上 下
76 / 1,167
二章『パテ編』

第76話 モノマ村10

しおりを挟む

 昼下がりのジンニン村。俺は宿屋から飛び出して、ジゼルの伝言を伝えるためにエリノアを探す。

「こうです! シュバっと!」

 広場からアイナの元気な声がするな。村人が集められているな、ラジオ体操でもしているのか?

「シュバッシュババ! ザザントスザザントス! リピートアフタミー!」
「「「シュバッシュババ! ザザントスザザントス!」」」

 な、なんだこの異様な光景は、男どもが高台に立つ可憐な少女を真剣な眼差しで見つめて、少女の剣の型を真似している。

「いい感じです! では次の型いきますよー!」
「お、おい、アイナ」
「あ、バーガー様! みなさん! いま教えた型を復習していてください」

 アイナは嬉しそうに俺の元まで駆け寄ってくる。額の汗を拭い、はにかんだ笑みを見せる。一連の動作が美しい。

「バーガー様、どうしたんですか?」
「いや、声がしたから様子を見に来たんだが、今何やってたの?」
「村人たちの特訓(レッスン)をしていました、付け焼き刃ですが、ないよりかはマシかと思って」

 アイナーズブートキャンプってわけか。男衆は喜んで参加している。全員分の剣は無いので棍棒や鉈、農作業用の桑などを振るっている者が多い。魔物村(モンスタービレッジ)の話を聞いた時は不安そうな顔をしていたのだが、アイナのお陰で、村人たちも落ち着いたようだ。

「アイナ、ありがとうな。本当は勇者である俺が皆を励まさなければならなかったのに」
「バーガー様は知略を練ってらっしゃるのですから、これくらい当然の事です! それで私は何をしたんですか?」

 あ、分かってないのか。これを天然でやったのか、アイナはいい武将になれるよ、きっと。

「付け焼き刃でもいい、訓練を続けてくれ。武器が足りないようだな、村長に武器の在庫がないか確認しておくよ」
「はい! ありがとうございます!」

 アイナはペコリとお辞儀をして、男衆たちのところに戻っていく。村人が魔物と戦えるようになるのは難しいかもしれないが、それでも3人でCランクの魔物1頭と戦えるようになってくれれば、多少の融通も利くようになるだろう。

「お待たせしました! さ、いきますよー! ズバンズバン! ドーン! セーイ!」
「「「ズバンズバン! ドーン!」」」
「よくできましたね! さらにそこから体を捻ってズドッ!」
「「「ズドッ!」」」

 さっきから擬音多くない!? 大阪の道案内かよ。アイナは天才肌だな、弓も馬術も早々に極めたし、感覚で分かるんだろうな。ただ、教えるのには適していないような······やはり理論的に教えてやらないと理解できない連中が出てくるはずだが。

「「「せい! やぁ! どりゃあ!」」」
「いいですよー! 素晴らしいです!」

 あれれー、男衆の目がキラキラに光ってやがる。くそ! 奴らロリコンかよ! 気持ちはわかるぜ。可愛い子の前ではいいところ見せたいよな。アイナの無茶苦茶な指導に必死にくらいついている。うん、これはこれでいいかもな。ほっておこう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

勇者、囚われました。

茶葉茸一
ファンタジー
魔王の勘違いにより、姫様と間違わられて攫われた勇者。 囚われの身となった勇者を救出に向かう姫(女騎士)率いるパーティのメンバーたち。 本来なら違う立場で出会うはずだった魔王と勇者の2人は、それぞれの『目的』のために姫を拉致し勇者と入れ替える『姫様拉致計画』を企てる。 一方で魔王、ではなく勇者が放った刺客たちが姫パーティへと襲い掛かる! 果たして勇者たちは姫を攫うことが出来るのか! 姫たちは勇者を取り戻すことが出来るか! 変態女装癖のオトコの娘勇者と小心者で頼りないダメ魔王による、殺伐ファンタジーギャグコメディが始まる!! ※昔書いたものをとくに修正なく掘り起こしただけなので6話で完結します。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...