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二章『パテ編』
第113話 キラーキラー7
しおりを挟む俺は宿につくと急いで全員を部屋に集める。
ジゼルはベッドで寝ている少女を看病しながらだ。
アイナは俺が視界に入るやいなや俺を抱き上げる。
「バーガー様、ご無事でしたか!」
「ああ、エリノアに助けてもらってなんとかな。ジゼル、少女の容態は?」
「問題ない。治癒魔法で回復した」
「そうか、ありがとう」
「構わない。それで小龍(ワイバーン)は?」
「飛んで街から出ていった」
「詳しく」
俺はジゼルに事の経緯を説明する。
少女の村に魔物が襲来していること、小龍(ワイバーン)が何かと戦っているとこと、少女の村かは分からないが、村のある方角に飛んでいったこと。
「小龍(ワイバーン)は魔王龍ダークネスドラゴンが魔王になってから魔王軍側になった龍」
「つまり、村が襲われる可能性が高いんだな」
「そういうこと」
「······この街の聖騎士たちに力を借りられないか?」
「難しい。この街に小龍(ワイバーン)が来てしまった以上、彼らはこの街を守らなければならない。もう来ないと楽観視はしない」
「そうか······」
仕方ない俺たちだけで助けに行くか。
俺が黙っているとエリノアが嫌な顔をして呟いた。
「ミーはいま、とても嫌な予感がしているよ」
「お、勘がいいじゃないか。ちなみに小龍(ワイバーン)、何頭倒せる?」
「無理無理無理無理、無理だよ! 確認できただけでも10頭はいたんだからにゃ! ミーたちだけで村に行っても焼き殺されて美味しく食べられてしまうだけだよ!」
「だがな、この少女の兄貴がまだ残っているらしいんだ」
「きっと、この子を逃がすためにしんがりを務めたに違いありません!」
アイナが興奮冷めやらぬ様子で言った、そういうの好きだもんな。
「······勇者は戦うだけが全てじゃないさ、人々を逃がすのも使命のうちだろう」
「簡単に言ってくれるけどにゃあ、小龍(ワイバーン)は熱には特に強いよ。火炎(ファイヤー)の吐息(ブレス)を受けても余裕で耐えてしまうよ?」
エリノアが言わんとすることは分かる。小龍(ワイバーン)の鱗を奪い、火炎(ファイヤー)の吐息(ブレス)で立ち回ろうとしていた俺の考えを先読みしたのだろう。
しかし、それだけで諦めるわけにはいかない。
「ジゼルの考えはどうだ?」
「1つ。スーは小龍(ワイバーン)たちが何かと戦っていると言っていた。つまり最低でも10頭の小龍(ワイバーン)を相手にできる者、または複数の何かが、その村にいる可能性が高い」
「敵は小龍(ワイバーン)たちだけじゃないってことか」
「そういうこと」
「今度という今度は無理だにゃ」
「スー、何とかできないか?」
「ぼくもほんとうは手伝ってあげたいの! でも、ぼくはどちらにも力をかせないの。ごんめなさいなの」
「スーが謝る事じゃないですよ。スーはバーガー様に前髪を挟ませてくれてますし、十分に助けられてますよ」
「······うん」
ふぅむ、さて、どうしたものか。情報を得るために、この少女が目を覚ますまで待つという選択肢もあるが、その待ち時間が致命的になる可能性もある。
「皆の意見はよく分かった。無理強いはしない、だが俺は行くぞ!」
「バーガー、今までで1番危険にゃんだよ?」
「でもさ、いま行けばこの子の家族が助かる未来もあるのかもって思っちゃったらさ。······行かないわけには行かないだろ」
少しの沈黙のあと、エリノアは肩を落とす。やれやれと、手を軽く挙げて首を降る。
「まぁ、戦わにゃいで、隠れて、見つかっても逃げに徹するなら、人助けくらいにゃらこの戦力でもいけにゃいこともにゃいかもにゃあ」
「ありがとうエリノア、俺のわがままに付き合ってくれて」
「勘違いするんじゃにゃいよ。これは仕事だからやってるだけにゃんだからにゃ」
「ふっ、そうと決まれば行くぞ! 皆!」
「おおー!」
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