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一章『レタス編』

第13話 10歳

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 10歳の誕生日を迎えた。アイナと俺は村人たちから盛大に祝福された。会場はグラムガード家の庭だ。庭の広さは田舎の特権だな。アイナも大きくなった。2つの誕生日席に座る俺たちは、ちょっとした祭りとなっている庭を見ている。

「バーガー様、おめでとうございます!」
「アイナもおめでとう」

 言葉遣いもすっかり大人らしくなってしまった、たどたどしい言葉遣いも、それはそれで可愛らしくて良かったのだが、しょうがない事だろう。

 誕生日プレゼントを頂いた。村人たちからは、この辺りでは希少な動物の干し肉。そして上質な草だ、ああ、早く挟みたい。そして、セニャンからは手作りの黒のマントを、そしてウィルからは小さな旗を······俺の頭に刺さる前に、セニャンにツッコミを入れられ、ウィルは鍔の部分が黄色い短剣を差し出した。

 グラム数も5年前の倍、200gになった。テーブルもジャンプ一つで乗れるし、バンズ使いもかなり器用になった、短剣程度なら柄の部分を咥えて振るうこともできる。セニャンにマントを付けてもらった。

「似合っとるで」
「母さん、ありがとうございます」
「ワイのも咥えてくれや」
「はい」
「おお、いっきに勇者っぽくなったで!」

 アイナはというと、干し肉や、上質な草は同じで、アイナの両親から弓をプレゼントされていた。少し早い気もするがもう子供用は卒業か。確かに弓矢の腕だけならすでに村一番と言えるだろう。

「これで魔物もイチコロだな!」
「私はバーガー様の勇者パーティに入れるでしょうか?」

 反則的な上目遣い。これが天然なら、アイナは魔性の女だ。

「もちろんだ、頼りない俺を助けてくれよ」
「はい! さぁバーガー様、上質な草が萎びる前に挟んじゃいましょう」
「ああ、ありがとう」

 気の利くいい子に育ったものだ。この体じゃなかったらと思うとやるせない気持ちになってくる。元の黄金筋肉さえあれば、一生をかけて守りきる自信がある。アイナに食われて以来、死にかけることもなかったため、女神と会うこともなかったが、今度会うことがあれば懇願してみるか······望みは薄いが。

 誕生パーティーは順調に進んだ。とても充実した幸せな1日だった。こんなことなら来年も大々的にやってほしいものだ、一応は勇者なんだし、王国に頼んで盛大に祝ってもらったりできないものだろうか。俺はこの環境に酔っていた、優しい両親に可愛い幼なじみ。こんな日々がずっと続くと思っていた。

数日後、タスレ村は戦場と化した。

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