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二章『パテ編』
第78話 モノマ村12
しおりを挟む「おお、勇者様、よくいらっしゃいました」
「ああ、村長、楽にしてくれ」
俺は立ち上がろうとした村長を座らせる、あまり畏まられても面倒だからな。······って、スーがいるな。
「スー、そこで何してるんだ?」
「バーガーだ。ぼくは今ひなたぼっこしてるの」
日向ぼっこって······1人で人前に出られると不安なのだが。
「村長、スーはよくここに来るのか?」
「はい、ここは日当たりがいいので、スーさんがこのポイントを発見してからは、昼のこの時間はいつもいらっしゃいますよ」
「そんちょー、おかし食べたいの!」
「はい、ただいま」
村長は箱からふ菓子のようなものを取り出す、スーが走りより、手ごとむしゃぶりつく。搾り取るようにスーの口が離れると、村長の手にあったふ菓子が消えていた。かわりに粘液がべっとりと付いている。羊羹とトレードしたのだ。いや、普通に唾液だ。
「村長すまんな、うちのパーティメンバーが上がり込んでいるとも知らずに、あとで謝礼を払おう」
「いえいえ、そんな滅相もございません。村を救って頂けるのであれば、私はこの体を捧げる覚悟です······」
手をベトベトにした村長のいう言葉には重みがあった、きっとスーに食われてもいいという不動の覚悟だ。なんだかんだいってもこの人は村長になるような人格者なのだ。
「はは、そんな救うだなんて大袈裟な、これはただの魔物退治だ、集団狩猟と何ら変わらない」
「そう言っていただけると頼もしい限りです。それで一つ疑問なのですが、スーさんはパーティでどのようにご活躍されているのですか? その、······私のような素人の目からは年相応の少······年? 失礼ですが性別は?」
「おとこ······男の娘です」
「すみません、ありがとうございます。私の目からは年相応の男の子にしか見えませんが、やはり魔法使いなのでしょうか?」
「あー、そうですね、僧侶······みたいなものですね」
「おお、そうでしたか。魔術に長けているのですね」
ふぅ、なんとかごまかせたか。
スーは神龍で、さらに魔力生命体、つまり不定形だ。性別なんてそもそもないのだ。
人として疑問を持たれていないのが幸いか。人に擬態する魔物が近くにいるのだ、いまスーの正体がバレれば、村人たちの不信感が高まってしまう。疑念を戦場に持ち込まれれば命取りになるだろう。知らないほうが幸せなこともあるのだ。
「モーちゃん······」
そう言ってスーは寂しそうな視線を俺に送る。先ほどの様子とは打って変わってその表情は儚げだ。
そんな顔をするなよ、俺だって話題には出さないものの、モーちゃんのことを忘れたことなんてないんだ。正直心配で仕方がない。
しかしどうしようもない状況だ。あたふたしてもモーちゃんが帰ってくるわけではない。
俺はそう割り切って魔物村(モンスタービレッジ)の壊滅というサブクエストの他に、モーちゃんの救出というメインクエストを、俺は優先度を変えてまで脳内で取り決めているのだ。
魔物村(モンスタービレッジ)についたら、まずはモーちゃんがいるであろう馬小屋に行くのだ。なに村に入ってすぐのところだ。10分程度で到達できる。
「モーちゃんは必ず救う」
「ぼく、さみしいの、また仲間がどっか行っちゃうのはいやなの」
また、か、きっとスーの兄弟の事を言っているのだろう。
「ああ、モーちゃんも助ける、スーを家族の元にも届ける。だから安心してくれ、そんな悲しい顔をするな」
「くすくす」
「何がおかしい?」
「なんだかバーガー、レスみたい」
「レスってのはスーのお兄ちゃんのことか?」
「うん、世界で一番すごくて、世界で一番優しいの。早く会いたいの」
「ははは、楽しみは取っておこうな」
スーの頭を撫でてやりたいが、困ったことに俺には腕がない。なのでスーの頭に飛び乗り、バンズのヒールの底を波打たせる。
「ひゃっ! バーガーくすぐったいよー」
「むう、人の腕のように撫でるのは、この体では無理があるな」
「いまのなでてたつもりなのー? わかんないよーくすくす」
「えーっと、すいません、勇者様、何か用があっていらしたのでは?」
「ああ、すまんすまん、アレだ、剣が足りない、武器はあるか?」
「それでしたら、予備の装備が武器庫にございます。武器庫とはいっても数も質も大したことはありません、それでよければお好きにお使いください」
「助かるよ」
「どこにお運びすれば?」
「広場でいいだろう。あそこでアイナがブートキャンプを開いているからな。彼女に渡してやってくれ、きっと喜ぶだろう」
「わかりました」
さてさて、やれることはやったな。あとは他の村の反応しだいだ。最悪の場合、ここの村人たちでやるしかない。その時は覚悟を決めなければな。そう思っていると、若い村人が挨拶もなしに部屋に入ってきた。
「村長!」
「ノックもせずにどうしたんですか?」
「き、騎士団が! 王国聖騎士団がいらっしゃいました!」
「な、なんですと!」
王国聖騎士団だと! 俺は急いで外に飛び出した。
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