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31~40話
下着の役割とは?【下】
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私用で来ているのではないとわかりホッとしたのも束の間。色っぽいお姉さんの一人が、べったりとヨルグの腕に絡みついた。
「なっ――!」
ああっ、あんなに胸を押しつけて! 腕が挟まっちゃってるじゃない! ヨルグもヨルグだ。私を好きだと言ったくせに、色っぽいお姉さんに絡みつかれたまま振り払いもしないなんて!
……まあ、女性を振り払うヨルグなんて想像もつかないけれど。
「何を話してるのかしら。ここからじゃ聞こえないわ……」
透視で姿は見えていても、会話の内容までは聞こえない。まさか、彼女が『ハンカチの主』だろうか。
建物に遮られているのをいいことにコソコソと距離を詰め、建物の角に回り込んで耳を澄ませる。
「――んですけどぉ、ミランダさんに誘われて勃たなかったって本当ですかぁ?」
「ああ」
「えぇ~っ? まぁ、あ~んな年増相手じゃ勃たなくっても当然かもぉ? その点あたしは若いしぃ、テクにも体力にも自信ありますよぉ? 騎士の方って、ス・ゴ・イ・んでしょう?」
きゃらきゃらと楽しげな声が聞こえる。ヨルグも端的に返事をしているものの、女性の口振りからして知り合いではないらしい。
相変わらず前髪に覆われたヨルグの表情は見えないけれど……案外、まんざらでもなかったりして。
「ねぇ、今から二人で試してみますぅ?」
「!!」
私でも誘ったことがないのに、なんてことを!
全身でしなだれかかった女性の手が、怪しげにヨルグのお腹を撫でて下へと下りていく。この動きは、まさか――!
「ちょっ――」
「よう、リゼット!」
「っ!?」
不意にポンと肩を叩かれ、ビクッと踏み出しかけた足を引っ込める。
振り返った先に立っていたのは、ヨルグの不名誉な噂のばら蒔きに加担していそうな人物――粉物問屋の息子のテオだった。
「――っはぁ、テオじゃない。こんな所で何してるのよ?」
「何って……聞きたいか?」
ニヤリといやらしい笑みを見て、『ここ』がどこだったかを思い出す。
「あー、やめてやめて。全っ然聞きたくないわ」
「リゼットのほうこそ何してん……わかった! 迷子だろ!? リゼットが色事に縁があるわきゃねえもんなー。んでも、こんなとこうろついてっと危ないぜ? 世の中には胸がないほうがいいっつー奇特なヤツもいるんだ」
「どういう意味よ」
「まあまあまあ。ほら、帰り道わかるとこまで送ってやるよ! この辺は俺の庭だからな!」
ただれた庭もあったものである。
しかし、娼館街をうろついているのが危険だという意見は一理ある。テオに見つかってしまった以上ヨルグの動向を追いつづけることもできないし、テオが純粋に私を心配して言ってくれているのもわかる。
サボり癖があって下品で下世話でお調子者だけれど、なかなかどうして仲間や部下に対する面倒見はいいのだ。
ヨルグと女性のやり取りは気になるものの、ハンカチにしか興奮しないヨルグがあのお誘いに乗るとも思えない。
「……じゃあ、お願いするわ」
「おう、行こうぜ! ――っとぉ!?」
馴れ馴れしく私の肩を抱こうとしたテオが、スカッと宙をかいてたたらを踏む。
しかし私の肩はしっかりと抱き寄せられている。――え、誰に?
おそるおそる見上げた先には……。
「ヨ、ヨルグさん……」
「なっ――!」
ああっ、あんなに胸を押しつけて! 腕が挟まっちゃってるじゃない! ヨルグもヨルグだ。私を好きだと言ったくせに、色っぽいお姉さんに絡みつかれたまま振り払いもしないなんて!
……まあ、女性を振り払うヨルグなんて想像もつかないけれど。
「何を話してるのかしら。ここからじゃ聞こえないわ……」
透視で姿は見えていても、会話の内容までは聞こえない。まさか、彼女が『ハンカチの主』だろうか。
建物に遮られているのをいいことにコソコソと距離を詰め、建物の角に回り込んで耳を澄ませる。
「――んですけどぉ、ミランダさんに誘われて勃たなかったって本当ですかぁ?」
「ああ」
「えぇ~っ? まぁ、あ~んな年増相手じゃ勃たなくっても当然かもぉ? その点あたしは若いしぃ、テクにも体力にも自信ありますよぉ? 騎士の方って、ス・ゴ・イ・んでしょう?」
きゃらきゃらと楽しげな声が聞こえる。ヨルグも端的に返事をしているものの、女性の口振りからして知り合いではないらしい。
相変わらず前髪に覆われたヨルグの表情は見えないけれど……案外、まんざらでもなかったりして。
「ねぇ、今から二人で試してみますぅ?」
「!!」
私でも誘ったことがないのに、なんてことを!
全身でしなだれかかった女性の手が、怪しげにヨルグのお腹を撫でて下へと下りていく。この動きは、まさか――!
「ちょっ――」
「よう、リゼット!」
「っ!?」
不意にポンと肩を叩かれ、ビクッと踏み出しかけた足を引っ込める。
振り返った先に立っていたのは、ヨルグの不名誉な噂のばら蒔きに加担していそうな人物――粉物問屋の息子のテオだった。
「――っはぁ、テオじゃない。こんな所で何してるのよ?」
「何って……聞きたいか?」
ニヤリといやらしい笑みを見て、『ここ』がどこだったかを思い出す。
「あー、やめてやめて。全っ然聞きたくないわ」
「リゼットのほうこそ何してん……わかった! 迷子だろ!? リゼットが色事に縁があるわきゃねえもんなー。んでも、こんなとこうろついてっと危ないぜ? 世の中には胸がないほうがいいっつー奇特なヤツもいるんだ」
「どういう意味よ」
「まあまあまあ。ほら、帰り道わかるとこまで送ってやるよ! この辺は俺の庭だからな!」
ただれた庭もあったものである。
しかし、娼館街をうろついているのが危険だという意見は一理ある。テオに見つかってしまった以上ヨルグの動向を追いつづけることもできないし、テオが純粋に私を心配して言ってくれているのもわかる。
サボり癖があって下品で下世話でお調子者だけれど、なかなかどうして仲間や部下に対する面倒見はいいのだ。
ヨルグと女性のやり取りは気になるものの、ハンカチにしか興奮しないヨルグがあのお誘いに乗るとも思えない。
「……じゃあ、お願いするわ」
「おう、行こうぜ! ――っとぉ!?」
馴れ馴れしく私の肩を抱こうとしたテオが、スカッと宙をかいてたたらを踏む。
しかし私の肩はしっかりと抱き寄せられている。――え、誰に?
おそるおそる見上げた先には……。
「ヨ、ヨルグさん……」
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