王子は公爵令嬢を溺愛中

saku

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(皆様、ご機嫌よう。えっ? 何で今さら挨拶しているかって? なんとなくですわ!!)

まぁ、それはさておき。何故かレイラは、令嬢達に囲まれてしまっていた。

「ちょっと! 聞いているんですの!?」

「「「そうよ。そうよ!」」」

「えぇ、聞いておりますわよ?」

(……何故こうなった。)

それは、数時間前に遡る。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

いつもと変わらない日常だった。
教室に入ると。ガーネットが手を振りながら嬉しそうに、レイラの元に向かってくる。

(……幻覚かしら? ガーネット様に耳としっぽが見えるわ。)

「レイラ様! おはようございます!!」

「ご機嫌よう。ガーネット様は、元気ね」

「はい! 元気が取り柄ですから!」

物語の中で嫌われ者だったレイラは、現在ヒロインであるガーネットに懐かれていた。

(いつ変わってしまったの!? やっぱり、私が助けた所から可笑しくなっているのかしら?)

レイラがそう思いながら悩んでいると、ガーネットが心配そうに覗き込んできた。

「大丈夫ですか? レイラ様」

「えぇ、大丈夫よ。」

レイラがそう言うと、ガーネットは嬉しそうに笑いながら話を再開し始めた。
ガーネットの笑顔は、相手まで笑顔になる。些細なことでも、楽しそうに話すからついつい聞いてしまうのだ。
そんなヒロインに、物語の中ではユーリも惚れたのだろう……。

「……フォーカス様。フォーカス様にお客様です」

ガーネットと話していると、クラスメイトである男の子が声を掛けてきた。

(お客様?)

入り口の方に目を向けると、数人の令嬢の方々が入口の所で立っていた。

「ガーネット様、少し席を外しますね?」

そう言い立ち上がると、ガーネットは心配そうにレイラを見ている。

「私も一緒に行きましょうか? それとも、ヴィオラさんを呼んできましょうか?」

「いいえ。大丈夫よ?」

レイラはそう微笑みながら言うと、入り口の辺りで待っている令嬢の方々に近づく。
ヴィオラは先生に用事があるらしく、今は側を離れていた。

「……私に何かご用?」

「フォーカス様、お話がございますの。一緒に来て下さる?」

「えぇ、分かりましたわ」

レイラを呼び出したのは、パーティーで何度か見たことがある侯爵や男爵の令嬢達だった。

(この方々、ユーリ様の周りによく居たような?)

後ろから着いていくと、中庭に着いた。
中庭は、花や木が植わっており。椅子や机などもあるので、生徒達の憩いの場となっている。今は人も居らず、静かだった。
令嬢の方々は、いきなり歩みを止める。

「私にご用とは何かしら? こんな所に連れ出して」

「……フォーカス様。貴女が、ユーリ様の婚約者だとは知っていますが。この頃、ユーリ様と一緒に居すぎてはありませんか? 」

「そうかしら? 婚約者同士なのだから、良いと思うわよ?」

確かにいつも一緒に居るけれど、親同士も認めている婚約者なのだ。

(ユーリ様を避けると、お仕置きが怖いもの……。)

「婚姻前の二人が、抱き合ったり。く、口付けするなんてふしだらですわ!!」

「「そうよ。そうよ!」」

(……見られていたのね。)

口付けはしていないが、よく別れ際にユーリはおでこにキスを落としていくので、それを見られたのだろう。

「ご忠告ありがとうございます。ですが、婚約者を持ってらっしゃる令嬢の方々もしてらっしゃるんじゃない?」

「なっ!!  貴女があの時婚約者に選ばれなかったら、候補だった私が選ばれていたのに!! 代わりなさいよ!!」

(……本音はそっちね。)

この方も、婚約者の候補だったの。あの時、ユーリは候補の令嬢達を集め。パーティーを開いた。そして、最後に婚約者になる令嬢を発表すると言って。

ユーリは、幼い頃からイケメンだったから。記憶が戻る前のレイラも、初めて会った時はつい見とれてしまっていた。
ユーリの周りは令嬢が取り囲んでおり、近づけなかったのでレイラは挨拶だけを済ました。レイラは近くには居なく、あまり喋ってもいなかったのに何故か最後で選ばれたのはレイラだった。
そして、婚約者に選ばれたのが凄く嬉しく。浮かれていたレイラは、つい階段を踏み外してしまい前世の記憶が戻ったのだ。

記憶が戻った後は、絶望した。
好きな婚約者に、最後は婚約破棄されるのだから。
今、ユーリはヒロインに惚れておらず。物語と全然違うけれど……。

「ちょっと、聞いているの!?」

そんな事を考えていると、いきなり文句を言っていた令嬢が手を振り上げてきた。

(やばい! 叩かれる!!)

気づいた時には、目の前に迫っていた。
叩かれると思い目を瞑るが、一向に痛みは来ない。
恐る恐る目を開けると、クロウが令嬢の振り上げていた手を止めていた。


「な、何ですの!! 無礼者! 離しなさい!!」

「あんた、公爵令嬢に手をあげようとしていたのを分かっているのか? どっちが無礼者だ?? あ?」

クロウは怒っているのか、いつもと口調が違う。

「ひっ!! 痛いわ! は、離して!!」

令嬢の手首を持っている手は、力が入っているのか痛そうだ。

「……取り巻きのお前達も、分かっているのか? 身分が上の令嬢を取り囲んでいた」

「「ひっ!!」」

後ろに居た取り巻きの人達は、クロウに睨まれて震えている。

「クロウ。離してちょうだい? 」

「……お嬢ちゃんよ~。俺が守ったから無事だったけど。こいつらは身分が下なのに挨拶もなく、取り囲んで手をあげようとしていたんだぞ~?」

レイラが話しかけると、クロウはいつもの様な喋り方に戻ったが表情は怒った様な表情のままだ。

「……貴女方が、ユーリ様を好いておられるのは分かりましたわ。ですが、貴女方が選ばれなかった事を私に言われても困ります。それに、貴女方が選ばれなかった理由が分からないのですか? 」

後から聞いた話では、令嬢達の礼儀や来るまでの態度などが見られていたらしい。どの令嬢が、王妃に向いているかはお城に行く前から始まっていたのだ。

「私も後から知りましたが、侍女達の接し方も。喋り方や礼儀作法まで全て見られ。調べられていたらしいですわ。」

そう言うと、一人の令嬢は顔を青くした。
その令嬢については、噂に聞いた事があった。我が儘で、侍女達が困っていると。

「……僕の愛しいレイラ。大丈夫かい?」

後ろから抱き締められ、耳元で聞こえたのは大好きな人の声だった。




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