ご主人様は愛玩奴隷をわかっていない ～皆から恐れられてるご主人様が私にだけ甘すぎます！～

１～１０話

１０c、私は応援のタイミングをわかっていない

　まずい。完っ全にタイミングを間違えた！

　騎士達が全員目を丸くしてこちらを見ている。
　歓声を気にした様子の無かったガルでさえ、今はこちらを向いている。

　私を中心に、さながら時が止まったかのようだ。

　いやいや、でもさすがにみんな過剰反応しすぎだろう。
　ただ静かにするタイミングで声を発してしまっただけで、何もそこまで注目する事ないじゃないか。

　客席も静かにざわめく。

　ヒソヒソ……ザワザワ……
「ガル様……？」
「まさかバドア様の事……」
「そんなまさか」
「ガル様……」
「ゲルゼーラ様の愛称では……」
「でもなぜ今……」


　寸の間あって気を取り直したガルが審判に声をかけ、改めてガルとフェンベックがコートで対峙する。
　そのまま開始の合図がかかり、試合が再開した。

　そして終わった。


　一瞬の事に、声援を投げかけようとしていた女性達が口を開きかけた状態のまま固まっている。

　今日はよく時が止まる日だ。

　フェンベックは尻もちをついたような体勢で両手を挙げ、その喉元にはガルの構える剣が突きつけられていた。


「しょ、勝者、バドア隊長！」

　沸き起こる拍手が心なしかぎこちない。
　それでも私は、力一杯手を打ち鳴らした。

　すごい！　ガルすごい！
　実力の近い人同士で組んでいたはずなのに、こんなに一瞬で勝負をつけるなんて！
　何が起こったのかは、全然！　全く！　わからなかったけども！

　ガルが怖い顔でこちらを見てくる。
　ほんのり目元が赤らんでいるような気がするので、喜んでいるのかもしれない。
　その顔に精一杯の拍手を贈った。