232 / 486
51~60話
53d、ご主人様は私の願いをわかっていなかった
しおりを挟む………………
朝、いつもより幾分早く屋敷を出る。
今日は登城前に寄る所があるのだ。
街へ転移し、開店準備中の宝石商の扉を叩くと無理を言って商品を見せてもらう。
「今すぐに赤い宝石が欲しいんだ。俺の瞳と同じ色の」
「ご婚約指輪でございますか?」
話をしながらも、店主はテキパキとした動作で棚から大小様々な形をした赤い宝石を取り出すと、布張りのトレイに並べた。
「ああ。急いで仕立てたい。工房も教えてもらえるだろうか?」
「いくつか工房をお伝えすることはできますが、今の時期手に空きがあるかどうかまではわかりかねますが……」
「それで構わない。自分であたってみよう」
迷わず、並べられた中で一番大きな1ゴールド硬貨大の石に手を伸ばそうとしたところで、店主が言った。
「お相手様の指に着けた姿をイメージして選ばれるのがよろしいかと」
マヤの指に……。
あの白く華奢な指にこの大きな宝石では……重みで指が折れてしまうかもしれないな。これはダメだ。
一つ一つじっくりと見比べ、頭の中でマヤの指に当て嵌めてみる。
「……これを貰おう」
悩んだ末に、マヤの指先ほどの小さな楕円の、つるりとカットされた石を選んだ。
貰ったメモの工房の2箇所目をあたったところで、当日の着手が可能だと言われた。
「今日中に仕上げてほしい」
「でもねぇ、他にも作業が……」
「もちろん代金は上乗せさせてもらう」
食い下がった末に、代金の上乗せに加え魔力炉の魔石に魔力を充填することで話がついた。
「あの魔力炉は火力が高い分魔力を食うからねぇ、助かるよ。で? デザインはどうします? 最近の流行りだとカノーの花とかルコレイの葉とか……」
「ヨリの木をモチーフにしてくれ」
「へ? ヨリってったらあの、一度絡み付いたら梃子でも剥がれないってぇ蔓植物の?」
「ああ。サイズはこれを」
一本の細いリボンをカウンターに乗せる。
眠るマヤの指に巻き付け、一周の長さに目印を付けてきたものだ。
いくつか提示された貴金属見本の中から土台に使うものを選んでデザインの詳細を決めると、先ほど買った赤い石を預けて店を出る。
「また夜に取りに来る」
「極力ごゆっくりどうぞ~」
もうすっかり日が昇ってしまった。
俺は急いで城へと転移した。
11
お気に入りに追加
3,300
あなたにおすすめの小説
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる