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21~30話
満月の瞳【下】
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ヨルグの胸に顔を突っ伏したままゆっくりと深呼吸すれば、おそろいのカモミールの香りが勇気をくれる。
「……ヨルグさん。返事を待ってるあいだに、心変わりしちゃわないでくださいね」
「それはありえないな」
返ってきたのは迷いない断言と、力強い抱擁だった。
どれほどそうしていただろうか。
顔を上げれば真っ赤に茹だった締まりのない顔を見られてしまうから、ヨルグの胸に顔を埋めたまま動けない。
ヨルグの腕も緩まないものだから、抱擁を解くタイミングが見当たらずにじっと抱きしめ合っている。
ひやりとした風に足元を撫でられてクシュンッとくしゃみをすると、ヨルグがハッとしたように身体を離した。
「すまない、冷えてしまったな。水場は冷え込みやすい。日が落ちる前に帰ろう」
ヨルグは口笛で馬を呼ぶと、荷物からマントを取り出して私をくるんだ。
「寒くはないか?」
「はい、大丈夫です」
離れてしまった体温が寂しいような気もしたけれど、ヨルグのマントは温かい。
繋いでいた魚を引き揚げて手際よく帰り支度を済ませ、行きと同様にひょいと馬に乗せられる。
「マントを借りちゃったら、ヨルグさんが寒くないですか?」
「俺は……リズを抱きしめていれば、熱いくらいだ」
その言葉の真偽は、身をもって知ることになった。
馬上から眺める幻想的な夕陽。
真っ赤な顔を隠してくれる点も素晴らしい……。
そうして夕陽が隠れきった頃、無事に家へとたどり着いた。
「今日は付き合ってくれてありがとう。楽しい一日だった」
「私もすごく楽しかったです。誘ってくださってありがとうございます。……それで、ヨルグさん、あの……」
今日の告白は本当に夢ではなかったのだろうか。
そんなことを聞くのもためらわれてじっとヨルグを見つめていると、ヨルグが何かを得心したように「ああ!」と声を上げた。
ヨルグの顔が、すっと額に近づいて――。
ちゅっ
「おやすみ、リズ」
「……………………ふゎっ!?」
馬に乗ったヨルグの背が城のほうへと遠ざかっていくのを見ながら、大分遅れてベチンと額を押さえる。
なっ、何事!!?
「……ヨルグさん。返事を待ってるあいだに、心変わりしちゃわないでくださいね」
「それはありえないな」
返ってきたのは迷いない断言と、力強い抱擁だった。
どれほどそうしていただろうか。
顔を上げれば真っ赤に茹だった締まりのない顔を見られてしまうから、ヨルグの胸に顔を埋めたまま動けない。
ヨルグの腕も緩まないものだから、抱擁を解くタイミングが見当たらずにじっと抱きしめ合っている。
ひやりとした風に足元を撫でられてクシュンッとくしゃみをすると、ヨルグがハッとしたように身体を離した。
「すまない、冷えてしまったな。水場は冷え込みやすい。日が落ちる前に帰ろう」
ヨルグは口笛で馬を呼ぶと、荷物からマントを取り出して私をくるんだ。
「寒くはないか?」
「はい、大丈夫です」
離れてしまった体温が寂しいような気もしたけれど、ヨルグのマントは温かい。
繋いでいた魚を引き揚げて手際よく帰り支度を済ませ、行きと同様にひょいと馬に乗せられる。
「マントを借りちゃったら、ヨルグさんが寒くないですか?」
「俺は……リズを抱きしめていれば、熱いくらいだ」
その言葉の真偽は、身をもって知ることになった。
馬上から眺める幻想的な夕陽。
真っ赤な顔を隠してくれる点も素晴らしい……。
そうして夕陽が隠れきった頃、無事に家へとたどり着いた。
「今日は付き合ってくれてありがとう。楽しい一日だった」
「私もすごく楽しかったです。誘ってくださってありがとうございます。……それで、ヨルグさん、あの……」
今日の告白は本当に夢ではなかったのだろうか。
そんなことを聞くのもためらわれてじっとヨルグを見つめていると、ヨルグが何かを得心したように「ああ!」と声を上げた。
ヨルグの顔が、すっと額に近づいて――。
ちゅっ
「おやすみ、リズ」
「……………………ふゎっ!?」
馬に乗ったヨルグの背が城のほうへと遠ざかっていくのを見ながら、大分遅れてベチンと額を押さえる。
なっ、何事!!?
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