上 下
60 / 1,167
二章『パテ編』

第60話 大喧嘩祭7

しおりを挟む


「それではBブロック準決勝! 対戦者は! 先ほどに続いて獣戦士エリノア! 相対するは! 素性はすべて謎! 白スーツの男カルボ・ナーガ!」
「エリノアさん、よろしくお願いします」
「フルボッコにしてやんよ」
「試合開始ぃーーッ!!」

 アイナと戦った時と同じく、エリノアは開始の合図とともに走り出そうとする。しかし、カルボは片手を上げてエリノアを制止する。

「にゃんだ? いまさら許してほしいと言われてもそうは」
「いやいや、違うんですよ。私は純粋にトーナメントに出場したかっただけなんです、この大舞台に立ってみたかっただけなんです。昨日のことは私も必死だったのです。だから戦う前にエリノアさんにこれを渡しておこうかと」

 そう言ってカルボは懐から1枚の金貨を取り出す。それをエリノアに投げ渡す。

「銀貨10枚でしたよね。昨日は手持ちがなかったのであんな真似をしてしまいました。なにお釣り入りませんよ、謝罪の意味もあります。こうしてトーナメントまで来られたのは貴女のお陰なのですからね。偽物かどうか、確かめてもらっても構いませんよ」
「??????」

 エリノアは手のひらで金貨を転がしている。どうやら紙に包まれたバターではないようだ。だがそれで安心するのは愚かだ。一度騙されているのだからもっと慎重になるべきだ。

 エリノアは金貨を噛む、そしてできた歯型をまじまじと見つめている。その目は鑑定士のように鋭い。しばらく見たあと金貨を懐にしまう。

「本物だにゃ、貰っておくよ」
「はいどうぞ。では恨みっこなしの正々堂々としたバトルをしましょうね」
「はぁ、にゃんだか拍子抜けだにゃ、さっきのミーの戦いを見て怖気付いたんだにゃ」
「ふふふ」

 謝罪だと? いや、あいつは絶対に怪しい奴だ。なにか狙っているに違いない。だいたい常時笑ってる奴は怪しいを通り越してやばいだろ。

「おっーと! エリノア選手ダウンんんんん!!」
「なに!?」

 俺は意識を試合場に戻す。エリノアがその場に倒れていた。カルボは何をした? 一瞬の出来事だったぞ。

「ジゼル、今何があった?」
「わからない、いきなりエリーが倒れた」

 どういうことだ? 魔法か?

「ほっほっほ、おやおや、試合中に横になるなんて、随分と余裕ですねぇ」
「み、ミーに、にゃ、にゃにをした??????ッ!」
「まだ喋れるのですか、流石にしぶといですねぇ。大型の魔物ですら一撃で麻痺させる毒なんですが」
「ど、毒だと??????、でもミーは控え室で何も口にしてにゃいよ」
「いやいや、さっきしたじゃあないですか、それとも金貨はお口に召しませんでしたか?」
「にゃ??????ッ! あの金貨に毒を塗っていたのか」
「ご名答です。貴女が金貨を噛むように、事前に私の仕草であらかじめ釣っていたのですがご存知でしょうか? あ、知らないからこんな初歩的な罠に騙されるんですよね、それは失敬。ちなみに、こうしてゆっくり解説してあげるのは、獲物を前に舌なめずりするタイプの一流なものでして、私」
「ぐ??????ッ! こんにゃもの??????ッ!」
「無駄です、喋れているのがすでにおかしい事だと知りなさい」

 カルボは優雅に歩きながらエリノアに近づく、そしてしゃがみ、エリノアの耳元で、エリノアにしか聞こえない声で呟いた。

「ここが人目のつくところでよかったな。じゃなかったら殺していたぜ? あと金貨は返してもらうぞ」

 エリノアの額から脂汗が吹き出している、何を言われたんだ? エリノアの様子を見てジゼルがタオルを投げた。

「審判。負けを認める」
「は、はい!」

 会場が静まり返る。ロン・スティックが静寂を突き破る大声で結果発表する。

「不思議な力でエリノアをダウンさせたカルボの勝利ぃーーッ!!」

 その声に観客が湧いた。あのエリノアが何もできずに倒されたのだ。原理が不明でも、興奮はすることだろう。

「ジゼル??????すまにゃい??????」
「エリー、何されたの?」
「金貨に麻痺毒を??????塗られていた??????バーガー気をつけてにゃ、毒もそうだけど??????奴は只者じゃにゃい」
「ああ、勇者に任せておけ」
「ではぁ! 小休憩のあとぉ! 決勝戦を開始しますん! トイレは今のうちに済ませておいてくださいいいい!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

欲しいのならば、全部あげましょう

杜野秋人
ファンタジー
「お姉様!わたしに頂戴!」 今日も妹はわたくしの私物を強請って持ち去ります。 「この空色のドレス素敵!ねえわたしに頂戴!」 それは今月末のわたくしの誕生日パーティーのためにお祖父様が仕立てて下さったドレスなのだけど? 「いいじゃないか、妹のお願いくらい聞いてあげなさい」 とお父様。 「誕生日のドレスくらいなんですか。また仕立てればいいでしょう?」 とお義母様。 「ワガママを言って、『妹を虐めている』と噂になって困るのはお嬢様ですよ?」 と専属侍女。 この邸にはわたくしの味方などひとりもおりません。 挙げ句の果てに。 「お姉様!貴女の素敵な婚約者さまが欲しいの!頂戴!」 妹はそう言って、わたくしの婚約者までも奪いさりました。 そうですか。 欲しいのならば、あげましょう。 ですがもう、こちらも遠慮しませんよ? ◆例によって設定ほぼ無しなので固有名詞はほとんど出ません。 「欲しがる」妹に「あげる」だけの単純な話。 恋愛要素がないのでジャンルはファンタジーで。 一発ネタですが後悔はありません。 テンプレ詰め合わせですがよろしければ。 ◆全4話+補足。この話は小説家になろうでも公開します。あちらは短編で一気読みできます。 カクヨムでも公開しました。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...