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三章『ギア編』
第259話 スターライト14
しおりを挟むその老人はボロい茶色のローブを纏っている。ボサボサの白髪に、手には焦げ茶色の太く古い杖を持っている。浮浪者のようだ。
「命知らずの年老いたヒューマン、正義感に駆られるのはよしなさい、そして死になさい」
オーロックが老人に手刀を繰り出す。ああ、ダメだ、あの手刀は人体を簡単に引き裂く。また人が死ぬ。
「ほっほっほ」
「ううっ!」
老人が笑うとオーロックが攻撃を中断してたじろぐ。一体どうしたんだろう?
「その魔力! 貴方は誰ですか!」
「ワシはお主の言う通り年老いたヒューマンじゃよ、ほっほ。・・・・・・来ないならこちらから行くぞ?」
「う、うおおーーッ!! ひャオラ!!」
オーロックが追い詰められたネズミのように攻撃を開始する。
「隕石(メテオ)」
老人が呟いた瞬間に突如巻き起こる砂煙。何かがテントを突き破って落ちてきた?
砂煙が収まる。
オーロックが消えていた。クレーターを残して。
「今のは隕石魔法(メテオマジック)じゃ。・・・・・・知らないか、そうじゃな、空から石を降らせる魔法じゃよ」
説明しながら老人は私に近づいてくる。
「怖かったじゃろう」
麻痺して動けない私を見て、老人は巻物(スクロール)を取り出す。
「補助系の魔法は使えないからのぅ、持ってきてよかったわい」
巻物(スクロール)が黄色い光を放つ。その光は私に吸い込まれていく、体の痺れが取れて自由がきくようになった。
私は慌ててテントの奥に這って逃げる。
「誰!?」
「ワシはルフレオ・ダグラス。お主と同じ魔法使いじゃよ」
ルフレオは穏やかな表情で私を見ている。
でも、もう人は信じられない。
「むぅ、疑っておるな。この街では無理もないかの」
そう言うとルフレオは懐に手を入れる。私はとっさに身構える。構えた手が震える。
「そう構えるでない、ワシはお主に危害を加えるつもりは全くないんじゃ」
「口ではなんとでも言える。そんなの信じられない」
「そうか・・・・・・残念じゃ」
ルフレオはゆっくりとした動作で懐から手を出す。私は腕の痛みと純粋な恐怖で泣きそうになりながらも歯を食いしばって睨みつける。
「ほら、お菓子は好きかの?」
ルフレオが出したのは巻物(スクロール)でも武器でもない。何の変哲もないただのクッキーだ。
「ここに来る途中に商人と出会っての、お主と会うのに手ぶらはどうかと思って買ってきたんじゃよ」
「いらない」
「嫌いか?」
「嫌いじゃない。きっと毒が入ってる、毒を食べさせるためにお菓子を渡そうとしている」
「そんなつもりはないと言っておるじゃろう、じゃあこれならどうじゃ?」
ルフレオはクッキーを2つに割る。そして片方を食べる。
「ほっほ、美味しいのぉ、やはり疲れを癒すのには甘い物は最適じゃの。ほれお食べ、そしてその腕の傷を早く癒そう」
ルフレオは残った半分のクッキーを私に差し出す。
私は、私は、
「あ、こら、待ちなされ!」
私は逃げた。クッキーを奪って。
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