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六章『ピクルス編』

第1159話 筋肉VS魔剣

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 そして時は決戦に戻る。


 ブラギリオンは魔剣メメを手に取る、握り心地を確かめ正面に構えた。

「こうして剣を構えたのは何時ぶりか、いや今まで一度もなかったやもしれぬな、本当の意味で剣を握ることなど」

 岳人は拳を構える。

「俺もこの体でファイティングポーズを取るのは初めてかもな、ハンバーガーの時は必死こいてたけどな」



 数秒の沈黙。



「壁ドンパンチ!」

 先手は俺からだ。
 これは俺がよく使った、隣の部屋の煩いやつを黙らせるときに使った技だ。

 対するブラギリオンは、

「不動地遍(ふどうちへん)(不動たるは地、即ち普遍)」

 ブラギリオンは防御しなかった、腹部にヒット、拳が止まった。

「地に足が着く限り無敵でござるよ!」

 無敵なんて、何重に張られていようと貫通するはずなんだがな、さすがは俺クラスの相手だ。ならば、

「ならばこの拳で殴りぬけるしかないな!! ヒーロー真拳!!」
「む!」
「アーンパンチ!!!!」

 これもただのパンチだ、しかしこの詠唱は体の底から力が沸きあがる、無数に施された無敵対策すら貫通する、否、貫通させる! む!

「流出諸世(るしゅつしょせ)(流れ出るは諸る世)」

 俺の放ったパワーがブラギリオンの体を巡り腕に集まる。

「無敵もパワー操作も受けつけぬならば、さらにその上を行くパワーとテクニックで望むのみでござろうよ」

 剣を振り下ろす、いやこれは。

「振り下ろしたという結果が残る、帰結諸理(きけつしょり)(帰結するは諸共の理)」
「これは……」

 腕を見る、僅かにだが斬れている、俺のこの体に傷を……親父にも斬られたことにのに!

 ブラギリオンが1ミリ後退した、俺のパワーを受け流しきれていなかったか、だが外傷は見られない。

「ふむ、拙者の太刀で切断出来ぬものがこの世にあるとは」
「俺だってこの体に傷がついたのは初めてだ」

 ショックだがそれ以上の感情が沸き起こる。

「楽しいな!」
「実に愉快でござるなぁ!」
「ほんとだよ、最高だよあんた!よしじゃあ」

「「様子見はここまでだ(ござる)」」

 俺は全身に力を溜める。
 ジゼル、俺の星の光を見てくれ!!

「『スターライト』アンパンチ!!」

 拳の周りが筋肉オーラで青い星に見える、今までで一番力が乗っているのがよくわかる、愛と勇気を束ねて殴り抜けるよ。

「あっぱれでござる!」

 対するブラギリオンは剣を引き絞り、その所作の刹那に平気で話した。

「番重氏の世界にはたくさんの強者がいたとお見受けする、対する拙者の世界は恥ずかしながらも拙者一強、真似したい他者の技がござならぬ、出せるのはこの体、剣一本からのみ」

 拳と剣先がぶつかり合う。

「間解隔理(まかいかくり)(間の解を得るや、隔離する理)、言葉無頼(ことのはぶらい)(言の葉は綴られ無頼)」

 拳に纏っている青い星がひび割れていく?否、性質が変わっていく、とても脆いものに、

 なるほど、俺の攻撃を全て解析してそこから縦横無尽に斬り荒らす技か、俺のパンチはどんな能力も打ち破る最強の拳だが、説明文の間に間が入ることにより、その意味を無くすという、正に次元の違う攻撃!

 設定をいじるなんて、無法者、無頼漢だ。凄まじいスピードで戦いのステージが上がっていくのを感じる。でも嬉しい、全力だ!ブラギリオンの技に俺も答えてやる!

 拳をぎゅっと握ることにより意味消失を防御、テクニック対パワーだ!拮抗、鍔迫り合いだ!!

「能力が分割できないでござるか、絶対無敵を、『絶対絶命』『対応不可』『無理』『敵にならない』と斬り綴ったのでござるが」
「能力改悪なんて肉体改造の前じゃ大したことないぞ!」
「然り!」

 殴り抜けた! ブラギリオンは仰け反らず、2ミリ後退した、俺も反動で3ミリ後退した。

「今ので決めるつもりだったんだがな」
「拙者らの技はそのどれもが一撃必殺。ふ、そんな生易しいものではござらんな、他者からすれば最後に一回だけ放てれば御の字の技の数々でござる、そんな上等なものを何度も受け、斬りたい、凌ぎたいと思い、この肉体を必殺技の如く鍛え上げたでござる、今度はこちらから行くでござる。覇王剣斬(はおうけんざん)(制覇するは王、斬殺するは剣)」

 大振りの一太刀だ。うん、これは、やばい!! だが負けんぞ! サガオ! 俺の世界にはこんな人間(ゆうしゃ)もいるんだぜ!

