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第五章「髑髏嗤縁仇(どくろがわらうえにしのあだ)」
【魂魄・壱】『輝く夜に月を見た』50話「輝く夜に月を見た」
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――あの壮絶な戦いから数日が過ぎた。
朝廷は直霊を取り戻した貴武を迎え再び隆盛を取り戻した。鬼化が解けたので以前の悪政を顧みて、半獣もヒトも誰もが平等に生きることを約束し、今は傷を癒すことに専念している。
頼光は引退して武術学校の師範となったが、相変わらず四天王をこき使っているらしい。
海の中ではいつも通り。乙婀がその敏腕を発揮して竜宮の都を平和に治めている。シュテルンとイヴァーキも竜宮が思いのほか居心地が良いそうで居座っているという。浦島太郎が巻貝越しに溜息を付いた。
東国では鬼化が解けた紗君が光圀と共に将門の意志を継ぎ、平等な世界を目指しているとピッポコから手紙が届いた。再び宰相として迎えられた彼は、改心した紗君を信じて国造りに協力しているらしい。
ちなみに……彼を足蹴にした竜人達を配下にして、今までいじめ抜かれた仕返しをするのが細やかな楽しみだというのは……ここだけの秘密だ。
九尾狐が集めた無数の魂は解放されて、不死山の御狩りで気を失っていた半獣達も意識を取り戻した。
国皇は輝夜の君を失って途方に暮れている残りの皇子たちを元気付けるために、日ノ本をあげて盛大な嫁探しをしているという。
世界は月の病からようやく解放されたのだ。人々は晴れやかな気持ちで湧き、夜な夜な宴を繰り広げていた。
キザシはキジと共に喧騒を離れ、火照った体を冷ますために夜風にあたりに外へ出る。騒ぎ声も次第に小さくなり虫の鳴き声が幽かに聞こえてきた。
「カグヤ……行っちゃいましたね」
「ああ」
「寂しいですか?」
「うん……ちょっとはね」
「……」
「でも、皆んながいるし」
「……」
「若……」
「んっ?」
「今まで秘密にしていた事があるのです」
「なに?」
「若がいつも見る夢」
「うん」
「あの夢に出てくる少女は……」
「……」
「……私なのかも知れません」
「えっ」
「実は、私もずっと同じ夢を見るのです」
「なんだってっ」
「初めて出会ったとき驚きました。若は夢の少年にソックリで……」
「……」
キザシは豆鉄砲を食らったような表情でポカンとキジを見つめる。キジはそんなキザシを見て微笑むと、夜空を見上げて嬉しそうに歩く。
「宙船に乗って……もしかしたら一緒に月から来たのかも知れませんね」
「えっ、僕らも月から?」
「若が蓬莱族で、私が鳳凰族……」
「僕が……月の民」
「ふふっ……きっとそうだったら良いですね」
「どうして?」
「だって、それがホントなら月に行けますよ」
「でも、蓬莱玉の枝がない……」
「若……『きっと、大丈夫』です」
キジは優しく微笑んで遠慮がちにキザシの手を握った。彼はそこに何か固いものがあるのに気付き彼女に尋ねた。
「これは……」
「蓬莱玉の枝の一部です。カグヤが月に戻る前に折れてしまったのでしょうね」
「それじゃあっ……」
「効力が残っていれば……もしかすると呼び寄せる事ができるかも知れません。私達が乗ってきたかもしれない……もう一つの宙船を」
「またカグヤに会える……の?」
「……はい、『きっと大丈夫』です」
「キジも一緒に来てくれる?」
「もちろんっ」
キジはとびきりの笑顔でキザシを見返し元気一杯に微笑んだ。キザシの行く所ならどこにでも行く。そう決意を胸にして。
「おいおい、二人だけで次の冒険か?」
「ボク達も置いて行かないでよぉ」
後ろを振り向くとニヤリと不敵に笑ったトキと不安そうに眉を寄せるハルが立っていた。
二人とも豪華な衣服に身を包んでいる。それはトキがずっと憧れて、ハルが永いあいだ諦めていた……朝廷軍部の真っ白な総長軍服だった。
トキは引退した頼光と傷付いた四天王の代りに武者所を預かって総長となり、ハルも都に呼び戻されて再設された召喚所の総長となったのだ。
「こんな堅苦しいのは苦手でよ、頼光さんの苦労が分かるぜっ」
「ボクも……冒険の方が楽しいです」
二人は口々に不満を口にしたが、その瞳は次なる冒険を待ち望む期待の光に満ち溢れている。
彼らはキザシとキジのところまで歩いてくると、満天の星が煌めく夜空の中に一段と美しい輝きを放つ存在を探して、彼女もそこで「同じ想い」だと強く信じた。キザシは彼らを見てから力強く頷いてキジと共に夜空を見上げる。
「皆で……」
「会いに行こうぜ」
「仲間にっ」
