5 / 36
第一章
ボヌル
しおりを挟むお店の中は、外からでも分かるぐらいガヤガヤと賑わっていた。賑わっているからこそ、中に入るのを躊躇した。
「忙しそうだから、後から来た方がいいかしら? 」と、ルミエールは思い。その場から離れようと、向きを変え。歩きだそうとした時だった。
カランカラン……。
お店の扉が開き、赤茶色の長い髪の毛を後ろで三つ編みにした一人の女性が中から出てきた。
その女性は、周りをキョロキョロと見回した後。近くに居たルミエールに気づくと、ルミエールの方へと近づいて来る。
「……もしかして、あんたがルミエールかい?」
(どこかで会ったことあったかしら……。)
どれだけ思い出そうとしても、ルミエールは分からなかった。
首を傾げているルミエールを見た女性は、可笑しそうにクスリと笑った。
「ごめんよ。私は、シスターから話は聞いていたからルミエールの事を知っていたんだよ。私は、リゼ。このお店を営んでいるよ」
「は、初めまして! 今日からお世話になります。ルミエール・リフェアです!」
リゼが、このお店を営んでいる人だと知り。ルミエールは、慌てて頭を下げて挨拶をする。
(この女性が、ボヌルの店主……。あの護衛の人達は、リゼさんの事を怖い人だと言っていたけれど、そんな感じもしない優しそうな人だわ……。)
「迷子になっているのかと思って、これから探しに行こうとしていた所だったんだよ。」
「すみません……遅くなりました。」
「無事に来たんだからいいさ。初めての帝都だから、街を見て回りたかっただろうしね。さぁ、入りな。」
リゼはそういうと、お店の扉を開けてくれた。扉を開けると、ガヤガヤと賑わっていた声がよく聞こえてくる。
ルミエールがボヌルの中に入ると、防具を身に付けている冒険者の人や、お昼なのにお酒を飲んでいる男の人達が居るのが見えた。
「ようこそ、ボヌルへ。此処が、今日からあんたの居場所でもあり。働く所だよ」
(此処が、私の居場所……。)
一度目の人生では故郷で嫌われており、リゼリアの居場所は無かった。
この国に嫁いできてやっと、リゼリアの居場所も愛してくれる人もいるんだと。これから、この人と幸せになるんだと。そう、思っていた。
周りから、ブランの事を不幸にするんじゃないか。この女はまた捨てられるんじゃないかと、囁かれていてもブランが守って。否定してくれていたから、リゼリアは安心してブランと一緒に居れたのだ。
だが、リゼリアじゃない違う令嬢との恋愛が噂で囁かれた時は、もうリゼリアの居場所はなく。周りが言うように、自分は幸せになれないんだと思ってしまった。
だからなのか、リゼリアはせめてブランの幸せを願おうと思った。
生まれ変わってからは、シスターは自分達を家族の様に接してくれた。何か悪いことをしたら叱り。優しい笑みで褒めてくれたことだってあった。
教会には、沢山の子供達も居たので寂しくはなかった。只、此処を出て行ったら、また一人ぼっちになるんだと思うと、寂しさしか無かった。
自分を産んでくれた両親は、事故で亡くなりルミエールを置いて逝ってしまった。ルミエールは、今世でもまた家族も居なく。両親の愛情も分からなく、一人ぼっちなんだと思った……。
いつも運命は残酷だ。と、そう思っていた。だけど、リゼは此処がルミエールの居場所だと言ってくれた。
そう思うと、目から涙が流れ落ちる。
「ルミエール!?どうしたんだい!?」
「違うんです……ご……めん……なさい。」
「おいおい。リゼさんが、ついに女の子を泣かしたぞ」
「おい、大丈夫か? お嬢ちゃん」
リゼや、周りにいた人達が慌て。心配をしてくれている。その事だけでも、ルミエールの心はポカポカと暖かい気持ちになる。
早く泣き止まないといけないのに、ぽろぽろと涙が溢れてくる。流れ落ちてくる涙を手で拭うが、涙が止まらない。
(否定をしたいのに……。泣くことを我慢しよう。今度こそ強くならないといけない。と、思って決めていた所なのに……。私は何も変われていないわ。前世の様に、弱いままだわ……。)
「……ほら! 泣き止みな。今忙しいんだから、手伝ってもらわないといけないんだよ!?」
「……はい!」
リゼはそう言いながら、ルミエールの涙を持っていたハンカチで拭う。
涙が止まり。ルミエールが下を向いていた顔を上げると、お店に居たお客さん達が優しい眼差しでこちらを見ているのが見えた。
「こんな可愛い子をリゼさん虐めるなよ? ……それよりも、こんな可愛い子が働いている店だったら、毎日でもくるな!」
「ハハッ! 間違いない!」
一人の男性が言った一言で、お店の中は笑いに包まれた。
「それは、どういう事だい? 今笑ったやつは、私のスペシャルメニューを平らげないと帰らせないからね!! ルミエール。手伝っておくれ!!」
「……っ。はい!」
リゼは怒った表情で腰に手を当ててそう言うと、調理場に入っていった。それにルミエールも続く。
その後ろでは、何故か悲鳴が上がっていたのだった……。
0
お気に入りに追加
2,067
あなたにおすすめの小説
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
【完結】 悪役令嬢は『壁』になりたい
tea
恋愛
愛読していた小説の推しが死んだ事にショックを受けていたら、おそらくなんやかんやあって、その小説で推しを殺した悪役令嬢に転生しました。
本来悪役令嬢が恋してヒロインに横恋慕していたヒーローである王太子には興味ないので、壁として推しを殺さぬよう陰から愛でたいと思っていたのですが……。
人を傷つける事に臆病で、『壁になりたい』と引いてしまう主人公と、彼女に助けられたことで強くなり主人公と共に生きたいと願う推しのお話☆
本編ヒロイン視点は全8話でサクッと終わるハッピーエンド+番外編
第三章のイライアス編には、
『愛が重め故断罪された無罪の悪役令嬢は、助けてくれた元騎士の貧乏子爵様に勝手に楽しく尽くします』
のキャラクター、リュシアンも出てきます☆
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました
平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。
クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。
そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。
そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも
深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。
乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい
ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。
だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。
気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。
だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?!
平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる