上 下
45 / 213
11~20話

あなたのことを【下】

しおりを挟む


「リズ……その、デートだが……どこか行きたい場所はあるか?」

 いつものように、こちらの反応を窺いながらヨルグが問う。
 その優しいと、熱情とは程遠い穏やかさが今は切ない。

 私が『知った』からといってヨルグ自身が何か変わったわけではない。むしろ、いつも通りでいられないのは私のほうだ。

「……二人で、ゆっくりできるところがいいです……。――あっ! 次は私が食事代を出すので、ヨルグさんは食べたいものを考えておいてくださいね」

 本当は先日のお出かけの際、昼食と観劇のお礼に夕食代は私が支払おうと考えていたのだ。
 ところが呆気なく酔いつぶれ、お会計も待たずに寝てしまうというていたらく。

 ヨルグには今までたくさんお世話になった。受けた恩を返すことに、貴族も庶民も関係ないと思うから。

 ヨルグが本当は大金持ちの貴族だろうと、腐るほどお金をもて余していようと、次こそは私が支払う!
 ――つもりだけれど。さすがに貴族御用達の超高級レストランなんてものはご容赦願いたいところだ。

「先日の食事はハンカチのお礼だ……そこに礼を返す必要はない。今回も、俺から誘ったのだから俺が支払うのが当然だろう」

「それじゃあ、奢れない人は誰も誘えなくなっちゃうじゃないですか! 私だって食事代くらい払えます!」

 ヨルグが見せるお金への余裕が、貴族だという証明のようで素直に受け入れられない。
 意地っ張りで可愛くないと思われたらどうしよう。そんな不安を抱く気持ちもあるのに。

「――だから食べたいもの、ちゃんと考えておいてくださいっ!」

 固く握りしめた手に視線を落として言い放てば、しばしの沈黙のち、ためらいがちな声が返ってきた。

「迷惑でなければ……、その……、リズの手料理を食べてみたいんだが……」

「それって、お金を使わせないように言ってます?」

 ここまで言ってもまだ言うかと睨みつけると、ヨルグは降参のポーズのように両手を挙げてブンブンと首を振った。

「違う、本当に食べたいんだ! 神に誓って!」

「…………それなら別に、作るのは構いませんけど」

 庶民の家庭料理が気になる、とか……?
 いぶかしみつつ答えれば、ヨルグはほぅーっと肩の力を抜いた。

「そうだな……弁当を持って、遠乗りなんてどうだろう? 少し行ったところに景色のいい場所があるんだ」

「私、馬なんて乗れませんよ?」

「俺と一緒に乗れば問題ない。いや、馬が苦手でなければだが……」


 そうして、今度の『デート』の予定が決まった。
しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

処理中です...