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番外編 なくなってしまった未来①

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「お前、最近様子がおかしい」
 いつもの私なら、「血ィ飲んでるやつに言われたくない」とか「屠殺場で豚とよろしくやってろよ」って答えてたような状況だ。ノアは爪をくるくると回しておずおずと私に視線をやった。
「私はグレイ公を殺さないといけないの」
「頭がどうかしちゃったのか?」
 よっぽど驚いたのか、ノアはいつもより大きな声を上げた。しかしすぐに落ち着きを取り戻したのか、声を低くして囁くように言葉を紡いだ。
「あいつ、恨みを買いまくってるから、誰に殺されてもおかしくない。放っておいても死ぬよ」
「黙れ性犯罪者」
「だから違うってば」
 こいつの監視魔法は解除してやった。もう二度と私のプライベートを荒らすことはできないだろう。追跡魔法とダブルでかけるなんて、最低。
 リビングのドアが大袈裟な音を立てて開いた。ベアトリスが、入院着の白いワンピース姿のまま立っていた。
上流階級殺しは病院に軟禁されるだけじゃ済まないでしょうね」
「なっ」
 テーブルの上のぶどうを一粒手に取って、口に放り込む。私やノアには遺伝しなかったぱっちりとした大きな瞳を細めて、種ごとぶどうを飲み込んだ。
「まったく、退院したのに出迎えもないなんてね」
「もう大丈夫なのか?」
「だってあそこ、退屈なんだもの」
「まさか強引に出てきたんじゃないよな」
 心配症のノアの言葉なんて右から左に受け流す。コツコツと靴を鳴らして、私の前にやってきた。肩を軽くポンポンと叩く。
「ねぇ、そんなことより、どうしてこの子がグレイ公を殺したいのかわかる?」
「なんでその話知ってるの?」
「そりゃアンタ、魔法が使えるのは自分だけじゃないってことよ」
 追跡魔法は姉さんの分ってわけ? 信じらんない、二人共私を全く信用していなかったなんて。
 ベアトリスは私の耳元に唇を近づけた。囁くような小さな残酷な言葉が、防ぎようもなく脳内に流れ込む。
「あの、リサって子は権力に溺れてるだけ、あなたと仲良くしているのもそう」
「そんなことない!」
 咄嗟に叫んだ言葉は間違いだったことに気づく。
 ――違う、それでもいいんだ。
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