上 下
321 / 1,167
四章『トマト編』

第321話 王さまジョーク

しおりを挟む


 呆気にとられた俺を見て王さまは笑った。

「むっふぉ。王さまジョークでーす」
「は。はは」

 わ、笑えない。

「私は、ダオ・トランテス。この国で王をしている」

 と言いつつ王さまは俺の周りに視線を向ける。

「ジゼルにエリノア、お疲れピーポー」
「お疲れピーポー」
「うむ。クレア、この者たちに報酬を」

 クレアが2人に小さな箱を渡している。その箱自体がかなりの値がしそうだ。

「その箱はチップです。裁縫箱にでも使ってね」

 エリノアが小声で「速攻で売り飛ばす」と言っていたが務めて無視する。

 王はさらに視線を動かす。その視線はアイナに向けられる。

「その者は!!!!」
「王さま、声がデカイよ」
「ああ、ごめんごめん。それでそこの者は?」
「俺の幼馴染です」
「ほーん、付き合ってるん?」
「え」

 俺とアイナは石のように硬直する。石化魔法か!?
 メデューサ系王さまなのか!?


 いや、そんなわけない。
 アイナの肩から熱が伝わってくる。

「初心(うぶ)だなぁ。むふぉふぉ、ごほごほ!」
「王さま!?」
「いや、唾が気管に入っただけじゃ」

 紛らわしいなおい。

「で、後ろのパツキンの少女も幼馴染なん?」

 あんたもパツキンじゃないか!

「この子はサガオ・サンライトの妹。ヒマリ・サンライトです」
「おお! サガオの妹か! 噂はサガオからこれでもかと聞いているぞ!」

 どんだけ妹のこと話まくってんだよ。
 気持ちは・・・・・・わかるけど。


 ヒマリは俺たちの横に出てくる、タイミングを見計らっていたのだろう。よし、話すか。

「王さま、その件で話があります」
「るぇ?」

 俺はギムコ村であったこと、そしてサガオのことを話した。


「そうか。サガオが死んだか」

 クレアが冷たい視線を向けて俺に尋ねた。

「勇者様、サガオはダークエルフについて何か話していなかったか?」
「いや、何も」
「そうか」
「なんでダークエルフなんだ?」
「サガオが話したという呪いの魔法陣の件で気になることがあってな」
「気になること?」
「うん。呪いは私たちダークエルフがもっとも得意とするもの。何か関わりがあるのかと思って聞いただけだよ、気にしないでくれ」


 ダークエルフは排他的な種族で、滅多なことでは人里に姿を表さないらしいが・・・・・・この人がジゼルが前に言っていた変わり者のダークエルフか。


「ヒマリよ」


 王さまは玉座から立ち上がりヒマリの目の前まで移動する。この王さまガタイがいいな。中々の筋肉だ。

 この俺の目に適う筋肉は数少ない、ぜひその服を脱いで裸の王さまになっていただきたい。

 って、その事はあとだ。ヒマリは一生懸命に王さまを見上げている。

「君はどうしたい? なんのためにここにきたんだ?」

 いきなり優しい口調になったな。

「私は・・・・・・」

 ヒマリはチラリと俺たちを見る。俺たちはしっかりと頷いてやる。ヒマリはそれを見て王さまに視線を戻す。

「私は聖騎士になりたいです」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ちょっとエッチな執事の体調管理

mm
ファンタジー
私は小川優。大学生になり上京して来て1ヶ月。今はバイトをしながら一人暮らしをしている。 住んでいるのはそこらへんのマンション。 変わりばえない生活に飽き飽きしている今日この頃である。 「はぁ…疲れた」 連勤のバイトを終え、独り言を呟きながらいつものようにマンションへ向かった。 (エレベーターのあるマンションに引っ越したい) そう思いながらやっとの思いで階段を上りきり、自分の部屋の方へ目を向けると、そこには見知らぬ男がいた。 「優様、おかえりなさいませ。本日付けで雇われた、優様の執事でございます。」 「はい?どちら様で…?」 「私、優様の執事の佐川と申します。この度はお嬢様体験プランご当選おめでとうございます」 (あぁ…!) 今の今まで忘れていたが、2ヶ月ほど前に「お嬢様体験プラン」というのに応募していた。それは無料で自分だけの執事がつき、身の回りの世話をしてくれるという画期的なプランだった。執事を雇用する会社はまだ新米の執事に実際にお嬢様をつけ、3ヶ月無料でご奉仕しながら執事業を学ばせるのが目的のようだった。 「え、私当たったの?この私が?」 「さようでございます。本日から3ヶ月間よろしくお願い致します。」 尿・便表現あり アダルトな表現あり

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

処理中です...