上 下
410 / 1,167
四章『トマト編』

第410話 修行1

しおりを挟む

 俺たちを学校にある訓練場に移動した。

 クロスケが足で地面を数回ならして、よし、と一言。

「ここで修行するのか?」

 学校でするとは聞いていたが、修行ともなれば、魔法とか危険な訓練とか色々するはずだ。朝になれば学生たちで溢れかえる王さまが言ったとはいえ学校でわざわざやらなくてもいいんじゃないんだろうか?

「考えてもみろ。俺たち聖騎士やお前みたいな勇者はよ。修行の成果は人前で見せるものなンだよ。なら人前で修行するのもありだろ?」

 妙な説得力だ。

 確かに戦闘時は周りで何が起こるか予測できない。
 クロスケの言うように都合のいい場所で戦えるなんてことはまずない、それはこの世界ですでに学んでいる。

「わかった。ここでやろう」
「潔いいな。もっと抵抗しろよ。じゃ手始めに」

 クロスケはポケットから何か取り出す。砂時計だ。

「お前、バーガーだっけ?」
「ああ、俺はバーガー・グリルガードだ」
「そうか。バーガー。まずそのエルフの、名前なんだ?」
「アイナ・フォルシウスです!」
「そのアイナ・フフフフフンから降りろ」

 誤魔化すな!

「・・・・・・わかった」

 俺はクロスケに言われた通りに床に降りる。
 クロスケが俺の前に砂時計を逆さにしておく。砂が下に落ち始める。・・・・・・とてつもなく遅いぞ。一粒ずつ間を開けてゆっくりと落ちている。

「その砂時計の砂が完全に落ち切るまでの3日間、そこから動くな」
「は?!」

 待て待て待て待て!
 修行だよ? 俺も生前は座禅とか瞑想を嗜んだが、それは後半になってからの話であって。今は体を動かした方がいいんじゃないのか?

「動くなッつッてンだろ!!」

 クロスケが小石を俺に向けて指で弾いた。小石は俺の横に銃弾のような速さで地面に着弾する。煙が上がっている。俺は生唾を飲み込む。いや唾とかないんだけどさ。

「バーガー様!」

 アイナは慌てて俺に駆け寄ろうとする。
 クロスケはギラリと笑う。

「アイナ危ない!」
「え、ぐっ!」

 アイナがクロスケの蹴りを喰らい、ふわりと宙に浮く。

「お前は俺の相手をしてもらう」
「やめろ! こんなの修行じゃない!」
「お前に修行の何がわかんだ? ええ?」
「それは・・・・・・勘だ!」
「勘か。どっちにしても、これが嫌なら俺は降りるだけだな」
「な・・・・・・」

 王国最強の一角であるクロスケに稽古をつけてもらう。
 これはまたとないチャンスだ。・・・・・・だがアイナがやられているのを俺は黙って見ていられない。

「ああ、わかった! やめてくーー」
「バーガー様!!」
「アイナ?」

 アイナは苦しそうにしているが自分の足で立ち上がっている。

「修行を続けましょう!」
「だか、アイナが」
「私は大丈夫です! 必ず強くなります!」

 アイナのこの目は絶対に譲らない時の目だ。

「・・・・・・ああ、わかった。俺はここを1ミリも動かない」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...