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懊脳―おうのう― 1
しおりを挟む「───永原!」
社内の廊下で、悠は同じ部署の浜野に声をかけられ、振り向いた。
あれから三日ほどたち、悠はぎりぎりの精神力で、とりつくるように笑みを浮かべる。
先週の土曜日の出来事。
最悪な夢だと思いたかった·····だか、ときおりはしる鈍痛は現実をつきつけ、悠を苛む。
笑みを刻んだ表情は成功しておらず、浜野は眉をひそめ気遣うように言った。
「おまえ·····なんかあった?」
五年ほど先輩である彼は、悠が昨日から様子がおかしいのは気がついていた。
ときおり蒼白になった悠はトイレに駆け込んでいるようで、戻っても顔色が悪いままだった。
悠はかわいい後輩であり、入社してから間がないとういこともあって、いろいろ気遣ってくれる頼りがいのある先輩だった。
明るい精悍な顔立ちの彼は、なんでも相談にのってくれる人柄で、周囲からも慕われている。
気遣いは嬉しいが、正直に話せるわけもない。
「───やだな先輩······な、にもないですよ」
「無理すんなよ·····まあ、そのそろ三ヶ月目だからな───新しいことだらけで、気づかれする時期だからさ───胃でも悪くした?」
どうやら神経性の胃痛とでも勘違いしてくれたようだった。
仕方なしに同意すると、つとめて明るく返した。
「大したことないですよ······市販の薬飲めば······」
そんなやりとりをしている時だった。
廊下の死角から、聞きなれた、もっとも聞きたくない声が聞こえてしまった。
反射的に悠のからだが小刻みに震え、顔もこわばり言いかけた言葉も出なくなっていた。
すうっと、躰から血の気がひく感覚をあじわうと、とつぜん様子がおかしくなった悠に声をかけた。
「?──永原······どうした?」
蒼白になった悠は、早くこの場から離れなくてはならないと思ったが、躰は硬直したように動かなかった。
脚が床にぬい止められているかのようだ。
脳裏にきざみつけられた、痛みと、白濁の味と、血の味が鮮明によみがえった。
一気にそのリアルな記憶がフラッシュバックすると、吐き気さえ襲ってきそうだった。
口もとをおさえると、角から映人が電話をしながら歩いてくる。
背後に来たことを察したが、振り向くことさえできなかった。
「······あぁ、それでいい」
スマホの電話を切ると、悠の姿に気づき前にいる男に脚をとめる。
細い肩に手をかけている姿に目をとめると、やや瞳の光がつよくなったが、薄い唇をひらき笑顔で話しかけた。
「·······確か第二営業部の浜野くんだったね? どうしたんだい?」
悠の真後ろに立った映人は、浜野に話しかける。
そうすると悠の肩がゆれたが、振り向きもしなかった。
「えぇ、永原──えぇっと、この場合若いほうの永原なんですけど、こいつ具合悪そうで·····」
浜野はこの二人が兄弟とは知らなかった。
さいわい外見は似ていないこともあって、名前が同じなのも偶然ということになっている。
第一営業部の部長でもある映人は32歳という、年齢でありながらも
統括能力に優れており、社員のあこがれの存在でもあった。
偉そうにしない態度や、口調は好評で人望もある。
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