65 / 165
21~30話
適切に処理しましょう【中】 ※
しおりを挟む
やわらかな唇が、目を覆う手の甲や、耳元を掠めていく。
焦れたようにちゃぷちゃぷと跳ねるお湯の音さえも私をさいなんで。
熱くて、熱くて、頭の中が煮え立ってどうにかなってしまいそうだ。
「ヒナ、ヒナ……っ」
そんなに繰り返し呼ぶのだから本当に何か用があるのかもしれないと、指の隙間からそっとクロを窺った、その瞬間。
「くっ――――」
目の前で。本当に真ん前で。
赤い顔で目を細め壮絶な色気を孕んだクロが、何かに耐えるようにぎゅっと眉根を寄せて、ビクンと一度肩を弾ませた。
「はぁ……、は……」
くったりと全身の力を抜いていくクロに『処理』が終わったのを感じ、私も目元の覆いを解く。
「はっ……、はっ……」
緊張からか、熱にあてられたのか、私の身体も熱っぽく、走った直後のように呼吸が弾んでいた。
「ああ……ヒナ、顔が真っ赤だ。目も潤んでいるし……湯気でのぼせてしまったか?」
色気を駄々漏れにしたまま、クロが愛おしげに目を細める。
半ば放心状態でぼんやりと見とれていると、クロの顔が間近に迫り……ちゅ、と頬に口付けられた。
「なっ、なな……っ、何するんですか!!」
べちんと勢いよく左頬を押さえる。
さっきだってそうだ。涙を口付けで吸い取られた気がする!
「熟れたリンゴのような頬が美味しそうで……つい」
「『つい』で簡単にキっ、キスしちゃダメです……! そういうのは好きな人にだけしてください!」
「ああ、わかった」
そう言ってクロは、空いた私の右頬にちゅっと口付けを落とした。
「〰〰わかってなーーーい!!!」
その日も、クロは朝から寝室で書類の相手をしていた。
「ヒナ、ここに頼む」
「はーい」
小振りな五徳に専用のスプーンを乗せ、封蝋のペレットを数粒入れる。
太短い円筒形の本体の石部分に触れれば、キャンドルのようにポッと上部に火がついた。
蝋が溶けるのを待ってスプーンを火から下ろし、クロが指定した場所へと蝋を垂らす。
その上からクロが印章を捺せば、一丁上がり!
捺印された書類を処理済みの山に重ね、きっちりと角を合わせる。
「ふぅーっ」
いい仕事した!
「ありがとう、ヒナ」
「えへへ」
なぜこうして書類仕事を手伝っているかというと、昨日のように腹部に貼りついて魔力吸収しようとしたところ、クロに頑なに辞退されたからである。
一緒にいるのは利用するためではないとか、狭い空間に押し込めておくのは申し訳ないとか、こちらが訊ねる前からあれこれと理由を挙げ連ねていた。
まあ、クロの役に立てるなら私はなんの仕事でも構わないけれど。
焦れたようにちゃぷちゃぷと跳ねるお湯の音さえも私をさいなんで。
熱くて、熱くて、頭の中が煮え立ってどうにかなってしまいそうだ。
「ヒナ、ヒナ……っ」
そんなに繰り返し呼ぶのだから本当に何か用があるのかもしれないと、指の隙間からそっとクロを窺った、その瞬間。
「くっ――――」
目の前で。本当に真ん前で。
赤い顔で目を細め壮絶な色気を孕んだクロが、何かに耐えるようにぎゅっと眉根を寄せて、ビクンと一度肩を弾ませた。
「はぁ……、は……」
くったりと全身の力を抜いていくクロに『処理』が終わったのを感じ、私も目元の覆いを解く。
「はっ……、はっ……」
緊張からか、熱にあてられたのか、私の身体も熱っぽく、走った直後のように呼吸が弾んでいた。
「ああ……ヒナ、顔が真っ赤だ。目も潤んでいるし……湯気でのぼせてしまったか?」
色気を駄々漏れにしたまま、クロが愛おしげに目を細める。
半ば放心状態でぼんやりと見とれていると、クロの顔が間近に迫り……ちゅ、と頬に口付けられた。
「なっ、なな……っ、何するんですか!!」
べちんと勢いよく左頬を押さえる。
さっきだってそうだ。涙を口付けで吸い取られた気がする!