「『サンライト』イエローオーバードライブ!!」

 これもただのパンチだ、波紋の呼吸を意識したから力がめちゃくちゃ乗っているのがわかる、明らかにベストを更新したのがわかる。

 覇王剣斬を弾いた、鎧まで黄金筋肉波紋(ゴールデンマッソーオーバードライブ)が届いた。それでも平然としている、実際ダメージはなさそうだ。

「拙者の能力変換、能力改竄、現実改変は、そのどれもが耐性持ちすらも凌駕して貫通、ただの人に戻せるのでござるが、これも決め手に欠けるでござる!」

 数百回撃ち合う。

「空説流布(うろぜいりゅうふ)(絵空事の説が広まれり、それ即ち史実)」

 これは嘘を真実に変え、知的生命体、一個体ずつにそれぞれの宇宙を認識させて、強固な概念を産む斬撃だな。脳の筋肉がそう判断する。

 俺の筋肉を嘘にしようたってそうはいかない! 腕立ての回数は増えることはあっても減ることがないように!

「俺の筋肉は誰にも奪えない!」

 こちらは一個人の自己暗示で応戦だ、いいよキレてるよ!肩に人類の希望乗せてんのかい!

「拙者の思い通りの世界を作ったでござるが」
「筋肉一つ一つが俺の事を信じてくれているからな」
「その筋肉の中は筋肉ワールドと言うことでござるな」

 ?

 さぁいくぞ!

 俺は構える。右手を完全停止させて絶対零度、左手をシバリングさせて灼熱! この世界でもギアが似たような技を使ってたな!

「極大消滅呪文(メドローア)ッ!!!!!」

 のようなパンチだ!過程はどうあれ相手を消し飛ばすのは同じことだ!ブラギリオンは大きく振りかぶった。

「振麈隕喰(フルスイング)(振るは鏖殺、隕ちて喰らう)」

 一見ただの空振りだ、だが俺にはわかる、全てが切断された、そして見事すぎるがあまり、切断された物質すら斬られたことに気づいていない、人も物質も力学も誰もが気づいていない。

 放った筋肉魔法(マッスルマジック)も真っ二つだ。

 気づいてしまった俺は、拳から出血した。

「気づいた故に斬れてしまう、他は世界が終わるまで斬られたことにすら気付かぬ。ふ、拙者の太刀に射程はござらん、斬りたいものを斬りたいだけ斬りたいときに斬ることができるでござる」
「それはどうかな」

 魔剣メメが刃こぼれしていた。しかし一振するだけでそれは直った。

「これはこういうものでござる」

 俺たちに差があるとすればここか、俺は最強の肉体で戦っているが、ブラギリオンは最強の肉体の他に剣を使っている。その差は大きい、俺の拳の方が破壊力がある。不純物ゼロ純度100%の筋肉フェスティバルだ。

「剣を使っていたのは、そうでござるなぁ、拙者が好きだからでござる、ああ、舐めていたわけではござらぬよ」

 魔剣メメの鍔にある目がしょんぼりする。

「ここから先は、拙者がいくでござる」
「なるほど、そうか」

 ブラギリオンは魔剣メメをマントに戻した。
 手ぶらだがそうではない。

「その拳が剣なんだな」
「如何にも、それどころかこの全身、余す所なく剣でござるよ。魔剣とは拙者のこと、番重氏が筋肉の概念そのものというのであれば、拙者は魔剣という概念そのものであり最強の剣とは即ち拙者のことでござる」

 手刀か、俺は拳だから、手刀がパーなのかチョキなのか、気になるところだ。

 ブラギリオンの恐ろしく早い手刀、俺と女神以外なら見逃しちゃうね、拳で相殺する。今のも地味にベスト更新してた。

「いい、いいでござる」
「ハハ!」

 悠久の時が刹那に過ぎる。極みのラッシュ対決だ。

「空倫在離(からつねざいり)(空の倫理、存在し切離す)」

 何も無い所に気配の全くない斬撃が、至る所に発生する。俺の筋肉センサーでなければ気づけなかった、いてて。

「割と痛いはずでござるが、受けないでござるか?」
「大丈夫だ、筋肉(おれ)を信じる、いくぜ!限界を超えろ!」
「極黒闇衣(こくこくやみごろも)(極みの漆黒、闇を纏う)」
「ハン! バー!! グーー!!!」

 熱血で加熱した拳を、ブラギリオンのマントが意志を持って動き包み込んだ、包み焼きハンバーグか!!

