上 下
1,164 / 1,167
六章『ピクルス編』

第1162話 絶望株式会社

しおりを挟む

 一年くらい前、絶望タワーの司令室。


「クソが、おいコラもう一度言ってみやがれ」
「ですから、私にギアを元の世界に戻す力はありません」

 俺は『ヤカン』と会話していた、八百万だ。

「じゃあ何か、俺は最初から嘘の雇用内容で働いてたってわけか?」
「そうです、女神に勝ちたかったので貴方を騙しました、ここに来た時点、いえビルの倒壊で死んだ時点で貴方の本当の人生は終了しました」
「ふざけんじゃねぇぞ、俺は現世に帰って仕事をするためにやってきた、それをなんだ、クソが」
「この私を破壊しても無駄ですよ」

 薄々勘づいていたが、確証のないことは考えねぇようにしていた。クソ、帰れねぇなら俺はどうすりゃいいんだ。

「それに元の世界もイズクンゾによって一度滅びましたし、まぁだいたいは元に戻りましたが、それで有耶無耶になるでしょう、チャラでいいじゃないですか」
「いいわけねぇだろうが、仕事を途中で放棄するというのはそれまでに携わった全ての人、心を否定することになる最低の行為なんだよ、てめぇ(自分)の命がどうなろうと辞めることなんざできるわけがねぇんだ。クソ、いい考えが出やがらねぇ」

 こんなことは初めてだ、仕事の手順、方法で悩んだことはあったが、それは前進のための一時停止でしかない、仕事のない状態で宙ぶらりんになったことはねぇ。俺がいた会社は潰れねぇ、俺がいる限り、俺が死ぬまで潰れさせねぇ。

「仮にこの世界で唯一転移魔法が使えるというカーに頼んで転移したとしても、その機体では働くどころではないでしょう」
「おめーが受肉させられねぇからこうなってんだろうが」
「はぁ、そろそろしんどいので眠ります」
「おいコラ待て」

 逃げやがった。

「失礼しますー」
「なんだレイ、姉のところに帰ったんじゃねぇのか?」
「まぁまぁ、って、うわ!ギアすごい顔ですね、今までで一番追い詰められてる顔してますよ」
「そうか? 顔には出てねぇはずだが」
「あ、やっぱり悩んでるんですね」
「カマかけやがったな」
「えへへ、だいたい把握してます」
「ち、うるせぇな、俺のことはもういいだろうが、レイは自由だ、契約が終わったんだ働かさせたりしねぇよ、姉のところに戻れ、それとも忘れ物でもしたか?」
「そうですね、忘れ物しました」
「じゃあ、とっととーー」
「ここで働かせてください」
「はぁ?」

 何言ってやがんだ。

「この世界での仕事は終わったんだよ、もう何もねぇ」
「言葉を借りますね、ばかがー!」
「そんなぬるい口調で言ったことはねぇ、でなんだ」
「仕事がないから仕事が出来ない? 戻っても仕事が出来ないから途方に暮れてる? あほがー!」
「ち、気が抜けるから二度と真似するな」
「まぁ聞いてくださいよ、私たちで会社を作るんです!」
「会社だぁ?」
「そうですね!その名も絶望株式会社!」
「ネーミングの時点で業績下がるだろうが、てか株式会社とかなんでそんなこと知ってんだよ」
「実はですねー、色々調べてきたんですよ、知ってます? ギアが悩んでいる間に、カー様が転移魔法を一般公開したんですよ」
「そうだったのか、それがどうした」
「ふふーん! 異世界とのやり取りが可能になったんですよ! 仕掛けられた向こうはパニックの真っ只中ですが、これは大きなビジネスチャンスです!」
「ほう」
「元いたギアの会社も取り込んでですね! 絶望株式会社を世界に轟く一大企業にするんです! 仕事をするために!!」
「すげぇな……そんな考え、まったく思いつかなかったぞ」

 熱く語っていたレイがトーンを落とした。

「……今度はぁ、ぐす、今度は私たちがギアを助ける番なんです。そうやって周りのことも自分のことも背負いに背負って壊れるまで働く歯車(ギア)には私が、私たちが必要なんです」
「いいのかよ、レイ働くの嫌いだろ」
「嫌いですが、なんだかそっちの才能あるみたいなんで、それにダークエルフって寿命すごーく長いんですよ、働かないとお菓子食べられませんし」

 ドアの向こうで野郎どもも見てやがる。

「わかった、だがやるからにはガチで行くぞ」
「はい、どこまでもお供します、ね、みんな!」
『『『おおおおーーッ!!』』』
「いい返事だ、まずはどうするか、これだけでけぇ仕事は生まれて初めてだ、プランを考えるだけで、これからの仕事を考えるだけで、ギ、ギギ」
「あ、初めて笑いましたね」
「笑ってねぇよ」
「笑いましたよ!」
「笑ってねぇ」
「笑いました!」





 こうして絶望株式会社が発足した、この世界初の株式会社だ、まだ名前だけだが、異世界を駆ける最強の企業にさせる。俺たちでな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...