89 / 213
31~40話
下着の役割とは?【下】
しおりを挟む
私用で来ているのではないとわかりホッとしたのも束の間。色っぽいお姉さんの一人が、べったりとヨルグの腕に絡みついた。
「なっ――!」
ああっ、あんなに胸を押しつけて! 腕が挟まっちゃってるじゃない! ヨルグもヨルグだ。私を好きだと言ったくせに、色っぽいお姉さんに絡みつかれたまま振り払いもしないなんて!
……まあ、女性を振り払うヨルグなんて想像もつかないけれど。
「何を話してるのかしら。ここからじゃ聞こえないわ……」
透視で姿は見えていても、会話の内容までは聞こえない。まさか、彼女が『ハンカチの主』だろうか。
建物に遮られているのをいいことにコソコソと距離を詰め、建物の角に回り込んで耳を澄ませる。
「――んですけどぉ、ミランダさんに誘われて勃たなかったって本当ですかぁ?」
「ああ」
「えぇ~っ? まぁ、あ~んな年増相手じゃ勃たなくっても当然かもぉ? その点あたしは若いしぃ、テクにも体力にも自信ありますよぉ? 騎士の方って、ス・ゴ・イ・んでしょう?」
きゃらきゃらと楽しげな声が聞こえる。ヨルグも端的に返事をしているものの、女性の口振りからして知り合いではないらしい。
相変わらず前髪に覆われたヨルグの表情は見えないけれど……案外、まんざらでもなかったりして。
「ねぇ、今から二人で試してみますぅ?」
「!!」
私でも誘ったことがないのに、なんてことを!
全身でしなだれかかった女性の手が、怪しげにヨルグのお腹を撫でて下へと下りていく。この動きは、まさか――!
「ちょっ――」
「よう、リゼット!」
「っ!?」
不意にポンと肩を叩かれ、ビクッと踏み出しかけた足を引っ込める。
振り返った先に立っていたのは、ヨルグの不名誉な噂のばら蒔きに加担していそうな人物――粉物問屋の息子のテオだった。
「――っはぁ、テオじゃない。こんな所で何してるのよ?」
「何って……聞きたいか?」
ニヤリといやらしい笑みを見て、『ここ』がどこだったかを思い出す。
「あー、やめてやめて。全っ然聞きたくないわ」
「リゼットのほうこそ何してん……わかった! 迷子だろ!? リゼットが色事に縁があるわきゃねえもんなー。んでも、こんなとこうろついてっと危ないぜ? 世の中には胸がないほうがいいっつー奇特なヤツもいるんだ」
「どういう意味よ」
「まあまあまあ。ほら、帰り道わかるとこまで送ってやるよ! この辺は俺の庭だからな!」
ただれた庭もあったものである。
しかし、娼館街をうろついているのが危険だという意見は一理ある。テオに見つかってしまった以上ヨルグの動向を追いつづけることもできないし、テオが純粋に私を心配して言ってくれているのもわかる。
サボり癖があって下品で下世話でお調子者だけれど、なかなかどうして仲間や部下に対する面倒見はいいのだ。
ヨルグと女性のやり取りは気になるものの、ハンカチにしか興奮しないヨルグがあのお誘いに乗るとも思えない。
「……じゃあ、お願いするわ」
「おう、行こうぜ! ――っとぉ!?」
馴れ馴れしく私の肩を抱こうとしたテオが、スカッと宙をかいてたたらを踏む。
しかし私の肩はしっかりと抱き寄せられている。――え、誰に?
おそるおそる見上げた先には……。
「ヨ、ヨルグさん……」
「なっ――!」
ああっ、あんなに胸を押しつけて! 腕が挟まっちゃってるじゃない! ヨルグもヨルグだ。私を好きだと言ったくせに、色っぽいお姉さんに絡みつかれたまま振り払いもしないなんて!
……まあ、女性を振り払うヨルグなんて想像もつかないけれど。
「何を話してるのかしら。ここからじゃ聞こえないわ……」
透視で姿は見えていても、会話の内容までは聞こえない。まさか、彼女が『ハンカチの主』だろうか。
建物に遮られているのをいいことにコソコソと距離を詰め、建物の角に回り込んで耳を澄ませる。
「――んですけどぉ、ミランダさんに誘われて勃たなかったって本当ですかぁ?」
「ああ」
「えぇ~っ? まぁ、あ~んな年増相手じゃ勃たなくっても当然かもぉ? その点あたしは若いしぃ、テクにも体力にも自信ありますよぉ? 騎士の方って、ス・ゴ・イ・んでしょう?」
きゃらきゃらと楽しげな声が聞こえる。ヨルグも端的に返事をしているものの、女性の口振りからして知り合いではないらしい。
相変わらず前髪に覆われたヨルグの表情は見えないけれど……案外、まんざらでもなかったりして。
「ねぇ、今から二人で試してみますぅ?」
「!!」
私でも誘ったことがないのに、なんてことを!
全身でしなだれかかった女性の手が、怪しげにヨルグのお腹を撫でて下へと下りていく。この動きは、まさか――!
「ちょっ――」
「よう、リゼット!」
「っ!?」
不意にポンと肩を叩かれ、ビクッと踏み出しかけた足を引っ込める。
振り返った先に立っていたのは、ヨルグの不名誉な噂のばら蒔きに加担していそうな人物――粉物問屋の息子のテオだった。
「――っはぁ、テオじゃない。こんな所で何してるのよ?」
「何って……聞きたいか?」
ニヤリといやらしい笑みを見て、『ここ』がどこだったかを思い出す。
「あー、やめてやめて。全っ然聞きたくないわ」
「リゼットのほうこそ何してん……わかった! 迷子だろ!? リゼットが色事に縁があるわきゃねえもんなー。んでも、こんなとこうろついてっと危ないぜ? 世の中には胸がないほうがいいっつー奇特なヤツもいるんだ」
「どういう意味よ」
「まあまあまあ。ほら、帰り道わかるとこまで送ってやるよ! この辺は俺の庭だからな!」
ただれた庭もあったものである。
しかし、娼館街をうろついているのが危険だという意見は一理ある。テオに見つかってしまった以上ヨルグの動向を追いつづけることもできないし、テオが純粋に私を心配して言ってくれているのもわかる。
サボり癖があって下品で下世話でお調子者だけれど、なかなかどうして仲間や部下に対する面倒見はいいのだ。
ヨルグと女性のやり取りは気になるものの、ハンカチにしか興奮しないヨルグがあのお誘いに乗るとも思えない。
「……じゃあ、お願いするわ」
「おう、行こうぜ! ――っとぉ!?」
馴れ馴れしく私の肩を抱こうとしたテオが、スカッと宙をかいてたたらを踏む。
しかし私の肩はしっかりと抱き寄せられている。――え、誰に?
おそるおそる見上げた先には……。
「ヨ、ヨルグさん……」
41
お気に入りに追加
1,017
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
獣人公爵のエスコート
ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。
将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。
軽いすれ違いです。
書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる