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三章『ギア編』

第258話 スターライト13

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 テントの外から聞こえるのは岩石鬼(ロックオーガ)たちの落下音。そして聖騎士たちの怒号と金属音。

 どうしよう。麻痺を解こうにも魔法が封じられている。体も痺れて動かない。

 戦闘は始まっている。
 ロイはディザスターの本隊と言っていた。

 皆を殺したディザスターが来ている。でも今の私じゃ仇なんて討てない。

 そう考えているとテントの入口に人影が、

「・・・・・・」

 誰? 聖騎士か、それともロイ?

「こんばんはヒューマン、また会いましたね」
「んっ!?」

 現れたのは岩石の魔人、オーロックだ。
 ゴーグルの自爆に巻き込まれたはずじゃ?

「なんですかその目は、ああ、あの爆発でなぜ生きているか不思議なのですね」

 私の思考を理解したのかオーロックはクスクスと笑う。

「答えは私が硬いからです。岩石鬼(ロックオーガ)の時より体は小さくなりましたが密度は高くなっていますからね」

 オーロックはそう言いつつテントの中に入ってくる。背が高いので身を屈める。

「ずっと、心残りだったんです。あのとき逃がしたヒューマン、つまり貴女のことですね」

 オーロックは自身の背中に手を回して何かを私に向かって放り投げる。



 それは防塵ゴーグルをつけた骸骨だった。



「んんッ! がああッ! がッああ!!」
「最初の頃は肉もついていて見応えもあったんですが、ついついつまみ食いをしてしまい骨だけになってしまいました」
「ぎッ! がッ!!」
「んー? 手足が縛られていますね、それに麻痺もしているようだ」

 オーロックは狂ったように笑い出す。

「ヒャハハハハハ!! 殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて仕方なかったんです! ずっと後悔していました!」

 私はオーロックを睨みつける。こいつは許せない。許してはいけない悪だ。

「その目です! そのヒューマン特有の目! 諦めないその目が私を狂わせてるのです! サオシャアッ!」

 オーロックの蹴りが私の腹に命中する。テントの奥に蹴り飛ばされる。息ができない!

「がフッ!! ゴホッ!!」
「いい声です!」

 オーロックの鋭い手刀が私の両腕に突き刺さる。麻痺毒は体を痺れさせるだけで痛覚はそのまま残っている。激痛が私を襲う!

 痛い痛い痛い痛い痛い!

「んんーーッ!!」
「ただでは死なせません! 手足をもいで生まれたことを後悔しながら死んでいただきます!」

 私は泣いていた。そこに強い意思なんてない、ただただやめて欲しかった。口が動いたら命乞いをしただろう。手足が動いたら土下座もしただろう。でもダメだ、例え何をしたとしてもこいつは私を殺す。

 もう何も考えられない。そこに高等な精神なんてない、それくらいに死は恐ろしい。

「腸は生きたまま啜ります。指を1本ずつ切り取って食べましょう。ヒャヒャア!!」

 私は絶望した。

「待ちなされ」
「・・・・・・誰です?」

 テントの入口に立つのは1人の老人だった。

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