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四章『トマト編』

第349話 変顔

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 うまい料理を作る。
 それは簡単なことではない。食材の質、料理人の腕、そして食べる側の好み。それら全てを網羅して、初めてうまい料理が作られる。

「ふんふんふふふふーん」

 エリノアは鼻歌交じりに軽快にフライパンを振る。魔物の合挽き肉が宙を舞う。

 エリノアが片手に3つの小瓶を持ちフライパンの上に振るう。
 小瓶からはそれぞれ粉が飛ぶ。調味料だ。

「ジゼル火力をもう少し上げて欲しいにゃ」
「オーライ」

 そう、このかまどの火もジゼルの魔法でできている。

 土魔法で土台を作り、水魔法で清潔な水を魔力が続く限り生成することもできるのだ。

「料理には色々あるけど、結局は肉料理が最強にゃんだよねー」
「ねー」

 隣のスーがよだれを垂らしながら返事をする。

「そろそろできるよー、アイにゃを呼んできてーー」
「ここにいますよ」
「にゃ!?」

 暗闇から赤目を光らせてアイナが現れる。かなり汗をかいている。

「どれだけ鍛錬したんだ」
「ちょっと熱が入りすぎちゃいました・・・・・・この匂いは」
「にゃはは、食欲は三大欲求の一つと言われるほどに強い欲望にゃのよ。それに逆らえる人間にゃんていにゃいよ」

 アイナの腹が鳴る。それに共鳴してスーの腹も鳴る。

「さ、できたよ。飯にしよう」


 ジゼルの作った石の椅子に腰掛け、焚き火を囲んで食器を持つ。俺は食器の上に乗る。

「ほいほいほい」

 エリノアがナイフで切り分ける。切断面から肉汁が溢れ出す。

「じゃ、頂きまーす」
「頂きます!」

 みんなの幸せそうな顔を見てから、俺も自分の皿にあるハンバーグを挟む。久しぶりの解析だな。

 『混合肉を確認。
 奇面鳥(オッドサーフィスバード)、
 笑う人形(スマイルドール)、
 般若蛙(ウィズドムフロッグ)から、
 変顔(ギャグフェイス)を生成、10回使用可』

「解析は済んだかにゃ?」
「ああ」
「どんな呪文だYO」
「変顔(ギャグフェイス)だって、聞いたことあるか?」
「ない」
「にゃいにゃ」

 アイナもスーも知らなそうだ。

「試しに唱えてみてはどうですか?」
「そうだな。いちよ、反対方向を向いて唱えるか。『変顔(ギャグフェイス)』」

 女神の声が呪文を詠唱する。
 とくに目の前には何も出ないな。

「にゃにか変わった?」
「変化無し」
「おかしいですね、バーガー様の魔法が失敗したことなんて一度もないのに」
「だよな、何が起きてるはずなんだが」

 俺は振り返る。
 俺を見る皆の目が一瞬ギョッとする。そして・・・・・・。

「あははははーーッ!!」

 大爆笑だ。なに?  なんでそんなに笑ってはるんですか?

「あははっ!! くっ! あはははは!!」
「おい、なんでそんなに笑ってるんだ?」
「ご、ごめんなさっ、あはははは!! ひっーー!!」

 過呼吸になってるじゃないか。

 俺はコップの水で自分の体を確認する。一体何が起きてーー。

「だっははははははひははあーー!!」

 俺の顔がめちゃくちゃ面白くなっていた!
 笑いが火山の噴火のように爆発する!  さ、逆らえない!

 幸いなことに俺はハンバーガーだ!  過呼吸で死ぬ事は無い!
 俺は顔を地面に擦り付ける。土をつけて顔を隠すんだ!



 10分後。

「はぁはぁ。し、死ぬかと思ったにゃぁ」
「すまない。まさか俺の顔があんなに面白くなるなんて思わなかったんだ」
「その魔法まだ使える?」
「あと9回使える」
「すぐに吐き出して。その魔法は危険。安易に使用してはならない」
「あ、ああ、わかったよ」

 危うくパーティが全滅するところだったからな。

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