「熟れたリンゴのような頬が美味しそうで……つい」
「『つい』で簡単にキっ、キスしちゃダメです……! そういうのは好きな人にだけしてください!」
「ああ、わかった」
そう言ってクロは、空いた私の右頬にちゅっと口付けを落とした。
「〰〰わかってなーーーい!!!」
その日も、クロは朝から寝室で書類の相手をしていた。
「ヒナ、ここに頼む」
「はーい」
小振りな五徳に専用のスプーンを乗せ、封蝋のペレットを数粒入れる。
太短い円筒形の本体の石部分に触れれば、キャンドルのようにポッと上部に火がついた。
蝋が溶けるのを待ってスプーンを火から下ろし、クロが指定した場所へと蝋を垂らす。
その上からクロが印章を捺せば、一丁上がり!
捺印された書類を処理済みの山に重ね、きっちりと角を合わせる。
「ふぅーっ」
いい仕事した!
「ありがとう、ヒナ」
「えへへ」
なぜこうして書類仕事を手伝っているかというと、昨日のように腹部に貼りついて魔力吸収しようとしたところ、クロに頑なに辞退されたからである。
一緒にいるのは利用するためではないとか、狭い空間に押し込めておくのは申し訳ないとか、こちらが訊ねる前からあれこれと理由を挙げ連ねていた。
まあ、クロの役に立てるなら私はなんの仕事でも構わないけれど。
43
お気に入りに追加
1,126
あなたにおすすめの小説
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ご主人様、どうか平和に離縁してください!〜鬼畜ヤンデレ絶倫騎士に溺愛されるのは命がけ〜
蓮恭
恋愛
初めて受けた人間ドック。そこで末期の子宮がん、それに肺転移、リンパ節にも転移している事が分かった美桜(ミオ)は、仕事に生きた三十七歳の会社員。
会社員時代に趣味と化していた貯金一千万円も、もう命もわずかとなった今となっては使い道もない。
余命僅かとなった美桜の前に現れたのは、死神のテトラだった。
「おめでとうございます、進藤美桜さん! あなたは私達の新企画、『お金と引き換えに第二の人生を歩む権利』を得たのです! さあ、あなたは一千万円と引き換えに、どんな人生をお望みですか?」
半信半疑の美桜は一千万円と引き換えに、死後は魂をそのままに、第二の人生を得ることに。
乙女ゲームにハマっていた美桜は好みのワンコ系男子とのロマンチックな恋愛を夢見て、異世界での新しい人生を意気揚々と歩み始めたのだった。
しかし美桜が出会ったのはワンコ系男子とは程遠い鬼畜キャラ、デュオンで……⁉︎
そして新たに美桜が生きて行く場所は、『愛人商売』によって多くの女性達が生き抜いていく国だった。
慣れない異世界生活、それに鬼畜キャラデュオンの愛人として溺愛(?)される日々。
人々から悪魔と呼ばれて恐れられるデュオンの愛人は、いくら命があっても足りない。
そのうちデュオンの秘密を知る事になって……⁉︎
未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】
高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。
全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。
断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。
【R18】利害一致のお飾り婚だったので初夜をすっぽかしたら大変なことになった
春瀬湖子
恋愛
絵に描いたような美形一家の三女として生まれたリネアだったが、残念ながらちょっと地味。
本人としては何も気にしていないものの、美しすぎる姉弟が目立ちすぎていたせいで地味なリネアにも結婚の申込みが殺到……したと思いきや会えばお断りの嵐。
「もう誰でもいいから貰ってよぉ~!!」
なんてやさぐれていたある日、彼女のもとへ届いたのは幼い頃少しだけ遊んだことのあるロベルトからの結婚申込み!?
本当の私を知っているのに申込むならお飾りの政略結婚だわ! なんて思い込み初夜をすっぽかしたヒロインと、初恋をやっと実らせたつもりでいたのにすっぽかされたヒーローの溺愛がはじまって欲しいラブコメです。
【2023.11.28追記】
その後の二人のちょっとしたSSを番外編として追加しました!
※他サイトにも投稿しております。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる