
 好き好んで娼館街を訪れたわけではないと言いたいけれど、ヨルグを見かけて盗み聞きするために接近したのだと説明するのはもっとダメだ。それくらいわかる。
 救いを求めるように視線をさ迷わせれば、肩を怒らせてドスドスと去っていく『女性』の後ろ姿が見えた。
 やはりヨルグは先程のお誘いに乗らなかったらしい。ホッとしたような、もう少しだけ頑張ってヨルグを足止めしていてほしかったような……。

 諦めて前方に視線を戻すと、青い顔をしたテオと目が合った。

「お、おい、リゼット。おまえのに威圧すんのやめるよう言ってくれよ。さっきから悪寒と冷や汗がヤベェ……」

「だっ、ダダダダーリンですって!? ちょっと、テオったら急に何言ってるのよっ!」

 まだ秘密を打ち明けて受け入れてもらえたわけでもないのに気が早すぎる! そりゃあ、これからダーリンになる可能性はゼロではないというか、もう半分くらいなっているといっても過言ではないというか、気持ちのうえではすでにダーリンというか、そんな雰囲気であるといえなくもないかもしれないけどもいきなりダーリンだなんてそんなそんなっ!

「本題はそこじゃねえ……」

「リズ、この男は知り合いか?」

 ヨルグの言葉に、紹介もまだだったと気づく。テオのほうは一方的にヨルグを知っているようだけれど、ヨルグからすればテオは見ず知らずの他人。
 もしかしてヨルグは、娼館街で見知らぬ男に絡まれている私を助けようとして、声をかけてくれたのだろうか。
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