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二章『パテ編』

第98話 こたつ

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「······」

 俺はまたしても白い空間にいた。周りを見渡すが、あのチート転生者の姿はない、空も見るが戦っている者もいない。

 俺は視線を正面に戻す。コタツで居眠りをしている女神を見る。どてらを着て幸せそうに眠っている。

「おーい」
「んふ、むにゃむにゃ、あはは」

 なにわろとんねん。

 呆れた俺はコタツの前に置かれた薄型テレビを見る。薄型ってことは俺のかな?  リアルタイムで見て、寝落ちしたのか?

 年越し番組を最後まで見ようとして結局寝てしまう子供かよ。
 もしくは夏にやってるジ〇リ映画を最後まで見れない現象か?

 女神の鼻ちょうちんが割れる。

「むにゃ! んお! お? またきたのぉ?」
「口調かわってはりますわよ」

 女神は袖で涎を拭う。眠そうな目を擦り、指を鳴らしてお茶を出して口に運ぶ。

「あっちぃ! 温度を間違えたああああ!」
「寝ぼけてるのか?」
「······貴様が来るのはしばらく先の事かと思っとったのじゃー」

 俺を除いて、ここに人はほとんど来ないらしいからな。寝て過ごすのも頷けるか。コタツは人を、ましては神すらダメにする。

「貴様も入るか? この神器すごいぞ!」
「神器だらけだな」

 俺はコタツに入る。む、小さいな。否、コタツは普通サイズだ、俺の体がデカすぎるのだ。

「こうして見ると、山のようにでかい男よ」
「おい、足でチョンチョンするな」
「ふふ、童貞が慌てておるわ」
「ど、童貞ちゃうわ!」
「違うのか? どれ魔法の鏡に聞いてみようかの」
「はいすいません」

 小休止。

「1日に2回も死にかける者がおるとはの」
「この黄金の肉体ならなぁ」
「聞こえないのぉ」
「でもさ、ハンバーガーの体で頑張ってるほうだろ?」
「頑張られても困るのじゃ、惨めったらしい無残な残虐ショーを期待しておったのに······」
「悪趣味な。······残念だったな、俺は精神力も現代最強のようだ」
「それは違うぞ」
「え?」
「いや、まぁ、関係の無い事じゃ、もう殺して転生させるのは控えることにしたからな」
「なんのことかよくわからないが、それがいい。あのチート転生者みたいにここまで来る奴が出てくるぞ」
「そうじゃな」

 女神は深いため息をついてこう続けた。

「貴様が来てから余の調子が狂い始めておる気がしてならんのじゃ」
「というと?」
「優しくなった気がする」
「それはない」

 小休止。

「ほれ、みかん食うか?」
「ああ、あむ」

 悔しいけど美味いな。······って、なんでハンバーガーでもないこの体で悔しがってるんだよ、食い物目線で考えるのはハンバーガーの時だけにしてくれ。

「うまいか?」
「あ、ああ。ハンバーガーのままじゃ飯も食えないからな」

 女神はお茶をすすっている。まだ熱いらしくペッペッと吐く。

「そういやさ、ブラウン管の砂嵐増えてるよな」
「ん? そうかの?」

 女神は後ろを振り向く。ブラウン管の山を目を細めて見つめる。そしてカッと見開く。

「ホントじゃ! なんじゃこれ!」

 女神は慌てた様子でコタツから飛び出す。否! コタツをカタツムリみたいに被ってやがる! 行儀の悪い奴め! くッ!? なんて力だコイツ! 俺がッ! 寒いだろうがッ!

「む! 引っ張るでない!」

 女神はコタツを手放(パージ)して、ブラウン管の山に近づくとマジマジと観察する。

「何が起きておる? むむぅ? この短時間で一斉に死んだというのか? まぁそういう事もあるか」

 神でもわからないことがあるんだな。てか呑気だな。

「俺以外はチート転生なんだろ?」
「貴様の後は違うが、死んでおるのはチート揃いじゃな」

 おいおい、俺以外にも悲惨な転生者がいるのかよ······。

 それにしても、ハンバーガーにされた俺でも生き残れているのに、チート貰って死んでしまうとは情けない。

「チート転生者といっても、どの世界にも神クラスの実力者はおるからな。無謀が過ぎれば死ぬこともあるぞ」

 そうか、神はチート転生者より強いこともあるのか。あのスーとか、魔王をやってるスーの兄弟とかは神だよな。はたして俺はそんな人に勝てるのか?

「どうした? 浮かない顔をしおって」
「俺、あの世界だと勇者だからな。魔王が神龍らしくて勝てるのかなって」
「どうじゃろうな、チート転生者でも神クラスを倒せる者は極わずかじゃぞ」
「女神は異世界の神より強いのか?」
「ふふふ、どう思う? 貴様の世界でやってやろうか?」
「俺の世界で〇Bはやめてください」

 願いを叶える7つのボールもないんだからな。さて、そろそろ戻るか。

「貴様、いま戻ろうと思ったろ?」
「え、なんでわかったの?」
「いや、なんとなくじゃが。帰れると思っておるのか?」
「まさか······ッ!!」

 油断していた、俺は死にかけているんだった。そのまま死ぬことだってありえるのに。

「やっちまったのか、俺は」
「ふふふのふ、残念じゃったな!」
「くそっ!」

 でも、アレなら透明龍(インビジブルドラゴン)は倒せただろう。皆無事だろう。そう信じたい。

「悔しいが、潔く成仏してやる!」
「キャハハ! 引っかかりよったな!」
「ファ!?」
「嘘じゃ! またしても貴様は生きておる」
「はぁー!?」
「いやぁ、最近の貴様は余裕綽々じゃったからな。脅かしてやろうと思っての!」
「······シャレになってないからな」
「何をいまさら」

 女神は俺の前に躍り出て振り向く。

「貴様はいつ、どこで、何を成して、どんな風に死ぬのかの」
「愚問だな。俺は、異世界で、魔王を倒し、世界を救い、誰にやられることなく老衰してやる」

 女神は妖艶な笑みを見せ指を鳴らす。俺は光に包まれて消えた。

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