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第二十六話 Ω
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ルーカスはバートンのベッドに横たわっている。
体中が熱い。ほんの少し体を動かしただけで、シーツと擦れた場所が火傷したように熱を帯び、どくどくと脈打った。視界は朦朧として、外界の音はなにも聞こえない。ただ激しい自分の激しい呼吸音だけが耳を支配する。
強烈な渇きを感じる。本能はこの渇きを癒す術を知っている。ルーカスは喉を震わせながらバートンを見た。
バートンはルーカスの上に馬乗りになって、ルーカスを見下ろしていた。窓からは灰色の光が差し込んでいる。その光を浴びたバートンは神の子といってもいいほどに美しい。彼の目は爛々と輝いている。その目はルーカスの脳髄を焼いた。まぶしくて、ルーカスはもう目を開けていられない。
バートンは目をつむったルーカスに、キスを落とした。最初は触れるだけ、それを何度も繰り返して、やがて深くなっていく。ルーカスはこうした行為は初めてだった。バートンはルーカスの顎を抑える。ルーカスは唇を開き、バートンの舌を受け入れた。
歯列をなぞり、舌を絡める。荒い呼吸の音がルーカスのものだけではなくなっていく。ゆっくりとバートンが離れたとき、唾液が絡み合い、糸のようになってルーカスとバートンの間をつないだ。
糸は黄金色に輝いて見えた。その糸が力なくぷつりと切れた瞬間、噛みつくように唇を奪われる。
「んぅ……ふっ……」
声が漏れる。艶のある声だった。ルーカスはその声を自分が出しているものだとしばし気がつけなかった。
バートンの唾液は甘く、ルーカスは夢中であった。ルーカスはバートンの首に両手をまわす。バートンもルーカスに手をまわす。バートンの体重がルーカスにかかった。
ルーカスの勃ち上がったそれがバートンの腹にあたった。バートンは腹でそれを上からゆっくりと潰していく。二人の体がぴたりと重なったとき、ルーカスは背中を大きく仰け反らせた。ルーカスの頭の中は真っ白だ。小刻みに体が震え、一度大きく息を吸って、とまった。
バートンの薄いガウンが、ルーカスの放った飛沫で濡れた。ルーカスはその刺激だけで達してしまったのだ。
部屋に充満したルーカスの匂いが一気に濃くなる。バートンは数十年ぶりに味わうΩの匂いにむせかえる。その匂いはさらにバートンを大胆にさせた。
彼は脱力したルーカスをうつ伏せにする。そしてシャツを一気に引き破いた。
ルーカスの健康そうな背中が露出する。右手を添えると、敏感になっているルーカスの肌が波打つ。バートンはルーカスの髪を掴み、うなじを見た。
――噛め。
バートンの本能がそう命じる。彼はそれに従い、ルーカスのうなじに唇を寄せる。ルーカスは本能的に動きをとめる。そして、その時を待つ。バートンはやわらかい肌に歯をあてる。ルーカスは呼吸を止めた。
肌が破れる寸前、バートンは自身の体をルーカスから引きはがし、叫んだ。
「――――」
咆哮は邸宅に響き渡った。すぐに足音がバートンの寝室に到着した。
使用人たちが目にしたのは、衣服を剥ぎ取られたルーカスと、ルーカスに馬乗りになるバートンの姿であった。
先頭で部屋に入ったマトックスは血の気が引いた。
バートンの目は虹色の光彩がぎらぎらと光っている。マトックスはこれがαの本性であることをよく知っていた。なぜいま、と思ったと同時に、マトックスの鼻腔に匂いが届いた。βである者たちでさえ分かるほど、Ωの匂いが部屋に充満している。それはルーカスから放たれた匂いだ。
バートンはまた叫んだ。
「マトックス! 私を縛れ! 早く!」
マトックスはこの部屋で起きた悲劇を理解した。
彼はすばやくバートンに体当たりをしてルーカスから引き離した。そしてバートンの理性があるうちに両手を縛りあげる。その間に、ほかの使用人がルーカスをベッドから下し、部屋の外へ引きずっていく。途中、使用人がこちらを振り向く。その意をくんで、マトックスは舌打ちした。Ωを存在しない者としてきたカントット国には、Ωが発情したときに隔離する専用の部屋がない。ダン帝国の貴族の屋敷には必ずといってもいいほどにあるその部屋が、この邸宅にはないのだ。
マトックスは叫ぶ。
「邸宅の外へ!」
Ωの発情は通常5日ほど続く。それに対して、αはΩさえ引き離せば発情がとまる。いまはバートンを落ち着かせるのが先だ。
マトックスの指示を聞いて、使用人はルーカスを背負って走り出す。ルーカスは使用人の背で脱力していた。
「マトックス……私は、私はなんということを……」
「うなじを噛みましたか」
「いや……でも、あぶなかった……私は…………」
マトックスはひとまず安堵の息を吐く。
しかし、バートンはうなだれる。
彼の脳裏にはルーカスの瞳が焼き付いている。
その時、バートンの邸宅の玄関にひとりの医者がやって来ていた。この医者はルーカスが高熱を出したときに診察に来た者である。
彼はルーカスの症状を見て、ルーカスの第二性の検査を行った。ちょうど今日、彼はその検査結果を持ってバートンの邸宅にやって来たのだ。