「はいっ」
そして彼らは希望を胸に、勇気と共に、隣にいる仲間を信じて……
――輝く夜に月を見た。
【魂魄・壱】『輝く夜に月を見た』終
朝廷は直霊を取り戻した貴武を迎え再び隆盛を取り戻した。鬼化が解けたので以前の悪政を顧みて、半獣もヒトも誰もが平等に生きることを約束し、今は傷を癒すことに専念している。
頼光は引退して武術学校の師範となったが、相変わらず四天王をこき使っているらしい。
海の中ではいつも通り。乙婀がその敏腕を発揮して竜宮の都を平和に治めている。シュテルンとイヴァーキも竜宮が思いのほか居心地が良いそうで居座っているという。浦島太郎が巻貝越しに溜息を付いた。
東国では鬼化が解けた紗君が光圀と共に将門の意志を継ぎ、平等な世界を目指しているとピッポコから手紙が届いた。再び宰相として迎えられた彼は、改心した紗君を信じて国造りに協力しているらしい。
ちなみに……彼を足蹴にした竜人達を配下にして、今までいじめ抜かれた仕返しをするのが細やかな楽しみだというのは……ここだけの秘密だ。
九尾狐が集めた無数の魂は解放されて、不死山の御狩りで気を失っていた半獣達も意識を取り戻した。
国皇は輝夜の君を失って途方に暮れている残りの皇子たちを元気付けるために、日ノ本をあげて盛大な嫁探しをしているという。
世界は月の病からようやく解放されたのだ。人々は晴れやかな気持ちで湧き、夜な夜な宴を繰り広げていた。
キザシはキジと共に喧騒を離れ、火照った体を冷ますために夜風にあたりに外へ出る。騒ぎ声も次第に小さくなり虫の鳴き声が幽かに聞こえてきた。
「カグヤ……行っちゃいましたね」
「ああ」
「寂しいですか?」
「うん……ちょっとはね」
「……」
「でも、皆んながいるし」
「……」
「若……」
「んっ?」
「今まで秘密にしていた事があるのです」
「なに?」
「若がいつも見る夢」
「うん」
「あの夢に出てくる少女は……」
「……」
「……私なのかも知れません」
「えっ」
「実は、私もずっと同じ夢を見るのです」
「なんだってっ」
「初めて出会ったとき驚きました。若は夢の少年にソックリで……」
「……」
キザシは豆鉄砲を食らったような表情でポカンとキジを見つめる。キジはそんなキザシを見て微笑むと、夜空を見上げて嬉しそうに歩く。
「宙船に乗って……もしかしたら一緒に月から来たのかも知れませんね」
「えっ、僕らも月から?」
「若が蓬莱族で、私が鳳凰族……」
「僕が……月の民」
「ふふっ……きっとそうだったら良いですね」
「どうして?」
「だって、それがホントなら月に行けますよ」
「でも、蓬莱玉の枝がない……」
「若……『きっと、大丈夫』です」
キジは優しく微笑んで遠慮がちにキザシの手を握った。彼はそこに何か固いものがあるのに気付き彼女に尋ねた。
「これは……」
「蓬莱玉の枝の一部です。カグヤが月に戻る前に折れてしまったのでしょうね」
「それじゃあっ……」
「効力が残っていれば……もしかすると呼び寄せる事ができるかも知れません。私達が乗ってきたかもしれない……もう一つの宙船を」
「またカグヤに会える……の?」
「……はい、『きっと大丈夫』です」
「キジも一緒に来てくれる?」
「もちろんっ」
キジはとびきりの笑顔でキザシを見返し元気一杯に微笑んだ。キザシの行く所ならどこにでも行く。そう決意を胸にして。
「おいおい、二人だけで次の冒険か?」
「ボク達も置いて行かないでよぉ」
後ろを振り向くとニヤリと不敵に笑ったトキと不安そうに眉を寄せるハルが立っていた。
二人とも豪華な衣服に身を包んでいる。それはトキがずっと憧れて、ハルが永いあいだ諦めていた……朝廷軍部の真っ白な総長軍服だった。
トキは引退した頼光と傷付いた四天王の代りに武者所を預かって総長となり、ハルも都に呼び戻されて再設された召喚所の総長となったのだ。
「こんな堅苦しいのは苦手でよ、頼光さんの苦労が分かるぜっ」
「ボクも……冒険の方が楽しいです」
二人は口々に不満を口にしたが、その瞳は次なる冒険を待ち望む期待の光に満ち溢れている。
彼らはキザシとキジのところまで歩いてくると、満天の星が煌めく夜空の中に一段と美しい輝きを放つ存在を探して、彼女もそこで「同じ想い」だと強く信じた。キザシは彼らを見てから力強く頷いてキジと共に夜空を見上げる。
「皆で……」
「会いに行こうぜ」
「仲間にっ」
「はいっ」
そして彼らは希望を胸に、勇気と共に、隣にいる仲間を信じて……
――輝く夜に月を見た。
【魂魄・壱】『輝く夜に月を見た』終
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