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21~30話
あの日きみと《ヨルグ視点》【下】
しおりを挟む「ここにもいない……か」
人の出入りの多い門前の広場には、常時多くの露店が出ている。
露店で売られる安価な品は、王族のもとへと持ち込まれる最高級品とは素材も作りもまるで別物だ。好奇心旺盛な王子であれば興味を引かれるだろうと思って来てみたものの、めぼしい収穫はなかった。
脳裏にチラつく最悪の可能性から目を逸らし、王子の捜索を続ける。鳴らない通信機に焦りが募り、平和そうな顔でのんびりと行き交う市民さえも恨めしく思えてくる。
王族が一人消えたというのに、何も知らずのんきなものだ。
――そんなときだった。
「ねえ、誰か探してるの?」
軽やかな声に振り返り――、視線をグッと下に向ける。
そこには、小さな少女が立っていた。
大樹のような赤茶色の髪に、深い緑の瞳。
頭のてっぺんで前髪をまとめ上げたリボンが、少女が首を傾げるのに合わせてウサギの耳のようにひょこひょこと揺れている。
「……迷子か?」
「ううん、おとうさんとおかあさんはあっちにいるわ。わたしは退屈だから、ちょっと抜けてきたの」
少女の指差す先を見れば、門から続く道の中央には通行許可を待つ馬車がずらりと列をなしていた。
運悪く混み合う時間帯に当たってしまったのだろう。
「そうか。だが迷子になる前にさっさと両親のもとに戻ったほうがいい」
「でも騎士さま、誰か探してるんでしょ? あっ、もしかしてかくれんぼ!? わたしね、こう見えてもかくれんぼの鬼が得意なのよ!」
両手を腰に当てて小さな身体をエヘンと反らす少女を見て、思う。
子どものことは同じ子どもに聞いたほうが早いのではないか?
王子探しについて公言できないとはいえ、相手は無垢な子ども。要点さえぼかせば深く追及してくることもないだろう。
そう考え、少女と目線の高さを合わせるようにして屈み込んだ。
「……ああ、実は少年を探しているんだ。これくらいの背丈で、金色の髪に青い瞳、薄茶のフードマントを着ている。どこかで見かけなかったか?」
「金の髪に青い目で、薄茶のマントね! ちょっと待ってて。うーんと……」
少女は顎に手をやり、ゆっくりと周囲を見定めるように視線を移動させていく。
残念ながら目撃はしていないようだ。この付近はすでに捜索を終えているため、そうやって見渡したところで見える位置にいるわけもない。
ならば子どもが隠れそうな場所の心当たりだけでも聞いておくか。そう思って口を開きかけたとき、少女が覚束なげに声を発した。
「んー……目の色は見えないけど、髪は金だし……。その男の子って、青いシャツにグレーの膝丈ズボンを穿いてる?」
「――っ!」
伝えていないマントの下の服装を、正確に言い当てた少女に瞠目する。
「えっとね、靴下は白に青のラインで、靴は黒――」
「どこだ!? その子はどこに見える!?」
切迫した俺の様子に驚きながらも、少女はおずおずと西門の方向を指差した。
「……あそこよ。あの馬車の、一番下に積まれた木箱のなか」
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