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21~30話

食後のデザート【上】

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 串の両端を摘まみ、ふぅふぅと息を吹きかけてかぶり付く。

「あひっあひっ、――んぅ!? おいひいー!」

 こんがりと焼けた皮がパリッと割れ、ほわりとほぐれた身を噛みしめれば口いっぱいに旨味が広がる。

 単純に塩を振って焼いただけのはずなのに、香ばしく焼かれた魚は少しの臭みもなくふんわりとして、ほのかな甘味すら感じる。

「このお魚、すぅっごく美味しいです! 全然臭みもなくて! 何か特別な種類なんですか!?」

 よく似た魚を魚屋で買ったことがあるけれど、美味しさは比べ物にならない。
 まじまじと魚を眺め、目を輝かせてヨルグを見上げれば、私の反応をうかがっていたらしいヨルグが口元をほころばせた。

「魚自体はありふれたものだ。ここは水が綺麗だからな。元々臭みが少ないうえ、新鮮であればあるほど美味い」

 そう言ってヨルグも魚にかぶり付く。

 お父さんは狩りや釣りの類いが壊滅的に下手だったから、自然豊富な田舎町に住んでいた頃も魚といえば魚屋で買うか、ときおり釣れすぎたご近所さんからお裾分けをもらうくらいだった。
 釣りたてをその場で食べるなんて初めての経験だ。

「釣りたてのお魚ってこんなに美味しいんですねぇ……。普通に料理するより美味しいかも」

 しみじみと呟いて、はじめより大きな口でふた口目を頬張る。
 そうだな、と軽い同意が返ってくるかと思いきや、「たしかに美味いが……リズの手料理には負ける」と真剣な様子で言われて照れるはめになった。






「ふぅーっ、お腹いっぱい……!」

 後ろ手をついて上体を傾け、パンパンなお腹への圧迫を緩めようと試みる。

 ちょっと気合いを入れて詰めすぎただろうか。バスケットの中身はまだ二割ほど残っているけれど、お腹はもうはち切れる寸前だ。

「……残りはすべて俺が食べても?」

「どうぞどうぞ。あっ、でもヨルグさんも無理しなくていいですからね? 余ったら明日の朝食にでもするので」

「ああ、承知した」

 ひと口の大きさは数倍あるものの、私と同じくらいのペースで食事を口に運んでいたヨルグが、ぐんとペースを上げる。

 パンも、具材も、スープも、ジャムも。
 見る間に減っていき、瓶に残ったソースの最後の一滴までもパンでぬぐいとるようにして、綺麗さっぱり食べ尽くされた。

「わぁ……」

 あんぐりと口を開けて目の前の光景を見つめる。

 バスケットはすっからかん。スープの瓶も空っぽ。ソースとジャムに至っては、どちらがどちらの瓶だったかもわからないほどピッカピカになっている。
 残っているものといえば水筒のお茶と、お皿の上の微かなパン屑だけだ。――それさえも、大きな欠片はヨルグが摘まんで食べた。
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