「番重氏といえど拙者の作り出す固有結界は破壊できぬかッ?」
「うおおおおおおお!!! 俺のこの体も固有結界みたいなもんだ!!!!! |無限の筋トレ(アンリミテッドマッスルワークス)!!

 混ざり合う。これは、この固有結界、極黒闇衣といったか、ブラギリオンの鎧と同じ力を感じる、俺の拳を受けても破壊できない。

「その鎧はなんだ?」
「実は皆には嘘を言っていたでござるが、拙者のこの鎧は原初にして最強の気合武装でござる、名前は『漆黒装甲』つまりは拙者の体の一部でござる、素顔を見せろとよく言われるでござるが、これも拙者の面(ツラ)の一つでござるよ」
「気合武装か」
「番重氏には無用でござるかな」

 互いの固有結界が朝と夜とが分かれた時の景色のようになる。

「俺も使ったことあるよ」
「ほう」
「見たはずだ、あれだよあれ、この世界だからこそ俺はここまで来れた!」

 スー、ネス、2人のお陰だ。心というものを意識した、魂の負荷を掛けた筋トレが出来た。

「|魂の完全物質化(マテリアライズパーフェクトソウル)!!」

 やっと俺の口から言えた、いつもは女神の録音音声だったからな。筋肉の精霊が今度は俺の体を包み込むように顕現する。

 そうかこれが本来の使い方、これが俺の気合武装!肉体が戻った今、これも本来の力を発揮できる、今までのとは違う、黄金筋肉(ゴールデンマッソー)の黄金魂(ゴールデンソウル)だ。

「なるほど、その肉体を超える防具がないならば魂を着るということでござるな」
「そういうことだ!」

 筋肉の精霊の腕を合わせれば4本腕!これならいける!

サガオ! ヒマリ! キラーキラー!

「旋風烈旋(しっぷうれっせん)!!」

 超高回転だ、魂が4本の武器をイメージしてくれる、超直感はないが、この体なら全て見える!

「反起総因(はんきそういん)(反射する起結、総は因循)」

 あれは柔術と剣術の合わせ技だな。

 打ち込めば打ち込むほど、全ての力が反転して帰ってくる。この戦いが始まってからどれだけステージが上がったんだか、この技すらノータイムで反射される、俺の全てを破壊するつもりか! そうは行くか踏ん張れ俺! 跳ね返ってきた力のベクトルを筋肉制御! 拳に一点集中! 元は俺のパワーだなら俺に従え!

 一振の折れない剣をイメージする。エリノア!スキル借りるぜ!

「魔獣王斬!!」

 精神力が獅子型となる、対するブラギリオンが『足』を構えていた。

「停円超斬(ていえんちょうざん)(速きは停止と同義、真円の斬)」

 回し蹴りという名の斬撃だ、コンパスよりも正確に円を書いている、獅子が輪切りにされた。

 そのまま中間距離での乱打戦に移行する。

 小細工は一切ない、そんなことする暇があるなら一発でも筋肉で殴るべきだ。ブラギリオンもそうだ、どんな小細工も互に通じないからこその最適解、自分の腕で相手がぶっ倒れるまでとことんやるだけだ。

 と見せかけて!

「ドゥンドゥン! ヒーヒー! かますぜ! 俺から始まる筋肉の祭典、捌くのはこの俺、筋肉で裁定、半端ないぜパンプアップ相手はギブアップ、俺はマッスルをブラッシュアップ!」

 歌詞魔法(リリックマジック)! なるほど! 力が湧いてくる!

「根切乃断(ねきりのだん)(息の根を切留て断ずる)」

 ブラギリオンは指揮者のように腕を振る、歌詞魔法(リリックマジック)で得たバフが消える、指揮権を奪われたか。

 パンチと手刀、そのどれにも名前をつけたくなるほどの超必殺技の応酬。

 ジワジワ接近する、その分、負荷がキツくなる。しかし、筋トレは俺にかけがえのないものを教えてくれた。

「筋肉への負荷を最大だ!!」

 鼻と鼻がつくほど近いゼロ距離戦。
 筋トレは負荷が命だ! 筋肉より先に魂が根を上げることだけは絶対に許されない! それは筋肉に対する裏切りであり、戦艦の艦長が真っ先に逃走することと同じだ!

