不能だと噂の騎士隊長が『可能』なことを私だけが知っている（※のぞきは犯罪です）

1～10話

おそろいの……【上】

　広い公園をのんびりと抜ける頃には、通りの店も開店時刻を迎えたらしい。
　徐々に人足も増え、眩しい朝日を浴びながら街全体が目を覚ます。

　静かな街に二人きりという状況もロマンチックだったけれど、たくさんの人で賑わう街も好きだ。
　子どもの頃は親の用事について王都に来るたび、あまりの人の多さにお祭りでもやっているのではと催しの中心部を探しまわったものだ。



　楽しい気持ちに浮かされて、興味の向くままあちらこちらの店を覗く。

　木工品店、雑貨屋、食器屋。
　気になっていたものの一人では近寄りがたかったおしゃれな香油店も、今日は足を踏み入れることができた。

「あの、私の行きたいお店にばっかり付き合わせちゃってすみません」

　様々な香りが混ざりあって醸かもし出される妙にゴージャスな香り。
　明らかに女性向けを意識した店内に、チラリと隣のヨルグを見上げる。

「いいや、自分では入らないような店ばかりで興味深い。この店にはよく来るのか？」

　ヨルグは棚に並んだ小瓶の一つを手に取って眺め、しげしげと店内を見渡した。
　その仕草に、言葉だけでなく本当に興味を抱いてくれているのだとわかってホッとする。

「このお店は初めてです。前々から気になってたんですけど、一人ではちょっと近寄りがたくて……。今日はヨルグさんと一緒で心強いから入れました！」

「俺と一緒で……、そうか……」

　ヨルグは小さく呟き、片手で口元を覆ってしまった。

　ただでさえ目元が前髪に隠されているというのに、口元まで隠されては一切顔が見えなくなってしまう。
　私の『透視』も、布の一枚や人体の一部だけを透かすような器用な芸当はできないのだ。

　見えない顔に、むぅ、と口を尖らせて店内を見渡すと、奥の棚にレンガのような塊が並んでいるのが見えた。

「あっ、石鹸が売ってる！」

　棚は逃げないとわかっていても、ついつい小走りで向かってしまう。

　近くで見れば、棚の一面にずらりと並んだ石鹸は壮観だった。