転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!

つなかん

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番外編 なくなってしまった未来②

ブラッドリー家の花束

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「ゲッ!」
 死体処理場に戻ると、ベアトリスが優雅に紅茶を飲んでいた。安置室は地下室の中でもとりわけ寒い。吐く息が白くなるほどだ。彼女は顔色ひとつ変えず、布のかかった首のない遺体に視線を向け、ティーカップを傾けた。
 珍しい紫色のドレスを着ている。女っていうのはどうしてそんなに着飾るのが好きなのか、理解に苦しむ。アルチューロ叔父さんは深くため息をついた。
「こんな時間になんの用だよ」
「こいつが家に帰ってこないから」
 失礼にも俺のことを指差す。こいつとは昔から馬が合わない。サイコパスで、自分の楽しみが最優先。退院してからも夜な夜なしょうもない、動物を殺す実験を繰り返しているし。また俺に付き合えとでも言いに来たんだろう。
「おー、じゃあ連れて帰ってくれ」
「ちょ、マジかよ」
 たしかに、明日も早いしそろそろ帰る時間ではあるけども。ベアトリスは紅茶を飲み干して丁寧にカップを置いた。アルチューロ叔父さんの、鬱血した首の痕をじっと見つめる。
「どうせ血でも飲んでたんでしょ、気持ち悪い」
「ホモは犯罪だっていうわけ?」
 叔父さんは小さく肩をすくめた。メアリーと違って、ベアトリスは声を張り上げて咎めたりはしなかった。薄く笑いながら立ち上がる。彼女は、俺やメアリーよりも成長が進んでいた。そのせいか、十二歳前後の外見とは裏腹に、年相応の大人っぽさを纏っていた。
「人殺しのほうがよっぽど犯罪だと思うけど」
 バレてる。俺たちがなんのために学校の真似事をしているかとか。さっき殺したばかりの男の子のこととか。冷蔵庫の中の首もどうせ見たんだろうな。
警察ヤードに突き出すか?」
 叔父さんがおどけてそう言った。俺はなにも言えずに口を噤む。ベアトリスはイライラと俺を睨んだ。ヒールの高いブーツをコツコツと鳴らして、俺の胸ぐらを掴んだ。
「私はね、アンタのその態度が気に入らないのよ!」
「……なんだよ、急に」
「チョーウケるね! 傑作傑作!」
 叔父さんは手を叩いて囃し立てた。俺は二人のどちらのほうも向けなかった。視線を逸らす、それしか防衛手段がない。アルチューロ叔父さんの、乾いた拍手の音だけが虚しく響く。
「俺はさ、ベアトリスの意見と同じだぜ。お前は自らの意思で堕落してここにいる。本当はそんな必要ないのに」
「それは……」
 答えられなかった。俺の病気吸血症はどんなに腕の良い医者でも治せなかった。近親婚のせいだとも、頭がおかしいせいだとも、呪いとも言われていた。俺は、そのどれもが違うと感じていた。ただの性癖。ベアトリスがサイコパスであるように、メアリーが女を好きなように、それらは生まれながらに決まっているんだと思う。
 叔父さんは張り詰めた空気なんて気にせずにおちゃらけた。
「でも兄貴を殺すのは、あんまりおすすめしないな~」
「自分はやった癖に」
 ベアトリスは不満そうに小さく鼻を鳴らした。叔父さんはそれを見て、ゆっくり瞬きをした。そして、聞いたことのないような恐ろしく冷酷な声を出す。
「やりたきゃやれ、止めない」
「ちょっ――」
 ベアトリスだけならまだしも、二対一なら負けるかもしれない。彼らなら本当にやりかねない、そうも思った。背中に冷や汗が伝う。
 俺の顔を見て、叔父さんは茶化すようにニヤッと笑った。
「冗談じゃん。俺らはさ、お前が羨ましいんだよ。人なんて殺してる場合じゃないだろ」
「さっすが、自分の兄を殺してまで成り上がろうとした人は言うことが違うわ」
 嫌味ったらしくベアトリスが言葉を放った。腕を組んで、不機嫌そうに顔をしかめている。
「……さっさとおうちに帰れよ。俺はまだ仕事が残ってんの~」
 叔父さんは気にする素振りもなく、ベアトリスの言葉を華麗に無視する。俺にニッコリと微笑みかけてきたが、目が笑っていない。暗い、灯りのない墓地のような瞳。
「ま、お前が望むならいくらでも子供を集めるし、いくらでも血を吸わせてやるよ」
 肩をポンと叩いた。それから少し屈んで、俺の耳元に唇を近づけた。
「俺は、お前が堕落しきってるほうが都合がいい。暇つぶしになるし、俺だけが惨めじゃないと感じることができる」
 邪悪さすら感じる笑顔。「じゃ」と、にこやかに手を振った。俺たちは友達でも恋人でもない。ただの親戚、それだけ。それも、お互いを嫌いあい、軽蔑しあい、常に出し抜こうと考えている。でもそれでいいんだ。愛だの友情だの、俺たちには必要ない。
「明日はハンバーグだぞ~」
 いつもの軽口。冷蔵庫の取っ手にうっすら血がついているのが見えた。
 合挽き肉かな、新鮮な。

 One murder makes a villain. Millions a hero.Numbers sanctify.
(1人殺せば悪党で、100万人殺せば英雄になる。数が殺人を神聖なものにする/チャールズ・チャップリン「殺人狂時代」)
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