上 下
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1~10話

芝生の上で【下】

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「早朝に出歩くなら、俺が一緒のときだけにしてくれ」

「えっ?」

 ぱっと隣を見ると、思いのほか近い位置にヨルグの横顔があってドキリと心臓が跳ねた。
 歩いていたときと同じくらいの距離は空いているはずなのに、寝そべったことで身長差がなくなったせいか顔が近い。

「護衛代わりにはなるだろう」

 僅かに顔をこちらに向けるヨルグを、さらと流れる長い前髪を、瞬きも忘れて凝視する。

 跳ねに跳ねた心臓は、たぶん空まで跳んでいった。
 熱い頬に触れる芝生がひんやりと心地いい。

「また、一緒にお出かけしてくれるんですか?」

「ああ、その……迷惑でなければ、だが……」

「!! 嬉しいで――」

「リゼット!」

 笑みを浮かべかけた私の上に、ヨルグがガバッと覆い被さった。
 私の顔の両脇に手をついたヨルグの、腕のなかにすっぽりと囲われる。

「!? 〰〰っ!!?」

 どうしよう! 右を見ても左を見ても前を見てもヨルグだ!

 えっ? えっ!? ――まさかここで!?
 いやいや、さすがに付き合ってもいない状態でこんなことは……! しかも外だし! あ、でも人目はないか……。いやでもっ! 初めてが屋外はちょっと……! ああだけど今を逃したら、こんなチャンスもう二度とないかもしれないし…………。

「お、お手柔らかに……っ!」

「キャンッ!」

 胸の前で手を組んでぎゅっと目を閉ざした私に、甲高い声が応えた。

「……『キャン』?」

 ヨルグのものとは思えない高音に声の発生源を探せば、ヨルグの腕の向こうに真っ白な毛玉が見えた。

 毛玉は弾むように転がってきて、私を守るヨルグの頭にワシッとじゃれついた。

「ワフッ、ワゥッ、キャンキャンッ」

「……いぬ?」

 よく見れば、毛に埋まった首輪から繋がっているとおぼしきリードを引きずっている。

 相手は誰でもいいのだろう、ふわふわの子犬はヨルグにじゃれつきながらも時折私を覗き込もうとして、それを阻もうとヨルグがさらに姿勢を低くする。

「リゼット、大丈夫か?」

「はい……」

 嘘。ダメである。
 別に子犬にじゃれつかれたってどうってことないけれど、この状況はダメだ。
 近い。顔が近い。長い前髪がおでこに触れてしまいそう。
 しかも前髪が真下に垂れたことで、腕のなかにいる私からはヨルグの顔が見える。

 逆光で見えにくいけど……格好いい、と、思う。
 瞳の色は茶色? ううん、もっと薄いような……金色?

 沸騰寸前の脳裏にほんの一瞬、遠い記憶の断片がちらついた気がした。
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