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51~60話

53d、ご主人様は私の願いをわかっていなかった

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………………


朝、いつもより幾分早く屋敷を出る。
今日は登城前に寄る所があるのだ。

街へ転移し、開店準備中の宝石商の扉を叩くと無理を言って商品を見せてもらう。

「今すぐに赤い宝石いしが欲しいんだ。俺の瞳と同じ色の」

「ご婚約指輪でございますか?」

話をしながらも、店主はテキパキとした動作で棚から大小様々な形をした赤い宝石を取り出すと、布張りのトレイに並べた。

「ああ。急いで仕立てたい。工房も教えてもらえるだろうか?」

「いくつか工房をお伝えすることはできますが、今の時期手に空きがあるかどうかまではわかりかねますが……」

「それで構わない。自分であたってみよう」

迷わず、並べられた中で一番大きな1ゴールド硬貨大の石に手を伸ばそうとしたところで、店主が言った。

「お相手様の指に着けた姿をイメージして選ばれるのがよろしいかと」

マヤの指に……。

あの白く華奢な指にこの大きな宝石では……重みで指が折れてしまうかもしれないな。これはダメだ。

一つ一つじっくりと見比べ、頭の中でマヤの指に当て嵌めてみる。

「……これを貰おう」

悩んだ末に、マヤの指先ほどの小さな楕円の、つるりとカットされた石を選んだ。





貰ったメモの工房の2箇所目をあたったところで、当日の着手が可能だと言われた。

「今日中に仕上げてほしい」

「でもねぇ、他にも作業が……」

「もちろん代金は上乗せさせてもらう」

食い下がった末に、代金の上乗せに加え魔力炉の魔石に魔力を充填することで話がついた。

「あの魔力炉は火力が高い分魔力を食うからねぇ、助かるよ。で? デザインはどうします? 最近の流行りだとカノーの花とかルコレイの葉とか……」

「ヨリの木をモチーフにしてくれ」

「へ? ヨリってったらあの、一度絡み付いたら梃子てこでも剥がれないってぇつる植物の?」

「ああ。サイズはこれを」

一本の細いリボンをカウンターに乗せる。
眠るマヤの指に巻き付け、一周の長さに目印を付けてきたものだ。

いくつか提示された貴金属見本の中から土台に使うものを選んでデザインの詳細を決めると、先ほど買った赤い石を預けて店を出る。

「また夜に取りに来る」

「極力ごゆっくりどうぞ~」

もうすっかり日が昇ってしまった。
俺は急いで城へと転移した。
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