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六月
しおりを挟む体育祭は陸上部という理由だけで、リレーに選ばれるのは不本意だった。たしかに吉村は短距離選手だし、それなりに速い。
「吉村君、頑張って!」
山下に応援され、少しやる気がでる。
出揃ったのは見覚えのある陸上部や他の運動部の顔ぶればかりで、勝てるかどうか、少し不安になった。負けたらきっと文句を言われる。
「おつかれ! 吉村君すごいね!」
「そうかな……」
あまり順位はよくなかった。文句こそ言われなかったが、落ち込む。きっとタイムも悪かっただろう。
「そうだよ!」
そう言うと山下は、校舎の中に入っていった。
「どこ行くの?」
「ちょっと、いいかな」
手招きをしてくるので断ることもできない。強い口調で断ることもできたが、女子相手であるし、それはしなかった。
山下についていくと、空き教室の一つに入っていった。机が整然と並んでいて、なんとなく不気味だ。
山下は窓際の机に座り、吉村にも座るように促した。
さすがに机に座るのは嫌だったので、近くの椅子に座った。視線の先に胸がちらついて、ちょっとドキドキする。
「私ね、その……あんまり遠まわしに言うの苦手だから単刀直入に言うけど――」
そう言ってから一回言葉を切る。小さく頷いて見せると、言葉を続けた。
「あのね、私結構最初から、吉村君のこと、その……好きだったの。クラス会のときも、ほら席も、頑張って隣になったし……」
クラス会のときの席はわざとだったわけか。桐生の言い分は、正しかったわけか。桐生には言わないでおこう。というかこんな場面を見られたらなにを言われるか分からない。
「いや、ちょっとそれは……ごめん」
実に魅力的な誘いだが、断る。自分は桐生を好きだし、山下は友人だ。
「なんで? 彼女いないんでしょ?」
「そうだけど……」
思わず目を伏せる。理由とかは、適当に考えて言ったほうがいいのだろうか?
「桐生先輩と付き合ってるの?」
「え、なんで?」
動揺が隠せない。目線がうろうろと、上下左右を忙しなく動くのが自分でも分かる。
「なんとなく、だけど」
「いや、その。えーと」
否定も、肯定もできない。戸惑ってしまって、何を言って誤魔化したら良いのか分からなかった。
「そうなんだ、いいの別に! これからも友達でいてくれる?」
「うん、それは、もちろん」
明るく言ってのける山下に、感謝した。傷つけてしまったかもしれないが、仕方ない。
「そっか、じゃあね。ありがと」
テストが返ってきた。結果は良くも悪くもなくという、まずまずのものだった。予想よりはできたのではないかと自分では思った。
「どうしよう……」
六月に入り、桐生の誕生日がやってきた。一応プレゼントは用意しているものの、渡すタイミングが掴めない。
というのも、日曜日と創立記念日が被ったせいで、三連休となってしまったのだ。そのことをすっかり忘れ、月曜日に渡せば良いと思っていたのだが、それもできない。
「しょーがねぇな」
意を決して外出の準備をする。ついでに、家に行ってもいいか訊ねるメールを送る。
「返信早すぎだろ」
五秒もしないうちに、返信があり驚く。了承が取れたので、早速家を出た。
桐生の家まではそう遠くない。インターフォンを鳴らして、マンションへ入った。
「月冴!」
扉を開けた瞬間、桐生の声が聞こえた。前を見ると、玄関に立っている。
「待ってた」
「お、おう」
なにをするということもなく立ち尽くす。靴を脱ぐより前に、プレゼントを取り出した。
「えっと、その……。た、誕生日、おめでとう」
そう言って、取り出したプレゼントを差し出す。
「ありがとう。上がって」
桐生はにっこりと微笑むと、「開けていい?」と訊ねる。
靴を脱ぎながら、了承の言葉を口にすると、包みを開ける音がした。
「嬉しい。ありがとう」
リビングに入ったとき、突然桐生は振り返り、吉村を抱き寄せた。
「そんなたいしたもんじゃないから」
中身は安物のハンカチだ。そんなに高価なものではないのだから、その喜び方はおかしいと思った。
「月冴がくれるものは、なんでも嬉しい」
そんな歯が浮くような台詞を言ってのける。
「分かったからあんまりくっつくなよ」
そう言って引き離そうとするが、より強く抱き寄せられた。
「月冴……」
呟くようにそう言って唇を近付ける。
熱い吐息が顔に触れ、思わず目を瞑る。
「んっ……」
唇が触れ、やがてお互いの舌が絡まった。
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