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11~20話
あなたのことを【下】
しおりを挟む「リズ……その、デートだが……どこか行きたい場所はあるか?」
いつものように、こちらの反応を窺いながらヨルグが問う。
その優しい気遣いと、熱情とは程遠い穏やかさが今は切ない。
私が『知った』からといってヨルグ自身が何か変わったわけではない。むしろ、いつも通りでいられないのは私のほうだ。
「……二人で、ゆっくりお話できるところがいいです……。――あっ! 次は私が食事代を出すので、ヨルグさんは食べたいものを考えておいてくださいね」
本当は先日のお出かけの際、昼食と観劇のお礼に夕食代は私が支払おうと考えていたのだ。
ところが呆気なく酔いつぶれ、お会計も待たずに寝てしまうという体たらく。
ヨルグには今までたくさんお世話になった。受けた恩を返すことに、貴族も庶民も関係ないと思うから。
ヨルグが本当は大金持ちの貴族だろうと、腐るほどお金をもて余していようと、次こそは私が支払う!
――つもりだけれど。さすがに貴族御用達の超高級レストランなんてものはご容赦願いたいところだ。
「先日の食事はハンカチのお礼だ……そこに礼を返す必要はない。今回も、俺から誘ったのだから俺が支払うのが当然だろう」
「それじゃあ、奢れない人は誰も誘えなくなっちゃうじゃないですか! 私だって食事代くらい払えます!」
ヨルグが見せるお金への余裕が、貴族だという証明のようで素直に受け入れられない。
意地っ張りで可愛くないと思われたらどうしよう。そんな不安を抱く気持ちもあるのに。
「――だから食べたいもの、ちゃんと考えておいてくださいっ!」
固く握りしめた手に視線を落として言い放てば、しばしの沈黙のち、ためらいがちな声が返ってきた。
「迷惑でなければ……、その……、リズの手料理を食べてみたいんだが……」
「それって、お金を使わせないように言ってます?」
ここまで言ってもまだ言うかと睨みつけると、ヨルグは降参のポーズのように両手を挙げてブンブンと首を振った。
「違う、本当に食べたいんだ! 神に誓って!」
「…………それなら別に、作るのは構いませんけど」
庶民の家庭料理が気になる、とか……?
訝しみつつ答えれば、ヨルグはほぅーっと肩の力を抜いた。
「そうだな……弁当を持って、遠乗りなんてどうだろう? 少し行ったところに景色のいい場所があるんだ」
「私、馬なんて乗れませんよ?」
「俺と一緒に乗れば問題ない。いや、馬が苦手でなければだが……」
そうして、今度の『デート』の予定が決まった。
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