彼が手にしている診断結果には「Ω」の文字があった。
体中が熱い。ほんの少し体を動かしただけで、シーツと擦れた場所が火傷したように熱を帯び、どくどくと脈打った。視界は朦朧として、外界の音はなにも聞こえない。ただ激しい自分の激しい呼吸音だけが耳を支配する。
強烈な渇きを感じる。本能はこの渇きを癒す術を知っている。ルーカスは喉を震わせながらバートンを見た。
バートンはルーカスの上に馬乗りになって、ルーカスを見下ろしていた。窓からは灰色の光が差し込んでいる。その光を浴びたバートンは神の子といってもいいほどに美しい。彼の目は爛々と輝いている。その目はルーカスの脳髄を焼いた。まぶしくて、ルーカスはもう目を開けていられない。
バートンは目をつむったルーカスに、キスを落とした。最初は触れるだけ、それを何度も繰り返して、やがて深くなっていく。ルーカスはこうした行為は初めてだった。バートンはルーカスの顎を抑える。ルーカスは唇を開き、バートンの舌を受け入れた。
歯列をなぞり、舌を絡める。荒い呼吸の音がルーカスのものだけではなくなっていく。ゆっくりとバートンが離れたとき、唾液が絡み合い、糸のようになってルーカスとバートンの間をつないだ。
糸は黄金色に輝いて見えた。その糸が力なくぷつりと切れた瞬間、噛みつくように唇を奪われる。
「んぅ……ふっ……」
声が漏れる。艶のある声だった。ルーカスはその声を自分が出しているものだとしばし気がつけなかった。
バートンの唾液は甘く、ルーカスは夢中であった。ルーカスはバートンの首に両手をまわす。バートンもルーカスに手をまわす。バートンの体重がルーカスにかかった。
ルーカスの勃ち上がったそれがバートンの腹にあたった。バートンは腹でそれを上からゆっくりと潰していく。二人の体がぴたりと重なったとき、ルーカスは背中を大きく仰け反らせた。ルーカスの頭の中は真っ白だ。小刻みに体が震え、一度大きく息を吸って、とまった。
バートンの薄いガウンが、ルーカスの放った飛沫で濡れた。ルーカスはその刺激だけで達してしまったのだ。
部屋に充満したルーカスの匂いが一気に濃くなる。バートンは数十年ぶりに味わうΩの匂いにむせかえる。その匂いはさらにバートンを大胆にさせた。
彼は脱力したルーカスをうつ伏せにする。そしてシャツを一気に引き破いた。
ルーカスの健康そうな背中が露出する。右手を添えると、敏感になっているルーカスの肌が波打つ。バートンはルーカスの髪を掴み、うなじを見た。
――噛め。
バートンの本能がそう命じる。彼はそれに従い、ルーカスのうなじに唇を寄せる。ルーカスは本能的に動きをとめる。そして、その時を待つ。バートンはやわらかい肌に歯をあてる。ルーカスは呼吸を止めた。
肌が破れる寸前、バートンは自身の体をルーカスから引きはがし、叫んだ。
「――――」
咆哮は邸宅に響き渡った。すぐに足音がバートンの寝室に到着した。
使用人たちが目にしたのは、衣服を剥ぎ取られたルーカスと、ルーカスに馬乗りになるバートンの姿であった。
先頭で部屋に入ったマトックスは血の気が引いた。
バートンの目は虹色の光彩がぎらぎらと光っている。マトックスはこれがαの本性であることをよく知っていた。なぜいま、と思ったと同時に、マトックスの鼻腔に匂いが届いた。βである者たちでさえ分かるほど、Ωの匂いが部屋に充満している。それはルーカスから放たれた匂いだ。
バートンはまた叫んだ。
「マトックス! 私を縛れ! 早く!」
マトックスはこの部屋で起きた悲劇を理解した。
彼はすばやくバートンに体当たりをしてルーカスから引き離した。そしてバートンの理性があるうちに両手を縛りあげる。その間に、ほかの使用人がルーカスをベッドから下し、部屋の外へ引きずっていく。途中、使用人がこちらを振り向く。その意をくんで、マトックスは舌打ちした。Ωを存在しない者としてきたカントット国には、Ωが発情したときに隔離する専用の部屋がない。ダン帝国の貴族の屋敷には必ずといってもいいほどにあるその部屋が、この邸宅にはないのだ。
マトックスは叫ぶ。
「邸宅の外へ!」
Ωの発情は通常5日ほど続く。それに対して、αはΩさえ引き離せば発情がとまる。いまはバートンを落ち着かせるのが先だ。
マトックスの指示を聞いて、使用人はルーカスを背負って走り出す。ルーカスは使用人の背で脱力していた。
「マトックス……私は、私はなんということを……」
「うなじを噛みましたか」
「いや……でも、あぶなかった……私は…………」
マトックスはひとまず安堵の息を吐く。
しかし、バートンはうなだれる。
彼の脳裏にはルーカスの瞳が焼き付いている。
その時、バートンの邸宅の玄関にひとりの医者がやって来ていた。この医者はルーカスが高熱を出したときに診察に来た者である。
彼はルーカスの症状を見て、ルーカスの第二性の検査を行った。ちょうど今日、彼はその検査結果を持ってバートンの邸宅にやって来たのだ。
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