 僅かに生まれた一瞬の静寂。



 ヒーロー真拳!



「號奪戦の間合いですよ」



 1!


 これは立会人同士が超至近距離で殺し合うという技だ、制限時間は10秒だったな。その短い時間の中で彼らは至福のひと時を過ごす。


 2!


 そうだ、この戦いが始まってどのくらいになるか、一瞬なのか年なのか、それとももうこの世界が滅んでしまっているかも。ダメだ、俺には俺の帰りを待ってくれる人がいる。

「アイナ……」


 3!


 一撃一撃に思いを込めて殴る。最高の位置で最高の角度で最大の力で殴る、一発も無駄にはできない。その無駄が未来永劫に引きずり続ける後悔となる。

 手刀をいなす、ブラギリオンが俺の腕を掴んだ。
 俺の力のベクトルを操作するつもりか、はたまた握撃か。


 4!


 どれにしてもこの時を待っていた!

「握力×体重×スピード=破壊力!!!」

 ぎゅうっと握って振りかぶって殴る。ベストを更新し続ける。これはブラギリオンとの戦いでもあるが自分との戦いでもある。


 5!


「虚界悲歌(きょかいひか)(虚ろな世界で悲しみの歌を歌う)」

 拳がパシリと片手で防がれた。
 これを片手で防ぐか、掴まれているせいだ。


 6!


 そろそろ掴まれた腕からも派生させられてしまう。

「拙者の掴み技(居合)の最中によく動くでござるな」

 格ゲーならそうだろうな、でもこれは喧嘩だぜ!

「抜刀」

 腕の力が抜ける。俺のパワーを引き抜いたのか!?


 7!


「居合『帰化』」

 その力で斬り掛かってくる、俺という最強を武器に!?
 最強の俺を最強の武器として利用した技か、これは防御が難しい。ならば!


 8!


「受ける!」

 ピシャァ!! 激痛が走る。
 その頃には腕にパワーが戻っている。俺じゃなかったら全ての力を抜かれて、文字通り抜刀されただけで即死だったぞ。掴ませたらやばいな。ブラギリオンは投げキャラでもあるのか、ならば撃つしかあるまい。ブラック! ホワイト!


 9!


「プリキュア・マーブル・スクリュー!!」

 俺は一人なので両手を組み、筋肉の精霊が代わりに放つ! 今の俺は一人プリキュア! キュアマッスルだ!!

「これは!」

 ブラギリオンは腕をクロスさせた斬撃で対抗してくる。

 さらに強く握りしめる!


 10!


「消しきれぬか! ならば!」

 ブラギは片手で受け、もう片方の手を攻めに使った。俺の腹部に手刀が、相打ちに持っていかれた。


 10秒経過、號奪戦で決着がつかないとは。


「いやはや、成長速度が凄まじいでござるな。戦い始めたころの番重氏が可愛く見えてきたでござる」
「あんたもさブラギリオン、潜っても潜っても、底が見えない、これかと思って触れてもまだまだ深い」

 互いにダメージが入り始めた、終わりは近いのかな。あーあ、まだ終わってほしくない、素直にそう思った。

「攻撃が防御を上回ってきた、どちらが勝つにせよ、決着しちゃうな」
「まだまだでござる、怪我(ダメージ)も『斬り捨てた』でござる」

 ブラギリオンのダメージだけが斬られている。

「ずりー!」
「概念を斬るのは造作もないでござる、そちらもダメージを超回復しているではないでござるか」
「バレたか」

 構え直す。そう、終わってほしくなくて手を抜けば、それこそ終わり、そんな終わりは絶対にダメだ。

 だから、いまは。

「これに全てを捧げる、渾身の一撃ってやつだ」
「拙者も、これより振るう一撃に全てを掛けるでござる」

 散々技名を叫びあった俺たちだが、最後はここに至る。













































「壁ドンパンチ!!!」
「漆黒魔剣(ブラギリオン)!!!」





































 ストレートパンチと真向手刀。

 力と力がぶつかり合う。今までとは違う。今までいた高みですら低く感じるほどに、次元をさらに超えたこの鍔迫り合い。わかる。これが最後だ。それに俺は長くこの体ではいられないだろう。ここで出し切る、この力を全て出し切ることすら俺なら出来る、俺を信じろ!

