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31~40話
溺れる者は犯人をも掴む【下】
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「だけど、そうしたらもうクロと一緒には……」
お城に入れば変化の魔法は打ち消される。
そうなれば、魔法で人間サイズになった私はもうクロの側にいられなくなってしまうだろう。
「何ものもヒナの命には代えられない」
「でも……」
「ん~、口述魔法だと微調整が利かないから、ぴったり元通りのサイズにするのは無理だと思うよぉ~」
「だが他に手段がないだろう! 取り急ぎ元の身体に近い大きさにさえなれれば、魂との懸隔は多少なりとも抑えられる。細かな調整については追って考えればいい」
「何度も変化させるのは負荷が大きいと思うけどなぁ。……それよりもぉ~、僕ならたぶん、戻せると思うんだけどぉ?」
「えっ!」
「本当か!?」
「魔法薬を使うのさ。あれなら細かい調整が利く。それからこれは推測だけどぉ、今回の場合は魂と器の『差異を解消する』ことになるから、城の結界は発動しないと思うんだよねぇ~」
「たしかに結界は、魂と器の『差異』に反応して魔法を打ち消す……。ならば今すぐ、人体構造に精通した研究員に薬を作らせよう!」
「はいは~い」
ミディルアードが高々と片手を挙げる。
歯牙にもかけず部屋を出ようとしたクロの背中に、さらなるアピールの声がかかった。
「解剖学と医学の知識もあって、ここで一番腕がいいって言ったら、僕しかいなくない~? 拡大倍率の調整ってかなりややこしい調合になるから、他の人間には作れるかどうかわからないなぁ~」
「…………」
「ここにちょうど、さっき計測した小さいののデータもあることだしぃ?」
「……先ほどからいやに協力的だが、何が狙いだ」
「妖精――――っと、ゔぇっ、ちょっ、魔力放出やめてぇ……! 可愛い冗談じゃないかぁ……」
「早く答えろ」
一瞬で部屋中を呑み込んだ温かさが、じりじりと引いていく。
「んもぅ、せっかちだなぁ~……。僕としてはねぇ、今回の件を不問にしてほしいのさぁ。投獄なんてされたら、実験器具も研究材料も取り上げられてな~んにもない部屋で過ごすんだよぉ!? もうカビの分類ときのこの繁殖には飽き飽きだよぉ~」
「……おまえの居た牢が惨状だと言われていた原因はそれか。――ヒナ、罪人はこう言っているが、ヒナはどうしたい? ここは一旦魔法薬を作らせておいて、完成後に処刑する手もある」
「聞こえてるんだけどぉ~」
クロの手のひらの上、居住まいを正してミディルアードに向き直る。
拐われたことを赦したわけではないけれど、自分の命のため、クロにこれ以上心配をかけないためにも、今は感情よりも優先すべきことがある。
「……拐われたことについては、不問でかまいません。どうか、魔法薬作りをお願いします……っ!」
「おっけぇ~」
お茶の誘いに応じるかのような軽い調子で、ミディルアードの協力が決まった。
お城に入れば変化の魔法は打ち消される。
そうなれば、魔法で人間サイズになった私はもうクロの側にいられなくなってしまうだろう。
「何ものもヒナの命には代えられない」
「でも……」
「ん~、口述魔法だと微調整が利かないから、ぴったり元通りのサイズにするのは無理だと思うよぉ~」
「だが他に手段がないだろう! 取り急ぎ元の身体に近い大きさにさえなれれば、魂との懸隔は多少なりとも抑えられる。細かな調整については追って考えればいい」
「何度も変化させるのは負荷が大きいと思うけどなぁ。……それよりもぉ~、僕ならたぶん、戻せると思うんだけどぉ?」
「えっ!」
「本当か!?」
「魔法薬を使うのさ。あれなら細かい調整が利く。それからこれは推測だけどぉ、今回の場合は魂と器の『差異を解消する』ことになるから、城の結界は発動しないと思うんだよねぇ~」
「たしかに結界は、魂と器の『差異』に反応して魔法を打ち消す……。ならば今すぐ、人体構造に精通した研究員に薬を作らせよう!」
「はいは~い」
ミディルアードが高々と片手を挙げる。
歯牙にもかけず部屋を出ようとしたクロの背中に、さらなるアピールの声がかかった。
「解剖学と医学の知識もあって、ここで一番腕がいいって言ったら、僕しかいなくない~? 拡大倍率の調整ってかなりややこしい調合になるから、他の人間には作れるかどうかわからないなぁ~」
「…………」
「ここにちょうど、さっき計測した小さいののデータもあることだしぃ?」
「……先ほどからいやに協力的だが、何が狙いだ」
「妖精――――っと、ゔぇっ、ちょっ、魔力放出やめてぇ……! 可愛い冗談じゃないかぁ……」
「早く答えろ」
一瞬で部屋中を呑み込んだ温かさが、じりじりと引いていく。
「んもぅ、せっかちだなぁ~……。僕としてはねぇ、今回の件を不問にしてほしいのさぁ。投獄なんてされたら、実験器具も研究材料も取り上げられてな~んにもない部屋で過ごすんだよぉ!? もうカビの分類ときのこの繁殖には飽き飽きだよぉ~」
「……おまえの居た牢が惨状だと言われていた原因はそれか。――ヒナ、罪人はこう言っているが、ヒナはどうしたい? ここは一旦魔法薬を作らせておいて、完成後に処刑する手もある」
「聞こえてるんだけどぉ~」
クロの手のひらの上、居住まいを正してミディルアードに向き直る。
拐われたことを赦したわけではないけれど、自分の命のため、クロにこれ以上心配をかけないためにも、今は感情よりも優先すべきことがある。
「……拐われたことについては、不問でかまいません。どうか、魔法薬作りをお願いします……っ!」
「おっけぇ~」
お茶の誘いに応じるかのような軽い調子で、ミディルアードの協力が決まった。
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