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第十六話 お見合い:獣人②

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 獣人の村につくと、大きな首飾りをつけた男が俺を出迎えてくれた。聞くと、彼がこの村の村長にあたるらしかった。彼は老いてはいるが、しゃんと背筋の伸びた獣人だ。獣人は胸元を大胆にあけた服を好むらしかった。彼もまた、おなじく開けた胸元から発達した胸筋がのぞいている。

「は、はじめまして」
 俺が言うと、村長は気のいい笑顔を浮かべた。
「ようこそ、おいでくださいました。息子たちを紹介します」

 そうして彼は彼の横に立っている獣人たちの紹介を始める。

「ハリ、モーテス、ケラ、ガンク、ダットです」
 五人の素晴らしい肉体の獣人がずらりと並んでいる。
 高身長でがっしりとした肩幅の獣人が五人も並ぶと、圧迫感すら感じさせる。

「五人兄弟なんですね」
 俺が言うと、村長は笑った。
「獣人というのは、一度で五人から七人くらい生まれるのですよ。兄弟というより、五つ子なんです」
「五つ子……」

 彼らの顔を見ると、確かによく似ている。茶色い髪に、茶色い耳、しっぽもおなじ色である。
 ガンクとダットという二人だけは、そこに黒の斑点が少しだけ混ざっていた。
 五人全員をまじまじと眺め、それから俺は尋ねた。

「あの、それで、僕とお見合いする方は……」
 村長はしれっと答える。
「全員ですよ? この中から気に入った者を選んでいただければ」
「ええ!?」

 まさかの複数でのお見合いである。さすがにお見合いに慣れてきた俺でも驚かざるをえないだろう。
 俺が目を見開いていると、さらに村長が追い打ちをかけてきた。

「あなたと結婚することが決まった息子を、跡取りにするつもりなんです」
「せ、責任重大……!」




 それじゃああとは若い者たちだけで、というお見合いでありきたりなセリフを残して村長は去っていった。
 若い者たちだけが残されたのは村の中の大きな小屋の中の二階である。
 丸太で作られた簡素な小屋であるが、中は色とりどりの絨毯や毛皮がひかれ、エキゾチックな雰囲気がある。
 そして絨毯の上にはこれでもかというほどの食事が並べられている。
 俺は料理からのぼる湯気を見て、ほっと息をついた。

「食べても、いいですか?」

 尋ねると、村長の息子たち五人はいっせいに頷く。
 俺はよく似た五つの顔が同時に動くのを見て、ちょっとびびってしまった。
 しかし、空腹には勝てない。
 俺は五つのよく似た顔に見つめられながら、ゆっくりとそれらを口に運んだ。

 獣人の食事は炭火焼きが多いのだろうか。
 炭火で焼かれた肉、野菜、それからフルーツがメインである。
 どれも新鮮でおいしい。
 俺はもくもくと食べすすめる。
 同じく料理を囲んでいる村長の息子――ハリ、モーテス、ケラ、ガンク、ダットは、俺をじっと凝視して、一言も話さない。
 食べながら、俺は居心地の悪さを感じていた。

 目の前の料理が半分ほど減ったところで、ようやく俺は彼らに声をかけてみた。

「あの、あなた方は食べないんですか」

 問うと、彼らはいっせいに話し始めた。

「なんだ、精霊っていうから楽しみにしてたのに、ふつうの人間だな」
「精霊って、その美しさで他種族を惑わすんだろ? ほら、惑わせてみろよ」
「というか、精霊ってなんでも食べるんだな」
「ワイバーン、見たかったなあ」
「失礼だよ、兄さんたち……」

 口々に話し出す彼らに、俺は圧倒される。

「あ、あの」

 俺が戸惑っている間に、彼らの話はどんどん進む。

「で? 誰がこいつと結婚するんだ?」
「モーテスだろ。村長になりたいって言ってたじゃないか」
「言ったけど……」
「こいつのご機嫌をとれよ」
「ダットだって、精霊に会いたがっていたじゃないか」
「うん、僕は会えてうれしいと思ってるよ。珍しいじゃない」
「とにかく、俺はこんな茶番に付き合うつもりはない」
「俺もー」

 俺が何かを言う前に、彼らの中で結論が出たらしい。

「じゃあ、そういうことだから」

 そう言って、さっさと三人は退場し、残ったのは二人になった。

「え?」

 俺がとまどっていると、うちひとりが進み出て、俺に頭を下げた。

「兄弟の無礼を謝罪します」
「え、あ、いえ……」
「私はモーテスです。こっちはダット」

 彼は名乗る。俺はもう誰が誰なのかわかっていなかったのでありがたい。
 モーテスは続ける。

「俺たち獣人は、獣人以外との結婚をする習慣がなくて」
「そうなんですね」
「ええ。我々は、ほら、力が強いですけど、体は人間よりですし……他種族とというと……なかなか」

 うなだれるモーテスは茶色い耳の先だけが黒くなっている。
 後ろで俺をじっと見つめているダットの方は、耳はきれいな茶色一色だ。
 
 俺は両手をぶんぶんと振って、彼らに言った。

「大丈夫です。俺、その、なんなら、お見合いを切り上げて帰ります」
「そういうわけにもいかないでしょう。迎えの都合もあるでしょうし」
「いえ、俺、ちょっとこの後寄るところがあって……」
「どこに?」
「ゲンセンという街なんですけど」
「ああ……ここから近い。何か用事が?」
「はい、ええっと、人を探していて」

 モーテスは目をぱちぱちさせた。

「人、ですか」
「ええ」
「一人で探す予定ですか?」
「まあ……はい」

 モーテスは顎に手を当てる。
 兄弟たちの会話を聞く限りだと、彼が次代の村長候補のはずだ。こうして会話をしてみると、さっさと出て行った他の三人よりも少しだけ落ち着いて見える。
 モーテスは言った。

「お手伝いしますよ。その代わり、ちょっと私の方も手伝っていただけたら嬉しいんですが」
「はい? いいですよ? 何を?」
「あなたと親しくなった者を跡取りにすると、父が言っていまして……。その、少しだけ私と親しくなったふりをしてもらえません?」



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