「負けてたまるかああああぁああああ!!!!」
「ぬぅうううううううううううううう!!!!」

 ぐ、ブラギリオンめ、ここにきて更なる踏み込みを! 俺の上を……すげぇこの人本当にすげぇ、涙が出る。

「はっはっはっは!!!!!」

 ま、負ける。この俺が初めて、いや初めてじゃない、これまでに俺は幾度となく負けてきた、女神の転生トラックから敗北の歴史が始まった。勝つ時も楽な時なんてなかった。そうさ、今回もこっちの世界では最強じゃなかったってだけの話か、ブラギリオンはマジの最強だ。
























































「バーガー様!!!!!!!!!」
「アイナああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 何を弱気になってるんだ! アイナになんて顔をさせてるんだ!! バカ野郎!!! 大バカ野郎!!!!!

「ぐぅ!!」
「アイナにかっこ悪いところなんてみせられん!!! 筋肉(おれ)よ!!! 筋肉(おれ)よ!!!!! もっとパワーをッ!!」
「ぐ、ぬぬ」

 押す押す押す押す押す押す! もうひと踏ん張りぃ!!













「よもやここまででござる、か。これが敗北……これは、これは、悪くな」
















































「なにやってるのよ!!! ブラギリオン様!!!」


 メアだ、いつの間にか帰ってきていたメアがアイナの横で叫んでいた。

「メアリー氏! どうしてそこに、ギアの元に行ったのではござらぬか!?」
「し、心配だから見にきてあげたのよ!ブラギリオン様が負けるわけないけどね!」

 ブラギリオンの鎧の目の部分から涙が溢れ出た。

「ああ、やっぱり最高でござる、推しててよかった、本当に素晴らしいお方だ、マジ最高でござる!ロゴリス、いや、メアリー氏フォーエバー!!」

 ラブパワー全開だ、これはもう強いとか弱いとか関係ない、男の意地と意地のぶつかり合い。

 拳が裂け始め、鎧にヒビが入り始める。
 弾けた、互いの腕がぶっ壊れた!

「まだまだぁ!! 壁ドンパンチ!」
「まだ残ってるでござる! 漆黒魔剣(ブラギリオン)!」

 現在進行形で宇宙無限乗するほどの加速力で強くなっているため即座に両腕粉砕! 粉砕されたパワーを無理やり筋肉制御! 足に回す! ブラギリオンも足に力が集まっている!

「床ドンダブルキック!!」
「二刀流漆黒魔剣(ブラギリオン)!!」

 ダンダンと踏みしめる。俺の足が弾かれた!

「もらった!!」
「らぁ!!」

 こっちも弾く、互いの攻撃が腹部に刺さる。

「かは!!」
「ぬうううう!」

 さらに弾き足が破壊された。

 それでも俺たちは立つ、四肢が使えなくても使って堂々と立つ、めっちゃ痛いが我慢する。

「最終奥義でござる」
「ああ、これがホントのホントに最後の筋肉だ!」

 頭を大きく仰け反らせる。ハンマーを打ち付けるが如く振り下ろす。

「台バン頭突き!!」
「全身漆黒魔剣(ブラギリオン)!!」

 頭が破壊されれば終わりだ!!
 足が破砕され踏ん張ることは不可能だが、それでも踏ん張る、向こうもそうだ!

 全身に力を入れる、全エネルギーを額に! 推進力に注ぐ!

 バギィ!!

 互いに仰け反る。血が吹きでた、ああ、いってぇ、頭が破壊されたか、脳にまで達している、筋肉たちよ、筋肉(おれ)たちよ。

 まだ倒れるな、無茶を言う、倒れるな。

「番重氏、もう……終わりでござる、か」
「何言ってんだ、まだまだ、だよ」
「そう、でござる、か、はは」
「うははは」
「「はははははははははは!!!」」














「見事!」


 ぶしぃ!! と鎧の隙間という隙間から血が吹き出る。鎧が崩れ落ちていく。

「この鎧は拙者の魂でござる、それが砕けてしまった、拙者の負けでござる……ぐふッ!」

 俺たちの喧嘩は両者とも立ったまま終わりを迎えた。

「勝った、世界最強に……ゴハッ!!」
「バーガー様!!」

 ずっと駆け寄りたかったのだろう、それを我慢してくれていたアイナが堪らなく愛おしい。

「肩を貸してください、怪我の手当をしないと!」
「ああ、頼らせてくれてありがとう……」
「番重氏!」

 メアに手当されているブラギリオンが俺を呼ぶ。

「またやろうぞ!」
「ああ、何度でも、何度でもだ!!」
「忝ない」

 こうして最強の拳と剣の戦いは終わった。


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