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三章『ギア編』
第220話 メアリー・ロゼリアス10
しおりを挟む俺はKソード・プロトタイプを最後まで振り下ろせなかった。
いや、感情論とかじゃねぇよ。物理的にだ。
「どういうことだ、魔王」
俺の前に現れた魔王は、Kソード・プロトタイプの刃を掴んでいる。ピクリとも動かせねぇ(剣の一番鋭利な部分を掴まれて血を一滴も垂らしていねぇ)。
「決着がついたからだ」
「あん? 決着だァ? 何言ってやがるまだメアは負けを認めてねぇぞ」
「見てみよ」
俺はメアを見る(魔王が邪魔だから首を傾けてだ)。
「立ったまま寝てんのか」
「違う、気絶したのだ」
「あ?(どうして気絶してんるだ?)」
「認めようではないか、メアリーは圧倒的な力を前にしても一歩も引かなかった、気絶こそすれど、その振る舞いは間違いなく本物の戦士といえる。それを失うのは魔王軍にとっても大きな損失だ。その意味はギアも分かっているだろう?」
「分かっちゃいるが、それよりも俺が絶者になるほうが大事だ。魔王軍がどうなろうと知ったこっちゃねぇ、俺は勇者を殺せればそれでいいんだよ」
「頑固者よ。だがお前はそのままのほうがいいのだろう、お主が暴走するたびにこうして止めればよいのだからな」
「ちっ(端から、それなりの覚悟を見せれば誰も死なせるつもりはなかったってことかよ)、この勝負、俺の勝ちでいいんだな?」
「もちろんだ、これを見てお前の勝利に異を唱える者はおるまい」
「俺の勝ちなら、もう戦う理由もねぇや」
俺はアリス様を見る。特に表情に変化はねぇな。
一応アリス様に確認をとっておくか。
「メアは貰っていくぞ」
「ええ、もちろん、ただ」
アリス様の表情は一切変わらねぇが、雰囲気が変わったのが分かる。
「あのまま魔王様が止めないで、貴方がメアリーを斬り殺していたら、貴方は私に殺されて死んでいたわ」
「だらうな」
それを聞いていた魔王が少し口角を上げて優しい口調で言った。
「ふっ、真っ先に動こうとしたのは、アリスではないか。我が動いたのを見てやめたのだろう?」
「······はい」
アリス様も止めるつもりだったのかよ。確かにその方が勝った俺を殺すよりもその後のリスクが少ねえし、メアも死なずに済むか。
こいつら身内にとことん甘ぇな。
「ま、水刺されちまったけどよ、余興は終わりだ。工場を案内するぜ」
「ふむ、実に面白い、有意義な余興であった。・・・・・・いい加減刃を収めよ」
「あ、わりぃ」
アリス様は俺の発言に眉を動かす。
「先程から思っていましたが、魔王様に対するギアの言葉遣い、無礼かと」
「構わぬ、絶者とは魔王の隣に立つ者のことだ。もっとも我に近い者のことを言う。勇者を殺す大義を背負い、絶者として認められた今、絶者としての使命を果たせていないとはいえ、最低でも九大天王と同格として扱うつもりだ」
「はっ! 魔王様のお心のままに!」
「同格だとよ、よろしくなアリス様」
「同格なら様付けはよしてちょうだい」
「そういうわけにはいかねぇ」
「どうして?」
「どうしてもだ(メアが怒るからな)」
その様子を見てホネルトンが骨を鳴らして笑った。
「すべて私の頭蓋骨のように丸く収まりましたなぁ」
アリス様はホネルトンを無視して俺に向き直る。
「ギア、さっそく頼みがあるのだけれど、メアリーを医務室に運ぶから手伝ってちょうだい」
「断る」
結局連れていかれた。
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