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しおりを挟むあの後、レイラが帰って少ししてからヴィオラが帰って来た。それも、やつれたような疲れた様な表情をしながら……。
家族との夕食も終わり、寝る準備も終わったレイラは部屋へと戻っていた。
それは、外は暗くなり。家の者達も寝静まっている頃だった。レイラの部屋は明かりがついており、中からは話し声が聞こえていた。
「……それでね! ユーリ様ったらひどいのよ!?」
「……はいはい。また、ノロケな」
(ノロケではないもの!!)
しゃがんでいるレイラの目の前には、黒髪で口元は布で隠しており。糸目の男が地べたに胡座をかいて座っていた。
その男に向かって、レイラはユーリの不満を言っていた。レイラの前に座って話を聞いている男は、何処か呆れた様な表情をしている。
これまでたまっていたものを全て吐き出すかのように、レイラは止まらない。
何故こんな状況になったかというと、それは数時間前まで遡る……。
寝る準備をしてベッドに入ると、疲れていたのかレイラはすぐに眠りについてしまった。
途中寝苦しくなり、レイラが目を覚ました時だった。
誰かが自分の上にのし掛かり、首もとに刃物を当てているのが目に飛び込んできた。
(……どっきりかしら。)
びっくりした表情をレイラはしたが、比較的落ち着いていた。
「チッ……起きたか。ごめんね? お嬢ちゃん、死んで?」
暗闇で顔は見えないが、声からしてのし掛かっているのは男だった。男にそう言われた瞬間、レイラは危険を察知したのか、握りしめた拳を前に突き出して男の顔を殴る。
鍛えていた甲斐があったのか、男の拘束が簡単に解け男はレイラの上から吹っ飛んでいった。
男は、顔に手を当てながらこちらを睨み付ける。相当痛かったのか、男の目が潤んでいるのが見える。
「痛っ! あんた、絶対令嬢じゃないだろ!!」
「なっ! 失礼ね!!」
ユーリに婚約破棄された後、レイラは冒険者になろうと思い鍛えていたのだ。
武器の扱い方や護身術はヴィオラと一緒に学び、部屋では密かに鍛えているのだ。
「あの王子の婚約者は、こんなにもじゃじゃ馬なのか!?」
そう言いながら、男はふっと顔を上げた。
窓越しから入ってくる月明かりで、顔が見える。
(……この顔、どこかで見たことあるわ?)
レイラは、男をじっくりと見る。黒髪で糸目。口元は布で隠しており、分からない。
「な~に? そんなに見つめて、俺に惚れちゃった?」
「なっ! 何を言ってるの!? 私の好きな人は、ユーリ様だけよ!」
「へぇ~。噂通りラブラブだね~。そんなに、ラブラブだと不満なんてないでしょ?」
(不満!? 沢山あるわ!!)
この男の一言で、レイラの中に溜まっていたものが爆発する。
そして、冒頭の様にレイラは男にユーリの愚痴を言っていた。止めようとするが、レイラの口は止まらない。
男は、後悔していた。出来るのであれば、数分前に戻って此処から立ち去りたいと……。
「うわぁ~。やっちまったわ~。」
「それでね! ユーリ様ったら、人目があるのによ!? 私は、恥ずかしいって言っているのに!!」
「はいはい。……じゃぁ、そろそろ帰るわ。」
「え!? もう帰るの? そういえば、貴方何しに来たの?」
レイラは頬に手をあて。首を傾げていると、男は呆れた様な顔でレイラを見た。
「……今頃かよ。お嬢ちゃんの暗殺だよ~。依頼主様は、王子様とお嬢ちゃんが仲良くしているのが嫌らしいよ~?」
「……それ、言っていいの?」
「まぁ、ダメだよね~。でも、お嬢ちゃんがこんなに強いとは依頼主から教えて貰ってないし。教えて貰ってても、お嬢ちゃんを暗殺なんて無理だわ。強すぎ~。まぁ、裏切りもあるよね~?」
(いやいや。裏切りはダメでしょ!? そんなので、大丈夫なの!? 依頼主に怒られない?)
「じゃぁ、帰るわ~。」
レイラの心配を余所に、男は窓から出ていこうとしていた。
そこで、レイラは思い出したかの様に男に近づく。
「ねぇ! 貴方の名前、教えてくださる?」
「ふふっ。な~いしょ」
男はそう言うと、窓から飛び降りてしまった。
(えっ!? ここ2階よ!?)
レイラが急いで窓に近寄り。下をみると、男の姿はもう無かった。窓の下には、漆黒の闇が広がっているだけ。
(黒髪の糸目……。知っている様な気がするわ。)
「あっ! もしかして、暗殺者のクロウ!?」
物語でクロウが出てくるのは、レイラが亡くなった後だった……。
何処かの令嬢が、ユーリと仲良くしているヒロインの事が嫌いで。酒場で出会ったクロウに暗殺の依頼をするのだ。
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ヒロインの暗殺は未遂で終わったけれど、それを知ったユーリが怒る。
その後の物語を読む前に、前世では亡くなってしまったから、物語がどうなったかは分からない。
そこで、レイラは可笑しい事に気づく。
(あれ? でも、何でヒロインじゃなくて私なの? それに、クロウが出てくるのはレイラが亡くなる後の筈……。)
何処かでやっぱり、可笑しくなってしまったのかとレイラは不安になったのだった……。
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